鉱石ラジオ」タグアーカイブ

鉱石ラジオの実際(その3)

前回の続きです。

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

英国製でメーカーはわかりませんが、 1920年代のものです。内部には大きなコイルが1つとマイカの固定コンデンサーが入っています。検波器の内部には、見た目には方鉛鉱と思える人工鉱石が入っています。H180× W225× D152(mm)

英国製でメーカーはわかりませんが、 1920年代のものです。内部には大きなコイルが1つとマイカの固定コンデンサーが入っています。検波器の内部には、見た目には方鉛鉱と思える人工鉱石が入っています。H180× W225× D152(mm)

検波器の拡大

検波器の拡大

この大きなコイルが特徴的なものは英国製です。メーカーは不詳ですが、一種のキットのようにして1930年代に米国でも同じタイプのものが多く造られました。 検波器には黄鉄鉱が使われています。H200X W213× D170(mm)

この大きなコイルが特徴的なものは英国製です。メーカーは不詳ですが、一種のキットのようにして1930年代に米国でも同じタイプのものが多く造られました。
検波器には黄鉄鉱が使われています。H200X W213× D170(mm)

これはラジオの部品のパーツです。左のコイルはチューニングコイルでまん中の真鍮の工をうごかして使います。右のものは米国フィルモア社製のさぐり式検波器のキットです。

これはラジオの部品のパーツです。左のコイルはチューニングコイルでまん中の真鍮の工をうごかして使います。右のものは米国フィルモア社製のさぐり式検波器のキットです。

米国ブローニングドレイク社製で1920年代のものです。ヴァリオカップラーを使ってあります。検波器はガラス製のカップの付いたかわいらしいものです。H163× W152 X D178(mm)

米国ブローニングドレイク社製で1920年代のものです。ヴァリオカップラーを使ってあります。検波器はガラス製のカップの付いたかわいらしいものです。H163× W152 X D178(mm)

検波器の拡大

検波器の拡大

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合 型で感度もよいものです。 H195X175X175(mm)

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合
型で感度もよいものです。
H195X175X175(mm)

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

英国でアマチュアによって1940年代に製作されたと思われるものです。パーツは自分の好きなものを集めて作ってあります。 H225× W233 X D163(mm)

英国でアマチュアによって1940年代に製作されたと思われるものです。パーツは自分の好きなものを集めて作ってあります。 H225× W233 X D163(mm)

検波器はとりわけ高級品で、鉱石には黄鉄鉱が使用してあります。

検波器はとりわけ高級品で、鉱石には黄鉄鉱が使用してあります。

英国のアマチュアが1950年代に製作したと思われるものです。当時の金属製 のフィルムケースや試験管を使って作っています。中にはコイルと小さなヴァリ コンが入っています。H140× W130×D130(mm)

英国のアマチュアが1950年代に製作したと思われるものです。当時の金属製 のフィルムケースや試験管を使って作っています。中にはコイルと小さなヴァリ コンが入っています。H140× W130×D130(mm)

米国のミゼットラジオ社製のもので、 1939年から造られ始めたものです。中には木の角棒に巻いたコイルがあり、その本に穴をあけて中に検波器を埋め込んでありますが、外観はともかくメーカー製のイメージからは想像しにくいほど手作りの感じです (ヘッドフォンはフィルモア社製)。H53XW80×D48(mm)

米国のミゼットラジオ社製のもので、 1939年から造られ始めたものです。中には木の角棒に巻いたコイルがあり、その本に穴をあけて中に検波器を埋め込んでありますが、外観はともかくメーカー製のイメージからは想像しにくいほど手作りの感じです (ヘッドフォンはフィルモア社製)。H53XW80×D48(mm)

フィルモア社製ヘッドフォンと接続したミゼットラジオ。

フィルモア社製ヘッドフォンと接続したミゼットラジオ。

米国のミゼットラジオ社製のラジオの内部

米国のミゼットラジオ社製のラジオの内部

これは1925年製の英国ジェコフォン“ジュニア"と呼ばれるものです。方鉛鉱を用いた検波器で精度高く造られています。通常300~ 500 mの波長に対応していますが、H75× W145× D206(mm)

これは1925年製の英国ジェコフォン“ジュニア”と呼ばれるものです。方鉛鉱を用いた検波器で精度高く造られています。通常300~ 500 mの波長に対応していますが、H75× W145× D206(mm)

内部はヴァリコンと木の棒を芯としたコイルによって構成されています。

内部はヴァリコンと木の棒を芯としたコイルによって構成されています。

検波器の下のU字型のショートプラグをはずし別売のコイルを差し込むと1600 mく らいまでの波長にも対応できるようになっています。

検波器の下のU字型のショートプラグをはずし別売のコイルを差し込むと1600 m らいまでの波長にも対応できるようになっています。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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鉱石ラジオの実際(1)

鉱石ラジオの実際(2)

KENJI KOBAYASHI

鉱石ラジオの実際(その2)

前回の続きです。

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

戦前の日本製です。おそらくアマチュアの手製のものです。H112 X W192 X D90(mm)

戦前の日本製です。おそらくアマチュアの手製のものです。H112 X W192 XD90(mm)

しかし内部はていねいに仕上げてあります。今のように絶縁物のパイプが入手しづらかったためか、コイルのボビンはエボナイトの板に熱をあたえて丸めて自作してあります。検波器とヴァリコンは輸入された製品を使用しています。

しかし内部はていねいに仕上げてあります。今のように絶縁物のパイプが入手しづらかったためか、コイルのボビンはエボナイトの板に熱をあたえて丸めて自作してあります。検波器とヴァリコンは輸入された製品を使用しています。

これは昭和30年代のゲルマラジオの付いた時計で、東京時計社製です。クリーム色のベークライトのボディで、クリスタルイヤフォンが2つついていて2人で放送を聞けるようになっています。H113× W193 X D54(mm)

これは昭和30年代のゲルマラジオの付いた時計で、東京時計社製です。クリーム色のベークライトのボディで、クリスタルイヤフォンが2つついていて2人で放送を聞けるようになっています。H113× W193 X D54(mm)

戦前の日本製でこのラジオと最初に出会ったときは、すべてがメチャクチャにこわれていました。時間をかけてツマミを作リコイルを巻きなおしヴァリコンをなおして、できるかぎり当時の状態を再現してみたものです。ほとんどのパーツがひどいダメージを受けていたのにかかわらず、茶色になったセロファンに包んだ方鉛鉱がピカピカのまま箱の底に入っていたのは印象的でした。 H162 X W212× D114(mm)

戦前の日本製でこのラジオと最初に出会ったときは、すべてがメチャクチャにこわれていました。時間をかけてツマミを作リコイルを巻きなおしヴァリコンをなおして、できるかぎり当時の状態を再現してみたものです。ほとんどのパーツがひどいダメージを受けていたのにかかわらず、茶色になったセロファンに包んだ方鉛鉱がピカピカのまま箱の底に入っていたのは印象的でした。
H162 X W212× D114(mm)

これは英国で作られた手製のものです(おそらく1920年代)。手製とはいってもパーツは高級品で、作りも下手なメーカー製よりしっかりと出来ています。 H162 X W215× D185(mm)

これは英国で作られた手製のものです(おそらく1920年代)。手製とはいってもパーツは高級品で、作りも下手なメーカー製よりしっかりと出来ています。
H162 X W215× D185(mm)

検波器の台はステアタイト(磁器)製です。

検波器の台はステアタイト(磁器)製です。

内部にはコイルが1つ入っていますが、色のあざやかな綿巻線の1.3mmくらいの大いものを使っています。またコイルを止めているのは革の帯です。

内部にはコイルが1つ入っていますが、色のあざやかな綿巻線の1.3mmくらいの大いものを使っています。またコイルを止めているのは革の帯です。

米国製の学生を対象に作られたクリスタルセットのキットです。(写真ではラジオは完成しています。)キットクラフトプロデュース社製(1950年代)で、作り方と簡単な原理を説明した20頁の小小冊子がついて充実しています。 H40× W78X D85(mm)

米国製の学生を対象に作られたクリスタルセットのキットです。(写真ではラジオは完成しています。)キットクラフトプロデュース社製(1950年代)で、作り方と簡単な原理を説明した20頁の小小冊子がついて充実しています。 H40× W78X D85(mm)

ドイツ製の子供用のクリスタルセットです。赤いベークライト製で、中には小さなコ イルとヴァリコンが入っています。付属品として別の箱に人った片耳ヘッドフォンと小さな箱に入ったイタリア製の検波器が付いています。H42X W72 X D101(mm)

ドイツ製の子供用のクリスタルセットです。赤いベークライト製で、中には小さなコ
イルとヴァリコンが入っています。付属品として別の箱に人った片耳ヘッドフォンと小さな箱に入ったイタリア製の検波器が付いています。H42X W72 X D101(mm)

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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鉱石ラジオの実際(その1)

鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。

これは米国フェデラル社製で、フェデラルジュニアと呼ばれるものです。ボディは金属製で表と裏にそれぞれアンテナとディテクターをコイルヘ接合する可変ノブがついています。1910年頃のものです。H235× W215× D145(mm)

これは米国フェデラル社製で、フェデラルジュニアと呼ばれるものです。ボディは金属製で表と裏にそれぞれアンテナとディテクターをコイルヘ接合する可変ノブがついています。1910年頃のものです。H235× W215× D145(mm)

この鉱石ラジオを広告として掲載していた書籍のページ

この鉱石ラジオを広告として掲載していた書籍のページ

ディテクターは厚いエボナイト板の上に取り付けられていて方鉛鉱がついています。

ディテクターは厚いエボナイト板の上に取り付けられていて方鉛鉱がついています。

内部には大きなコイルとマイカのコンデンサーが入っています。

内部には大きなコイルとマイカのコンデンサーが入っています。

これは日本の戦前のもので製品を改造してありました。入手当時、ツマミや端子の片方がこわれていたので、レストアしたものです。中には金属製のヴァリコンとスパイダーコイルが2つ入っています。 H173× W162 X D110(mm)

これは日本の戦前のもので製品を改造してありました。入手当時、ツマミや端子の片方がこわれていたので、レストアしたものです。中には金属製のヴァリコンとスパイダーコイルが2つ入っています。 H173× W162 X D110(mm)

戦前の日本製でほぼ完全な状態のものです。色があざやかでかわいらしく、中は混信分離というツマミのうらにコイルがあって、電波同調の方にはヴァリコンが入っています。メロディークリスタルラジオという名前もかわいいと思います.。H100x172xD48(mm)

戦前の日本製でほぼ完全な状態のものです。色があざやかでかわいらしく、中は混信分離というツマミのうらにコイルがあって、電波同調の方にはヴァリコンが入っています。メロディークリスタルラジオという名前もかわいいと思います.。H100x172xD48(mm)

メロディークリスタルラジオの内部

メロディークリスタルラジオの内部

米国フィルモア社製の赤いベークライトのボディのものです。このフィルモア社ではこのようなかわいい学生用のクリスタルセットをいろいろつくっていて日本にも輸入されていたようなので、ごぞんじの人もいると思います。H40×W8×D95(mm)

米国フィルモア社製の赤いベークライトのボディのものです。このフィルモア社ではこのようなかわいい学生用のクリスタルセットをいろいろつくっていて日本にも輸入されていたようなので、ごぞんじの人もいると思います。H40×W8×D95(mm)

内部の状態。

内部の状態。

これは米国製のものです。タップのついたコイルと大きなエアーヴァリコン、それに受話器用のマイカ製コンデンサーが人っています。また、フロントのダイヤルはヴァリコン用ですが、さらにその中心にあるノブでヴァリコンのいちばんうしろに別についている羽1枚を動かして微調整できるようになっています。H200 X lV137× D110(mm)

これは米国製のものです。タップのついたコイルと大きなエアーヴァリコン、それに受話器用のマイカ製コンデンサーが人っています。また、フロントのダイヤルはヴァリコン用ですが、さらにその中心にあるノブでヴァリコンのいちばんうしろに別についている羽1枚を動かして微調整できるようになっています。H200 X W137× D110(mm)

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これは米国レオン・ランバート社のものです。このラジオの特徴はまるでブラシのような検波器の針の部分です。ちょっと見にはどうも感度が悪そうですが実際にはそうでもありません。中にはコイルが1つ入っています。ラジオの底にはどういうわけかクリスタルラジオカンパニー社の広告が貼ってあり、「もしあなたが真空管ラジオをほしければ、2球、 5球、 6球ラジオでも安くお売りできます。この$5.95のランバートラジオを当方に送っていただければいつでもいかなる真空管ラジオもお売りすることができます。」等と書いてあります。 H115× W160× D118(mm)

これは米国レオン・ランバート社のものです。このラジオの特徴はまるでブラシのような検波器の針の部分です。ちょっと見にはどうも感度が悪そうですが実際にはそうでもありません。中にはコイルが1つ入っています。ラジオの底にはどういうわけかクリスタルラジオカンパニー社の広告が貼ってあり、「もしあなたが真空管ラジオをほしければ、2球、 5球、 6球ラジオでも安くお売りできます。この$5.95のランバートラジオを当方に送っていただければいつでもいかなる真空管ラジオもお売りすることができます。」等と書いてあります。
H115× W160× D118(mm)

ディテクター部分のアップ

ディテクター部分のアップ

これは英国のブラウニーワイヤレスカンパニー社製です。1920年のものでNo 2モデル鉱石受信機として有名なものの1つです。BBCのマークが入っています。全体は黒のエボナイトで作られていて、上部のコイルを差し替えることができるようになっています。H210× W153×D145(mm)

これは英国のブラウニーワイヤレスカンパニー社製です。1920年のものでNo 2モデル鉱石受信機として有名なものの1つです。BBCのマークが入っています。全体は黒のエボナイトで作られていて、上部のコイルを差し替えることができるようになっています。H210× W153×D145(mm)

コイルの色々

コイルの色々

底にある黒色のファイバー製のフタをあけるとコイルが1つ入っていて、ツマミを回すとまん中のレバーが動くようになっています。

底にある黒色のファイバー製のフタをあけるとコイルが1つ入っていて、ツマミを回すとまん中のレバーが動くようになっています。

検波器のガラス管は底側の半分が白くフロスト加工されていて針が見やすく工夫されています。

検波器のガラス管は底側の半分が白くフロスト加工されていて針が見やすく工夫されています。

1920年代の英国製でやはりBBCのマークが入っています。たて型のむき出しのコイルについているノブをスライドさせて同調を取るようになっています。検波器には方鉛鉱がついています。H180X W157× D207(mm)

1920年代の英国製でやはりBBCのマークが入っています。たて型のむき出しのコイルについているノブをスライドさせて同調を取るようになっています。検波器には方鉛鉱がついています。H180X W157× D207(mm)

底のフタをあけてみると、整然と配線がしてあります。

底のフタをあけてみると、整然と配線がしてあります。

「鉱石ラジオの実際」の続きは、後日アップします。今回は「ぼくらの鉱石ラジオ」に載されなかったものもご紹介予定です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

鉱石ラジオの実際2

鉱石ラジオの実際3

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KENJI KOBAYASHI

 

趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅

趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅ーゆったり流れる手仕事の時間

マルチメディア技術は、アニメーションという、かつては経済的にも工数的にも一人の人間が趣味で取り組むには困難だった表現手段も手軽なものにしてくれた。これも技術進展の賜物だ。

一方で、昔ながらに自分の手で直接材料に触りながら何かを作っていく楽しみもある。その楽しみに自らのめり込み、その意味について思索を重ね、そうした趣味を見直そうと呼びかける小林健二さんを訪ねた。

小林さんは芸術家で、絵画、立体造形など様々な作品を作ってきたが、ここ数年は作品を発表せずに、もっぱら趣味としての鉱石ラジオ工作に没頭してきた。しかもコイルやコンデンサーなど、パーツのひとつひとつから自分で手作りしているという。

「鉱石ラジオを作り始めたのは、夢でチカチカ光る不思議なラジオを見て、そんなラジオが欲しいと思ったから。その夢のラジオを追い求めているうちに、鉱石ラジオというものに出会った。その原理を勉強したら、ぼくらが普段接している工業製品としてのラジオとは全く違うラジオが、自分の好きに作れるんじゃないかって思えてきたんだ。この装置の本質ーー人間の願望と自然の摂理の不思議な出会いを象徴する形のラジオがね。」

小林さんは本当にそんなラジオを製作した。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「これから音が聞こえてきた時は本当に嬉しかった。神秘的な現象は解明されて歴史の後ろに消えていってしまったわけじゃない。今だってこれは十分神秘的。自分の手で作ったからこそ、余計それを感じるんだと思う。」

そう言って小林さんは、今度はものを作るプロセスを体験する喜びについて語り始めた。

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「ぼくらは工業製品に囲まれて暮らしている。だからどんな物を見ても、誰かが専門的な機械を使って作ったのだろうと思ってしまい、その物の背後に隠れている技や知恵をわざわざ考えてみようとはしない。もっぱら、役割や機能、値段という視点で物を見がちだ。でも自分の手で作ろうと思ってその物に触れていけば、そうした眼差しでは見落とされていた、先人の知恵や材料の特性が織りなす世界を紐解いていける。例えばこんな コイル一個にだって、そうした世界はあるんだ」

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんから自作のコイルを渡された。そのホイールを見ると、円筒に放射状の切れ込みを入れて、11枚の薄い羽根が差してある。どうやって、切り込みをこんな風に中心軸に向かって同じ深さだけ入れるのだろう。円周を11等分する方法は・・・ いざ作り方を考えると、いくつも疑問が湧いてくる。作ろうとしただけで、何気ないものに色々発見がある。それは物と対話しながら、ブラックボックスの蓋を開いていくワクワクする体験だという。

さらに小林さんは、工作が自分自身について考え、知る体験でもあるという。

「例えば、その切り込み味だけど、ぼくは器用じゃないから、ただ単純に鋸を当てたんじゃ、とてもこんな風には切れない。でも、切るときに円筒の側面に常に垂直に歯が当たるような状況を作り出すことは、そんなに難しくないし、鋸の歯に切りすぎ防止のストッパーを付ければ、切り込みの深さが一定になる。

即ち、ぼくの手にどの程度のことができるかを考えて、否が応でもこんな切り込みができるような工夫をすればいい。そして望んでいたように切る込みが入れられた時、とてもいい気持ちになれる」

そうやって、一つ一つのことをクリアしていくプロセスを、小林さんは旅に喩える。完成させることだけが目的ではないし、急ぐ必要もない。道中の色々な出会いや発見が楽しいのだ。

*1997年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

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KENJI KOBAYASHI

[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論]

鉱石式送信機

鉱石ラジオが全盛だったころ、鉱石ラジオの受話器に話しかけると近所のラジオに混信してその声が聞こえるという報告が当時の雑誌にいくつか紹介されています。これはもしかしたら鉱石式受信機が送信機になったということでしょうか。

ひとつにこの現象はアンテナをコンデンサーを介して電灯線から取っていたために起こったのではないかと説明されていますが、電源もない受信機から送信ができるとはおもしろいことだと思います。ぼく自身も本当にこの不思議な現象を何度か実験で確かめていますが、この事実を安定して作動させることはとても難しいと思います。そこでぼくは鉱石式電波発生器を使って簡単な信号を送る実験をしてみたいと思います。

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

鉱石式電波発生器とはいったいなにかというと、ライターなどの発火装置のことです。上の画像のものは、おそらくガス給湯器の発火装置なのでしょう。これらはピエゾ圧電素子を利用したものでボタンを押すとレバーとスプリングの機構によって中にある圧電素子をハンマーが強くたたいて、高い電圧が発生する仕組みになっています。この素子から出ている電線の端を導体に近づけると4~ 5 mmのギャップで火花が出ます。人体に触れるとビリッと衝撃を受けます。この線を空中線に接続してボタンを押すと、普通のAM受信機の局間などでパチッパチッという音を受信します。これは一種の火花送電です。

そしてもちろん鉱石ラジオでも受信ができます。

(ここで小林健二が電気工作に熱中するきっかけとなる出来事を、彼の著書「ぼくらの鉱石ラジオ」から拾ってみました。)

ぼくにとって、電子工作につながる道は意外なところから開けました。

10代のころから高じてきた音楽の趣味から、多重録音をしていろいろ曲を作っていたのですが、そんな時にいつもエフェクター(音質などをいろいろと変える機械)がほしくて、でもお金がないので、カタログを見てはあこがれる純情な毎日でありました。20代の初めのそんなある日、ギターやキーボードの雑誌でエフェクターの制作記事を見かけ、ビンボー人の執念とは恐ろしいもの、前後の見境もなく秋葉原に直行し、マッド・エクスペリメントの始まりとあいなったわけです。

当初の製作物のうち、いちおう音の出るものもあったとはいえ、一部は音のかわりに煙を出し、コンデンサーが爆竹のかわりになったりもしました。そしてその他はほとんど、なにより恐ろしい沈黙を守っていたのです。

秋葉原へのお百度参りは回を重ね、みんなから定期が必要とまで言われながらも、機械の作製は遅々として進まず、いつのまにか「電気いじりは日常」というアリ地獄ならぬ電気地獄にひきずりこまれてしまいました。友人を巻き込み、私財をなげうってのこの壮大な試行錯誤の日々は、またたく間に生活をおびやかしていきました。

そんな時、たまたま友人といっしょにDNR(ダイナミックノイズリダクション)を作っていると、ノイズを取るどころかほとんどハム(雑音の一種)発生器となった基盤の上で、ぼくらのシグナルトレイサー(回路の信号をチェックする機械)はなんと、ふいに飛び込んできたラジオ放送をキャッチしていました。

しかも、装置の電源を切った後でさえ、その放送はとぎれることがなく、音楽や会話を聞かせつづけたのです。一人になったアトリエで、ぼくはその省エネルギー的遊びをつづけました。こんなにラジオをまじめに聞いたことがはたしてあったでしょうか。イヤホーンから聞こえてくる小さな声の放送に、はじめてセンチメンタルで美しい、そして空が急に広くなりそよ風の吹いてくるような、あの電波少年たちの想いを受け取ったのだという確信をぼくは抱きはじめたのです。

小林健二が20代のはじめ頃に作った音楽のエフェクターの一つ。

小林健二が20代のはじめ頃の自作機材。

original-effector from Kenji Channel on Vimeo.

1930年当時の鉱石検波理論

・熱電流説―一検波器の回路の中に高周波電流が流れるたびに、細い金属と小さな鉱石との接点において局部的に熱が発生することによる、というものです。この抵抗熱と熱電流によって接点の温度が変化し、それによっておこる抵抗の増減が高周波交番電流に作用し、電流がピークを迎えたとき、発電量と抵抗値が増えることによって、タイミングが合った部分の交流分の片方が流れにくくなり、整流されるというものです。

・表面酸化説一一上記のものとだいたい同じようなものですが、やはり高周波電流によって温められた接点の金属がそのつど酸化することで、金属どうしの接点抵抗が変化し、整流されるというものです。

・熱起電力発生説ーー図のように2種の金属、たとえば鉄と銅をねじりあわせたものに、ヘッドフォンをあてて金属のねじったところをろうそくなどの火であぶると、ガリガリッと音が聞こえてきます。これは2種の金属に熱を与えたことで、電子がはじき出され、電流をおこしてヘッドフォンで聞こえたのです。これと同じように、高周波電流によって温められた2種の金属の熱起電力によって、音として検出できる低周波電流に変化するというものです。

熱による起電力の発生

熱による起電力の発生

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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KENJI KOBAYASHI

 

鉱石と光

鉱石と光

鉱石検波器には検波できること以外にも、いくつかの面白い性質があります。そのひとつは光による起電効果です。これは簡単に言えば、鉱石検波器に光を当てるだけで、電池のように電圧が発生するというものです。

このことは実験によって容易に確かめられます。鉱石検波器の鉱石につながる端子と金属の線につながる端子にテスターのリードポイントを当てて、直流電圧(D.C.V.)の一番低いレンジに合わせます。そして鉱石検波器に光を当てたり遮ったりしてみるとメーターが触れるのが確認できます。

ゲルマニュームダオードで実験

ゲルマニュームダオードで実験

ゲルマニュームダイオードで実験の様子。テスターのデジタル数字の変化。

ゲルマニュームダイオードで実験の様子。テスターのデジタル数字の変化。

もうひとつの方法は、検波器のさっきと同じところにクリスタルイヤフォンかハイインピーダンスのヘッドフォンを当てておいて、鉱石の真上あたりで影をせわしなく動かしてみます。カリッと音がするでしょう。この方法であまりうまく聞こえない場合、もう少し手間はかかりますが電圧の発生をもっとはっきりした音として確認する方法があります。たとえばプロペラをつけた小さなモーターやちょっと太めの輸ゴムなどを用意します。そしてプロペラを回したり、ピンと張ったゴムを弦のように指ではじいたりして、規則的に早く動く影を作り鉱石の上のところに落ちるようにします。するとブーンとかポンポンとか音が聞こえると思います。影の動くスピードが周波数を決めるようにして交番電流を作り、それが受話器で音に変わって聞こえるのです。

これはまた、ゲルマニウムダイオードでも確かめることができます。昔風のガラスの部分の大きなダイオードほど効果は大きいですが、テスターの感度が高く、光が強ければ現在のものでも反応が出ると思います。ただなるべく熱は伝えないように朝の日光などで実験するとよいでしょう。

また鉱石によってトランジスターのような鉱石増幅器を作ることも、実験上なら不可能ではないと思います。これは鉱石に2本の針を紙1枚のスペースをあけて立てて実験します。詳細は長くなるので省きますが、これによって安定した作動をする鉱石増幅器ができたとしたら、オールクリスタルスーパーラジオでスピーカーが鳴るような受信機ができるかもしれません。

電子工作であると便利なテスターなど。

L・Cメーター

実際工作をしていく上で、部分品まで自作する場合、コンデンサーの容量やコイルのインダクタンスを計算式によって割り出してゆくのはかなりめんどうなことですし、またあまり高い精度は望めません。そんな時にL・Cメーターといわれる一種のテスターがあると面倒な計算から解放されますし、部分品をつくっている途中でも容量やインダクタンスを実測したりできるので、安心して工作に熱中できます。一見できそこないに見えるコンデンサーでも、テスターにデジタルで数字が表示されると妙にりっぱに見えるものです。それに工作者の不安を取り除き、カット&トライ(切ったり貼ったりして調整しながら作ること)を助けてくれます。ですから計算式によってコンデンサーやコイルのだいたいの大きさや作り方をイメージしておき、実作に入ってからはL・Cメーターによってそれぞれの定数まで追い込んでいけるようにすれば、 一段と工作も深まっていくと思います。

L・Cメーターはあまり使わない場合には高価なものと感じられることもあるかもしれませんが、電子工作をする上では、通常のテスターとともにとでも役に立つものです。

左はL・C・Rメーターで、コイルのインダクタンス、コンデンサーのキャパスタンスを直読で計れ、またRのレンジではインピーダンスを計れます。右はDMTデジタルマルチテスターと呼ばれ、直流抵抗、直流の電流と電圧、交流の電流と電圧などが計れるのでこれもまた便利です。

左はL・C・Rメーターで、コイルのインダクタンス、コンデンサーのキャパスタンスを直読で計れ、またRのレンジではインピーダンスを計れます。右はDMTデジタルマルチテスターと呼ばれ、直流抵抗、直流の電流と電圧、交流の電流と電圧などが計れるのでこれもまた便利です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論](関連記事)

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KENJI KOBAYASHI

自作のヴァリアブルコンデンサー

ヴァリコンは簡単な構造のものでもちゃんと機能します。

左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

自作のヴァリアブルコンデンサー。左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーですが、このようにするとマイカ本来の性能はあまり期待できません。とくにスライドさせる時にマイカ同士がこすれるため、ひっかかってはがれないようにニスなどで固めておく必要があります。ニスは高周波ニスが最高ですが、ニトロセルロース系のラッカーなどで十分です。なるべく顔料などの人らない透明なものがよいでしょう。特にこのコンデンサーについては性能よりもきれいなものにしてみたかったので、ぼくはマイカを使いました。内部の導体は錫の箔を使いました。これもライデン瓶などに使われたように昔からの材料で、本来なら別に導体ならば何でもいいわけです。ただアルミ箔とくらべても革のようにしなやかで、アルミでは不可能なハンダ付けができるという利点があります。そしてなにより錫箔の落ち着いた銀色が気に入っているのです。

こういったいろいろな鉱石やニッケルやタングステンなどの金属を探しに鉱物専門店や特殊金属の店を巡るのも日常とはちょっと違って、未知の空間と出会うようで素敵です。こんなところにも工作をするよろこびがあるのかもしれません。

ここで絶縁材料について触れておきます。

普通の工作全般で使われる材料以外で、電気に関する特別なものとしては、絶縁材料が挙げられます。本来鉱石ラジオの製作だけを考えると、電庄も電流も大きくないので、厳密な指定はありません。ただ、日頃あまり手にしない材料ですが、どういうわけか美しいものが多いので、いろいろ試してみるのもおもしろいでしょう。

代表的な3種について説明します。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト(bakeute)一一板状のものは0.5mm~ 3cm厚くらいが普通で、大きさもいろいろすでにカットしたものを売っています。筒状(パイプ)や丸棒も直径2mm~10 cmくらいまであります。色は少々透過性のある黄・黄褐色・茶・こげ茶とあり、成形から時間が経つほど色は濃くなります。またこれら生地色以外にも製品として、ターミナルの頭やツマミなどには色の付いたものもあります。また布入リベークといって、なかに繊維を入れて普通のベークライト板より強度を高めたものもあります。数はあまり多くありませんが、黒ベーク板という黒色のものもあります。ベークライトは本来商品名で、材質としてはフェノール樹脂と呼ばれ、石炭酸とホルムアルデヒドにアルカリを触媒として熱を加えて作ったものです。

エボナイト(ebonite)一一前に述べたベークライトと混同している人もあるようですが、この2つはまったく違うものです。エボナイトは一種の硬質ゴムで、生ゴムに加硫といって硫黄を加えて作ります。色は黒色しかなく、その黒檀ebonyのような色から名前がついたと言われています。ただ経年するとエボ焼けといって、独特の緑がかった褐色になることがあります。形状は板、丸棒とありますが、ベーク板ほどはサイズに幅はありません。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

マイカ(雲母mica)一一空気をはじめとして絶縁物はたくさんありますし、技術的に簡単と言うなら紙やセロファンもいいと思いますが、なかでもマイカは工作上美しいし、性能上も他を圧しているようにぼくは思います。

雲母は天然鉱物で鉱物学上これに属するものには本雲母群、脆雲母群等があって、実用に供されるのは本雲母群のものです。このなかには大きくわけて7種類があります。

白雲母muscovite、曹達雲母paragonite、鱗雲母lepidolite、鉄雲母lepidomelane、チンワルド雲母zinnawaldite、黒雲母biotite、金雲母phlogopiteで、日本画などで雲母末のことをきらと言うように、まさにキラキラしていてぼくの好きな鉱石の一つです。雲母はインド、北アメリカ、カナダ、ブラジル、南米、アフリカ、ロシア、メキシコ等が有名ですが世界各地で産出します。日本ではあまりとれないのでもっぱら輸入にたよっています。白雲母は別名カリ雲母といって無色透明のものですが、黄や緑や赤の色を帯びることがあります。そのうちの赤色のマイカはルビー雲母rubymicaとも呼ばれ、 とても美しいものです。比重は276~4.0くらい、硬度は28~ 3.2です。

金雲母はマグネシア雲母、琥珀雲母amber micaとも呼ばれ、比重は275~ 2.90、硬度は25~27、少々ブラウン色に透きとおり、やはりとでもきれいです。

雲母を工作に使用する際には、むやみやたらとはがさないで、最初に半分にしてそれぞれをまた半分にするというように順にはがしてゆくと厚さをそろえやすく、好みの大きさに切る時は写真などを切断する小さな押し切りでよく切れます。厚いうちに切断しようとすると失敗することが多いので、使用する厚さになった後でカットするようにした方がよいでしょう。なお工作の際、マイカの表面に汗や油をつけないように気をつけましょう。

このほか、ガラスエポキシ、ポリカーボネイトなどがあります。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[見えない世界へ通じる魅力]ラジオ工作

ぼくは電子工作が好きなので秋葉原の部品屋によく出かける。家電などを扱う表通りに対して、その場所は電飾もなく、昔の「ヤミ市」とはこんな感じかと思わせるところが多い。タタミ一畳ほどのブースのような小さな店には、数え切れない電子部品が並べられていて、それと同じ数の夢まで詰め込まれているようだ。世の中に二つとないこんな不思議な世界を、ちょっと興味のある方は観光してみたらどうだろう。

東京秋葉原ラジオデパートのショップガイド、1994年のもので、CQ出版社が出している。この建物の中に電子部品を扱うブースがひしめいている。

東京秋葉原ラジオデパートのショップガイド、1994年のもので、CQ出版社が出している。この建物の中に電子部品を扱うブースがひしめいている。

しかしながら、この「電子人生横丁」に入る人の数も年々減ってきていると聞く。確かに最近、ぼくもこの場所で子ども達と出会わなくなったと思う。

そんなわけだからラジオ工作の雑誌は今ではほとんどが廃刊になったり、オーディオ雑誌へと変貌していたりするというのもうなずける。「 ラジオの製作」はそんな中、よくぞ続いているものだと感心する。早速7月号を見てみると、まず別冊付録が挟まっていて、「組み立てようぼくだけのパソコン」とある。

「ラジオの製作」電波新聞社

「ラジオの製作」電波新聞社

「ラジオの製作」1998年7月号

「ラジオの製作」1998年7月号

お金さえ出せば何でも手に入る時代になっても、かつての工作少年を思い出すようで面白い。記事には「ポケット・ラジオの製作」「タッチ・ランプの製作」「ステレオアンプの製作」と電子工作が9種も載っている。余暇の過ごし方がイマイチと感じる人がいるなら、これらの実用性?もある電子工作にふけってみるのも一考だろう。回路図が読めなくても作れるような配慮は嬉しい。

「エレクトロニクス入門」というコーナーでは、デジタル回路について、一般読者にもわかりやすい連載もある。日頃「もう少し電気に強かったら」と嘆いている方には打って付けではないだろうか。最近は「理科離れ」「手を動かさない日本人」とか言われるが、同じフレーズは戦前の本にも顔を出していた。基本的にはあまり変わっていないのだから、落ち込む前にこんな雑誌を覗いてみたらどうだろう。ひょっとするとヤミツキになるかもしれない。

電子の世界というと、難しい数式が支配する「合理性の親玉」というイメージがあるようだが、「ラジオ工作」に代表される電子工作について言うならば、それは当てはまらないと思う。むしろ詩の世界に通じるものがあって、その向こう側に、電化社会の便利さに追いやられてしまった大切なものを発見できるかもしれない。

本来、電子も電波も目には見えないものである。しかしかつて、幾多の少年たちの夢や期待を育んだ透明な通信の世界は、現代に生きるぼくたちに、便利なものだけでは見つけられないものがあることを伝えているような気がする。

小林健二

昭和20年代の頃には「ラジオ」とつくタイトルの雑誌が、いろいろ出版された。

昭和20年代(1950年頃から)の頃には「ラジオ」とつくタイトルの雑誌が、いろいろ出版された。

大正時代の電気の雑誌。鉱石ラジオに関する記事もあり、「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」を書くにあたって、古書店巡りに明け暮れた頃、何冊か昔の本や雑誌に巡り会えた。そのうちの二冊の雑誌。

大正時代の電気の雑誌。鉱石ラジオに関する記事もあり、「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」を書くにあたって、古書店巡りに明け暮れた頃、何冊か昔の本や雑誌に巡り会えた。そのうちの二冊の雑誌。

「ラジオの製作」は1954年に創刊、1999年に休刊になりました。また秋葉原の東京ラジオデパートの中では、現在営業していないお店もあります。

*1998年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

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小林健二と鉱物標本

小林健二は海外に旅行するときも、必ず自然史博物館には立ち寄る。ドイツに住んでいる友人を訪ねた時におとずれたボンにある博物館の外観。

小林健二は海外に旅行するときも、必ず自然史博物館には立ち寄る。ドイツに住んでいる友人を訪ねた時におとずれたボンにある資料館の外観。

いつ頃から石を好きになったかって?

うーん、小学校に入ったくらいにすでに石みたいなものは好きで拾っていたんだ。でも、それらは大抵さざれたビンのかけらや色ガラスだったかもしれない。鉱物の標本として少しづつおこづかいを貯めて手に入れたものは、小学校4-5年生頃だったと思う。でも、その時はまだビー玉や、化石と信じていた貝殻なんかと同じように扱っていたよ(笑)。

中学になって神保町の古本屋によく出かけるようになった頃、すずらん通りの中ほどに高岡商店というのがあって、そこで水晶や蛍石なんかを見たり集めたりしていた、あと当時は、上野の国立科学博物館の売店でも鉱物標本は少しずつ充実しはじめていたと思う。でも、今の鉱物フェアのようにカラフルで誰が見ても綺麗な標本って少なかった。

小林健二が中学ー高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作されたケースと標本たち。

小林健二が中学ー高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作されたケースと標本たち。

18歳くらいだったと思うけど、千駄木に「凡地学研究所」というのを知人に教えらたのが鉱物標本と離れられなくなったきっかけってことかな。「凡地」は当時細い路地にあって、今にも壊れそうな、靴を脱いで上がる木の階段の2階にあった。そこはぼくにとって夢の世界だった。高価で手に入るものばかりではなかったけど、見ているだけでも許してもらえて、その後溶接のバイトなんかでお金が入ると思わず飛んで行ったりしたよ。そういえば、その頃「凡地」に、黄鉄鉱化したアンモナイトで内側がオパール化した標本があった。生物の有機体が永遠の結晶に置き換わっていたんだ。声も出せずに見つめていたことがあったっけ。

やがて古典画法に興味を持ち始め、藍銅鉱(らんどうこう)や孔雀石、石黄やラピスラズリ、辰砂(しんしゃ)などの顔料鉱物が気になった時期もあって、友人と下仁田まで鶏冠石(けいかんせき)を掘りに行ったりして、やがて13-14年前からツーソンやミュンヘンのようなミネラルショウが日本でも開かれると聞いた時にはワクワクした。

一般の人でも鉱物標本に触れる機会が多くなったのは素晴らしいことだと思う。東京では6月に新宿、12月には池袋でミネラルショウもあるし、楽しみだよね。

どんな石が好きかって?

子供の頃から透質な結晶が好きだったことは今も変わってないけれど、鉱石ラジオをつくるにあたって、元素鉱物や硫化、酸化鉱物などに触れたり、顔料鉱物と出会った時も魅了されたよね。

ぼくは思うんだ。天然の世界にあるものって、どんなものでもそれぞれの魅力を持っていて、きっと彼らを見るぼくらの方が、何かに気づけて出合えたということじゃないのかな。

小林健二

ドイツ・ボンの博物館は、昔(健二が小学ー中学生の時に通っていた頃)の上野にある国立科学博物館の鉱物標本展示室にどこか似ている、と話す。

ドイツ・ボンの資料館は、昔(健二が小学ー中学生の時に通っていた頃)の上野にある国立科学博物館の鉱物標本展示室にどこか似ている、と話す。

ドイツ・フランクフルトの鉱物標本展示室。

ドイツ・フランクフルトの鉱物標本展示室。

ドイツ・ミュンヘンの自然史科学博物館の鉱物標本展示室。

ドイツ・ミュンヘンの自然史科学博物館の鉱物標本展示室。おそらく岩塩か何かなのであろう、さらにドーム型のケースに入れられている標本もある。

ドイツ・デュッセルドルフの資料館の鉱物標本展示スペース。

ドイツ・デュッセルドルフの資料館の鉱物標本展示スペース。

イタリア・ミラノにて。シチリア産の「硫黄」は有名な標本。

イタリア・ミラノにて。シチリア産の「硫黄」は有名な標本。

*1999年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。ミネラルショウに関しては最近は知名度も上がり、多くの愛好家によって画像などもアップされていると思われるので、ここでは省いています。また、文中の「高岡商店」や「凡地」は現在はお店はそこに存在していません。

[鉱物顔料の世界と小林健二]

鉱石ラジオの検波に使える鉱物のいろいろ

[地球に咲くものたち]小林健二の鉱物標本室より

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[自作鉱石検波器の解説]

鉱石ラジオの部品の中でも、鉱石検波器自体は重要な役割を持っているので、感度を上げるための工夫や機械的安定性も合理的に設計され製作されていたことは言うまでもありません。

そこでぼくは当時(鉱石ラジオが使用されていた大正から昭和の初め頃)もなかったしそれ以降も登場しなかった、言うならこの星で最初と思われる鉱石検波器を発表しようと思います。このように大きく出たところでとりわけ何かが起こるわけではないのですが、いろいろ工作や実験をしている最中に何かを見つけたような気持ちになるとそれほどうれしいものなのです。そんなわけでぼくなりに発見のあった特殊(きっと他にはないという意味で)鉱石検波器を紹介します。

天然系検波器

まずは鉱石の形をそのままに検波器としたものです。ぼくは鉱石の色や形をなるべくそのままに、機能を持たせたいと考えていろいろ実験をしました。実験中はよいのですが、その感度のいい状態を継続して安定させるのはけっこう難しいものでした。

もちろんさぐり式検波器の場合、いかにして針を鉱石の敏感なところにいい接触状態といい圧力をもって安定しつづけるかがいつも問題になります。このようなむき出しの鉱石を使う検波器でいちばん問題となる点は、鉱石自身と導体部分の接点抵抗をいかに小さくし、またそこにコンデンサー成分をなるべく作らないかということです。とりあえずさぐり式の鉱石を固定する方法を用いてハンダで接触面を大きくしようとしても、大きな結品の標本の場合だとどうしても温度の高い状態を長くしないとならないので、その熱が鉱石の感度を下げてしまうらしいのです。

そこでぼくが思いついたのは低融点金属でした。この金属を使うとその熱の問題をクリアできるばかりか作業性も高く、鉱石の表面によくのびてとでもよくくっつき、コンデンサー成分も作りません。なにしろ75℃ 前後で工作できるわけですから、紙などで角型やコーン型にした筒の先を切り、その先をあらかじめあたためた鉱石のうらから当て溶けたものを流し込めばよいのです。

天然系検波器1の検波器はそのようにして作りました。またこの4点のものは結晶の形がおもしろいというだけでなく、本来なら不向きのところがあるのです。たとえば中央上の磁鉄鉱とその下の赤鉄鉱です。磁鉄鉱はもともと検波器の素材のひとつに上げられるものですが、この標本のように天地5 cmくらいのわりに大きなものになるととでも直流抵抗が高くなってしまい、検波どころか電流はほとんど流れてくれません。また赤鉄鉱のほうも同じで、板状結晶のこの標本の場合、埋め込んでしまうわけにもいかないので真鍮の厚い板に低融点金属で接着してあります。

この2つのようなとても高抵抗な鉱石は導体との接着面の面積を大きくしたり、見かけの状態ではわからないように導体の部分が針の接点のところに近くまで寄ることで抵抗を低くして、大きな結晶のままや結晶状態を観察しながら検波することが可能となります。

また左に自然銅、右に入エビスマスの標本を使ったものがありますが、これらは逆にほとんど導体なので検波にはむずかしいタイプですが、このように台に付けておくと、うすい硫酸や修酸、あるいは二酸化セレン(ビスマスの場合)による弱い腐食によって、酸化もしくは亜酸化皮膜ができて、ときとしてうまい整流作用を持つのでそれによって検波をすることもできるのです。

 

天然系検波器 1 中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器 1
中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器2はまるで鉱物標本そのままです。水晶のところどころに黄鉄鉱の小さな結晶が共生しているものですが、全体に目立たないように硝酸銀などでうすくメッキをかけ更に使用する前に伝導性の電解質でうすくしめらせると、本来絶縁体である石英の上にあるのにちゃんとこの黄鉄鉱が検波をしてくれます。

このような検波器はもちろん実用というよりは実験としての楽しみですが、普通の鉱石標本からまるで音が聞こえてくるようでとでも不思議な体験ができると思います。

天然系検波器 2 (W15cm)

天然系検波器 2
(W15cm)

透過性検波器

この美しい鉱物はどれも光を透過します。手前の細長い鉱物は、ポロナイトと呼ばれるポーランドで作られた人工結晶です。またその右上の鉱物は、ジンサイトと名付けられて最近鉱石ショーで時々見かける鉱物です。おそらくこれも人工だと思うのですが、天然鉱石の持つ一種の有機性(変な表現ですが)があってとでも魅力的です。確かにこんな単結品の紅亜鉛鉱が東欧の鉱山から出てきたら大変なことだと思います。

本来、宝石や宝飾品のために作られたと聞いていますが、成分はまさに純度の高い酸化亜鉛です。ですからひょっとしたらと思い、まずはテスターを当てると導通がありました。このように透過性の鉱物に電気が通るというのはわかっていても、ぼくには驚きで、さっそく検波の実験をすると確かに検波できるばかりか、紅亜鉛鉱単体に針を立てるよりもはるかに感度が安定しているのです。

写真左の透明なうすい緑色の鉱物は、同じジンサイトの標本のところにあったものです。ちょっと見るとぶどう石prehniteと見まごうような美しい標本で、これも検波できるのです。確かに紅亜鉛鉱と言われても、その赤みは不純物として入っているマンガンによるものと言われていますから、考えてみれば不思議ではありませんがやはりどきどきしてしまいました。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

化石式検波器

この写真は貝とアンモナイトの化石です。この二枚貝は左がparaspirifer bownockeriで右がmediospirifer audaculusです。約3億8千万年前の化石で、中央のアンモナイトは約1億8千万年前のものです。まともに考えると気が遠くなるほどの過去の生物ですが、写真はその年月とともに化石となる際、部分的に黄鉄鉱化した標本です。

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

そして作ってみたのがこの検波器で、化石式検波器fossil detectorとでも呼べるものと思います。実際は黄鉄鉱が検波している訳ですが、数億年もの昔の生物が変化したものから音楽や人の声が聞こえてくると想像してみてください。不思議な心持ちになりませんか?

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

銀成硝子検波器

一種の酸化覆膜にも整流作用を持つnl能性があるとすると、まだまだ感度の善し悪しを考えなければ検波できるものがいろいろとあるのではと思い、ぼくは身近にあるものをかたっばしから実験してみました。錆びた金属、導体性の金属鉱石、 ドアのノブ、ナイフ、はさみ……。いい加減やりつくしたころに見つけてドキドキしたのが、ハーフミラーです。これは金属の蒸着メッキによって作られます。そして実験の末、形にしたのがこの写真の検波器です。ときに銀色にまた半透過性へと移行するその質感は美しく、また不思議な感じを起こさせます。ホルダーは錫と銀とアンチモンによって作りました。

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

極光水晶検波器

そしてこのハーフミラーを使った銀成硝子検波器は、ぼくの作ったもののなかでもっとも美しい極光水晶検波器を作るきっかけとなりました。

この写真はその極光水晶検波器auroracrystal detectorです。このオーロラクリスタルは最近の技術によって装飾用として作られたものです。おそらく二酸化チタンのうすいメッキによるもので、その鍍膜厚を変えることでいろいろなタイプができると思われます。

この人工の加工を受けた鉱石は、それまでぼくにとってとりわけ魅力的なものではありませんでした。しかし、透明でときどき反射する光が淡いピンクやブルーに照り返るこの結晶石によって検波ができたときには本当にうれしく、鉱石受信機によって初めて放送を聞いた昔の工作少年たちに、こんな検波器で作ったラジオを見せることができたらとしばらく感慨に耽ってしまいました。もっとも、少々手を加えないと実用に十分な感度はとれませんが、このくらいは秘密にしておきましょう。

極光水晶検波器 左 H7cm

極光水晶検波器 左 H7cm

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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