[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論]

鉱石式送信機

鉱石ラジオが全盛だったころ、鉱石ラジオの受話器に話しかけると近所のラジオに混信してその声が聞こえるという報告が当時の雑誌にいくつか紹介されています。これはもしかしたら鉱石式受信機が送信機になったということでしょうか。

ひとつにこの現象はアンテナをコンデンサーを介して電灯線から取っていたために起こったのではないかと説明されていますが、電源もない受信機から送信ができるとはおもしろいことだと思います。ぼく自身も本当にこの不思議な現象を何度か実験で確かめていますが、この事実を安定して作動させることはとても難しいと思います。そこでぼくは鉱石式電波発生器を使って簡単な信号を送る実験をしてみたいと思います。

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

ジャンク屋で手に入れたちょっと大型のライターなどの発火装置

鉱石式電波発生器とはいったいなにかというと、ライターなどの発火装置のことです。上の画像のものは、おそらくガス給湯器の発火装置なのでしょう。これらはピエゾ圧電素子を利用したものでボタンを押すとレバーとスプリングの機構によって中にある圧電素子をハンマーが強くたたいて、高い電圧が発生する仕組みになっています。この素子から出ている電線の端を導体に近づけると4~ 5 mmのギャップで火花が出ます。人体に触れるとビリッと衝撃を受けます。この線を空中線に接続してボタンを押すと、普通のAM受信機の局間などでパチッパチッという音を受信します。これは一種の火花送電です。

そしてもちろん鉱石ラジオでも受信ができます。

(ここで小林健二が電気工作に熱中するきっかけとなる出来事を、彼の著書「ぼくらの鉱石ラジオ」から拾ってみました。)

ぼくにとって、電子工作につながる道は意外なところから開けました。

10代のころから高じてきた音楽の趣味から、多重録音をしていろいろ曲を作っていたのですが、そんな時にいつもエフェクター(音質などをいろいろと変える機械)がほしくて、でもお金がないので、カタログを見てはあこがれる純情な毎日でありました。20代の初めのそんなある日、ギターやキーボードの雑誌でエフェクターの制作記事を見かけ、ビンボー人の執念とは恐ろしいもの、前後の見境もなく秋葉原に直行し、マッド・エクスペリメントの始まりとあいなったわけです。

当初の製作物のうち、いちおう音の出るものもあったとはいえ、一部は音のかわりに煙を出し、コンデンサーが爆竹のかわりになったりもしました。そしてその他はほとんど、なにより恐ろしい沈黙を守っていたのです。

秋葉原へのお百度参りは回を重ね、みんなから定期が必要とまで言われながらも、機械の作製は遅々として進まず、いつのまにか「電気いじりは日常」というアリ地獄ならぬ電気地獄にひきずりこまれてしまいました。友人を巻き込み、私財をなげうってのこの壮大な試行錯誤の日々は、またたく間に生活をおびやかしていきました。

そんな時、たまたま友人といっしょにDNR(ダイナミックノイズリダクション)を作っていると、ノイズを取るどころかほとんどハム(雑音の一種)発生器となった基盤の上で、ぼくらのシグナルトレイサー(回路の信号をチェックする機械)はなんと、ふいに飛び込んできたラジオ放送をキャッチしていました。

しかも、装置の電源を切った後でさえ、その放送はとぎれることがなく、音楽や会話を聞かせつづけたのです。一人になったアトリエで、ぼくはその省エネルギー的遊びをつづけました。こんなにラジオをまじめに聞いたことがはたしてあったでしょうか。イヤホーンから聞こえてくる小さな声の放送に、はじめてセンチメンタルで美しい、そして空が急に広くなりそよ風の吹いてくるような、あの電波少年たちの想いを受け取ったのだという確信をぼくは抱きはじめたのです。

小林健二が20代のはじめ頃に作った音楽のエフェクターの一つ。

小林健二が20代のはじめ頃の自作機材。

original-effector from Kenji Channel on Vimeo.

1930年当時の鉱石検波理論

・熱電流説―一検波器の回路の中に高周波電流が流れるたびに、細い金属と小さな鉱石との接点において局部的に熱が発生することによる、というものです。この抵抗熱と熱電流によって接点の温度が変化し、それによっておこる抵抗の増減が高周波交番電流に作用し、電流がピークを迎えたとき、発電量と抵抗値が増えることによって、タイミングが合った部分の交流分の片方が流れにくくなり、整流されるというものです。

・表面酸化説一一上記のものとだいたい同じようなものですが、やはり高周波電流によって温められた接点の金属がそのつど酸化することで、金属どうしの接点抵抗が変化し、整流されるというものです。

・熱起電力発生説ーー図のように2種の金属、たとえば鉄と銅をねじりあわせたものに、ヘッドフォンをあてて金属のねじったところをろうそくなどの火であぶると、ガリガリッと音が聞こえてきます。これは2種の金属に熱を与えたことで、電子がはじき出され、電流をおこしてヘッドフォンで聞こえたのです。これと同じように、高周波電流によって温められた2種の金属の熱起電力によって、音として検出できる低周波電流に変化するというものです。

熱による起電力の発生

熱による起電力の発生

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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KENJI KOBAYASHI

 

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