自分なりの”感じ方”を大切に育てていくとオリジナリティが花を開く

1983年、はじめての取材内容は、音楽機材についてのインタビュー

1983年、はじめての取材内容は、音楽機材についてのインタビュー

美術家が自分の作品を通してどんどん音楽に接近し、美術と音楽が表裏一体になった形での製作活動を始めるようになった・・・というのはなかなか興味深い。そんなユニークな小林健二さんにインタビュー。

[天体と意識]1984 自漉紙に真鍮、漆、金箔、混合技法

[天体と意識]1984
自漉紙に真鍮、漆、金箔、混合技法

[ピラミッド-PHILAMITUTOX; in the wake of GAIA]1983 電子部品、自漉紙、合成樹脂

[ピラミッド-PHILAMITUTOX; in the wake of GAIA]1983
電子部品、自漉紙、合成樹脂

[Untitled]1983 電子部品、自漉紙、合成樹脂

[Untitled]1983
電子部品、自漉紙、合成樹脂

素材はガラスだったり、紙だったり、金属だったり光だったりする。その場にその作品を感じ取ってもらうための音楽がある。だから、音楽も作品の一部であるわけだ。

まず、友人たちの勧めで自分のピアノ演奏を録音してみた。・・・そしてシンセに手を出し、そして引き続きエフェクター各種も揃えていく。音作りへのこだわりは、いかにも感覚人間らしい。

2016年のトーク+ミニミニミオマケライブの時の告知画像。これまでに揃えられたエフェクターの一部。

2016年のトーク+ミニミニミオマケライブの時の告知画像。これまでに揃えられたエフェクターの一部。

楽器觀についてきてみた。

「美術だったら、例えば絵だったらどんな筆や材料を使っても、最終的には結局手を動かす。音楽に関しては、求める音質によっては機材の占める割合は大きい。だから自分にあった機材を入手していきたいと思う。」

1983年頃よりカセットテープなどに録音してきた音楽を"suite CRYSTAL"としてCD化した。特殊なビニールケースに透明なCDと透明フィルムに印刷されたジャケット。

1983年頃よりカセットテープなどに録音してきた音楽を”suite CRYSTAL”として2007年にCD化した。特殊なビニールケースに透明なCDと透明フィルムに印刷されたジャケット。

今は視覚と聴覚だけど、ゆくゆくは温度や香り、皮膚感覚なども取り入れた作品づくりも考えていきたいとのことだ。

*1983年、小林健二が初めて取材を受けた時の記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

HOME

KENJI KOBAYASHI

私の地球音楽体験

ぼくの家の前身はレコード屋だった。戦争中、近所の日本楽器(今のヤマハ)に爆弾が落ちた時には、舞い散るたくさんの楽譜で空が暗くなったって母が言っていた。悲しい風景だったけど、そんな空襲の最中でも鉄製のレコード針が飛ぶように売れたんだって・・・戦中だから蓄音機のヨコで犬じゃなく猫が聞いているパッケージだったらしいけど。みんな音楽がなかったら、生きていけなかったんだね。

東京神田にあった小林健二 の実家。その後親族に譲り、今でも上野に蓄光堂の名前でレコード店がある。

東京神田にあった小林健二 の実家。その後親族に譲り、今でも上野に蓄光堂の名前でレコード店がある。

やがてぼくも生まれた頃、家は電気屋になって、よくやってくるおじさんが、「ケンボー、ラジオの中の真空管にゃあ小せえ人がいるらしい」なんてこと言っちゃうわけ。別に騙そうって気は無いんだろうが、こっちは子供だから真に受けちゃってねぇ。今思えば勿体無いことしたけど、その頃たくさんあった真空管をよく投げて遊んだりしては、さてどのあたりに人がいるのかってマジに探しちゃったよね。

ギタリストになりたかった父だから、家にはいつも音楽が流れていた。父が「イイ音だろう!」なんて言うと、「ハハァン、するとヴァイオリンの人の球はどれ?」なんて聞いちゃったりね・・・。

真空管は明かりがつくと働くけど、消えている時には中の人は寝ているってわけ。すると回りがガラスなのは窓だなっと・・・だからトーメイなものには人がいるかも!とか思って、水晶なんかにも?って思っちゃうわけでしょ、子供は。それで1日中見ていたり、耳あてて聞いてみたり、そりゃ大変。変な話かもしれないけど、本当にドキドキハラハラ。

あの気持ちが蘇る時には、周りの世界がとても不思議に見えてワクワクするよ、今でさえね。そんな時、ぼくは思う。実態も掴みきれない大きな地球や宇宙なんかと、意識を同じにしている瞬間があるって。この世が初めて自分を知った時のように恋する気持ちみたいにね。そして、かつて命がけでレコードを聞いていたあの人たちの、爆音やノイズの彼方にとぎれとぎれに、でも確かに聞こえていた生きることへの希望や情熱、ぼくらはきっとそれを音楽って呼んでいるんだね。(談)

*1992年のメディア掲載記事より編集抜粋し、画像は付加しています。また、「真空管の中に小さな人がいるんだ」という逸話から、下記のような作品へとつながる経緯も感じられ、追記しています。

「星のいる室内」 550X565X420(mm) mixed media 1993

「星のいる室内」
550X565X420(mm) mixed media 1993

室内に明かりが灯っている。

室内に明かりが灯っている。

夜、散歩しながら考えことなんかしていると、不意に思いつくことってあるでしょ。そんな感じである晴れた夜、妙に「人は死ぬと星になる」とか「深い眠りは死に近づいている」なんて言葉が気になることがあったんだよね。夜にちょうどコンデンサーみたいに、記憶を蓄えていて、静かな日には雪がゆっくりと舞い降りてくるように、いろいろな思想を運んでくるのかもしれないね。「ひょっとすると眠りについた家の中では、人は半分星になっているのかな?」なんて具合に。でも夜中に人の家を覗くなんてちょっとまずいから、そのことを調べてみるために、ぼくはまず小さな家を作ってみた。花の蜜でも用意しておいたら、ひと月もすれば本当に妖精たち?がすみついちゃったりしてくれて・・・。

天窓から覗いてみる室内。

天窓から覗いてみる室内。

やがて小さな家の中の不思議な出来事も、一部始終観察できたという次第。いやはや、今じゃ彼らとも親友同士。毎日楽しい日々なんだけど、人間ってまだまだ知らないことってたくさんあるよね。

小林健二

*1993年のメディア掲載記事を編集、画像は付加しています。

HOME

KENJI KOBAYASHI

鉱石ラジオの実際(その3)

前回の続きです。

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

英国製でメーカーはわかりませんが、 1920年代のものです。内部には大きなコイルが1つとマイカの固定コンデンサーが入っています。検波器の内部には、見た目には方鉛鉱と思える人工鉱石が入っています。H180× W225× D152(mm)

英国製でメーカーはわかりませんが、 1920年代のものです。内部には大きなコイルが1つとマイカの固定コンデンサーが入っています。検波器の内部には、見た目には方鉛鉱と思える人工鉱石が入っています。H180× W225× D152(mm)

検波器の拡大

検波器の拡大

この大きなコイルが特徴的なものは英国製です。メーカーは不詳ですが、一種のキットのようにして1930年代に米国でも同じタイプのものが多く造られました。 検波器には黄鉄鉱が使われています。H200X W213× D170(mm)

この大きなコイルが特徴的なものは英国製です。メーカーは不詳ですが、一種のキットのようにして1930年代に米国でも同じタイプのものが多く造られました。
検波器には黄鉄鉱が使われています。H200X W213× D170(mm)

これはラジオの部品のパーツです。左のコイルはチューニングコイルでまん中の真鍮の工をうごかして使います。右のものは米国フィルモア社製のさぐり式検波器のキットです。

これはラジオの部品のパーツです。左のコイルはチューニングコイルでまん中の真鍮の工をうごかして使います。右のものは米国フィルモア社製のさぐり式検波器のキットです。

米国ブローニングドレイク社製で1920年代のものです。ヴァリオカップラーを使ってあります。検波器はガラス製のカップの付いたかわいらしいものです。H163× W152 X D178(mm)

米国ブローニングドレイク社製で1920年代のものです。ヴァリオカップラーを使ってあります。検波器はガラス製のカップの付いたかわいらしいものです。H163× W152 X D178(mm)

検波器の拡大

検波器の拡大

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合 型で感度もよいものです。 H195X175X175(mm)

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合
型で感度もよいものです。
H195X175X175(mm)

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

英国でアマチュアによって1940年代に製作されたと思われるものです。パーツは自分の好きなものを集めて作ってあります。 H225× W233 X D163(mm)

英国でアマチュアによって1940年代に製作されたと思われるものです。パーツは自分の好きなものを集めて作ってあります。 H225× W233 X D163(mm)

検波器はとりわけ高級品で、鉱石には黄鉄鉱が使用してあります。

検波器はとりわけ高級品で、鉱石には黄鉄鉱が使用してあります。

英国のアマチュアが1950年代に製作したと思われるものです。当時の金属製 のフィルムケースや試験管を使って作っています。中にはコイルと小さなヴァリ コンが入っています。H140× W130×D130(mm)

英国のアマチュアが1950年代に製作したと思われるものです。当時の金属製 のフィルムケースや試験管を使って作っています。中にはコイルと小さなヴァリ コンが入っています。H140× W130×D130(mm)

米国のミゼットラジオ社製のもので、 1939年から造られ始めたものです。中には木の角棒に巻いたコイルがあり、その本に穴をあけて中に検波器を埋め込んでありますが、外観はともかくメーカー製のイメージからは想像しにくいほど手作りの感じです (ヘッドフォンはフィルモア社製)。H53XW80×D48(mm)

米国のミゼットラジオ社製のもので、 1939年から造られ始めたものです。中には木の角棒に巻いたコイルがあり、その本に穴をあけて中に検波器を埋め込んでありますが、外観はともかくメーカー製のイメージからは想像しにくいほど手作りの感じです (ヘッドフォンはフィルモア社製)。H53XW80×D48(mm)

フィルモア社製ヘッドフォンと接続したミゼットラジオ。

フィルモア社製ヘッドフォンと接続したミゼットラジオ。

米国のミゼットラジオ社製のラジオの内部

米国のミゼットラジオ社製のラジオの内部

これは1925年製の英国ジェコフォン“ジュニア"と呼ばれるものです。方鉛鉱を用いた検波器で精度高く造られています。通常300~ 500 mの波長に対応していますが、H75× W145× D206(mm)

これは1925年製の英国ジェコフォン“ジュニア”と呼ばれるものです。方鉛鉱を用いた検波器で精度高く造られています。通常300~ 500 mの波長に対応していますが、H75× W145× D206(mm)

内部はヴァリコンと木の棒を芯としたコイルによって構成されています。

内部はヴァリコンと木の棒を芯としたコイルによって構成されています。

検波器の下のU字型のショートプラグをはずし別売のコイルを差し込むと1600 mく らいまでの波長にも対応できるようになっています。

検波器の下のU字型のショートプラグをはずし別売のコイルを差し込むと1600 m らいまでの波長にも対応できるようになっています。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

HOME

鉱石ラジオの実際(1)

鉱石ラジオの実際(2)

KENJI KOBAYASHI

作家になった怪獣博士

「アートっていうのは、独自のスタイルを持っていたからといって、それがそのまま作家のメッセージを表現するものとは言い切れないと思う。もっと素直で自由なもののはず。」と小林は言う。

小林の作品には威圧感もなければ理屈っぽさもなく、見るのに取り立ててエネルギーを必要としない。作家自身が様々なものを見て素直に楽しんだ体験から得た感覚が、作品の上で生きているからだ。

そんな小林が好きな場所は博物館だという。子供の頃は、自宅近くを走っていた電車一本で上野の国立科学博物館に行くことができたので、暇さえあれば通っていた。人工物ではないのにとてつもない造形美を持つ水晶が大好きだった。

小学校では「怪獣博士」と呼ばれていた。ろくに字も読めず、周囲の人々に将来を心配されるほど学校での出来は悪かったというが、恐竜や怪獣に関する興味と知識だけは誰にも負けなかった。博物館にある恐竜の骨には釘付けになった。

「なぜ、そんなに怪獣に惹かれたのかって?あなたには、そういうところありませんでした?」

 

ー巨石が伝えるストレートな感性

ただ、小林が普通の人たちと違ったのは、それを現在まで引きずってきた点だ。怪獣映画 ”ゴジラ(1954)”の話を始めると目の輝きが増し、ただでさえ軽快なしゃべりは、とどまるところを知らなくなる。

「”ゴジラ”は、本当にこわかった。それは何よりその映画に暗示されている戦争の持つ恐怖や理不尽さを感じたからだと思う。一方的に破壊されていく自分たちの街を成すすべもなく見送る人々と、人間の作った核兵器によって突然変異を強いられた生命体の復讐によって、やり場のない憎しみが増大してゆく。ゴジラはまさに”戦争”そのものを象徴した怪物だったんだ。再上映ではあったけど、終戦後わずか9年目の映画に、小さかったぼくは一口では言えない衝撃を感じさせられたと思う。」

小林が語る「ゴジラ」は常に初代ゴジラのこと。これはその時の映画のポスターの一部。

小林が語る「ゴジラ」は常に初代ゴジラのこと。これはその時の映画のポスターの一部。

小林の興味の持ち方はとにかく純粋だ。その対象は誰もが夢をふくらませる宇宙であったり、死と隣り合わせの世界である砂漠であったり、数千年の歳月を経て生命の復活を目指すミイラであったり・・・その興味は深く長く、とめどない。

”ドルメン”や”メンヒル”と呼ばれる巨石記念物には、異常なほどの関心を抱いている。有史以前に何者かの手によってつくられたと「される巨石記念物は、イギリスの”ストーンヘンジ”が有名だが、実は、世界各地にあるのだそうだ。日本でも北海道から沖縄までかなりの場所にあったことが資料で確認されており、小林はおりにふれ、実際に国内の巨石記念物を見る機会を得ている。

山梨にある巨石を訪れた時の写真。観光場所というわけではないから、ゆっくりと撮影ができた。

山梨にある巨石を訪れた時の写真。観光場所というわけではないから、ゆっくりと撮影ができるという。この画像は日本の巨石などを巡った時のファイルの扉ページ。

「ひとつの立石が軽くて数トン、重いもので数十トンあるというから、とても個人で運べるようなものではない。しかし、誰かが運んできた。そこに確実に何らかの知性と意識が働いている。しかも、何かを支配したり誇示するために作ったものではないし、無理に謎めかせて見せているわけでもない。創った者たちがドルメンやメンヒルなどの巨石を必要とした、すごくストレートな感性が伝わってくるんだ。」

(別記事ではあるが、小林健二の執筆による1990年のメディア掲載記事を以下に紹介)

水晶 水精とも書く、この欲望と理性の不思議な統合。身体を添わせてみても何となく冷たい。意識はその外側にいて、内部の原理の法則に心を奪われている。極大のナルシズム、永遠の二相系。自分に自分が恋している。探しているのは君自身だよ。

水晶
水精とも書く、この欲望と理性の不思議な統合。身体を添わせてみても何となく冷たい。意識はその外側にいて、内部の原理の法則に心を奪われている。極大のナルシズム、永遠の二相系。自分に自分が恋している。探しているのは君自身だよ。

巨石 夜明けとともに現れる何かを待つように幾千年の時間を過ごした彼らには、被造物である立石という呪縛を越えて、まるで静かな知性が物質化したような、そんな気高さを感じる。彼らの待ち続けているものは、今どこにいるのだろう。

巨石
夜明けとともに現れる何かを待つように幾千年の時間を過ごした彼らには、被造物である立石という呪縛を越えて、まるで静かな知性が物質化したような、そんな気高さを感じる。彼らの待ち続けているものは、今どこにいるのだろう。

砂漠 この風景の中では、取り残された者たちは即座に死を思い浮かべるだろう。昼の灼熱、夜の極寒、このゆさぶりに耐え切れず硬い岩さえ砂と化して行く。正に人間の力など遠く及ばない様に見える自然の一面だ。でもこれこそ今地球上に、人間が努力して作り続けている悲しい風景でもあるのだ。

砂漠
この風景の中では、取り残された者たちは即座に死を思い浮かべるだろう。昼の灼熱、夜の極寒、このゆさぶりに耐え切れず硬い岩さえ砂と化して行く。正に人間の力など遠く及ばない様に見える自然の一面だ。でもこれこそ今地球上に、人間が努力して作り続けている悲しい風景でもあるのだ。

霜 これは山岳の航空写真でも重晶石(サハラローズ)でもない。窓に付いた霜の姿だ。無意識の正義のように、宇宙は物質に何処かへの方向を促しているかのようだ。天然の世界ではごく当たり前の出来事が僕らを感動させる。幾百もの理論と、幾千もの不安の涯を過ぎて、真実への旅は続いている。いずれ闇も光も一緒になって僕らの夢さえ安らいでいる頃、小さな結晶の一つとして僕も目覚めてみたい。


これは山岳の航空写真でも重晶石(サハラローズ)でもない。窓に付いた霜の姿だ。無意識の正義のように、宇宙は物質に何処かへの方向を促しているかのようだ。天然の世界ではごく当たり前の出来事が僕らを感動させる。幾百もの理論と、幾千もの不安の涯を過ぎて、真実への旅は続いている。いずれ闇も光も一緒になってぼくらの夢さえ安らいでいる頃、小さな結晶の一つとしてぼくも目覚めてみたい。

木星 豊かで、ぼくらの罪を許してくれそうな、ゆっくりとして優しい色をした天体。その大赤斑から生命のかけらたちが生まれていると言う人がいる。渦巻くアンモニアの大気と熱と重力が確かに何かを生み出しているだろう。たくさんの高分子と拡散基が紡ぎ合い複雑で神秘な高次への創造へと導かれてゆく。永い時間が過ぎて木星の友人たちが目覚める頃、人間たちはどうしているのだろう。

木星
豊かで、ぼくらの罪を許してくれそうな、ゆっくりとして優しい色をした天体。その大赤斑から生命のかけらたちが生まれていると言う人がいる。渦巻くアンモニアの大気と熱と重力が確かに何かを生み出しているだろう。たくさんの高分子と拡散基が紡ぎ合い複雑で神秘な高次への創造へと導かれてゆく。永い時間が過ぎて木星の友人たちが目覚める頃、人間たちはどうしているのだろう。

カンブリア紀の海の中 彼らはその時代の真只中にいた。おそらく宇宙を想像することも、愛によって育まれ、生きていくことへの疑問や希望も、僕らの方法とは少々違っていたかもしれない。7対の奇妙な脚(?)を持つハルキゲニア。象の鼻のように長い口(?)によって捕食しながら、五つの大きな複眼で僕らには感じられない構図の景色の中を生きたオパビニア。僕らのしていることは本当に少しだけ。彼らの言葉を知らなくてもカンブリア紀の穏やかな海の底で熱い想いを交感したい。

カンブリア紀の海の中
彼らはその時代の真只中にいた。おそらく宇宙を想像することも、愛によって育まれ、生きていくことへの疑問や希望も、ぼくらの方法とは少々違っていたかもしれない。7対の奇妙な脚(?)を持つハルキゲニア。象の鼻のように長い口(?)によって捕食しながら、五つの大きな複眼で僕らには感じられない構図の景色の中を生きたオパビニア。僕らのしていることは本当に少しだけ。彼らの言葉を知らなくてもカンブリア紀の穏やかな海の底で熱い想いを交感したい。

ヴィーナス 地球上至るところから見つけ出されるヴィーナスは、時代や民族や宗教を越えてどことなく似ている。おそらく、豊穣や繁栄を願ってこの象徴的な祈りの造形は作られた。その作者たちは果たして自分たちだけのことを考えていただろうか?大気や海洋や大地、そして生きとし生けるものの一つに過ぎない者として自分たちを捉えていたのではないだろうか。この太古の先人たちの造形を超えたメッセージが、今、ぼくらに何かを訴えている。

ヴィーナス
地球上至るところから見つけ出されるヴィーナスは、時代や民族や宗教を越えてどことなく似ている。おそらく、豊穣や繁栄を願ってこの象徴的な祈りの造形は作られた。その作者たちは果たして自分たちだけのことを考えていただろうか?大気や海洋や大地、そして生きとし生けるものの一つに過ぎない者として自分たちを捉えていたのではないだろうか。この太古の先人たちの造形を超えたメッセージが、今、ぼくらに何かを訴えている。

コハクの中の蜘蛛 おそらく不意にだろう。彼は濃厚な樹脂の中に落ちてしまった。やがて彼を取り巻いていたものは、気の遠くなるような時間とともに、一つの化石樹脂となり、彼を閉じ込め続けている。朽ち果てることも許されず、彼が見続けなければならなかったその後の地球の歴史について、どのように語ってくれるだろう。彼の故郷である地球が、それこそ不意に、急激な変化を余儀なくされた「人間」という現象の上に、まだ結果を出さずにいてほしいのだけど。

コハクの中の蜘蛛
おそらく不意にだろう。彼は濃厚な樹脂の中に落ちてしまった。やがて彼を取り巻いていたものは、気の遠くなるような時間とともに、一つの化石樹脂となり、彼を閉じ込め続けている。朽ち果てることも許されず、彼が見続けなければならなかったその後の地球の歴史について、どのように語ってくれるだろう。彼の故郷である地球が、それこそ不意に、急激な変化を余儀なくされた「人間」という現象の上に、まだ結果を出さずにいてほしいのだけど。

竜巻 渦巻く風。大地すら揺れている。僕は思わず外に出てしまう。なぜかワクワクしてしまうのだ。龍神をイメージさせ、強烈に空間を泳ぐヘビのような竜巻はそんな日にやってくる。積乱雲の下から現れて、家や船、木や砂や海水、時には人なども巻き上げていく。厚い大気を突き破り、そのあり余る”はたらき”を天と地とをも繋いでしまう。物質を伴わなければならない精神にとって、不自由な時代には、荒れ狂うエネルギーの源に、身も心も委ねてみたい。

竜巻
渦巻く風。大地すら揺れている。ぼくは思わず外に出てしまう。なぜかワクワクしてしまうのだ。龍神をイメージさせ、強烈に空間を泳ぐヘビのような竜巻はそんな日にやってくる。積乱雲の下から現れて、家や船、木や砂や海水、時には人なども巻き上げていく。厚い大気を突き破り、そのあり余る”はたらき”を天と地とをも繋いでしまう。物質を伴わなければならない精神にとって、不自由な時代には、荒れ狂うエネルギーの源に、身も心も委ねてみたい。

ミイラ 彼は再びこの地に彼の霊が復活するためにたくさんの処理を受けた。防腐のため、脳をはじめとして全ての臓器を抜きとられ、アルカリに漬けられた。そして、もし再生しても決して動くことなどできない位に縛り上げられ、さらに幾重にもケースに入れられた。未だ深い眠りの中の彼は、その時代や文化を象徴しているというよりは、目的と手段を取り違えやすい人間社会の矛盾に対して、何か問いを発しているかのようだ。

ミイラ
彼は再びこの地に彼の霊が復活するためにたくさんの処理を受けた。防腐のため、脳をはじめとして全ての臓器を抜きとられ、アルカリに漬けられた。そして、もし再生しても決して動くことなどできない位に縛り上げられ、さらに幾重にもケースに入れられた。未だ深い眠りの中の彼は、その時代や文化を象徴しているというよりは、目的と手段を取り違えやすい人間社会の矛盾に対して、何か問いを発しているかのようだ。

星雲 オリオン星雲は、銀河系で最も大きなガスとチリの塊だ。そこでは今も新しい星々が生まれている。若い星の照り返しが、美しいピンクに染めて、1500年の時間のずれとともに、その姿を伝えている。そしてその背景には、遥か宇宙の広大な海が続いている。始めも終わりも天国も地獄も、すべてを抱いて移ろいゆく。絶え間なく流れていく時間の波の後方に、過去が僕らを包んでいる。そして僕らは、その中に未来を見ようと見つめているのだ。

星雲
オリオン星雲は、銀河系で最も大きなガスとチリの塊だ。そこでは今も新しい星々が生まれている。若い星の照り返しが、美しいピンクに染めて、1500年の時間のずれとともに、その姿を伝えている。そしてその背景には、遥か宇宙の広大な海が続いている。始めも終わりも天国も地獄も、すべてを抱いて移ろいゆく。絶え間なく流れていく時間の波の後方に、過去がぼくらを包んでいる。そしてぼくらは、その中に未来を見ようと見つめているのだ。

ー怪物で表現する素直な驚き

そんな感性の持ち主である小林は、作品の中に怪物を登場させている。

地球上の大陸がまだ一つで、現在の人間界のような敵対のない世界”パンゲアパラダイス”にいた生物を描いたものだという。

彼は一番強い生物。何故ならものを悩んだり、企んだりする脳を持っていないから。彼は一番強い生物。何故なら光の力をそのまま自分の血や肉に変えているから。彼は一番弱い生物。思いっきり愛することのできる重いハートを、4本の足で支えなければならないから。」 小林健二(16歳の時に描いた絵)

彼は一番強い生物。何故ならものを悩んだり、企んだりする脳を持っていないから。彼は一番強い生物。何故なら光の力をそのまま自分の血や肉に変えているから。彼は一番弱い生物。思いっきり愛することのできる重いハートを、4本の足で支えなければならないから。

近年では”ビヒーモス”や”リヴァイアサン”など、空想上の怪物を描いている。

「ビヒーモス-BE’HEMOTH」 A part of the work "You are not alone” 金網、鉄、木、黒竹、アクリルガラス、他 wire mesh,iron,wood,black bamboo,plexiglass,others 2800X5600X500mm 1991

「ビヒーモス-BE’HEMOTH」
A part of the work “You are not alone”
金網、鉄、木、黒竹、アクリルガラス、他
wire mesh,iron,wood,black bamboo,plexiglass,others 2800X5600X500mm 1991

「リヴァイアサン-LEVIATHAN」 A part of the work "You are not alone” 木、油彩、鉛、アクリルガラス、他 wood,oil,lead,plexiglass,others 2850X5000X200mm 1991

「リヴァイアサン-LEVIATHAN」
A part of the work “You are not alone”
木、油彩、鉛、アクリルガラス、他
wood,oil,lead,plexiglass,others 2850X5000X200mm 1991

小林の作品はとても身近だ。それは小林が作家になっても、自然に対して、モノに対して、素直な驚きと興味を持って見つめる感覚が表現のよりどころにしているからだ。

「フルヌマユ;夜の怪物-MONSTER IN THE NIGHT」 アンコスティック、油彩、板encaustic,oil on board 1392X910X40mm 1998

「フルヌマユ;夜の怪物-MONSTER IN THE NIGHT」
アンコスティック、油彩、板 encaustic,oil on board
1392X910X40mm 1998
ぼくの夢に現われるものたちは、みな怪物のようで、そしてみなぼくにとってやさしい心を感じさせてくれる。たいていは風船のようなもので、静かに息をしていて、ためらうようにおだやかでいる。ぼくが人の暮しになんとなく疲れてしまう夜などに、とりわけ多く出現して、ぼくの心を癒してくれる。このビルにタッチしている優しい影は、彼らの一番ありふれた形で、そして最も弱々しい彼らの姿をあらわしていると思う。

 

「g l m-ゴレム-」 板に油彩、金属、他 oil, metal on board, others 1450X1220mm 2006 その名は何に因んでいるのかは定かではない 駱駝と木切れ あるいは水流といったものも 多少あしらってあるかも知れない 誰が名付けたのだろう 自分には見ることのできない名前 まるでボイラーみたいだろ ぼくが気に入っているというわけではないけど ブリキよりは少し上等のトタン板でできているらしい でもぼくには友だちがいないんだいつからここにいて いつまでここにい続けるのかわからない 霧の中の透明な都市の風景の中に 悲しみの三つの文字が浮かび上がる  g l m はただ立ちつくしている

「g l m-ゴレム-」
板に油彩、金属、他 oil, metal on board, others
1450X1220mm 2006
その名は何に因んでいるのかは定かではない 駱駝と木切れ あるいは水流といったものも 多少あしらってあるかも知れない 誰が名付けたのだろう 自分には見ることのできない名前 まるでボイラーみたいだろ ぼくが気に入っているというわけではないけど ブリキよりは少し上等のトタン板でできているらしい でもぼくには友だちがいないんだいつからここにいて いつまでここにい続けるのかわからない 霧の中の透明な都市の風景の中に 悲しみの三つの文字が浮かび上がる 
g l m はただ立ちつくしている

1990-1994年のメディア掲載記事を抜粋編集しています。

 

HOME

KENJI KOBAYASHI

夢の場所

ーいろいろなアイディアやプランを書き留めてあるノートをたくさんお持ちですが、これらは夢で見た世界を記したある種の「夢日記」のようなものなのでしょうか?

「確かに夢で見たものを書いたりしているけど、日記という几帳面なものではなく、その時手近にあるノートに絵や簡単な内容なども書いているので、全くその都度という感じです。」

ーすると、何年も前のものと最近のものがバラバラにページに書いてあるという感じですか?

「そうですね。」

「透質の門;西の門」 CRYSTALLINE DOOR ; THE DOOR TO THE WEST 木、紙、硝子、樹脂ロウ wood,paper,glass,wax resin 400X300X56mm 1999 6月の夢から覚めてもその世界の入り口についてすぐには忘れられない。その西の門をくぐるとき体が軽くなるような気がする。この光をとおす大きな石が磁石のように引き付けるのだ。

「透質の門;西の門」 CRYSTALLINE DOOR ; THE DOOR TO THE WEST
木、紙、硝子、樹脂ロウ wood,paper,glass,wax resin
400X300X56mm 1999
6月の夢から覚めてもその世界の入り口についてすぐには忘れられない。その西の門をくぐるとき体が軽くなるような気がする。この光をとおす大きな石が磁石のように引き付けるのだ。

「アマゾナイトの不思議な塔」STRANGE TOWER OF AMAZONITE 鉄、鉛、石 iron,lead,stone 615X300X300mm 1999 夢の中の立体について;トロフィーのような形、その上にアマゾナイトで作られた大きなジャガイモみたいな形をしている。錆びたところはおそらく鉄だろう。特別な意味があるとは思えないが、ぼくの好きな形をしている。6月(1980)

「アマゾナイトの不思議な塔」STRANGE TOWER OF AMAZONITE
鉄、鉛、石 iron,lead,stone
615X300X300mm 1999
夢の中の立体について;トロフィーのような形、その上にアマゾナイトで作られた大きなジャガイモみたいな形をしている。錆びたところはおそらく鉄だろう。特別な意味があるとは思えないが、ぼくの好きな形をしている。6月(1980)

ー今回の展覧会[惑星(ほし)の記憶ー6月7日物語(1999年)]のタイトルに、特定の日が付いていますが、どういうところから出てきたのですか?

「ノートには日付を書くときとそうでない時がありますが、たまたまいくつか似たような日付があって、ぼくは毎年同じような時期に同じような夢を見ているのかな、と思ったりして(笑)。その中で6月とか6月7日、あるいは7月6日という頃のものが何かところどころに会って、その辺のスケッチを中心に取り出してみたのです。」

「蝋のような眠り」DREAMS IN WAX 板に自漉紙、軟質ビニール、ロウ、テンペラ handmade paper,soft vinyl,wax,tempera on board 1230X760X30mm 1999 ロウのような眠り、明るい室内には静かな呼吸と気配がある。鎧戸の隙間をとおして、淡く光を放つそよ風のような物体が部屋に入ってくるらしい。ゆるやかにオルゴールのように回転していて小さく歌を歌っている。まるで遅い中性子星のように抑揚をつけて遠い過去や未来を想いだす。6月7日明るい日(おそらく'89年)

「蝋のような眠り」DREAMS IN WAX
板に自漉紙、軟質ビニール、ロウ、テンペラ
handmade paper,soft vinyl,wax,tempera on board
1230X760X30mm 1999
ロウのような眠り、明るい室内には静かな呼吸と気配がある。鎧戸の隙間をとおして、淡く光を放つそよ風のような物体が部屋に入ってくるらしい。ゆるやかにオルゴールのように回転していて小さく歌を歌っている。まるで遅い中性子星のように抑揚をつけて遠い過去や未来を想いだす。6月7日明るい日(おそらく’89年)

ー作品には何か一種のメタファーや意味があるようにも感じるのですが、そのあたりはどうなのですか?

「夢の中の出来事と言ってしまえばそれまでなわけですし、その本人がスケッチを見て、こんなものがあったのかと思うくらいだから、この頃の夢にどのような脈絡があるのかは自分でもよくわかりません。」

ーでもそれぞれに何か不思議な世界を感じます。こんな風景が「惑星の記憶」というように何処かにあるような。

「ぼくにも実際説明できないけど、何かの機械の一部や発掘物、あるいは生き物のようだったりするものたちが、どこともなく関係しているような気がしないでもないし、ただそれらはみんな夢の場所の出来事ですからね。」

「薄荷のような出来事」 HAPPENING,IT'S LIKE A PEPERMINT 板にボローニャ石膏、ポリカーボネイト、樹脂、テンペラ、ローズ合金 plaster of Bologha,polycarbonate,resin,tempera,rose's alloy on board 940X730X80mm 1999 はっかのような出来事が、晴れ渡った白い世界に出現している。それらはそれぞれ語りあい歌いあう。香りの良い風に似たその歌は心地よく目には見えない地中深くに銀色をした稲妻は封じられていて、謎は時間とともに止まってしまう。

「薄荷のような出来事」 HAPPENING,IT’S LIKE A PEPERMINT
板にボローニャ石膏、ポリカーボネイト、樹脂、テンペラ、ローズ合金
plaster of Bologha,polycarbonate,resin,tempera,rose’s alloy on board
940X730X80mm 1999
はっかのような出来事が、晴れ渡った白い世界に出現している。それらはそれぞれ語りあい歌いあう。香りの良い風に似たその歌は心地よく目には見えない地中深くに銀色をした稲妻は封じられていて、謎は時間とともに止まってしまう。

 「ピンク色の飲料水」 BEVERAGE IN PINK 銅張特殊鋼板に木、油彩、テンペラ、樹脂ロウ wood,oil,tempera,wax resin on bronze covered special metal board 1000X800X40mm 1999 建物のようなこの物体は、見晴らしのよい食堂や何かの昆虫みたいであったりするのだが、実は飛行体で、今はピンク色の飲み物をとって力をつけている。出発は6月7日である。あるいは21日。誰の目にも旧式に見えるが、この型はめずらしくて、そのすじでは名が通っている。光は金色から青色へと、そして透明になっていくのだ。


「ピンク色の飲料水」 BEVERAGE IN PINK
銅張特殊鋼板に木、油彩、テンペラ、樹脂ロウ
wood,oil,tempera,wax resin on bronze covered special metal board
1000X800X40mm 1999
建物のようなこの物体は、見晴らしのよい食堂や何かの昆虫みたいであったりするのだが、実は飛行体で、今はピンク色の飲み物をとって力をつけている。出発は6月7日である。あるいは21日。誰の目にも旧式に見えるが、この型はめずらしくて、そのすじでは名が通っている。光は金色から青色へと、そして透明になっていくのだ。

ー話はかわりますが、平面や立体の作品はそれぞれ色々な技法や素材で製作されていますね。そこには何かこだわりのようなものがあるのですか?

「こだわりというよりも、ぼくにとってイメージを伝えるのに、平面や立体の方が表しやすく感じたり、水彩やテンペラより油彩画の方が向いていたり、その逆だったりする時があるというだけです。」

ー「夢」のようなその人以外からは見えにくい世界を表そうとするためには、かえって現実的な技術や技法も必要かもしれませんね。

「そうですね。そしてまたぼくは色々な古典画法、例えばテンペラやフレスコ画、エンコスティック(蝋画)などに若い頃から興味を持っていますし、透明な液体ガラスを媒剤とするステレオクロミーのような技法にも魅かれるので、それらを勉強することも好きだからだと思います。」

ー確かに蝋のような質感や透明な水ガラスの層、スタッコの盛り上がった感じは、独自な表現ですね。そしてそれぞれの作品に文字が付いているのも面白いですね。

「ノートの中の覚書にはスケッチと短い文章が付いていましたからね。でも文章を読むと、もっと意味がわからなくなってしまいそうですね(笑)。」

「巨きな生き物の平原」HUGE CREATURE' S PLAIN 板に油彩、樹脂ロウ、鉛、硝子、鉄 oil,wax resin,lead,glass,iron 1300X1670X80mm 1999 初夏の夢は大抵いつもゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。大きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平野から、光色のエネルギーを吸い上げている三対の柱をもった生命体はときどき夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間貯えた成分を虹のような香りや風のような音律にかえてその上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

「巨きな生き物の平原」HUGE CREATURE’ S PLAIN
板に油彩、樹脂ロウ、鉛、硝子、鉄 oil,wax resin,lead,glass,iron
1300X1670X80mm 1999
初夏の夢は大抵いつもゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。大きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平野から、光色のエネルギーを吸い上げている三対の柱をもった生命体はときどき夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間貯えた成分を虹のような香りや風のような音律にかえてその上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

ー小林さんの作品は、頭で考えるというよりも何かもっと説明できない領域にメッセージや詩のようなものを感じる人が多いと思いますが。

「ぼくに取っても合理的に説明できなかったりする部分や言葉に置き換えにくいところが、絵になって出てくるように感じでいます。ですから「この絵は何ですか?」と問われても、すぐには答えられないこともあるんです。でもこんな気持ちで絵を描いている人ってぼくはいるように思っているんですけど。」

「何かを探している」LOOKING FOR SOMETHING 板に油彩、樹脂、ロウ、鉛筆 oil,resin,wax,pencil on board 615X465X55mm 1999 何かを探している。時折その人形は歩き始める。それは何かを探しているのだ。心の中に謎がおこって、その在処を探しているのだ。疑いを持つ時、その人形はいて、信じるものを見つけた時、その人形は消えるのだ。

「何かを探している」LOOKING FOR SOMETHING
板に油彩、樹脂、ロウ、鉛筆 oil,resin,wax,pencil on board
615X465X55mm 1999
何かを探している。時折その人形は歩き始める。それは何かを探しているのだ。心の中に謎がおこって、その在処を探しているのだ。疑いを持つ時、その人形はいて、信じるものを見つけた時、その人形は消えるのだ。

「旅人たちは探されている。石は謎を問いかけている」TRAVELERS ARE SOUGHT,ENIGMAS ARE QUESTIONED BY STONES 木、鉄、石 wood,iron,stone 650X438X218 mm 1999 旅人たちは探されている。石は謎を問い掛けている。この風景を見ているとぼくは夢を見ているのだと知っていた。なぜなら、門のように見えるのは一つの結界で、その狭間から見える世界は蜃気楼のように揺らいでいる。

「旅人たちは探されている。石は謎を問いかけている」TRAVELERS ARE SOUGHT,ENIGMAS ARE QUESTIONED BY STONES
木、鉄、石 wood,iron,stone 650X438X218 mm 1999
旅人たちは探されている。石は謎を問い掛けている。この風景を見ているとぼくは夢を見ているのだと知っていた。なぜなら、門のように見えるのは一つの結界で、その狭間から見える世界は蜃気楼のように揺らいでいる。

*2000年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は付加しています。

HOME

KENJI KOBAYASHI

鉱石ラジオの実際(その2)

前回の続きです。

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

戦前の日本製です。おそらくアマチュアの手製のものです。H112 X W192 X D90(mm)

戦前の日本製です。おそらくアマチュアの手製のものです。H112 X W192 XD90(mm)

しかし内部はていねいに仕上げてあります。今のように絶縁物のパイプが入手しづらかったためか、コイルのボビンはエボナイトの板に熱をあたえて丸めて自作してあります。検波器とヴァリコンは輸入された製品を使用しています。

しかし内部はていねいに仕上げてあります。今のように絶縁物のパイプが入手しづらかったためか、コイルのボビンはエボナイトの板に熱をあたえて丸めて自作してあります。検波器とヴァリコンは輸入された製品を使用しています。

これは昭和30年代のゲルマラジオの付いた時計で、東京時計社製です。クリーム色のベークライトのボディで、クリスタルイヤフォンが2つついていて2人で放送を聞けるようになっています。H113× W193 X D54(mm)

これは昭和30年代のゲルマラジオの付いた時計で、東京時計社製です。クリーム色のベークライトのボディで、クリスタルイヤフォンが2つついていて2人で放送を聞けるようになっています。H113× W193 X D54(mm)

戦前の日本製でこのラジオと最初に出会ったときは、すべてがメチャクチャにこわれていました。時間をかけてツマミを作リコイルを巻きなおしヴァリコンをなおして、できるかぎり当時の状態を再現してみたものです。ほとんどのパーツがひどいダメージを受けていたのにかかわらず、茶色になったセロファンに包んだ方鉛鉱がピカピカのまま箱の底に入っていたのは印象的でした。 H162 X W212× D114(mm)

戦前の日本製でこのラジオと最初に出会ったときは、すべてがメチャクチャにこわれていました。時間をかけてツマミを作リコイルを巻きなおしヴァリコンをなおして、できるかぎり当時の状態を再現してみたものです。ほとんどのパーツがひどいダメージを受けていたのにかかわらず、茶色になったセロファンに包んだ方鉛鉱がピカピカのまま箱の底に入っていたのは印象的でした。
H162 X W212× D114(mm)

これは英国で作られた手製のものです(おそらく1920年代)。手製とはいってもパーツは高級品で、作りも下手なメーカー製よりしっかりと出来ています。 H162 X W215× D185(mm)

これは英国で作られた手製のものです(おそらく1920年代)。手製とはいってもパーツは高級品で、作りも下手なメーカー製よりしっかりと出来ています。
H162 X W215× D185(mm)

検波器の台はステアタイト(磁器)製です。

検波器の台はステアタイト(磁器)製です。

内部にはコイルが1つ入っていますが、色のあざやかな綿巻線の1.3mmくらいの大いものを使っています。またコイルを止めているのは革の帯です。

内部にはコイルが1つ入っていますが、色のあざやかな綿巻線の1.3mmくらいの大いものを使っています。またコイルを止めているのは革の帯です。

米国製の学生を対象に作られたクリスタルセットのキットです。(写真ではラジオは完成しています。)キットクラフトプロデュース社製(1950年代)で、作り方と簡単な原理を説明した20頁の小小冊子がついて充実しています。 H40× W78X D85(mm)

米国製の学生を対象に作られたクリスタルセットのキットです。(写真ではラジオは完成しています。)キットクラフトプロデュース社製(1950年代)で、作り方と簡単な原理を説明した20頁の小小冊子がついて充実しています。 H40× W78X D85(mm)

ドイツ製の子供用のクリスタルセットです。赤いベークライト製で、中には小さなコ イルとヴァリコンが入っています。付属品として別の箱に人った片耳ヘッドフォンと小さな箱に入ったイタリア製の検波器が付いています。H42X W72 X D101(mm)

ドイツ製の子供用のクリスタルセットです。赤いベークライト製で、中には小さなコ
イルとヴァリコンが入っています。付属品として別の箱に人った片耳ヘッドフォンと小さな箱に入ったイタリア製の検波器が付いています。H42X W72 X D101(mm)

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

HOME

鉱石ラジオの実際(その1)

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

これは米国フェデラル社製で、フェデラルジュニアと呼ばれるものです。ボディは金属製で表と裏にそれぞれアンテナとディテクターをコイルヘ接合する可変ノブがついています。1910年頃のものです。H235× W215× D145(mm)

これは米国フェデラル社製で、フェデラルジュニアと呼ばれるものです。ボディは金属製で表と裏にそれぞれアンテナとディテクターをコイルヘ接合する可変ノブがついています。1910年頃のものです。H235× W215× D145(mm)

この鉱石ラジオを広告として掲載していた書籍のページ

この鉱石ラジオを広告として掲載していた書籍のページ

ディテクターは厚いエボナイト板の上に取り付けられていて方鉛鉱がついています。

ディテクターは厚いエボナイト板の上に取り付けられていて方鉛鉱がついています。

内部には大きなコイルとマイカのコンデンサーが入っています。

内部には大きなコイルとマイカのコンデンサーが入っています。

これは日本の戦前のもので製品を改造してありました。入手当時、ツマミや端子の片方がこわれていたので、レストアしたものです。中には金属製のヴァリコンとスパイダーコイルが2つ入っています。 H173× W162 X D110(mm)

これは日本の戦前のもので製品を改造してありました。入手当時、ツマミや端子の片方がこわれていたので、レストアしたものです。中には金属製のヴァリコンとスパイダーコイルが2つ入っています。 H173× W162 X D110(mm)

戦前の日本製でほぼ完全な状態のものです。色があざやかでかわいらしく、中は混信分離というツマミのうらにコイルがあって、電波同調の方にはヴァリコンが入っています。メロディークリスタルラジオという名前もかわいいと思います.。H100x172xD48(mm)

戦前の日本製でほぼ完全な状態のものです。色があざやかでかわいらしく、中は混信分離というツマミのうらにコイルがあって、電波同調の方にはヴァリコンが入っています。メロディークリスタルラジオという名前もかわいいと思います.。H100x172xD48(mm)

メロディークリスタルラジオの内部

メロディークリスタルラジオの内部

米国フィルモア社製の赤いベークライトのボディのものです。このフィルモア社ではこのようなかわいい学生用のクリスタルセットをいろいろつくっていて日本にも輸入されていたようなので、ごぞんじの人もいると思います。H40×W8×D95(mm)

米国フィルモア社製の赤いベークライトのボディのものです。このフィルモア社ではこのようなかわいい学生用のクリスタルセットをいろいろつくっていて日本にも輸入されていたようなので、ごぞんじの人もいると思います。H40×W8×D95(mm)

内部の状態。

内部の状態。

これは米国製のものです。タップのついたコイルと大きなエアーヴァリコン、それに受話器用のマイカ製コンデンサーが人っています。また、フロントのダイヤルはヴァリコン用ですが、さらにその中心にあるノブでヴァリコンのいちばんうしろに別についている羽1枚を動かして微調整できるようになっています。H200 X lV137× D110(mm)

これは米国製のものです。タップのついたコイルと大きなエアーヴァリコン、それに受話器用のマイカ製コンデンサーが人っています。また、フロントのダイヤルはヴァリコン用ですが、さらにその中心にあるノブでヴァリコンのいちばんうしろに別についている羽1枚を動かして微調整できるようになっています。H200 X W137× D110(mm)

bokurano-cs008

これは米国レオン・ランバート社のものです。このラジオの特徴はまるでブラシのような検波器の針の部分です。ちょっと見にはどうも感度が悪そうですが実際にはそうでもありません。中にはコイルが1つ入っています。ラジオの底にはどういうわけかクリスタルラジオカンパニー社の広告が貼ってあり、「もしあなたが真空管ラジオをほしければ、2球、 5球、 6球ラジオでも安くお売りできます。この$5.95のランバートラジオを当方に送っていただければいつでもいかなる真空管ラジオもお売りすることができます。」等と書いてあります。 H115× W160× D118(mm)

これは米国レオン・ランバート社のものです。このラジオの特徴はまるでブラシのような検波器の針の部分です。ちょっと見にはどうも感度が悪そうですが実際にはそうでもありません。中にはコイルが1つ入っています。ラジオの底にはどういうわけかクリスタルラジオカンパニー社の広告が貼ってあり、「もしあなたが真空管ラジオをほしければ、2球、 5球、 6球ラジオでも安くお売りできます。この$5.95のランバートラジオを当方に送っていただければいつでもいかなる真空管ラジオもお売りすることができます。」等と書いてあります。
H115× W160× D118(mm)

ディテクター部分のアップ

ディテクター部分のアップ

これは英国のブラウニーワイヤレスカンパニー社製です。1920年のものでNo 2モデル鉱石受信機として有名なものの1つです。BBCのマークが入っています。全体は黒のエボナイトで作られていて、上部のコイルを差し替えることができるようになっています。H210× W153×D145(mm)

これは英国のブラウニーワイヤレスカンパニー社製です。1920年のものでNo 2モデル鉱石受信機として有名なものの1つです。BBCのマークが入っています。全体は黒のエボナイトで作られていて、上部のコイルを差し替えることができるようになっています。H210× W153×D145(mm)

コイルの色々

コイルの色々

底にある黒色のファイバー製のフタをあけるとコイルが1つ入っていて、ツマミを回すとまん中のレバーが動くようになっています。

底にある黒色のファイバー製のフタをあけるとコイルが1つ入っていて、ツマミを回すとまん中のレバーが動くようになっています。

検波器のガラス管は底側の半分が白くフロスト加工されていて針が見やすく工夫されています。

検波器のガラス管は底側の半分が白くフロスト加工されていて針が見やすく工夫されています。

1920年代の英国製でやはりBBCのマークが入っています。たて型のむき出しのコイルについているノブをスライドさせて同調を取るようになっています。検波器には方鉛鉱がついています。H180X W157× D207(mm)

1920年代の英国製でやはりBBCのマークが入っています。たて型のむき出しのコイルについているノブをスライドさせて同調を取るようになっています。検波器には方鉛鉱がついています。H180X W157× D207(mm)

底のフタをあけてみると、整然と配線がしてあります。

底のフタをあけてみると、整然と配線がしてあります。

「鉱石ラジオの実際」の続きは、後日アップします。今回は「ぼくらの鉱石ラジオ」に載されなかったものもご紹介予定です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

鉱石ラジオの実際2

鉱石ラジオの実際3

HOME

KENJI KOBAYASHI

 

趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅

趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅ーゆったり流れる手仕事の時間

マルチメディア技術は、アニメーションという、かつては経済的にも工数的にも一人の人間が趣味で取り組むには困難だった表現手段も手軽なものにしてくれた。これも技術進展の賜物だ。

一方で、昔ながらに自分の手で直接材料に触りながら何かを作っていく楽しみもある。その楽しみに自らのめり込み、その意味について思索を重ね、そうした趣味を見直そうと呼びかける小林健二さんを訪ねた。

小林さんは芸術家で、絵画、立体造形など様々な作品を作ってきたが、ここ数年は作品を発表せずに、もっぱら趣味としての鉱石ラジオ工作に没頭してきた。しかもコイルやコンデンサーなど、パーツのひとつひとつから自分で手作りしているという。

「鉱石ラジオを作り始めたのは、夢でチカチカ光る不思議なラジオを見て、そんなラジオが欲しいと思ったから。その夢のラジオを追い求めているうちに、鉱石ラジオというものに出会った。その原理を勉強したら、ぼくらが普段接している工業製品としてのラジオとは全く違うラジオが、自分の好きに作れるんじゃないかって思えてきたんだ。この装置の本質ーー人間の願望と自然の摂理の不思議な出会いを象徴する形のラジオがね。」

小林さんは本当にそんなラジオを製作した。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「これから音が聞こえてきた時は本当に嬉しかった。神秘的な現象は解明されて歴史の後ろに消えていってしまったわけじゃない。今だってこれは十分神秘的。自分の手で作ったからこそ、余計それを感じるんだと思う。」

そう言って小林さんは、今度はものを作るプロセスを体験する喜びについて語り始めた。

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「ぼくらは工業製品に囲まれて暮らしている。だからどんな物を見ても、誰かが専門的な機械を使って作ったのだろうと思ってしまい、その物の背後に隠れている技や知恵をわざわざ考えてみようとはしない。もっぱら、役割や機能、値段という視点で物を見がちだ。でも自分の手で作ろうと思ってその物に触れていけば、そうした眼差しでは見落とされていた、先人の知恵や材料の特性が織りなす世界を紐解いていける。例えばこんな コイル一個にだって、そうした世界はあるんだ」

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんから自作のコイルを渡された。そのホイールを見ると、円筒に放射状の切れ込みを入れて、11枚の薄い羽根が差してある。どうやって、切り込みをこんな風に中心軸に向かって同じ深さだけ入れるのだろう。円周を11等分する方法は・・・ いざ作り方を考えると、いくつも疑問が湧いてくる。作ろうとしただけで、何気ないものに色々発見がある。それは物と対話しながら、ブラックボックスの蓋を開いていくワクワクする体験だという。

さらに小林さんは、工作が自分自身について考え、知る体験でもあるという。

「例えば、その切り込み味だけど、ぼくは器用じゃないから、ただ単純に鋸を当てたんじゃ、とてもこんな風には切れない。でも、切るときに円筒の側面に常に垂直に歯が当たるような状況を作り出すことは、そんなに難しくないし、鋸の歯に切りすぎ防止のストッパーを付ければ、切り込みの深さが一定になる。

即ち、ぼくの手にどの程度のことができるかを考えて、否が応でもこんな切り込みができるような工夫をすればいい。そして望んでいたように切る込みが入れられた時、とてもいい気持ちになれる」

そうやって、一つ一つのことをクリアしていくプロセスを、小林さんは旅に喩える。完成させることだけが目的ではないし、急ぐ必要もない。道中の色々な出会いや発見が楽しいのだ。

*1997年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

HOME

KENJI KOBAYASHI

遠方からの映像ーもうひとつのテレ・ビジョン

「テレビ=テレビジョンには、二つの意味がある。一つは1928年に放送が始まり、今ではどこの家庭にもある放送を受信する機械。もう一つは、もっと広い意味の、テレ(遠隔)ビジョン(画像)」

アーティスト小林健二氏は、そんな遠方からの映像を結晶させたような美しい作品をたくさん作っている。氏のアトリエはまるで錬金術の工房のようで、鉱物の標本や、使い込まれたヨーロッパの工具、天井まで旧仮名遣いの本がぎっしり並ぶ本棚、などなどがあり、暗がりには猫が潜んでいた。そこで、4つの作品を見せてもらった。

2004年頃の小林健二のアトリエ。小学生の頃から鉱物は好きで少しづつ集めてきた。仕事場にも随所に鉱物を飾っている。画像はアンモナイトの化石のクリーニングをしているところ。

2004年頃の小林健二のアトリエ。小学生の頃から鉱物は好きで少しづつ集めてきた。仕事場にも随所に鉱物を飾っている。画像はアンモナイトの化石のクリーニングをしているところ。

小林健二の道具から、ヨーロッパの工具の中でも、大きさが手ごろで気に入っているものから何点か選んだもの。見ているだけでも美しい。

小林健二の道具から、ヨーロッパの工具の中でも、大きさが手ごろで気に入っているものから何点か選んだもの。見ているだけでも美しい。

[IN TUNE WITH THE INFINITE-無限への同調]

レトロなデザインの箱の中に青い土星がゆっくり回転し浮かんでいる作品。土星の輪の傾きも変化する。

「癒しという言葉はそんなに意識していないけれど、ひっそり部屋の中において、これを見ていると何か安心するという話を何回か聞いたことがある。」

[IN TUNE WITH THE INFINITE-無限への同調]

[IN TUNE WITH THE INFINITE-無限への同調]

[青色水晶交信機-Blue Quartz Communicator]

スイッチを入れると、モールス信号のようなツツツーという音が聞こえ、箱の中のクリスタルの内部に灯る光も同調して明滅する。

「ここに(箱の中を開けて)微量な放射線を放出する小さなウラニナイトがあって、ガイガーカウンターの音を信号に変換して鳴らしている。耳がモールス信号に慣れている人だと、音の中に意味がわかる組み合わせを聴くこともある。」

何万年も昔に生まれた石のつぶやきが通信されてくるみたいだ。

「あと(パタンと箱を閉じて)、箱の中に機械の部分があったけど、、クリスタルは見えなかったね。でも閉じると、機械ではなくクリスタルしか見えないでしょう?」

作品上部の窓からは見えない機械部分が、箱を開けると見える。

[青色水晶交信機-Blue Quartz Communicator]

[青色水晶交信機-Blue Quartz Communicator]


Blue-Quartz-Communicator from Kenji Channel on Vimeo.

[鉱石式遠方受像機-Crystal Television]

箱の中に納められたユーレキサイト(通称テレビ石)という鉱物の表面に、映像が写しだされる。ボウッと霞む白い石の表面に映ると、いつの時代の映像かわからなくなる。作品全体、アンテナといい箱の形といい、最も古いテレビのスタイルを踏襲している。音もエフェクトされている。

「なんとなく過去からの放送を見ているみたいでしょう。ぼくなんかもそうだけど、昔のテレビを知っている人なら、子供の頃見ていた放送が見えるかもしれない。」

[鉱石式遠方受像機-Crystal Television]

[鉱石式遠方受像機-Crystal Television]


Crystal-Television from Kenji Channel on Vimeo.

[遠方結晶交信機-Crystal Channel Communicator]

2台で一対になっている。展覧会では離れた二つの会場を結んで、お互いに映像を映し出す。テレビ電話みたいなものだが、映像がクリスタルに投影されているのではなく、クリスタル内部に結像しているのが美しい。未来を映す魔法の水晶のよう。通信や放送の専門家ほど首をひねるという。

「H・G・ウエルズの小説『卵型の水晶球』のようなものを作りたかったんだ。」

「昔のテレビもそうだけど、たとえ情報量が少なくても、映像を注視する、気持ちを近づけて交信する。そういうことが、いろんなビジョンを見せてくれたりする。遠くの世界が何かの箱を通じて見える、結像する面白さがテレ・ビジョンの魅力だね。」

[遠方結晶交信機-Crystal Channel Communicator]

[遠方結晶交信機-Crystal Channel Communicator]


Crystal-Channel-Communicator from Kenji Channel on Vimeo.

*2004年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

HOME

KENJI KOBAYASHI

[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論]

鉱石式送信機

鉱石ラジオが全盛だったころ、鉱石ラジオの受話器に話しかけると近所のラジオに混信してその声が聞こえるという報告が当時の雑誌にいくつか紹介されています。これはもしかしたら鉱石式受信機が送信機になったということでしょうか。

ひとつにこの現象はアンテナをコンデンサーを介して電灯線から取っていたために起こったのではないかと説明されていますが、電源もない受信機から送信ができるとはおもしろいことだと思います。ぼく自身も本当にこの不思議な現象を何度か実験で確かめていますが、この事実を安定して作動させることはとても難しいと思います。そこでぼくは鉱石式電波発生器を使って簡単な信号を送る実験をしてみたいと思います。

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

鉱石式電波発生器とはいったいなにかというと、ライターなどの発火装置のことです。上の画像のものは、おそらくガス給湯器の発火装置なのでしょう。これらはピエゾ圧電素子を利用したものでボタンを押すとレバーとスプリングの機構によって中にある圧電素子をハンマーが強くたたいて、高い電圧が発生する仕組みになっています。この素子から出ている電線の端を導体に近づけると4~ 5 mmのギャップで火花が出ます。人体に触れるとビリッと衝撃を受けます。この線を空中線に接続してボタンを押すと、普通のAM受信機の局間などでパチッパチッという音を受信します。これは一種の火花送電です。

そしてもちろん鉱石ラジオでも受信ができます。

(ここで小林健二が電気工作に熱中するきっかけとなる出来事を、彼の著書「ぼくらの鉱石ラジオ」から拾ってみました。)

ぼくにとって、電子工作につながる道は意外なところから開けました。

10代のころから高じてきた音楽の趣味から、多重録音をしていろいろ曲を作っていたのですが、そんな時にいつもエフェクター(音質などをいろいろと変える機械)がほしくて、でもお金がないので、カタログを見てはあこがれる純情な毎日でありました。20代の初めのそんなある日、ギターやキーボードの雑誌でエフェクターの制作記事を見かけ、ビンボー人の執念とは恐ろしいもの、前後の見境もなく秋葉原に直行し、マッド・エクスペリメントの始まりとあいなったわけです。

当初の製作物のうち、いちおう音の出るものもあったとはいえ、一部は音のかわりに煙を出し、コンデンサーが爆竹のかわりになったりもしました。そしてその他はほとんど、なにより恐ろしい沈黙を守っていたのです。

秋葉原へのお百度参りは回を重ね、みんなから定期が必要とまで言われながらも、機械の作製は遅々として進まず、いつのまにか「電気いじりは日常」というアリ地獄ならぬ電気地獄にひきずりこまれてしまいました。友人を巻き込み、私財をなげうってのこの壮大な試行錯誤の日々は、またたく間に生活をおびやかしていきました。

そんな時、たまたま友人といっしょにDNR(ダイナミックノイズリダクション)を作っていると、ノイズを取るどころかほとんどハム(雑音の一種)発生器となった基盤の上で、ぼくらのシグナルトレイサー(回路の信号をチェックする機械)はなんと、ふいに飛び込んできたラジオ放送をキャッチしていました。

しかも、装置の電源を切った後でさえ、その放送はとぎれることがなく、音楽や会話を聞かせつづけたのです。一人になったアトリエで、ぼくはその省エネルギー的遊びをつづけました。こんなにラジオをまじめに聞いたことがはたしてあったでしょうか。イヤホーンから聞こえてくる小さな声の放送に、はじめてセンチメンタルで美しい、そして空が急に広くなりそよ風の吹いてくるような、あの電波少年たちの想いを受け取ったのだという確信をぼくは抱きはじめたのです。

小林健二が20代のはじめ頃に作った音楽のエフェクターの一つ。

小林健二が20代のはじめ頃の自作機材。

original-effector from Kenji Channel on Vimeo.

1930年当時の鉱石検波理論

・熱電流説―一検波器の回路の中に高周波電流が流れるたびに、細い金属と小さな鉱石との接点において局部的に熱が発生することによる、というものです。この抵抗熱と熱電流によって接点の温度が変化し、それによっておこる抵抗の増減が高周波交番電流に作用し、電流がピークを迎えたとき、発電量と抵抗値が増えることによって、タイミングが合った部分の交流分の片方が流れにくくなり、整流されるというものです。

・表面酸化説一一上記のものとだいたい同じようなものですが、やはり高周波電流によって温められた接点の金属がそのつど酸化することで、金属どうしの接点抵抗が変化し、整流されるというものです。

・熱起電力発生説ーー図のように2種の金属、たとえば鉄と銅をねじりあわせたものに、ヘッドフォンをあてて金属のねじったところをろうそくなどの火であぶると、ガリガリッと音が聞こえてきます。これは2種の金属に熱を与えたことで、電子がはじき出され、電流をおこしてヘッドフォンで聞こえたのです。これと同じように、高周波電流によって温められた2種の金属の熱起電力によって、音として検出できる低周波電流に変化するというものです。

熱による起電力の発生

熱による起電力の発生

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

HOME

KENJI KOBAYASHI