戦前から1960年代くらいまでの少年向けのラジオエ作の本や雑誌を見ていると、 ときどき誰がこんな高度なものを作るのだろうと思うような記事に出くわすことがあります。しかし、そんな中にもヴァリコン、ヘッドフォン、クリスタルイヤフォンの製作記事は発見できませんし、往々にしてそれらは個人では製作不可能なものとして紹介されています。
おそらくその時代にヴァリコンの製作をいちばんむずかしくしていたのは、アルミ板が高価で入手できなかったことでしょう。
これはぼくが作ってみたヴァリコンですが、実際に作ってみると、一般の工作術から考えた場合、決してむずかしいものではありません。

写真はヴァリコンBのできあがったパーツです。前面と背面の黒い板は粘土で原型を作り、ツマミを作った要領で製作しました。このブログの「樹脂の加工」ページを参照。このタイプのヴァリコンにはストッパーがなく、くるくるといくらでも回ります。

写真はヴァリコンAを分解したところです。ローター(回転するところ)が前面のパネルと導通しているので、パネルとステーター(羽の動かないところ)とを絶縁するために、黒いエボナイトの板があいだに入っています。
アルミ板は厚いものでも糸ノコで切ることができます。切る面に対して直角を維持してゆっくりと作業し、切りづらかったり、引っ掛かる感じがあれば、油を少し差すとよいでしょう。作例ではどちらのヴァリコンも、ローター、ステーターとも、羽のところは0.8mmのアルミ板を重ねて切り、ヴァリコンAの前背面のパネルは3mm厚のアルミ板を使いました。ローターやステーターの羽の切り抜きをするとき、まず重ねて切るわけですが、ぼくがいろいろ試したなかでは、それらの板をペーパーセメントで仮に貼りつけると安定した作業ができます。
ヴァリコンBが、ローター部13枚、ステーター部14枚で、Aのほうがローター部12枚、ステーター部13枚です。

それぞれの羽を十分に取ることができるくらいの大きさにアルミ板を切り、貼り合わせたあと、糸ノコでカットする前にまず穴のほうを先にあけます。このときのコツはゆっくりとあけること。もし早くあけようとして強くドリルを当てると、それぞれの薄板からバリが出て、それが板と板のあいだを押し広げ、ちょうど水にぬれた辞書のようにふくらんでしまい、その後の作業をむずかしくさせてしまうからです。ゆっくりあけたつもりでも、少しはふくらむでしょう。そうしたら万力などでふたたび押さえて、ピッタリとつけておいてください。
このようにていねいに作ったつもりでも、組み上げてみると出っ張ったリヘこんだりしています。キチッとそろった仕上がりにしたければ、組み上げたあとで、木片を当てたサンドペーパーで仕上げます。

ヴァリコンの組み上げ方は、ローターやステーターの羽と羽のあいだに2mmのスペーサーあるいはカラーと呼ばれるものを入れ、ステーターの部分は中に通した6mmのネジに前後からナットで締めつけ、ローターのほうは前と後ろのパネルで3mmの全ネジで締めつけて固定します。ローターとステーターはちょうど互い違いに入れ子状に組み合わせておかなければなりませんので、お互いの羽が触れあわないように、あいだを調整してから固定すればできあがりです。
ステーターとローターがショート(接触)していると、どんなにほかをいじっても音は絶対に聞こえませんから注意しましょう。

アルミはちょっと加工がしづらいと思う人は、厚紙の両面にアルミ箔を貼ったものでも、まったく同じに機能します。(写真の左上の少し色が違うものは錫箔をはったもので、あまり一般的ではありませんが錫箔でもOKです。)
まず厚紙を1枚1枚カッターやはさみで切って、スプレー糊でアルミ箔を貼ればよいのです。このとき、裏と表の箔は必ずショートするように注意してください。穴は箔を貼る前にポンチであけておきましょう。貼りあがったあと、コップや瓶をローラーのように転がしてぴったりと貼るのもコツの一つです。
ヴァーニヤルダイヤルは、よく測定器や通信機にわれるダイヤルで、内部のギアの関係で細かい調整をするのに適したものです。ダイヤルのツマミを4回転させると軸が180° 回転するしくみになっています。ヴァリコンBにはストッパーはなくいくらでも回転しますが、このヴァーニャダイヤルをつければ、最小と最大の位置にくるとそれ以上いくら回しても軸に回転がかからないしくみになっているので、ストッパーをつけたのと同じ効果があって便利です。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。