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Kenji Kobayashi exhibition [ n w y f ] 2021

Kenji Kobayashi artwork 2021
Kenji Kobayashi artwork2021
Kenji Kobayashi artwork2021
Kenji Kobayashi artwork2021
Kenji Kobayashi artwork2021
Kenji Kobayashi artwork2021

CURATORS CUBE X 小林健二

CC : 今回は全てが新たに取り組んだ作品群であるということで、大変ありがたい機会をいただきます。2020-2021年、作家・鑑賞者共に展覧会などへの関わりが難しい中でしたが、その期間に制作された本作品群について先ずは簡単にお話聞かせてください。

小林:やはりこの様な状況ですから、作品を観てくださる方々に多少でも元気な気持ちを感じていただければと思いましたし、自分でも明るい気持ちで製作できるように努めました。

この様な状況ではなくても大抵引きこもって製作しているのですが、今回は一点一点に実験的な試みもし、手が多く入っていると思います。

ぼくとしては、ある意味で人の世を守ってくれる怪物の様なものを描きたかったのかも知れません。

CC : 守護者或は守護物といった物は自自または自他が支え合うという意味で、2020年以降の不安定な時勢の中で重要度の増したものの一つかもと感じます。そういった守護者の映るそれぞれの作品は各々に様々な技法を含み、ユニークな振動を放っているよう感じます。幾つかの作品における具体的な技法とそれが奏でる影響についてご自身なりの狙いというものがあれば聞かせてください。

小林:大抵はパネルかキャンバスの上に油彩で描いたものですが、部分的にその他の技法も使っています。それぞれの作品にバリエーションを連作して行くことが一般的だと思いますが、今回はなるべく色々な表現の仕方で、観てくださる方々に印刷物のような複写されたものからではなく、実物からではないと感じられない要素があるということに重点をおいて描きました。

CC : 仰るよう1点ずつが独立した波動のようなものを持っていますし、それらが並んだ時にいわゆる連作的な作品群とは異なる響き合い方があり、個性とか協調といった感覚が明るく胸に飛び込んできました。そういった印象の背景と関連するのでしょうか、作品と色彩の関係についても興味があります。これまで多くの国を訪ね或は国内においても多くを歩き、小林さんのスタジオは沢山の色が溢れています。作品における色というものの役割や色を扱う際に意識をしていることがあれば聞かせてください。

小林 : 色彩やマチエール(画肌感)から来るものは、油彩画特有の技法を使って、たとえば削り出し(グラッタージュ)、透明な層を重ねる(グラッシュ)、盛り上げ(インパスト)、拭き取り(エスイヤージュ)こすり出し(スキャンブリング)、流れ込み(オンフリュード)、ヒビ入れ(クラクール)などなど・・・。つまり色はカラーチャートのようなものではなく、その表面効果や透明感なども絡み合っていると思います。

CC :  なるほど。それらの技法とも関わり合う要素としての文字或は文字的なものについてもお話を聞かせてください。これまでも多くの作品に文字または文字のようなものが表れていましたが、この新作群でもそれらが強く印象的な役割を果たしているように感じます。また文字のない作品においても、画面上に刻まれる多くの線がどこか文字のように鑑賞者の身体に飛び込んでくる感覚があります。今作品群に表現されている文字の意味、或は線に込められた思いのようなものがあれば教えてください。

小林:大抵の場合、人にとって絵画はともかく文字に対しては、たとえ読むことができなくても、意味の様なものが何がしか介在していると感じると思います。ですから今回は文字のないもの、読もうと思えば読めるもの、かと言って意味が分かるかといえば不明なもの、記号の様なもので言葉としては理解しにくいもの、それらを含めて作品に付加された要素として感じていただければと思います。

言い換えれば、言葉や描画だけで表現できないものを描きたかったと思ってください。

CC :  2020年から続く世の中のムードについて、或はこれから私たちが心を配るべき振舞いについて、これらの作品群の持つ意義や願いの様なものがあれば聞かせてください。

小林 : 自分を見つめる時間や、この世の色々な側面を考える時間もとても必要なことだと感じますね。

CC :  僕が小林さんの作品に出会ってから20年弱、長い時間があった後の2019年にようやくお会いすることが出来ました。20年前或は作家として活動を始めた40年以上前と現在と、制作にあたってどのような変化があるのか或は無いのか、湧き上がる美しさの源に興味がつきません。そのあたりでお話があれば聞かせてください。

小林 : 話し始めるとキリがないけど・・・(笑)。でもこれだけは言えるかもしれない。ぼく自身子供の頃からあまり変わっていないというところがあって、絵に描くということは、つまり普段目に見えない心の中にある風景を描いているという事かしら。

ぼくには幼い頃から軽い(?)対人障害があって人が多く居る場所が苦手だったんです。そんな時、話とかすると直ぐ支離滅裂になっちゃってね(笑)

若い時は随分良くなっていたけど、歳と共に素に戻ってゆくのかな?・・・ただその代わり心の中に一つのプリズムの様なものが再び戻って来て、突然風景の様なものや音楽の様なものを感じたりしてね。でも脈略がないから人にも話せないし。フムイヌルイの森、フルーツの香りの音楽が空で姿を現したり、雲が蜃気楼のようにレンズになる様、海の上のグニラの柱・・・今回は少しだけ作品に反映されているのかな。

*案内状より