小林健二執筆」タグアーカイブ

初めての模型用工作機械

ベルメックスのショールームを訪ねて

ベルメックスインターナショナルのショールーム内部

ベルメックスで紹介している工作の洋書。小林健二は[WORKSHOP PRACTIS SERIES]をほとんど揃えている。

ぼくがはじめてベルメックスインターナショナルへ行ったのは、かれこれ20年近く前になります。それまでは経済的事情から中古機械を入手していました。ところが仕事上どうしても棒状の挽物を作らなくてはならなくなり、いつもペンチやドリルなどを売ってもらっていたお店に「それくらいのサイズの木工旋盤なら」と日本橋のベルメックスを紹介されたのです。

ベルメックスは今も当時も高級そうな立派な工作機械が整然と並んでいて、その頃お金にあまり縁のない人間にとって、場違いな気がするほどでした。

その素人のぼくに丁寧に対応してくれたのが、何を隠そうそこの社長であったというわけです。一時間後ぼくは工作機械購入の初体験をしたのですが、それはまさに機械と呼ぶのにふさわしく、芯間1100mm、振りが350mmの鋳鉄製で、重量200k議場の木工旋盤でした。にもかかわらず、とても廉価だった記憶があり、それ以来勝手にゴヒイキという次第です。

ぼく自身その後バンドソー、グラインダー、12Vの溶接器、ベンダー、ベルトサンダー、動力用ベルトサンダー、小型高速ボール盤などなど・・・細かいものを入れると数十に及ぶ機械を購入させていただきました。

小林健二が初めて手にした大型木工旋盤。ベンダーも下に見える。

小林健二の木工旋盤が置いてある壁に設置された自作の棚に、バイトなどが使い勝手がいいように並べられている。

ここのショールームの良さは、興味ある機械や工具を直接試すことが」できるということです。まだ機械にあまり慣れていない初心者にとっては、このことはとても重要で、大抵購入した後でもう少し大きかった方が・・とか、その逆とか・・、あるいは違うタイプのものの方が良かったと気づくことがあるからです。また金工系の洋書も扱っていて、内容を確認してから買うことができるのも嬉しいことです。

多種色々なキットや小型から大型の機械もあり、廉価なので近くに行かれた折には立ち寄られるといいでしょう。なお、ホームページも充実していますから、こちらものぞいてみてください。独自オークションも行なっています。

 

ベルメックスインターナショナル

地下鉄日比谷線小伝馬町駅近く、江戸通りに面している。http://www.bellmex.com

 

*2005年のメディア掲載記事を抜粋編集し、上から2枚目までの画像は記事の複写、それ以外の画像は新たに付加しています。

 

KENJI KOBAYASHI

[鉱石ラジオを楽しむ]後編

*「無線と実験(1998年2月)」の記事より編集抜粋し、画像は記事を参考に付加しております。

鉱石ラジオの心臓部とも言える鉱石検波器用の鉱物。上段両端は自作のケース入り。

鉱石ラジオの心臓部とも言える鉱石検波器用の鉱物。上段両端は自作のケース入り。

3,

鉱石ラジオの心臓部は何と言っても鉱石検波器です。そして、その主人公はやはり鉱物の結晶でしょう。若い頃に鉱石受信機を作り、しかもそれがさぐり式のように鉱物を外観からも確認できるタイプのものを体験されている方なら、すぐに方鉛鉱や黄鉄鋼といった鉱物の名称が思い浮かぶでしょう。確かにこれらの鉱物は一般的に入手しやすいし、またちょっと採掘や石拾いの経験の持ち主ならば、山歩きの時などに手に入れたことがあると思います。しかしながら、例えば方鉛鉱についていえば、国産のものには銀の含有量が必ずしも多くないので、感度についてはあまり望めないというのが実情です。ただ現在は各地でミネラルショーが行われたりする関係上、かえって昔より確実に入手できるルートも開け、またずっと安価となりました。

方鉛鉱ーGALENA(ガレナ)。フランクリン鉱山(アメリカ)産。 方鉛鉱はハンマーで軽く叩くと、完全な劈開(方向性のある割れ方をする)があるので、サイコロ状に割れます。

方鉛鉱ーGALENA(ガレナ)。
方鉛鉱はハンマーで軽く叩くと、完全な劈開(方向性のある割れ方をする)があるので、このようにサイコロ状に割れます。

もし鉱石検波器を自作しようとして鉱物をお探しになり、ミネラルショーや鉱物専門店にお出かけになるなら、私としては紅亜鉛鉱(こうあえんこう)”Zincite”ジンサイトという酸化亜鉛の鉱物をオススメします。この鉱物は地球上では北アメリカのニュージャージー州のフランクリン鉱山でしか現在は産出しないものですが、安価であるばかりか、感度も飛び抜けて安定しているからです。

紅亜鉛鉱(こうあえんこう)ZINCITEZ(ジンサイト)。北アメリカのニュージャージー州のフランクリン鉱山しか現在は産出しない。

紅亜鉛鉱(こうあえんこう)ZINCITEZ(ジンサイト)。北アメリカのニュージャージー州のフランクリン鉱山しか現在は産出しない。標本の赤い部分がそうです。

もちろん一見そんな特殊な鉱物が手に入らなくても、驚くような感度を期待しなくても良いならば、サビびた針や釘でも検波はできます。ただサビといっても赤サビでは直流抵抗も高く安定しないので、俗にいう黒サビのものでなければ具合は悪いのです。黒サビのついた針はあまり正確な方法ではありませんが、コンロなどで赤く焼いて自然冷却したような方法で用意します。あるいは本当は電池と抵抗体で2ボルト以下のバイアス電圧を印加すると、古くなったカミソリと鉛筆の芯でも優れた検波器を製作できます。

カミソリと鉛筆の芯によって作られた検波器を使った鉱石受信機。1940年代の米国の記事から小林健二が復刻したもの。W148xD98xH40mm

カミソリと鉛筆の芯によって作られた検波器を使った鉱石受信機。1940年代の米国の記事から小林健二が復刻したもの。W148xD98xH40mm

少し風変わりな検波器といえば、表面に金属を蒸着して、アクセサリーの一部とした販売されている水晶やガラス製品、あるいは2本のシャープペンの芯などに縫い針を渡した構造のものでも検波できることがあるのです。検波する原理はダイオードを発明する以前よりアンダーグランドにあったことは歴史的に説明されていて、その原点となるのは鉱石検波器であることは明白なことと思います。(*現在の電気の歴史上あまり重要とされていない)

右は鉛筆の芯とその間に置かれた縫い針とで検波する変わった検波器。(小林製作) 左はおもて面に酸化チタンを蒸着メッキした水晶。小林によると使い方で検波も可能とのこと。

右は鉛筆の芯とその間に置かれた縫い針とで検波する変わった検波器。(小林健二製作)
左はおもて面に酸化チタンを蒸着メッキした水晶。小林によると使い方で検波も可能とのこと。

しかしながらその作動原理ということになると、ダイオードはまさに半導体のPN接合による理論体系の上で製作されており、正孔や自由電子の振る舞いによって淀みなく説明でき流のですが、鉱石検波器及びそれに準ずる検波器については必ずしもこの方法論だけでは説明仕切れないというところがあります。私にはそれもまた鉱石受信機の魅力の一つとなっています。

私としては鉱石受信機全体について虜になった人間として、その魅力についてもっと語りたいのですが、現在オーディオ雑誌である「MJ 無線と実験」誌上であまりくどくど説明するとかえって逆効果になりかねないのでこの辺にしておきましょう。

ゲルマニュームダイオード今昔。下方が比較的新しいもの。

ゲルマニュームダイオード今昔。下から5本目はその上のものと同じで、プラスチックのカラーを外したもの。下方の2本が比較的新しいもの。

米国シルバニア社製のゲルマニュームダイオード。1940年代の製品としてはもっとも初期のものの一つ。

米国シルバニア社製のゲルマニュームダイオード。1940年代の製品としてはもっとも初期のものの一つ。

ただ最後に鉱石ラジオの音について少し述べさせていただくと、それはまさに小さくとも透き通った音なのです。私の製作した鉱石ラジオを聴いた方は、まずみなさん開口一番このことを話されます。「もっと聴きづらいかと思った」。

確かに三球レフレックスや五球スーパーをお作りになった方はハムやフィードバックのノイズがあることを経験されているので、もっと旧式なものだからきっと聴きづらい、と類推されるようです。1987年に製作した「サイラジオ」と名付けた私のラジオにいたってはその「ピー」とか「ギャー」という一連のそれらしい音をトランジスター回路にサイリスターのノイズを入れるようにして作ったほどです。

もちろん単純にコイルとコンデンサーそして検波器だけで製作した鉱石ラジオは分離特性が悪いため、異局の混信は免れませんし、バリコンを動かしてみたところで、常に他局の放送が被っていて同調器をいじってみたところで主客が入れ替わる程度の分離状態です。

ところがどうでしょう。数分もラジオに戯れていると、少しづつ放送が聴こえてくるではありませんか。頭を冷静にして考えてみるとラジオは特に何も変化はなく、変わっていったのは自分の耳の方だと気づいたのです。無意識のうちにノイズとサウンドの主客が認識されると、自分の中の感性がラジオの足りなかった分離特性を補っていたのです。

小林の生家の全身。当時、神田にあった「蓄晃堂」

小林の生家の全身。当時、神田にあった「蓄晃堂」

これは私がかつてある日の実験中に感じた出来事の一つですが、その時私は昔母や父から聞いたいくつかのエピソードを思い出していました。それは戦争中の話にさかのぼりますが、実家はその頃、新橋で『蓄晃堂』というレコード店を営んでおりました。昭和19年から20年にかけて空襲は本土へ日ごとに多く、また激しくなっていったそんなある寒い朝、家からそう遠くない場所にある日本楽器(現ヤマハ)に直撃弾が落ちのです。その時の空襲は火災は思うほどではないのに空が暗くなったと見上げると、空一面におびただしい楽譜や譜面が飛び交っていたそうです。そしてその現場に当時貴重であったそれらの譜面を一枚でも水や火に当てまいと母たちは走っていった時、まるで嵐のように風に舞い散る現場に着くと、すでに数十人の人たちが早々と防空壕から出てきていて手分けしてそれらを拾い集めていたというのです。母は「この国には本当に音楽好きが多いんだね」と感動し、自分もすぐにその仲間に加わったとのことでした。

その頃本当に物がなくて、入手ルートから粗製のレコード針が入ってくると、空手警報の最中でも情報を知った人々が集まりすぐに売り切れになったそうです。母の自慢はそんな時でも、誰も彼もが一箱づつしか買っていかなかったということでした。ちなみに母がいつも笑って言っていたのは、そのレコード針の箱絵には『RCAのラッパと犬』ではなく「あんな時代だからラッパと招き猫だった」とのこと。まさに音楽が生きるためにあった時代だったのですね。

私がやがてバンドに夢中になった頃「全くSP盤って雑音だらけだね」というと、父はよくそれはお前の耳が悪いからだと言っていました。昔の人は何かと昔を懐かしがる、だから雑音だってここと良いんだと言わんばかりにしか思わなかった私ですが、鉱石ラジオを作るようになってから、少しづつ考えが変わりはじめるようになったのです。

確かに今までの自分はいつの間にか機器にばかり凝ってかえって音楽よりノイズばかりを気にして聴いていたのではないのではと思ったりもしたからです。それ以来、私はあえてノイズを付加したようなラジオを作らない代わりに、ノイズに対してやたら反応する耳ではなくて雑音の海の中の音楽をすくいだし、そして楽しめる耳と心を持ちたいと考え始めたのです。

そしてそれはあの命がけの音楽の時代に生きた、今は亡き父と母から一つの通信を鉱石ラジオによって受け取ったのではないかという、そんな気もしてならないのです。

小林健二

[鉱石ラジオを楽しむ]前編

KENJI KOBAYASHI

[鉱石ラジオを楽しむ] 前編

*「無線と実験(1998年2月)」の記事より編集抜粋し、画像は記事を参考に付加しております。

小林健二製作の鉱石ラジオやゲルマジオ、鉱石ラジオキットや代表的なコレクションなど。

小林健二製作の鉱石ラジオやゲルマラジオ、鉱石ラジオ部分品、鉱石検波器、鉱石ラジオキットや代表的なコレクションなど。

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通巻900号おめでとうございます。現れては消える昨今の雑誌状況の中で通巻900号、’74年の続刊はまさに『継続は力なり』を感じさせ、また同時にどれほど多くの読者に親しまれ支持されて来たかを彷彿とさせてくれます。

私の実家も以前蓄音機やレコードを扱う仕事をしていたためか、子供の頃店に常に数冊の「無線と実験」があったことを思い出します。おそらく親子三代に渡り愛読されている方々もあるかも知れません。私のようにこの雑誌のファンの一人としてあった者が、通巻900号の記念号に記事を寄せることができたというのは誠に幸せなことであります。

創刊時に於いてはその発行の辞にあるように『無線科学普及の目的を以て本誌を創刊せり』とあり、まさに『無線と実験』の銘が示すとおり、高周波系の内容であったことは周知のとおりであります。そこでとりわけ戦前の記事の中に登場した鉱石ラジオなる、半ば幻想的な受信機について少々述べさせていただき、まさに我が国の電子世界の幕開けの時代を、当時を知る方々に回想を持って、そして、未知の方々には一種の追体験をしていただけたらと思う次第です。

「鉱石受信機」とは、検波部に鉱物の結晶を用い、電池や家庭交流電燈などからの電源を用いなくても作動する受信機のことです。(感度を上げるため、電池で検波器にバイアス電圧を印加するタイプも一部にはありました)

この受信機の活躍した期間はそれほど長くはなく、最も象徴的な構造を持っている『さぐり式』に至っては、実質10数年と言っても過言ではないほど短命でありました。歴史的な存在としてそのような『さぐり式鉱石ラジオ』を知っておられる方々も時々お会いしますが、実際にその受信機で放送を聴いていたという方はすでに稀になっていると言えるでしょう。

製品としての当初の鉱石受信機は、高価な割には工作法さえ知っていれば原理的な事柄を熟知していなくても製作することができるため、当時の科学少年たちによっていたるところで作られました。JOAK開局当時はまだ一局しか放送所がなかったわけですので、同調回路も基本的には省くことができ、検波用鉱石とハイインピーダンスのヘッドフォン、それに空中線と接地線をつなぐことですぐに放送を聴取できたのです。それらは実用的な側面が中心であったことは確かですが、事実彼らラジオ工作少年たちの背景を考えれば、聴こえるはずのない『魔法の声』との出会であったということです。

現代に生活する私たちにとってテレビやファックス、携帯電話は日常的な機器です。しかしながら「無線と実験」が創刊されたり、ラジオ放送が始まった時代では、ただの箱に見えるものから人の声が聴こえてくるということは、まさにそれだけで驚きであったのでしょう。その不思議さからその後電気の世界に入り、やがて電気製品の開発や普及をする現代の電子企業の礎を創った人々も多いと聞きます。

何事も巨大化し複雑になっていくように見える現代、鉱石受信機のような素朴で親しみやすい ラジオを作ることで、いろいろな方々が趣味の工作を楽しまれるということを、私は望んでいるのです。

JOAK開局から間もない頃、当時のVIPに贈呈された珍しい鉱石受信機。固定式鉱石検波器が使用されている。(小林健二蔵) W140xH67xD102mm

JOAK開局から間もない頃、当時のVIPに贈呈された珍しい鉱石受信機。固定式鉱石検波器が使用されている。(小林健二蔵)W140xH67xD102mm

国産の鉱石受信機

国産の鉱石受信機

検波器はまだ完全にはレストアされていない。内部はしっかりとしており、表の検波器と並列に内部に「フォックストン」と呼ばれる古河電気の固定式の検波器がついているのが面白い。下部の引き出しには受話器が入っている。(小林健二蔵)W260xD227xH270mm

検波器はまだ完全にはレストアされていない。内部はしっかりとしており、表の検波器と並列に内部に「フォックストン」と呼ばれる古河電気の固定式の検波器がついているのが面白い。下部の引き出しには受話器が入っている。(小林健二蔵)W260xD227xH270mm

私自身はゲルマラジオを含めると、自作した鉱石式受信機は数十台あって、その一つ一つ形状や大きさ、回路や部品など、それぞれを色々に変化させてりして楽しんでいます。オモチャっぽいもの、昔式の重厚なもの、歴史的には姿を現さなかった創造的なものなどです。回路自体がとてもシンプルなため、その時の思いのままに製作できて工作の楽しみを味わうのにこの上ないテーマを与えてくれます。鉱石ラジオやゲルマラジオというと、やはり子供っぽい玩具的なイメージがあるようですが、初期の鉱石式受信機というと必ずしもそうではありません。そんなタイプの昔風の鉱石受信機について少し述べてみたいと思います。

[昔風鉱石受信機] つまみ、ターミナル、ノッチスイッチ、検波器の金属ホルダー、コイル、バリコン、木製筐体まで全て小林健二の手製。W340xD203xH185mm

[昔風鉱石受信機]
つまみ、ターミナル、ノッチスイッチ、検波器の金属ホルダー、コイル、バリコン、木製筐体まで全て小林健二の手製。W340xD203xH185mm

昔風鉱石受信機の内部 小林健二手製のバリコン、バリオメーター、バリコカップラーなど

昔風鉱石受信機の内部
小林健二手製のバリコン、バリオメーター、バリオカップラー、接合型鉱石検波器など

バリコンの製作

バリオメーターの製作

バリオカップラーの製作

ガラスケースに収めた接合型鉱石検波器(小林健二製作)

ガラスケースに収めた接合型鉱石検波器(小林健二製作)

接合型鉱石検波器の製作

 

*鉱石ラジオの部分品の製作記事をリンクしておりますので、参考にしてください。

写真にありますように外観は何か測定器のような感じで、子供の頃のなつかしい思い出と照らすとちょっと異なって感じる方もおいででしょう。しかし、鉱石受信機とは当初このようなものでした。構造的にはゲルマラジオとほとんど同じく、同調回路と検波部、そして受話器や空中線、接地線といった構成です。このタイプの鉱石受信機を製作する楽しみは、高い電源電圧が印加されないパーツにおいて、安全に各部品の工作をすることができるということです。

通常バリコンのような精度を要求される機械的構造を持つパーツは、アマチュアには製作できないと言われていますが、コンデンサーの原理を考えれば簡単なところから始めていくと工作的には難しいことはありません。

そして段々と工作技術が進んでいけば、写真のような機械的にも安定し、見栄えもそう悪くないエアバリコンを製作することも想像よりはるかに楽しんでできると思います。私自身仕事の上で金属加工をすることはありませんし、このバリコンを作るにあたっても旋盤などの専門的に見える機械はほとんど使用しないで作業を行いました。もちろんボール盤があると工作全般、何においても便利ですが、あとは糸ノコとヤスリくらいで製作可能です。

これらのバリコンを作る技術がありますと、今ではほとんど入手不可能となったタイプのバリコンも自分の望んだように製作できますし、壊れてしまった部分品を修理することもできます。また下辺を必要としないコンデンサーであれば、さらに色々とつっこんだものも製作可能です。

もし外形がメーカー製と比べて大きめになってしまっても構わないならば、様々な方法で容量、特性、体圧のものを作ることができるでしょう。

次にコイルですが、鉱石ラジオといえばスパイダーコイルを連想される方もいると思いますが、実際はソレノイドコイルかそれに準じたタイプのものが多かったようです。ただ今日の自作コイルと比べると特性の良いコイルの理論が確立していなかったのと、手作りでは量産向きではないものや、少々特性などを犠牲にしても機械的に作りやすいものとかがいりみだれていて、まさに様々な形状のコイルがありました。たいていの場合、工作的に考えればどれも興味深く色々と作ってみたくなるものばかりです。

小林健二自作のコイルの一部。左上から二番目の黄色い線を使用しているコイルは小林健二設計による名付けて「クラウンコイル」

小林健二自作のコイルの一部。上の左から二番目の黄色い線を使用しているコイルは、小林健二設計による名付けて「クラウンコイル」

海外ではこの黎明期のコイルを、ちょうど真空管をコレクションするのと同じように集める人も多いと聞いたことがあります。実際私自身も色々な文献などで変わったコイルの記事や写真を見て、とりあえず実験的に作ってみると、確かにだんだんとコイルだけでも面白くなって、今までに随分とたくさん作ってしまいました。鉱石ラジオのコイルを作る理論上では、基本的に線間に発生するコンデンサー成分をなるべく少なくすることでQ(クオリティー)の向上を図るようです。そんなわけで昔はやった女の子たちのリリアンのようにバスケットコイルやパンケーキコイルを作るのは楽しいものです。

コイルでも可変インダクターとして使用されるバリオメーターやバリオカップラーについては、高度なバリコンを作るのと同じように相当する技術が必要になりがちです。しかしながらバリコンやバリアブルインダクターにしても、ピンからキリまで対応できるというのも鉱石ラジオの特性のひとつでしょう。

小林健二

1986年に小林健二が夢の中で見たラジオを最初に作った「サイラジオ」第1号、音量とともに頭部の色が変わり明滅する。

1986年に小林健二が夢の中で見たラジオを最初に作った「サイラジオ」第1号、音量とともに頭部の色が変わり明滅する。

故渋澤龍彦氏へのオマージュとして’87年に作られたサイラジオの第2号。「悲しきラヂヲ」と名付けられている。一号機と同じく上部の結晶の色は明滅して変わる。下部には青色に光る環状列石のような石英が配されている小部屋がある。「サイラジオ」は鉱石ラジオではない。

故渋澤龍彦氏へのオマージュとして’87年に追悼のための本が作られた。存命中「サイラジオ」一号が小林健二個展に展示され、氏が訪れた時に展示場所が地下で電波がうまく受信できずにいた、そんな思いからか本の記事にさいし、サイラジオの第二号を小林は製作。「悲しきラヂヲ」と名付けられている。一号機と同じく上部の結晶の色は明滅して変わる。下部には青色に光る環状列石のような石英が配されている小部屋がある。「サイラジオ」は鉱石ラジオではない。

*以下、小林健二の不思議な電気を使用した作品を紹介します。

すでに1000人ほどの人がこの不思議な受信機から「過去の放送」を聴いたと言われる。 [IN TUNE WITH THE PAST TENSE]と名付けられた作品。

すでに1000人ほどの人がこの不思議な受信機から「過去の放送」を聴いたと言われる。
[IN TUNE WITH THE PAST TENSE]と名付けられた作品。

小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE] 「地球溶液」と言われるアース部分。

小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE]
「地球溶液」と言われるアース部分。

小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE] 透きとおった鉱物にタングステンの針を当てて検波すると、クリスタルイヤフォンで放送を聴くことができる。

小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE]
透きとおった鉱物にタングステンの針を当てて検波すると、クリスタルイヤフォンで放送を聴くことができる。

小林健二作品[夜光結晶短波受信機] 後ろの箱は電源。ディテクター(左)、スピーカー、本体(右)

小林健二作品[夜光結晶短波受信機]
後ろの箱は電源。ディテクター(左)、スピーカー、本体(右)

小林健二作品[夜光結晶短波受信機] 高さ18.5cmの小さなスピーカー。金属の鋳造によって作られている。

小林健二作品[夜光結晶短波受信機]
高さ18.5cmの小さなスピーカー。金属の鋳造によって作られている。

小林健二作品[夜光結晶短波受信機] ディテクター(検波部)、中の発光し透き通る赤色と緑色の石を、青色に光っている金属に当てるとヅピーカーから音が聴こえる。

小林健二作品[夜光結晶短波受信機]
ディテクター(検波部)、中の発光し透き通る赤色と緑色の石を、青色に光っている金属に当てるとスピーカーから音が聴こえる。

 

[鉱石ラジオを楽しむ]後編

KENJI KOBAYASHI

 

 

絵を描きはじめた頃から

[フルヌマユ:春のみずうみ] 春のみずうみは暖かい陽気が立ちこめている。やわらかな形たちが揺れながら遊んでいるようだ。みんなとても楽しそう。夢のような場所。誰かがいつもぼくを迎えてくれる。それほど遠くない場所。ぼくは眠りについてそこへ出かける。いつもなら彼らは怪物と呼ばれている。

[フルヌマユ:春のみずうみ]
春のみずうみは暖かい陽気が立ちこめている。やわらかな形たちが揺れながら遊んでいるようだ。みんなとても楽しそう。夢のような場所。誰かがいつもぼくを迎えてくれる。それほど遠くない場所。ぼくは眠りについてそこへ出かける。いつもなら彼らは怪物と呼ばれている。

それはやっぱり、幼い頃は鉛筆やクレヨン、水彩絵の具といった、何処にでもある方法だった。

10代も半ばを過ぎてから、油絵の具を知った。それはぼくにとって厚みのある透明色を持ったものもある気に入った媒体になった。また、 タッチや盛り上げも出来るし薄く伸ばすこともできる。

やがて絵の具自身を自分で作ってみたいと思った。

20代初め頃、溶接工や工事現場で日雇いのアルバイトをしながら、夜、絵を描いた。そして時々休日には国会図書館に通ってはいろいろな画法に関する資料を読み、また洋書の絵画材料や技法書を丸善などで入手し翻訳しながら、大げさに言えば研究に熱中した。

油絵の具の他、テンペラやデトランプ、アンコスティックや水ガラスによる ステレオクロミー画法など、とりわけ透明を感じる技法は、ぼくをワクワクさせた。貴石のクズを安く購入してそれを砕いて粉にし、水簸(すいひ)をしたあと乾燥させたものを様々な媒体によって溶き、それによって心の中の風景を描くことに喜びを感じていた。

[フルヌマユ:飛行する気流] ぼくは時々彼らと出合う。中に透明でゆるやかな姿をしている。彼らはレンズや風船、そして気球のようなその姿の中に、いっぱい素敵な喜びをたずさえている。とても巨大で怪物のように見えるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、何よりも安らぎを与えてくれる。

[フルヌマユ:飛行する気流]
ぼくは時々彼らと出合う。中に透明でゆるやかな姿をしている。彼らはレンズや風船、そして気球のようなその姿の中に、いっぱい素敵な喜びをたずさえている。とても巨大で怪物のように見えるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、何よりも安らぎを与えてくれる。

また、「刃物研ぎマス」といった小さな看板を当時共同で借りていたアトリエのドアに気が向くと下げて、刃物を研いだりした。それらは近所の日曜大工が趣味でいる人のカンナ刃や、オクサンたちの包丁だったりしたが、そこそこお小遣いになったりした。

また、キャンバスや絵の具を作り、それが知人たちに結構好評で、生活の糧の一部になった時もあった。

その頃、友人たちから時々美術館などの展覧会のタダ券が手に入ることもあったが、あまり行ったことがなかった。つまり、ギターを弾いたり、そんな調子で絵を描いたりするのは好きだったが、「美術」というものに興味が深いかどうかは未だあやしい。

工作もとても好きであっても、本職のようになりたいと思ったことはない。だからいつもぼんやりとした世界のことばかり想っている。近代や現代と言われる言葉に形容される文脈を持った美術に、あまり関係がなく生きてきた。記憶の底でいつか垣間みたかもしれない風景や物語を、描いていたり作ったりしている。

[巨きな生き物の平原] 初夏の夢は大抵ゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。巨きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平原から光色のエネルギーを吸い上げている3対の柱を持った生命体は時々夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間得た成分を虹のような香りや風のような音律にかえて、その上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

[巨きな生き物の平原]
初夏の夢は大抵ゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。巨きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平原から光色のエネルギーを吸い上げている3対の柱を持った生命体は時々夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間得た成分を虹のような香りや風のような音律にかえて、その上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

でも、こんな風にして絵を描いたり、石を彫ったりして生きている人たちはきっとぼくだけではないだろう。いうならば、ぼくはそのような人たちの一人に過ぎないと思う。

若い頃からつづく日々が、星の涯(はて)の世界や心の中の見えづらい世界のことばかりに惹かれていて、外へ出歩いたり人に会ったりするのが得意ではなく、今日がいったい何月何日なのかわからないでいることが多い。

只、絵を描いたりすることが単に自己を顕すためだけの仕事であったり、上ばかり見て深さを求めないような生き方であることを願ったことはない。

ぼくのようにありふれていながらも、そしていつの時代にもいるだろう人間であっても、知らないうちにこの世に生まれ、いつかは誰かのこころの中のうっすらと浮かんだ幻のような世界の中へ、溶けて行ってしまいたいとどこかで思っているのかもしれない。

絵を描きはじめた幼い頃から今に至るまで、生きている日々の暮らしと、それらが切り離れたことはないと思う。

小林健二

小林健二作品

[観測気球のようなこころ]
高い層の青い色へと近づきたくて、いつのまにかとても大きくなってしまった。でもすごくその場所は遠そうなのでこころを観測気球のようにして、体をすてて飛んでみることとしよう。

*2008年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

KENJI KOBAYASHI

基本的なゲルマラジオの製作2

前回ご紹介した[基本的なゲルマラジオの製作]の続きです。

コア入リコイルとヴァリコンのゲルマラジオ

コア入リコイルとヴァリコンのゲルマラジオ 「ぼくらの鉱石ラジオぼくらの鉱石ラジオー小林健二著)」より

コア入リコイルとヴァリコンのゲルマラジオ
「ぼくらの鉱石ラジオぼくらの鉱石ラジオー小林健二著)」より

コア入リコイルとヴァリコンのゲルマラジオの回路図

コア入リコイルとヴァリコンのゲルマラジオの回路図

材料 コア入リコイル 1本(作例ではマックス印のPA 63Rというタップ付きインダクタンスコイルを使用しています) ポリヴァリコン(単連290 pF)1個 ヴァリコン用ツマミ 1個 ゲルマニウムダイオード 1本 抵抗1/4W(4分の1ワット)500kΩ(キロオーム)1本(この抵抗はなくてもかまいません) ターミナル、あるいはそのかわりとなるネジ等の金具 配線用エナメル線 10 cmほど クリスタルイヤフォン 1個 ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4 cm× 7cm X 1 5cmを使いました)

材料
コア入リコイル 1本(作例ではマックス印のPA 63Rというタップ付きインダクタンスコイルを使用しています)
ポリヴァリコン(単連290 pF)1個
ヴァリコン用ツマミ 1個
ゲルマニウムダイオード 1本
抵抗1/4W(4分の1ワット)500kΩ(キロオーム)1本(この抵抗はなくてもかまいません)
ターミナル、あるいはそのかわりとなるネジ等の金具
配線用エナメル線 10 cmほど
クリスタルイヤフォン 1個
ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4 cm× 7cm X 1 5cmを使いました)

このラジオはC(コンデンサー)同調式といいます。(詳しい原理などはおってアップ予定です)L(コイル)は動かしません。作例では実験として各タップにもアンテナをつなげられるようにしてみましたが、回路図のように黄のタップは実際には使用しません。

使用したコイルは小型ラジオを製作するために作られたもので、フェライトの磁性体をコイル筒の中央に入れることでインダクタンスを高くしているため、太さ8 mm、長さ(本体)3 cmと小型にできています。4 cmくらいの長さに出ている銅線は取り付け用のもので、ハンダ付けをしたり、途中で適当に切ったりできるものです。

なおプラスチックケースは熱に弱いので、部品は瞬間接着剤でくっつけました。

PA-63Rの取り付け方

PA-63Rの取り付け方

裏から見たところです。

裏から見たところです。

実体配線図

実体配線図

プラスチックケースの加工

プラスチックケース(スチロール製)は、アクリルや塩化ビニルやABS樹脂とくらべると加工がしづらくて、 ドリルで穴をあけようとするとかえって割れてしまったりするのですが、熱したクギなどでもすぐに穴があけられるので、いろいろと工夫してみてください。プラスチックケースがなければ、マッチ箱などを利用するのもいいと思います。

調整と聞き方

アンテナを自のタップのところにつけて、アースもつけ、ヴァリコンを動かして同調をとって聞きましょう。もし感度がアンテナが小さいことでうまくいかないようなら、黄のところにもつなぎかえたりしてみてください。

ミュー(μ )同調器を使ったゲルマラジオ

ミュー(μ )同調器を使ったゲルマラジオ 「ぼくらの鉱石ラジオー小林健二著」より

ミュー(μ )同調器を使ったゲルマラジオ
「ぼくらの鉱石ラジオー小林健二著」より

ミュー(μ )同調器を使ったゲルマラジオの回路図

ミュー(μ )同調器を使ったゲルマラジオの回路図

材料 ミュー同調器 1個 セラミックコンデンサー(100pF)1個 ターミナル 4つ ツマミ 1個 グルマニウムダイオード 1本 配線用エナメル線 10 cm クリスタルイヤフォン 1個 ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4 5cm X7cmX2cmを使いました)

材料
ミュー同調器 1個
セラミックコンデンサー(100pF)1個
ターミナル 4つ
ツマミ 1個
グルマニウムダイオード 1本
配線用エナメル線 10 cm
クリスタルイヤフォン 1個
ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4 5cm X7cmX2cmを使いました)

回路図中及び実体配線図中で、アンテナ 、アース 、コイル、 ダイオード、コンデンサー 、イヤフォンの関係がいろいろな位置で表してありますが、最終的にどことどこをつなぐかさえ正しければよいのです。また、コンデンサーやコイルの矢印のあるものは可変できることを表しています。

回路図中及び実体配線図中で、アンテナ 、アース 、コイル、 ダイオード、コンデンサー 、イヤフォンの関係がいろいろな位置で表してありますが、最終的にどことどこをつなぐかさえ正しければよいのです。また、コンデンサーやコイルの矢印のあるものは可変できることを表しています。

裏から見たところです。

裏から見たところです。

このラジオはL(コイル)同調式で、C(コンデンサー)は100 pFで固定されています。ミュー同調器はコイルの中のコアを動かしてLを変化させるので、コアの動くスペースを考えておかなければなりません。それ以外はあまリスペースを取らないので、作例では余ったスペースにイヤフォンを入れるようにしました。

ミュー同調器はなかなか入手しづらいかもしれませんが、参考としてあげました。コルの中のコアを出し入れするものですから、自作はそれほど難しくありません。

調整と聞き方

ミュー同調器はメカニックで動くので、組み立てる前に、スムーズに動くように油などをギヤ部にさして調整をしておき、組立て後にも再度調整をしましょう。アースとアンテナを逆につけかえたりして感度をみてください。

ミュー同調器の自作

ミュー同調器が手に入らなかったり自作したい場合のために、ダストコアと呼ばれるものを紹介します。これは直径4~10 mm長さ2~ 20 cmくらいまであるフェライトなどの磁性材料を使って棒状に作られたものです。これをミュー同調器のようにギアを使ったり、あるいは図のようにプーリとワイヤーでコイルのなかにダストコアが出入りする機構を作ってあげればいいのです。

ミュー同調器の自作

ミュー同調器の自作

ミュー同調器の自作

ミュー同調器の自作

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオ

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオ 「ぼくらの鉱石ラジオー小林健二著」より

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオ
「ぼくらの鉱石ラジオー小林健二著」より

材料 ミュー同調器 1個 ヴァリコン単連290 pF l個(作例では古いミゼットヴァリコンを使用しています) グルマニウムダイオード 1本 ツマミ 2個 ターミナル 4個 配線用エナメル線 10 cmほど クリスタルイヤフォン 1個 ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4cmX10cmX2 5cmを使いました) (写真には抵抗も1本写っていますが、今回使用しませんでした)

材料
ミュー同調器 1個
ヴァリコン単連290 pF l個(作例では古いミゼットヴァリコンを使用しています)
グルマニウムダイオード 1本
ツマミ 2個
ターミナル 4個
配線用エナメル線 10 cmほど
クリスタルイヤフォン 1個
ケース(作例では透明のプラスチックの箱、外形4cmX10cmX2 5cmを使いました)
(写真には抵抗も1本写っていますが、今回使用しませんでした)

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオ の「回路図

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオの回路図

実体配線図

実体配線図

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオの裏

ミュー同調器とヴァリコンを使ったゲルマラジオの裏

調整と聞き方

このラジオはL、C同調式で、可動部が2つあるのでしっかり製作してください。

聞き方としては、まずヴァリコンを真ん中の位置にしてミュー同調器を動かし、感度のいいところを見つけたらヴァリコンを動かし、またミュー同調器を動かすというようにしてみてください。

 

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

KENJI KOBAYASHI

プロキシマ系鉱物ー[PROXIMA-INVISIBLE NUPTIALS]より

[プロキシマ;見えない婚礼-PROXIMA-INVISIBLE NUPTIALS] 体裁:A5/196頁/上製本(シルクサテン装・三方小口プラチナ箔)/総写真図版95点(内カラ-74点) 装丁:小林健二 / 編集:三菱地所アルティアム / 発行:銀河通信社  *残念ながら品切れが長らく続いております。

[プロキシマ;見えない婚礼-PROXIMA-INVISIBLE NUPTIALS]
体裁:A5/196頁/上製本(シルクサテン装・三方小口プラチナ箔)/総写真図版95点(内カラ-74点)
装丁:小林健二 / 編集:三菱地所アルティアム / 発行:銀河通信社 
*装丁、内容ともに美しい本です。残念ながら品切れが長らく続いております。

小林健二作品集「プロキシマ」 とても美しい本です。

小林健二作品集「プロキシマ」

[PROXIMA-見えない婚礼(INVISIBLE NUPTIALS)]

プロキシマとは星の名です。

ケンタウルス座のアルファ星の伴星の一つで、主星が明るいため見つけにくい星であります。

またこの星はNearest Star(最近星)と言われ、地球に最も近い恒星として人間に知られていて、地球からの距離は約4.27光年で、27万天文単位、つまり地球から太陽までの距離のおよそ27万倍ということになります。

この少し想像を超えてしまうような遠方の星が、地球人にとって最もプロキシマ(すぐそばの意)な星なのです。そしてこのプロキシマのあたりは、地球型の生命系の存在が最も期待されている場所でもあるのです。

ある日、宇宙から見ればそんなに近くの、そしてそれほど遠い方向から、ぼくは一通の幻をもらった気がしたとしてください。

プロキシマケンタウリとも呼ばれるこの星は、10.7等星で太陽の0.1倍くらいの大きさの星と考えられています。

このまれに見る太陽系と似ている惑星たちは6つの地球型と思われるもの、2つの木星型に似ているもの、そしてリング状の軌道上星団と無数の彗星型小惑星が存在しています。組成的には3つの重い金属と珪酸を中心としたものと、2つのまさに地球のような水と岩石質からできている内惑星をもつ第六番目の惑星、それがこの幻の故郷の一つなのです。やがて付けられるべきその星の名はナプティアエ(婚礼の意)です。

この場所では、重質内惑星と木星型巨大惑星との境に位置しながらさまざまな影響を受け、さらに太陽に当たるプロキシマが、三重連星という複雑な重力場を持っているために、ナプティアエでは太陽系にはない現象が多数あるのです。

たとえば高位成層圏からの強い電離粒子流によって起こされる、オーロラとも異なった「緑の少年」と呼ばれる現象。あるいは1プロキシマ年(2740地球年)に一回、ナプティアエの衛星帯のダークマターが、一種の太陽風である個体微粒子と作用し、レオロジー的効果によってナプティアエの大気中に巨大な地質層をわずかな時間、音楽のような音響とともに現出させる「影むらさきの浜辺」など、これらは地球上の生命にも感動を与える美しい現象です。

ここはまた、星の意識がアクチノイド系物質をはるかに上まわる高原子量物質を生成し、儚(はかな)い瞬間的出合いの中に、陽電子や単極磁場と作用している恋心やためらいのような・・・そんな夜明けの世界なのです。

また地質学的に見ると、地殻に当たる外層構造はおよそ60kmにまで達し、それはほぼ全体が無色の無水珪酸によって構成された巨大な硝子球のようで、上窓から眺める景色は、地球人にとっては心もとなく気が遠くなるばかりです。

しかしながらその地中には穏やかな晶洞の世界があって、高分子の有機質的結晶という状態が生活をしています。上空を見上げれば、遥か彼方まで回析や複雑な屈折をくりかえしながら運ばれてくる、プロキシマからの緑色の光に煌めいている石英の透質な天井、巨大なクレーターの底より見える、アイスブルーの大気と、地平に見える茜色と水色の他の2つの太陽、そして眼下には、かぞえきれない色彩に輝いている鉱物たちと水の世界。

もはやあらゆる地球人の言語は、ここでは意味を失ってしまうのです。

太陽系にも同じように存在している、多数の元素。そして水やマグマによって引き起こるスカルンやペグマタイトの鉱床。そこは重力の違いや、アスタチンやプラセオジムを含む大気によるためか、地球に似ているところと想像も絶する風景とが入りまじっているのです。

侵しがたく、また静かなる神秘の都。そこにはまた信じがたい花をつける鉱物たちがいて、1プロキシマ年に2度おとずれる日向の季節に、彼らはいっせいに花を咲かせます。7つの性と27種の核酸基によって生きる、亜酸性鉱質膠朧体(あさんせいこうしつこうろうたい)で、地球に於いて科学上分類するとすれば、鉱物に最も近い約35億年の変性二相系的寿命を持ったものたちです。

これら鉱物のように見える生命系を考えていたりしながら、「彼らは本当に生きているの?」と思ったり、また「そもそも生きているとはどんなことなのだろう?」とも思ったりするのです。

 

やがて幻は、場所や時代を同定しづらい、おそらく日本の過去の風景へとぼくを誘(いざな)うのです。そしてその移行の間中、一種のものを語るような言葉が静かに流れています。

「これはかつて君が立っていた場所からすると、すでに過ぎて行った出来事として捉えられている。それらは『見えない学会;INVISIBLE COLLEGE』を作った高い知性の領域から『植物の婚礼への序説;PRELIMINARIES TO NUPTIALS OF PLANETS』の時代よりすでに始まり、実は自然科学的には『知られていない場所;TERRA INCOGNA』としてラップランドのトナカイの群の中に隠されていたものなのだ・・・」

わずかずつ感じてくるのは、時の流れが穏やかで、そして、澄み渡ったように感じるものがあって、徐々にそれが川のそばにあり、初夏の夕方だということがわかってくる。その風景は今宵、七夕をむかえようとしている。ぼくは誰かに案内されるようにしてその町を見ている。そこは貧しく、人々はいかなる人も質素でひどくぼろぼろの木綿の絣を着ているが、どれもがまたとても清潔で美しい。家々は皆長屋の様であるのに、何故か瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気をもっている。

そしてその町のはしからはしへとわたってゆく中で、ぼくは誰かに案内されているのではなく、誰かの思い出の中に紛れてしまっているのだと気づき始めていた。

照れながら笑う子供、またその子の手の上に小さな色のついた透きとおる飴をのせる年配の人、ともに宝物のようにそれをあつかう。1年に1度のこの聖なる夜のため、人々は思い思いに竹や自分を際立たせている。今宵は一人一人に、そしていたるところ多数の場所で奇蹟が起きることだろう。

この町を上空からふりかえると、その暗い宵闇の中に静かに瞬く数々のあかりに銀河を見るような想いがして、そして、あの結晶鉱物たちの世界と極大な過去と未来とを分かつことなく共通して存在する、この不思議な目には見えない世界・・・。

一瞬わずかに目が合っただけ、あるいは肉体的には出合うこともなくても、共に命の奥底で通じ合う自由への心根。大きく色のついた美しい短冊で夜を飾る(ああ、まさにこれらの人は咲いている花なのだ)。

星のよく見えるそんな町だから、みんな目が大きく美しいのかもしれない(ああ、あの超えがたい27万天文単位を、確かに系ながるものたちは合ったのだ)。

ぼくのこころまでが、蛍のように光を点されたとき、音のない拍手のようなものが聞こえそうになったので、ぼくは振り返ると、植物や森や鉱物のような人々がまるでほほえむようにゆっくりと口に指をあてて言う、「もう少し聞いてみてください」。そしてその指は翼のようにして夜空をさしながら、こんな事をこだまのように発声する。

「実はこの世は全ての場所でいつでさえ、見えない婚礼がおこなわれている。生きものたちはその方法で巡り逢い、まるで知れないようにして通じ合い、そして、知らないところから知られない場所へと移行してゆくみたいなのです。1人のものたちは決してなく、この世界のあるよう全てはどれも失われる事なく、死などもなくて、別れに悲しむ事はないのです。私たちは如何なる瞬間でも出合っていて、そしていかなる永遠の間中、互いに見えない婚礼によって祝福をうけているのです」。

ああ、こんなにも近くて遠い場所から、いつのまにか声はいくつかの和音や和声となり、やがて静かな夜明けの合唱となって、透明な風景ヘとけてゆく・・・

しばらくして巨きな青空かあさが、明けてくるようなそんな光の気配が広がっていった・・・。

2000年 春 小林健二

 

幻の星で結晶の花(プロキシマ系鉱物)が咲いている話、育成するように丹精して人工結晶を育てる方法、スライドで天然の結晶と人工結晶を見ながら、その組成や作り方などを解説しました。 まあ、小学生の頃から作りたいと思っていたイメージを実現するに至った作品のエピソードも印象的でした。実際に工具を使って見せたり、特殊な光源によって石を光らせたり、また偏光する液体の実験、電磁波や球体が浮く実験などがあり、普段地球が浮いていることを感じことは難しくても、物体が浮くのをみて、リアルな不思議をアートで感じる体験になりました。 観客からの質問にも答えて、自分にとって何が幸せか考えてみる時間を持つことや、夢を見続けて自分にしかできないことを見つけ、そして、していってほしいという話がありました。

幻の星で結晶の花(プロキシマ系鉱物)が咲いている話、育成するように丹精して人工結晶を育てる方法、スライドで天然の結晶と人工結晶を見ながら、その組成や作り方などを解説しました。
また、小学生の頃から作りたいと思っていたイメージを実現するに至った作品のエピソードも印象的でした。実際に工具を使って見せたり、特殊な光源によって石を光らせたり、また偏光する液体の実験、電磁波や球体が浮く実験などがあり、普段地球が浮いていることを感じことは難しくても、物体が浮くのをみて、リアルな不思議をアートで感じる体験になりました。
観客からの質問にも答えて、自分にとって何が幸せか考えてみる時間を持つことや、夢を見続けて自分にしかできないことを見つけ、そして、していってほしいという話がありました。

彼はいくつかの液体や粉体の薬品を水の入った容器に入れていきました。 一つ一つ薬品が入るたびに何かしらの反応が起きているようで、最後のものを入れた後、会場を暗くすると、容器の中の液体は美しいピンク色に発光し始め、また消えたり、それらを交互に繰り返し明滅しました。まるで液体が生きているような不思議な実験でした。

彼はいくつかの液体や粉体の薬品を水の入った容器に入れていきました。
一つ一つ薬品が入るたびに何かしらの反応が起きているようで、最後のものを入れた後、会場を暗くすると、容器の中の液体は美しいピンク色に発光し始め、また消えたり、それらを交互に繰り返し明滅しました。まるで液体が生きているような不思議な実験でした。

トークでしばしば行う化学実験の一つ 明滅する蛍光溶液(ペロウソフ・ザボテンスキー氏からの報告

トークでしばしば行う化学実験の一つ
明滅する蛍光溶液(ペロウソフ・ザボテンスキー氏からの報告)

[ELFLITE]プロキシマ系鉱物 Phenyl Salicylate, etc

[ELFLITE]プロキシマ系鉱物
Phenyl Salicylate, etc

[SPOREMITE]プロキシマ系鉱物 Potassium Aluminium Chrome Sulfate Dodecahydrate, etc

[SPOREMITE]プロキシマ系鉱物
Potassium Aluminium Chrome Sulfate Dodecahydrate, etc

[FLAVUSFLOSITE]プロキシマ系鉱物 Potassium Hexacya No Ferrate(ll) Terrahydrate, etc

[FLAVUSFLOSITE]プロキシマ系鉱物
Potassium Hexacya No Ferrate(ll) Terrahydrate, etc

[VIRIDISITE]プロキシマ系鉱物 Nickel (ll)Sulfate Hexahydrate, etc

[VIRIDISITE]プロキシマ系鉱物
Nickel (ll)Sulfate Hexahydrate, etc

[AMBERITE]プロキシマ系鉱物 Lithium Trisodium Chromate Hexahydrate, etc

[AMBERITE]プロキシマ系鉱物
Lithium Trisodium Chromate Hexahydrate, etc

 

*作品集「プロキシマー見えない婚礼」より抜粋編集しております。小林健二が2000年当時に執筆した内容が、まさに今立証されているものもあり、不思議な感覚になります。

化学実験や電気の不思議な働きなどを自身の作品を通じて楽しむ体験型のトークショーを行っている。 *Gallery ef(東京)でのトークの様子。

化学実験や電気の不思議な働きなどを自身の作品を通じて楽しむ体験型のトークショーを行った時の画像。
*Gallery ef(東京)でのトークの様子。

個展[CBALT CHRYSALIS] ARTIUM(福岡)で開催された展覧会は、培地を使用した実験的な内容。画像は作業中の小林健二

個展[COBALT CHRYSALIS]
ARTIUM(福岡)で開催された展覧会は、培地を使用した実験的な内容。画像は作業中の小林健二

展覧会[COBALT CHRYSALIS」の詳しい内容はhttp://www.kenji-kobayashi.com/1992cobalt.html

展覧会[PROXIMA-INVISIBLE NUPTIALS]の詳しい内容はhttp://www.kenji-kobayashi.com/2000proxima.html

 

KENJI KOBAYASHI

 

受話回路(ヘッドフォンやイヤフォン)

受話回路は基本的には受話器だけで、検波回路によって高周波電流から分離された音声信号を実際に耳に聞こえるようにする部分です。受話器にはヘッドフォンとイヤフォンがあります。

ヘッドフォン

ヘッドフォンの外観は現代のものと似ていますが、スピーカーなどを鳴らすほどの力のない1球式(真空管)ラジオに使用されるためにとても高感度につくられていました。 1875年にアメリカのベル Alexander Graham BELL (1847-1922)によって発明され、やがて電話の交換手の両手を自由にするため頭に乗せる受話器として改良された時計型受話器を原型としています。

JOAKの本放送が始まった大正14年当時のヘッドフォン付き鉱石ラジオ。

JOAKの本放送が始まった1925年頃のヘッドフォン付き鉱石ラジオ。

精度高く作られた当時のヘッドフォンは「素人には決して工作できない」と本にでてきますし、「初心者には片耳式で充分」と言うようにとでも高価でもありました。当時の雑誌の記事にも「鉱石ラジオは作ってみたが、受話器が高くて放送はまだ聞いていない」といったものを見かけます。

鉱石ラジオや1球式ラジオが全盛のころに最も多く作られ普及しましたが、鉱石ラジオ本体よりも高価なものだったようです。

両耳式ヘッドフォンのいろいろ

両耳式ヘッドフォンのいろいろ

ヘッドフォンの受話部分の中の状態

ヘッドフォン受話部分の中の状態

代表的なヘッドフォンの構造です。エボナイトでできたケースとその中に永久磁石、極片と呼ばれる軟鉄製の鉄芯にコイル、それに薄い鉄板製の振動板から成り立っていました。

代表的なヘッドフォンの構造です。エボナイトでできたケースとその中に永久磁石、極片と呼ばれる軟鉄製の鉄芯にコイル、それに薄い鉄板製の振動板から成り立っていました。それぞれの部品は感度を上げるためにいろいろ工夫がしてありました。永久磁石は永磁性を失わないようにタングステン綱やクローム綱を用い、振動板はスタローイ綱板にクロームのメッキをし、コイルは0.05~0.08 mmのとても細い絹巻き銅線によって6000~ 20000回くらい巻かれてありました。 これらは当時では高度な技術であったと思われます。

作動原理は、永久磁石によって磁化された鉄芯が0.2mm前後の空隙(ギャップ)をへだててうすい鉄板を常に引きつけています。やがてコイルに音声信号が入ってくると電磁石の原理でコイルには交番する強弱を伴った磁力が発生し、振動板を振動させ、それが音として聞こえるようになるのです。

1、振動板は常に永久磁石の力でほんのすこしのギャップを開けて引きつけられている。 2、コイルに交流電流が流れると電磁石の原理でコイルの鉄芯に微弱に変化する磁力が発生する。 3、2で発生した磁力が永久磁石の磁力を強めたり弱めたりすることで、引きつけられていた振動板が振動子、音が発生する。

1、振動板は常に永久磁石の力でほんのすこしのギャップを開けて引きつけられている。
2、コイルに交流電流が流れると電磁石の原理でコイルの鉄芯に微弱に変化する磁力が発生する。
3、2で発生した磁力が永久磁石の磁力を強めたり弱めたりすることで、引きつけられていた振動板が振動子、音が発生する。

振動板の厚さは普通0.1mm程度で、薄ければ薄いほど感度はよくなりますが、あまり薄いと周波数特性が悪くなり、音がよくなくなります。また固有振動数を音声の周波数より高くしないと、ビリビリしたりキンキンと共振してしまう音域ができてよくありません。またゴムの輪をパッキングにすることで共振を起こさないように工夫されていて、直径はだいたい5cmくらいです。

コイルは直流抵抗でおよそ1~ 2 kΩ くらいで(テスターなどではかる場合)、インピーダンス(Z:交流における周波数によって変化する抵抗分)は1kHzで10~ 40 kΩ くらいです。インダクタンス(L)は0.5~ 3Hくらいです。

またこのヘッドフォンには別の構造をもったものもいくつかあり、例としてはバランスドアーマチェア型とかマグネチックコーン型と呼ばれるもの(ヴォールドウィンマイカ受話器など)があります。

下が一般的なヘッドフォン、上がヴォールドウィンマイカ受話器です。

下が一般的なヘッドフォン、上がヴォールドウィンマイカ受話器です。

永久磁石の磁極(N、S極)の間にコイルを置いて、さらにその中に軟鉄片を、その中心のところを支点としその一端をレバー(ビヴォット)として、マイカでできた振動板を動かすことで音に変えるというものです。このタイプを測定してみると以下のようなスペックになりました。 R=693Ω 、 Z=29 3kΩ (l kHz)、L=1.48H またどのタイプにおいても、両耳式と片耳式がありました。

永久磁石の磁極(N、S極)の間にコイルを置いて、さらにその中に軟鉄片を、その中心のところを支点としその一端をレバー(ビヴォット)として、マイカでできた振動板を動かすことで音に変えるというものです。このタイプを測定してみると以下のようなスペックになりました。 R=693Ω 、 Z=29 3kΩ (l kHz)、L=1.48H
またどのタイプにおいても、両耳式と片耳式がありました。

イヤフォン

イヤフォンにはクリスタル式とマグネチック式があります。マグネチック式はヘッドフォンと構造が似ていて、インピーダンスが8Ω とか16Ω とひくく、もっと電力がないと鳴らすことが出来ないものが多いので、鉱石ラジオには向きません。

クリスタル式は価格的にも感度的にも、そしてクリスタルを用いるところなどもまさに鉱石ラジオ(クリスタルセット)にはぴったりのものでしょう。

ただ実際は、戦後になって鉱石ラジオがゲルマラジオに置き変わったころにヘッドフォンがクリスタルイヤフォンに置き変わっていったので、ちょっとすれ違いの感じです。このクリスタルイヤフォンも残念ながら最近では日本で生産されていないと思いますが、ジャンク屋や古い電気屋さんにきいてみるとけっこう手に入るはずです。

構造はこのようになっていますが、これはロッシェル塩Rochelle saltと呼ばれる結晶を使っています。

構造はこのようになっていますが、これはロッシェル塩Rochelle saltと呼ばれる結晶を使っています。

ロッシェル塩は酒石酸ナトリウムカリウム四水和物

(Potassium Sodium Tartrate Tetrahydrate 2NaKC4H406・4H20)で、酒石酸を中心とした水和化合物です。酒石酸は天然のブドウやその他の果実中に存在してワインを醸造する過程等で作られ、昔のサイダーやラムネの味付けにも使われた清涼感のあるすっぱい味のものです。

ロッシェル塩は1672年、フランスのロッシェルという町の薬剤師セニェットSEIGNETTEがワインを作る際に副産物としてできる酒石を原料にして精製して利尿効果のある家伝の秘薬として発売したものです。地名からロッシェル塩、あるいは創製者の彼の名前からセニェット塩とも呼ばれ、無色透明の斜方晶系半面像晶族(Rhompic-hemi-hedral class)に属する粒状結晶です。

このロッシェル塩にはピエゾ圧電気効果piezo-electric effectというおもしろい性質があります。これは水晶、 トルマリン、リチア電気石などにもあり、1880年にキュリー兄弟Paul Jacques CURIE(1855-1941)、Pierre CURIE(1859-1906)によって発見されました。

上記の結晶に機械的に圧力を加えるとある方向に電気(起電力)を発生させるというもので、 トルマリンなどが電気石と呼ばれるのはそのためです。そしてその逆に結晶に対してある方向に電圧を印加すると機械的に歪むことを、 翌1881年に同じフランスのリップマンGabriel LIPPMANN(18451921)が発見しました。これをピエゾ圧電気逆効果converse piezo- electric effectと言い、クリスタルイヤフォンはこの性質を利用しているのです。水晶は高い周波数で発振できるので水晶振動子としてクォーツ時計などに使われ、低い周波数でも最も大きく振動するこのロッシェル塩の結晶がクリスタルイヤフォンに使われています。

クリスタルイヤフォンの構造イヤフォンの構造についてもう少し説明すると、内部に入っているロッシェル塩の結晶は1cmヘーホーくらいのものを厚さ0.3 mmほどにスライスして、2枚を電極をはさむように接着してあります。このようにクリスタルイヤフォンはコンデンサーと同じ構造なので、検波回路で並列につなぐコンデンサーが必要ない場合が あると説明したのはこのためです。

またこのクリスタルイヤフォンは弱く、直流の電圧がかかるとこわれることもあるので、並列に抵抗(500 kΩ ~ 1MΩ )を入れたりします。

ロッシェル塩は音声信号によって振動して、さお(レバー)と呼ばれる支持体によってアルミの薄い0.1mmほどのコーン状の振動板を動かして発音する仕組みになっています。直流抵抗Rはもちろんコンデンサーと同じではぼ無限大、インピーダンスZは100 kΩ~ 5MΩ (メグオーム)くらいです。

市販されていたクリスタルイヤフォンも後期のものは、ロッシェル塩のかわりにチタン酸バリウムを用いて作ったピエゾ圧電素子を使っているようです。

イヤフォンの中の構造

近年のイヤフォンの構造

ロッシェル塩については人工結晶を作るでもご紹介しております。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

KENJI KOBAYASHI

 

複焦点プレパラート製作法について

光学的な顕微鏡の観察は、実体顕微鏡のようなシステムを除くと、ほとんどがプレパラートの製作と関係している。そして、プレパラートと言っても、動物、植物、鉱物、金属、樹脂など、それぞれに独自な技法を、用する場合も多く、生物系では一時的な観察の為のものから、何年もの保存に耐えるものまで、種々の作り方がある。

スンプ法(セルロースの板を薬品で膨潤させ、試料に押し付け、型をとって、その表面を観察する方法)や、封入法(シリコンゴムなどで立体物を封入して観察する方法)まで入れると多様だ。ホビーとしてはあまり聞いたことはないが、ぼくは結構楽しんでいる。まして、それらを色々に染め分けてみたり、また組み合わせてみたりすることは、無限に発想を与えてくれる。

このようにして作られたプレパラートは、本来のサイエンスとしての意味はすでに逸脱せざるをえないものでも、コハクの中の昆虫のようだったり、あるいは多くの色彩を持つが故に、まるで宝石のように輝いて見える。

また、複数の切片を積層して作るプレパラートは、顕微鏡のように焦点距離の極めて抵深度のものでは、複数の焦点を持つことになる。もう少し解りやすく言えば、一枚のプレパラート上で、動物細胞を観察中に焦点を変えて行くと、植物細胞にピントがあって、あたかも動物細胞が、植物細胞へと変化したような不思議な錯覚を得ることになる。

最近実験中?なのは、薄く培地を引いたLSIのマイクロフィルムの上を移動する細胞性粘菌の実態撮影である。技術的にはなかなか困難なことであるのに、科学的進歩には何ら貢献しないわけだ。しかしながら、情報が氾濫する時代の中で、見ようと意志しなければ見えない世界は、ぼくにとっては、どういうわけか安心を与えてくれるのだ。

投影型偏光顕微鏡 このような小型(投影型では)のものを最近あまり見なくなった。今回のようなギャラリーでの展示に使用するのには上部の投影板(像が映る曇りガラスの部分)は暗く、照明用の ハロゲンランプの発熱の為必要な、強制冷却ファンの音が大きく、必ずしも理想的ではないかもしれない。個人的観察の為に入手したもので、比較的安価出会ったのと、何よりこの奇妙な形体に引かれたところがあった。

投影型偏光顕微鏡
このような小型(投影型では)のものを最近あまり見なくなった。今回のようなギャラリーでの展示に使用するのには上部の投影板(像が映る曇りガラスの部分)は暗く、照明用の ハロゲンランプの発熱の為必要な、強制冷却ファンの音が大きく、必ずしも理想的ではないかもしれない。個人的観察の為に入手したもので、比較的安価出会ったのと、何よりこの奇妙な形体に引かれたところがあった。

光学的単眼顕微鏡 この顕微鏡は長年使用しているものだ。少々ガタがきているので、時間のある時にゆっくり分解掃除をしてやりたいと思っている。これはまた、決して高価でも最新型でもないが、通常のプレパラートの観察では十分力を発揮してくれる。上の写真では、写真撮影用のカメラアダプターとカメラが取り付けてある。高倍率の実際の撮影には、あと外部にケーラー照明の光源が必要だろう。

光学的単眼顕微鏡
この顕微鏡は長年使用しているものだ。少々ガタがきているので、時間のある時にゆっくり分解掃除をしてやりたいと思っている。これはまた、決して高価でも最新型でもないが、通常のプレパラートの観察では十分力を発揮してくれる。上の写真では、写真撮影用のカメラアダプターとカメラが取り付けてある。高倍率の実際の撮影には、あと外部にケーラー照明の光源が必要だろう。

円筒ミクロトーム これは植物などの切片材料でプレパラートを製作するときには欠かせないものだ。丸い穴の所に試料をはさみ入れ、シリンダーの部分をマイクロゲージのように回転させると、わずかにせり出して来るので、そこのところを下にあるカミソリで薄くそいで切片を作る。このミクロトームでおよそ1メモリ=10マイクロの精度を持っている。

円筒ミクロトーム
これは植物などの切片材料でプレパラートを製作するときには欠かせないものだ。丸い穴の所に試料をはさみ入れ、シリンダーの部分をマイクロゲージのように回転させると、わずかにせり出して来るので、そこのところを下にあるカミソリで薄くそいで切片を作る。このミクロトームでおよそ1メモリ=10マイクロの精度を持っている。

小林健二[EXPERIMENT1]

薬品など
プレパラートを作るためにはスライドガラスやカヴァーグラス、及び薬品などが必要になる。ここの説明はさけるが、以下のようなものがある。バルサム、エタノール、ホルマリン、ファーマー溶液、カルノア液、ファン液、アセトカーミン液、酢酸オルセイン液、ゲンチアナヴァイオレット、ズダンスリー、サフラニンファストグリーン、ギムザ液、ヘマトキシリン液、ジェンダー液、シャウジン液、スンプ法材料等々。

ミクロトームを使用してプレパラートを作るとき、最初よくやるのが、葉や茎の断面だ。でもこれはなかなか奥が深くて、染色法二よっては、本当に鮮やかな色彩に出来上がる。左の写真はツバキの葉の断面だけど、ときにおいてはちょっと変な地球外的生物や、有機的未確認飛行物体のように見えて面白い。

ミクロトームを使用してプレパラートを作るとき、最初よくやるのが、葉や茎の断面だ。でもこれはなかなか奥が深くて、染色法によっては、本当に鮮やかな色彩に出来上がる。上の写真はツバキの葉の断面だけど、ときにおいてはちょっと変な地球外的生物や、有機的未確認飛行物体のように見えて面白い。

これは動物の硬骨組織と淡水植物プランクトンのケイ藻類との重複プレパラートだ。もちろん写真ではどちらか一方しか焦点が合わないわけで、この場合は硬骨組織にピントが合っている。 科学的根拠はほとんどないが、硬骨を形成するカルシウムは、生命現象を地球上に強く関係付けている物質である。有機的な物質というとぼくはどうしてもカルシウムを連想するのは、それによって作られる動物の骨、人も恐竜も共にその外形はいつも有機的だからかもしれない。 また、ケイ藻などは名の示す通り、細胞膜にはペクチン質を基本にしていても、それ以外はケイ酸化合物によって作られている。 ケイ酸イオンは、ぼくにはシリコンウエファーなどを連想させて、無機的なイメージが強い。共に高倍率では、結晶的な構造が強くて、生物における精神や意識の所在を、ふと考えさせられる。だからこのプレパラートは、ぼくにとっての無機と有機の生物学的結合なんだ。

これは動物の硬骨組織と淡水植物プランクトンのケイ藻類との重複プレパラートだ。もちろん写真ではどちらか一方しか焦点が合わないわけで、この場合は硬骨組織にピントが合っている。
科学的根拠はほとんどないが、硬骨を形成するカルシウムは、生命現象を地球上に強く関係付けている物質である。有機的な物質というとぼくはどうしてもカルシウムを連想するのは、それによって作られる動物の骨、人も恐竜も共にその外形はいつも有機的だからかもしれない。
また、ケイ藻などは名の示す通り、細胞膜にはペクチン質を基本にしていても、それ以外はケイ酸化合物によって作られている。
ケイ酸イオンは、ぼくにはシリコンウエファーなどを連想させて、無機的なイメージが強い。共に高倍率では、結晶的な構造が強くて、生物における精神や意識の所在を、ふと考えさせられる。だからこのプレパラートは、ぼくにとっての無機と有機の生物学的結合なんだ。

白雲母(Muscovite)と普通輝石(Augite) これらは共に珪酸塩鉱物である。ただ、前者フィロ珪酸塩と後者イノ珪酸塩出会って、偏光顕微鏡で観ると、見え方はまるで違う。しかし、両方共とても美しく、数多くの色を発色する。このプレパラートはただ単純に合わせて見ると、奇麗かなと思って作ってみた。

白雲母(Muscovite)と普通輝石(Augite)
これらは共に珪酸塩鉱物である。ただ、前者フィロ珪酸塩と後者イノ珪酸塩出会って、偏光顕微鏡で観ると、見え方はまるで違う。しかし、両方共とても美しく、数多くの色を発色する。このプレパラートはただ単純に合わせて見ると、奇麗かなと思って作ってみた。

上記以外のものでは、雲母の中のミジンコ。(次回の記事でご紹介予定です)

鉱物中に生命体が封じ込められていることは通常ありえないが、載物台を回転させて、種々の色が現れると、まるで時間が止まった水の中を泳いでいるようで面白い。あるいは、分子雲を写したフィルムの上の夜光虫、種々の花粉の咲き乱れる中の小さなテクタイト。銀河のように見える扁平上皮細胞の上の赤いゾエアは、ロボットの様だ。網膜の断面の横にリシウム鉱が偏光しているのも、とてもきれいだ。植物の切片や鉱石の薄片が紡いでゆく世界。ぼくの心を虜にしてしまう。

解説+写真:小林健二

*1993年の小林健二ART BOOK[EXPERIMENT1]に書かれた文を編集し、当時の写真がモノクロだったため、画像もモノクロで掲載しております。

KENJI KOBAYASHI

 

 

奇妙な出土品

ぼくはこれまで自著で、人間と電気の歴史を簡単に書きました。何冊も本を読み、ぼくなりにまとめてみたものです。しかしこれだけが本当の事実かどうか決定してしまうのはむずかしいところもあるのです。

ぼくはここで、現在アメリカはピッツバーグのバークシャー博物館やドイツのベルリンにある博物館に展示されている奇妙な発掘品についてふれてみたいと思います。 1936年から翌年にかけて、オーストラリア人でドイツ国籍を持つケーニッヒはイラクの首都バグダッドの南西郊外クジュト・ラブアで発掘された花瓶に似た小壷をイラク国立博物館の研究所地下室で気にとめます。それはどのようなものなのか確定することができずに、展示されることなく放置された格好でおかれていました。

わかっていることといえば、クジュド・ラブアの丘にあるパルティア国遺跡(約B.C.250-A.C.650)から出土し、そのもの自体は今からおよそ4500年前までさかのばることができるということでした。

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

注意深く観察すると、それらは3つの部分より構成されていました。

高さ15 cmほどの明るい黄色の粘土によって作られた部分と、長さ12.5 cm、直径3.8 cmの銅製の円筒状部分、そして長さ8 cmくらいの激しく腐食した鉄製の棒です。そしてこれらはそれぞれアスファルトによって固定され、銅筒はまさに現代のハンダと同じ錫6:鉛4のものを使用して作られ、その内部の壁には電解液が人っていたと思われる酸化物が発見できました。彼はこれらの事実からこの土製の小壺は電池であったと結論します。その後、この奇妙な出土品は先の出土地から遠くないテル・オマールの古代都市セレウキア遺跡からも出上し、それまで以前にもこれに似たものはやはり付近にあるケシフォンでも出土していたことが確かめられます。

ケーニッヒの一見信じがたいこの推論は世界大戦の後、アメリカのゼネラル・エレクトリック社高圧研究所の電気技師ウィラード・グレイと科学史家ウィリー・レイによって確かに認められ、謎はいっそうの深まりを見せたのです。

ぼくは本文で1796年のヴォルタの電堆が電池のはじめと紹介しました。このことはきっと電気の歴史の教科書にみんな同じように書いであると思えます。そしてそのヴォルタの電池の発明によって電気の世界は魔法から科学へと大きく飛躍を遂げたことも確かなことです。

ですからこの4500年前の電池はめまいのするような物語をぼくらに感じさせてくれるはずです。なぜならそれはその時代に電気を扱うことができるシステムが存在したことを暗に示しているからです。確かにやはり古代エジプトのピラミッドについても、光の全く当たらないその内部の壁から照明に使われたはずの明りの煤が少しも発見されていないことや、 8世紀ころピラミッドに盗掘に入った他国の墓泥棒のリストに装飾品としては奇妙な「長い曲げることのできる透明なガラスの管に束ねた金の糸が入っているもの」があるのは謎のひとつとされています。

これらはいったいなにを意味していたのでしょう。

ぼくたち現代に生きる人間はなにもかも知っているような錯覚をしてしまっているのかもしれないと思うことがあります。そしてその中で可能性を見いだすことより、いろいろな限界を感じ始めているようにさえ見受けられます。

でもどうでしょう。この字宙のどこかでは、ぼくらが全く想像もしていない哲学や美学、科学や自由によって、暮らしを営む知性系が存在するかもしれません。あるいはまたいつかぼくたちも何かの拍子にそんなシステムと遭遇するかもしれません。ぼくはそんなときがきたら彼らの世界に驚くばかりではなく、小さなプレゼントを彼らのために携えておきたいと考えています。

そう、それはもちろん鉱石ラジオです。ぼくはかれらにおもちゃみたいな工作物を手渡して、こんなふうに言うのです。

「ぼくらの世界ではこんな小さな鉱物で電磁波に乗ってくる仲間の心をキャッチするんだよ。信じられるかい?」

ルーマニアKAVNIC産の鉱物を用いた鉱石ラジオ(小林健二自作) W70XD50XH120mm

ルーマニアKAVNIC産の鉱物を用いた鉱石ラジオ(小林健二自作)
W70XD50XH120mm

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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未知のマテリアルも古典材料もぼくらを豊かにしてくれる

新地球環境学UFO

未知のマテリアルも古典材料もぼくらを豊かにしてくれる

この地球の重い大気の中でさえ、スイスイと飛んでしまう飛行物体があるとしたら、その推進システムへの興味もさることながら、フィジカルな発熱や材料破壊に耐えるボディを作りあげている物質にも、ただならぬものを感じる。しばしば”その手の本”などを見ると、U.F.O.の墜落現場などには「アルミフォイルのような色や厚みで、とても強靭でハサミなどで切ることができず、折り目をつけてもすぐに戻り、跡は消えてしまう・・・。金属のようであるが、角度によっては全くの無色になり、電気的には低電圧では不導体であるが、特殊なダイオードのようにブレークポイントを越えると、急に超電導に変貌する・・・」というような、確かにどう見ても地球上には存在しえないだろうと思える物質が発見されている。しかし、その話だけで誰も見たことのないかもしれないエイリアン・クラフトが絶対アーシアン・クラフトにならないとは限らない。

なぜなら年々「新素材」と言われるものはどんどん開発され、また生産されているからだ(最もそのような特性の物質ができたとしても、それがその飛行物体にどのように関わっているかが分からなければ何にもならないわけだけど・・・)。

「新素材」その言葉は、新しい素材という意味ではあるが、何よりも天然には本来存在していないという意味もあるだろう。チタンやセラミックなどから言われ始め、形状記憶合金、マイスナーエフェクトの極低温システム、最近では、MA法アモルファス、レアアース(メタル)の酸化したイットリウム、ユーロピウム、セリウムやサマリウム、「イーソレックス」などの形状記憶樹脂、ポリサッカロイド可食性フィルム、やゴム・エストラマー、全く枚挙にいとまがない。これらのものが、本当に地球や人間を豊かにしてくれるものであって欲しいと思いたいが、全てがそうでないにしろ、コストダウンのため、とにかく大量に生産し、できてしまったものをその後さあ何に使おう的な背景がないわけではない。必ずしも必然性や、求めることによる発露からではなく、ただテクノロジーが先行し、経済機構に流されているようにも見える。

それはまるで、歩いても行けるところを、いつの間にか早く走ることだけが目的となってしまったリレーゲームのように息つく暇もなく、ただやみくもに苦しそうに走り続けている様を感じてしまう。このようなことは、アートの世界もけっして例外ではない。それがコンセンサスであるとすれば、大衆意識の反映であるのだから、否定することはできずとも、人それぞれの中にある求めるもの、知りたいもの、作りたいものという方向よりは、もうすでにできてしまった機構やシステム、見せ方や方法、というものに機械的に反応している傾向が少しずつでも増えてきているこの国の現状を、寂しく思う人もいるかもしれない。

古典材料を使うことが、内容まで古典的にする必要がないように、新しい材料に目を向けることが、即座に過去を否定することでもないはずだ。U.F.O.を作っているものも、ぼくらの知らないものばかりではないだろう。

UFOと直接に関係しているわけではないが、絵画材料の古典的なものを並べてみた。 ハイテク材料でも面白いものはたくさんあるが、それらはまたいずれご紹介予定。

左からサンダラック、エレミ、ダンマル、マスチック、トラガカントゴム、アラビアゴム、マニラコーパル、シェラック、マダガスカルコーパル、キリン血、コロフォニー、カナディアンバルサム、ベネチアンバルサム。

絵画材料として使用する樹脂のいろいろ。左からサンダラック、エレミ、ダンマル、マスチック、トラガカントゴム、アラビアゴム、マニラコーパル、シェラック、マダガスカルコーパル、キリン血、コロフォニー、カナディアンバルサム、ベネチアンバルサム。

左からドロマイト、アンチモン、リアルガー、オーピメント、アズライト、クリソコラ、シナバー、マイカ、ラピスラズリ、マラカイト。

鉱物顔料のいろいろ。左からドロマイト、アンチモン、リアルガー、オーピメント、アズライト、クリソコラ、シナバー、マイカ、ラピスラズリ、マラカイト。

小林健二

*1990年のメディア掲載記事より抜粋編集しております。

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