「テレビ=テレビジョンには、二つの意味がある。一つは1928年に放送が始まり、今ではどこの家庭にもある放送を受信する機械。もう一つは、もっと広い意味の、テレ(遠隔)ビジョン(画像)」
アーティスト小林健二氏は、そんな遠方からの映像を結晶させたような美しい作品をたくさん作っている。氏のアトリエはまるで錬金術の工房のようで、鉱物の標本や、使い込まれたヨーロッパの工具、天井まで旧仮名遣いの本がぎっしり並ぶ本棚、などなどがあり、暗がりには猫が潜んでいた。そこで、4つの作品を見せてもらった。
[IN TUNE WITH THE INFINITE-無限への同調]
レトロなデザインの箱の中に青い土星がゆっくり回転し浮かんでいる作品。土星の輪の傾きも変化する。
「癒しという言葉はそんなに意識していないけれど、ひっそり部屋の中において、これを見ていると何か安心するという話を何回か聞いたことがある。」
[青色水晶交信機-Blue Quartz Communicator]スイッチを入れると、モールス信号のようなツツツーという音が聞こえ、箱の中のクリスタルの内部に灯る光も同調して明滅する。
「ここに(箱の中を開けて)微量な放射線を放出する小さなウラニナイトがあって、ガイガーカウンターの音を信号に変換して鳴らしている。耳がモールス信号に慣れている人だと、音の中に意味がわかる組み合わせを聴くこともある。」
何万年も昔に生まれた石のつぶやきが通信されてくるみたいだ。
「あと(パタンと箱を閉じて)、箱の中に機械の部分があったけど、、クリスタルは見えなかったね。でも閉じると、機械ではなくクリスタルしか見えないでしょう?」
作品上部の窓からは見えない機械部分が、箱を開けると見える。
Blue-Quartz-Communicator from Kenji Channel on Vimeo.
[鉱石式遠方受像機-Crystal Television]
箱の中に納められたユーレキサイト(通称テレビ石)という鉱物の表面に、映像が写しだされる。ボウッと霞む白い石の表面に映ると、いつの時代の映像かわからなくなる。作品全体、アンテナといい箱の形といい、最も古いテレビのスタイルを踏襲している。音もエフェクトされている。
「なんとなく過去からの放送を見ているみたいでしょう。ぼくなんかもそうだけど、昔のテレビを知っている人なら、子供の頃見ていた放送が見えるかもしれない。」
Crystal-Television from Kenji Channel on Vimeo.
[遠方結晶交信機-Crystal Channel Communicator]
2台で一対になっている。展覧会では離れた二つの会場を結んで、お互いに映像を映し出す。テレビ電話みたいなものだが、映像がクリスタルに投影されているのではなく、クリスタル内部に結像しているのが美しい。未来を映す魔法の水晶のよう。通信や放送の専門家ほど首をひねるという。
「H・G・ウエルズの小説『卵型の水晶球』のようなものを作りたかったんだ。」
「昔のテレビもそうだけど、たとえ情報量が少なくても、映像を注視する、気持ちを近づけて交信する。そういうことが、いろんなビジョンを見せてくれたりする。遠くの世界が何かの箱を通じて見える、結像する面白さがテレ・ビジョンの魅力だね。」
Crystal-Channel-Communicator from Kenji Channel on Vimeo.
*2004年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。