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自作のヴァリアブルコンデンサー

ヴァリコンは簡単な構造のものでもちゃんと機能します。

左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

自作のヴァリアブルコンデンサー。左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーですが、このようにするとマイカ本来の性能はあまり期待できません。とくにスライドさせる時にマイカ同士がこすれるため、ひっかかってはがれないようにニスなどで固めておく必要があります。ニスは高周波ニスが最高ですが、ニトロセルロース系のラッカーなどで十分です。なるべく顔料などの人らない透明なものがよいでしょう。特にこのコンデンサーについては性能よりもきれいなものにしてみたかったので、ぼくはマイカを使いました。内部の導体は錫の箔を使いました。これもライデン瓶などに使われたように昔からの材料で、本来なら別に導体ならば何でもいいわけです。ただアルミ箔とくらべても革のようにしなやかで、アルミでは不可能なハンダ付けができるという利点があります。そしてなにより錫箔の落ち着いた銀色が気に入っているのです。

こういったいろいろな鉱石やニッケルやタングステンなどの金属を探しに鉱物専門店や特殊金属の店を巡るのも日常とはちょっと違って、未知の空間と出会うようで素敵です。こんなところにも工作をするよろこびがあるのかもしれません。

ここで絶縁材料について触れておきます。

普通の工作全般で使われる材料以外で、電気に関する特別なものとしては、絶縁材料が挙げられます。本来鉱石ラジオの製作だけを考えると、電庄も電流も大きくないので、厳密な指定はありません。ただ、日頃あまり手にしない材料ですが、どういうわけか美しいものが多いので、いろいろ試してみるのもおもしろいでしょう。

代表的な3種について説明します。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト(bakeute)一一板状のものは0.5mm~ 3cm厚くらいが普通で、大きさもいろいろすでにカットしたものを売っています。筒状(パイプ)や丸棒も直径2mm~10 cmくらいまであります。色は少々透過性のある黄・黄褐色・茶・こげ茶とあり、成形から時間が経つほど色は濃くなります。またこれら生地色以外にも製品として、ターミナルの頭やツマミなどには色の付いたものもあります。また布入リベークといって、なかに繊維を入れて普通のベークライト板より強度を高めたものもあります。数はあまり多くありませんが、黒ベーク板という黒色のものもあります。ベークライトは本来商品名で、材質としてはフェノール樹脂と呼ばれ、石炭酸とホルムアルデヒドにアルカリを触媒として熱を加えて作ったものです。

エボナイト(ebonite)一一前に述べたベークライトと混同している人もあるようですが、この2つはまったく違うものです。エボナイトは一種の硬質ゴムで、生ゴムに加硫といって硫黄を加えて作ります。色は黒色しかなく、その黒檀ebonyのような色から名前がついたと言われています。ただ経年するとエボ焼けといって、独特の緑がかった褐色になることがあります。形状は板、丸棒とありますが、ベーク板ほどはサイズに幅はありません。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

マイカ(雲母mica)一一空気をはじめとして絶縁物はたくさんありますし、技術的に簡単と言うなら紙やセロファンもいいと思いますが、なかでもマイカは工作上美しいし、性能上も他を圧しているようにぼくは思います。

雲母は天然鉱物で鉱物学上これに属するものには本雲母群、脆雲母群等があって、実用に供されるのは本雲母群のものです。このなかには大きくわけて7種類があります。

白雲母muscovite、曹達雲母paragonite、鱗雲母lepidolite、鉄雲母lepidomelane、チンワルド雲母zinnawaldite、黒雲母biotite、金雲母phlogopiteで、日本画などで雲母末のことをきらと言うように、まさにキラキラしていてぼくの好きな鉱石の一つです。雲母はインド、北アメリカ、カナダ、ブラジル、南米、アフリカ、ロシア、メキシコ等が有名ですが世界各地で産出します。日本ではあまりとれないのでもっぱら輸入にたよっています。白雲母は別名カリ雲母といって無色透明のものですが、黄や緑や赤の色を帯びることがあります。そのうちの赤色のマイカはルビー雲母rubymicaとも呼ばれ、 とても美しいものです。比重は276~4.0くらい、硬度は28~ 3.2です。

金雲母はマグネシア雲母、琥珀雲母amber micaとも呼ばれ、比重は275~ 2.90、硬度は25~27、少々ブラウン色に透きとおり、やはりとでもきれいです。

雲母を工作に使用する際には、むやみやたらとはがさないで、最初に半分にしてそれぞれをまた半分にするというように順にはがしてゆくと厚さをそろえやすく、好みの大きさに切る時は写真などを切断する小さな押し切りでよく切れます。厚いうちに切断しようとすると失敗することが多いので、使用する厚さになった後でカットするようにした方がよいでしょう。なお工作の際、マイカの表面に汗や油をつけないように気をつけましょう。

このほか、ガラスエポキシ、ポリカーボネイトなどがあります。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[見えない世界へ通じる魅力]ラジオ工作

ぼくは電子工作が好きなので秋葉原の部品屋によく出かける。家電などを扱う表通りに対して、その場所は電飾もなく、昔の「ヤミ市」とはこんな感じかと思わせるところが多い。タタミ一畳ほどのブースのような小さな店には、数え切れない電子部品が並べられていて、それと同じ数の夢まで詰め込まれているようだ。世の中に二つとないこんな不思議な世界を、ちょっと興味のある方は観光してみたらどうだろう。

東京秋葉原ラジオデパートのショップガイド、1994年のもので、CQ出版社が出している。この建物の中に電子部品を扱うブースがひしめいている。

東京秋葉原ラジオデパートのショップガイド、1994年のもので、CQ出版社が出している。この建物の中に電子部品を扱うブースがひしめいている。

しかしながら、この「電子人生横丁」に入る人の数も年々減ってきていると聞く。確かに最近、ぼくもこの場所で子ども達と出会わなくなったと思う。

そんなわけだからラジオ工作の雑誌は今ではほとんどが廃刊になったり、オーディオ雑誌へと変貌していたりするというのもうなずける。「 ラジオの製作」はそんな中、よくぞ続いているものだと感心する。早速7月号を見てみると、まず別冊付録が挟まっていて、「組み立てようぼくだけのパソコン」とある。

「ラジオの製作」電波新聞社

「ラジオの製作」電波新聞社

「ラジオの製作」1998年7月号

「ラジオの製作」1998年7月号

お金さえ出せば何でも手に入る時代になっても、かつての工作少年を思い出すようで面白い。記事には「ポケット・ラジオの製作」「タッチ・ランプの製作」「ステレオアンプの製作」と電子工作が9種も載っている。余暇の過ごし方がイマイチと感じる人がいるなら、これらの実用性?もある電子工作にふけってみるのも一考だろう。回路図が読めなくても作れるような配慮は嬉しい。

「エレクトロニクス入門」というコーナーでは、デジタル回路について、一般読者にもわかりやすい連載もある。日頃「もう少し電気に強かったら」と嘆いている方には打って付けではないだろうか。最近は「理科離れ」「手を動かさない日本人」とか言われるが、同じフレーズは戦前の本にも顔を出していた。基本的にはあまり変わっていないのだから、落ち込む前にこんな雑誌を覗いてみたらどうだろう。ひょっとするとヤミツキになるかもしれない。

電子の世界というと、難しい数式が支配する「合理性の親玉」というイメージがあるようだが、「ラジオ工作」に代表される電子工作について言うならば、それは当てはまらないと思う。むしろ詩の世界に通じるものがあって、その向こう側に、電化社会の便利さに追いやられてしまった大切なものを発見できるかもしれない。

本来、電子も電波も目には見えないものである。しかしかつて、幾多の少年たちの夢や期待を育んだ透明な通信の世界は、現代に生きるぼくたちに、便利なものだけでは見つけられないものがあることを伝えているような気がする。

小林健二

昭和20年代の頃には「ラジオ」とつくタイトルの雑誌が、いろいろ出版された。

昭和20年代(1950年頃から)の頃には「ラジオ」とつくタイトルの雑誌が、いろいろ出版された。

大正時代の電気の雑誌。鉱石ラジオに関する記事もあり、「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」を書くにあたって、古書店巡りに明け暮れた頃、何冊か昔の本や雑誌に巡り会えた。そのうちの二冊の雑誌。

大正時代の電気の雑誌。鉱石ラジオに関する記事もあり、「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」を書くにあたって、古書店巡りに明け暮れた頃、何冊か昔の本や雑誌に巡り会えた。そのうちの二冊の雑誌。

「ラジオの製作」は1954年に創刊、1999年に休刊になりました。また秋葉原の東京ラジオデパートの中では、現在営業していないお店もあります。

*1998年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

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[自作鉱石検波器の解説]

鉱石ラジオの部品の中でも、鉱石検波器自体は重要な役割を持っているので、感度を上げるための工夫や機械的安定性も合理的に設計され製作されていたことは言うまでもありません。

そこでぼくは当時(鉱石ラジオが使用されていた大正から昭和の初め頃)もなかったしそれ以降も登場しなかった、言うならこの星で最初と思われる鉱石検波器を発表しようと思います。このように大きく出たところでとりわけ何かが起こるわけではないのですが、いろいろ工作や実験をしている最中に何かを見つけたような気持ちになるとそれほどうれしいものなのです。そんなわけでぼくなりに発見のあった特殊(きっと他にはないという意味で)鉱石検波器を紹介します。

天然系検波器

まずは鉱石の形をそのままに検波器としたものです。ぼくは鉱石の色や形をなるべくそのままに、機能を持たせたいと考えていろいろ実験をしました。実験中はよいのですが、その感度のいい状態を継続して安定させるのはけっこう難しいものでした。

もちろんさぐり式検波器の場合、いかにして針を鉱石の敏感なところにいい接触状態といい圧力をもって安定しつづけるかがいつも問題になります。このようなむき出しの鉱石を使う検波器でいちばん問題となる点は、鉱石自身と導体部分の接点抵抗をいかに小さくし、またそこにコンデンサー成分をなるべく作らないかということです。とりあえずさぐり式の鉱石を固定する方法を用いてハンダで接触面を大きくしようとしても、大きな結品の標本の場合だとどうしても温度の高い状態を長くしないとならないので、その熱が鉱石の感度を下げてしまうらしいのです。

そこでぼくが思いついたのは低融点金属でした。この金属を使うとその熱の問題をクリアできるばかりか作業性も高く、鉱石の表面によくのびてとでもよくくっつき、コンデンサー成分も作りません。なにしろ75℃ 前後で工作できるわけですから、紙などで角型やコーン型にした筒の先を切り、その先をあらかじめあたためた鉱石のうらから当て溶けたものを流し込めばよいのです。

天然系検波器1の検波器はそのようにして作りました。またこの4点のものは結晶の形がおもしろいというだけでなく、本来なら不向きのところがあるのです。たとえば中央上の磁鉄鉱とその下の赤鉄鉱です。磁鉄鉱はもともと検波器の素材のひとつに上げられるものですが、この標本のように天地5 cmくらいのわりに大きなものになるととでも直流抵抗が高くなってしまい、検波どころか電流はほとんど流れてくれません。また赤鉄鉱のほうも同じで、板状結晶のこの標本の場合、埋め込んでしまうわけにもいかないので真鍮の厚い板に低融点金属で接着してあります。

この2つのようなとても高抵抗な鉱石は導体との接着面の面積を大きくしたり、見かけの状態ではわからないように導体の部分が針の接点のところに近くまで寄ることで抵抗を低くして、大きな結晶のままや結晶状態を観察しながら検波することが可能となります。

また左に自然銅、右に入エビスマスの標本を使ったものがありますが、これらは逆にほとんど導体なので検波にはむずかしいタイプですが、このように台に付けておくと、うすい硫酸や修酸、あるいは二酸化セレン(ビスマスの場合)による弱い腐食によって、酸化もしくは亜酸化皮膜ができて、ときとしてうまい整流作用を持つのでそれによって検波をすることもできるのです。

 

天然系検波器 1 中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器 1
中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器2はまるで鉱物標本そのままです。水晶のところどころに黄鉄鉱の小さな結晶が共生しているものですが、全体に目立たないように硝酸銀などでうすくメッキをかけ更に使用する前に伝導性の電解質でうすくしめらせると、本来絶縁体である石英の上にあるのにちゃんとこの黄鉄鉱が検波をしてくれます。

このような検波器はもちろん実用というよりは実験としての楽しみですが、普通の鉱石標本からまるで音が聞こえてくるようでとでも不思議な体験ができると思います。

天然系検波器 2 (W15cm)

天然系検波器 2
(W15cm)

透過性検波器

この美しい鉱物はどれも光を透過します。手前の細長い鉱物は、ポロナイトと呼ばれるポーランドで作られた人工結晶です。またその右上の鉱物は、ジンサイトと名付けられて最近鉱石ショーで時々見かける鉱物です。おそらくこれも人工だと思うのですが、天然鉱石の持つ一種の有機性(変な表現ですが)があってとでも魅力的です。確かにこんな単結品の紅亜鉛鉱が東欧の鉱山から出てきたら大変なことだと思います。

本来、宝石や宝飾品のために作られたと聞いていますが、成分はまさに純度の高い酸化亜鉛です。ですからひょっとしたらと思い、まずはテスターを当てると導通がありました。このように透過性の鉱物に電気が通るというのはわかっていても、ぼくには驚きで、さっそく検波の実験をすると確かに検波できるばかりか、紅亜鉛鉱単体に針を立てるよりもはるかに感度が安定しているのです。

写真左の透明なうすい緑色の鉱物は、同じジンサイトの標本のところにあったものです。ちょっと見るとぶどう石prehniteと見まごうような美しい標本で、これも検波できるのです。確かに紅亜鉛鉱と言われても、その赤みは不純物として入っているマンガンによるものと言われていますから、考えてみれば不思議ではありませんがやはりどきどきしてしまいました。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

化石式検波器

この写真は貝とアンモナイトの化石です。この二枚貝は左がparaspirifer bownockeriで右がmediospirifer audaculusです。約3億8千万年前の化石で、中央のアンモナイトは約1億8千万年前のものです。まともに考えると気が遠くなるほどの過去の生物ですが、写真はその年月とともに化石となる際、部分的に黄鉄鉱化した標本です。

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

そして作ってみたのがこの検波器で、化石式検波器fossil detectorとでも呼べるものと思います。実際は黄鉄鉱が検波している訳ですが、数億年もの昔の生物が変化したものから音楽や人の声が聞こえてくると想像してみてください。不思議な心持ちになりませんか?

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

銀成硝子検波器

一種の酸化覆膜にも整流作用を持つnl能性があるとすると、まだまだ感度の善し悪しを考えなければ検波できるものがいろいろとあるのではと思い、ぼくは身近にあるものをかたっばしから実験してみました。錆びた金属、導体性の金属鉱石、 ドアのノブ、ナイフ、はさみ……。いい加減やりつくしたころに見つけてドキドキしたのが、ハーフミラーです。これは金属の蒸着メッキによって作られます。そして実験の末、形にしたのがこの写真の検波器です。ときに銀色にまた半透過性へと移行するその質感は美しく、また不思議な感じを起こさせます。ホルダーは錫と銀とアンチモンによって作りました。

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

極光水晶検波器

そしてこのハーフミラーを使った銀成硝子検波器は、ぼくの作ったもののなかでもっとも美しい極光水晶検波器を作るきっかけとなりました。

この写真はその極光水晶検波器auroracrystal detectorです。このオーロラクリスタルは最近の技術によって装飾用として作られたものです。おそらく二酸化チタンのうすいメッキによるもので、その鍍膜厚を変えることでいろいろなタイプができると思われます。

この人工の加工を受けた鉱石は、それまでぼくにとってとりわけ魅力的なものではありませんでした。しかし、透明でときどき反射する光が淡いピンクやブルーに照り返るこの結晶石によって検波ができたときには本当にうれしく、鉱石受信機によって初めて放送を聞いた昔の工作少年たちに、こんな検波器で作ったラジオを見せることができたらとしばらく感慨に耽ってしまいました。もっとも、少々手を加えないと実用に十分な感度はとれませんが、このくらいは秘密にしておきましょう。

極光水晶検波器 左 H7cm

極光水晶検波器 左 H7cm

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[自作鉱石式受信機の解説]2

前回ご紹介した「[自作鉱石式受信機の解説]1」の続きです。

 

火星人式交信鉱石受信機(固定L型同調)

これは手前に件んでいる古風な火星人の腕の先にワイヤーを触れるように握手させると、メッセージが聴取できるというものです。それぞれの腕は基本的にコイルのタップで、しかも小さなインダクターによってあらかじめ局を固定してあります。

前出の蝶類標本型と同じで、これらの受信機のアンテナはあらかじめ決まったものを使用します。他のアンテナを使うとCやLの定数が合わなくなって放送が聞こえなくなることがあるからです。空飛ぶ円盤の中と台の中にコイルがあり、この2つのコイルを可動させることでヴァリオカップラーのようにある程度調整できると考えました。もっとも工作上の外観を重視したため、あまり効果は上がりませんでしたが・・・・。火星人の頭の中には固定式で作った感度のよい検波器が入っています。もし作ってみようと思う方がいたら、ダイオードを用いたほうがよい結果が出ると思います。

火星人式交信鉱石受信機W150×D150×H120(mm)

火星人式交信鉱石受信機
W150×D150×H120(mm)

火星人の手(足?)にワイヤーを接触(握手?)させているところです。

火星人の手(足?)にワイヤーを接触(握手?)させているところです。

超小型実験室型鉱石受信機

これは、鉱石ラジオを設計したり実験したりするために必要なだいたいの部品や材料が組み込まれた、持ち運びできる小さな実験室といったふうのものです。上部のガラスケースはステンドグラスの技法で作り、全体は木で作ってあります。この本の板は近所の印刷屋さんの前に積んである、紙を運ぶためのパレットと呼ばれるものをわけでもらいました。プレーナーのかかっていないザラザラの本の板が妙に懐かしい感じで好きなので、見かけよりずいぶんと手をかけで作ったものです。

中には3種類の太さの導線、7種類のコイル、5種のゲルマニウムダイオード、3種のヴァリコン、 10種のコンデンサーとインダクター、 7種20個の鉱石、タンタル、ニッタル、タングステンのワイヤー、雲母板、錫およびアルミ箔、鉱石を手入れするためのアルコール、各種ネジ金具、金属素材、ナイフ、 ドライバー、小型のニッパー、回路図を書き込んだ小さなノート、クリスタルイヤフォン、ツマミ、LC周波数割り出し表、鉛筆、消しゴムなどが入っています。

中心にあるメインコイルは引き出し式になっていて、その奥には秘密データが入っています。窓はプレパラート用の薄いガラスで作り、ノブは昔からある自分の机のものを使いました。底の部分にはコイルアンテナが埋め込んであり、ローディングコイルを用いた引き出し式のアンテナも備えであります。

全体の色は自作したテンペラ絵具で、牛乳から作ったガゼインと孔雀石を粉にしたマウンテングリーンでできています。ぼく以外の人にはあまり意味のない工作に思えますが、ぼくのお気に入りの一つです。ひまがあると少しずつ手を入れたり、また取り外したりして楽しんでいます。

超小型実験室型鉱石受信機 W195XD202×H98(mm)

超小型実験室型鉱石受信機
W195XD202×H98(mm)

フロントパネルをはずし中に入っている品々を出したようす。

フロントパネルをはずし中に入っている品々を出したようす。

緑色のコイルのLにある小さな引き出しの中には検波用鉱石が入っています。

緑色のコイルのLにある小さな引き出しの中には検波用鉱石が入っています。

盆栽式鉱石受信機

このような小さな盆栽は小品盆栽と呼ばれ、「石抱き」の形に作ったものを植え替えのとき石をうまくはずし、その部分に比較的水に強い黄鉄鉱などをうまく抱かせれば検波器として作っていけるでしょう。もちろん何年もかけてはじめから根を石にまわしてつくってもいいと思います。この場合、全体が金属質の鉱石というよりは、方解石や水晶などに共生しているようなものにした方がいいでしょう。

作例は香丁木と呼ばれる木ですが、ちょうどうす紫の花が咲き始めています。鉱石は魚眼石と水品に黄鉄鉱が共生しているものを使い、錫で裏打ちしてありますまた作例のように「根上がり」の状態に仕込んでおいて、中の鉱石を随時交換するという方法もあります。コイルはバンク巻きに作ってあり、鉢の下部に作ってあります。なにぶんにも盆栽は生きているので、木を痛めないように心がけています。

盆栽式鉱石受信機 W80×D80×H150(mm)

盆栽式鉱石受信機
W80×D80×H150(mm)

小鳥ラヂオ

15年くらい前、駒込は富士神社の縁日で邯鄲(かんたん)という小さな虫を買いました。コオロギの仲間ですが、淡い若草色の体と半透明なうすい羽をもったちいさくて細い弱々しい生き物でした。美しくリューリューと鳴くその声は今でも忘れられません。しかしその名の響きとは裏腹に飼うことはむずかしく、寿命だったのかぼくが悪かったのかわかりませんが、ひと月もするといけなくなりました。そのとき前年にもぼくがひやかしていたのを覚えていた夜店のおじさんが、古い虫かごをわけてくれてそれがずっと残っていたので、それを使ってこの小鳥ラジオを作ったわけです。

小鳥のくちばしは銀でできていて、水飲み用の錫製のカップには銅藍(コベリン)が入っています。下の方に絹巻き線でコイルが巻いであり、かごを吊るための線が空中線とアースになっています。小鳥の色はうぐいす色より少し明るい邯鄲の色にしてあります。感度はあまりよくありませんが、思い出のこもった受信機です。

小鳥ラヂオ W72×D60×H65(mm)

小鳥ラヂオ
W72×D60×H65(mm)

燐寸箱型鉱石受信器

これは古いマッチの箱を利用して作りました。ミュー同調式でぼくのパジャマのボタンがツマミになっています。中身はふだんは中にイヤフォンが入っています。

カプセルゲルマラデオ

これはグルマニウムダイオードを使い、ケースにカプセルを利用したものです。カプセルの外形は太さ8 mm長さ15 mmで、コイルのかわりにマイクロインダクターとセラミックコンデンサーを使っています。

鉛筆型鉱石受信機

これは1935年のアメリカの製作記事から作ってみたものです。ぼくなりに改良を加え、確かに聞こえるようにコイルのスライド部分を作りました。鉱石には方鉛鉱を使い、針には0.5mmのタングステンを使いました。とでも感度がよく気に入っています。

上から燐寸箱型鉱石受信機W56XD38×H18(mm) カプセルグルマラデオ(カプセルは大さ8 mm長さ10 mm) 鉛筆型鉱石受信機W146×D12×H12(mm)

上から燐寸箱型鉱石受信機W56XD38×H18(mm)
カプセルグルマラデオ(カプセルは大さ8 mm長さ10 mm)
鉛筆型鉱石受信機W146×D12×H12(mm)

コメットゲルマラデオ

これはツマミを動かすと中の彗星が動く小さな受信機です。もしあわただしくゲルマラジオの時代が過ぎ去っていかなければ、ブリキのおもちゃの一つとしてこのようなロボット風のラジオも作られたのではないかと思い、作ってみました。

COMET GERMA Radio W82X D70×H132(mm)(端子、ツマミを合み、アンテナは含まず)

COMET GERMA Radio
W82X D70×H132(mm)(端子、ツマミを合み、アンテナは含まず)

このように鉱石式受信機はいろいろなものを作ることができます。工作は技術と発想の工夫だと思います。どのみち現代においてはあまり実用的でも合理的でもないわけですから、逆に気楽にあそべるのではないでしょうか。

内外の古い鉱石ラジオの製作記事や資料を見ていると、思わず吹き出したり戸惑ったりすることがあります。たとえばネクタイラジオ、メガネラジオ、シルクハットにステッキラジオ、パイプラジオと身につけること力゛できるものなどもその一つです。たいてい紳士が身に付けて紹介されているのですが、どう考えても不格好でもし町でこんな紳士にばったり出会ったりしたら、ほとんどの人は足がすくむことでしょう。

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

このほか、クッション、コーヒーカップ、時計、本にノート、椅子や家具、上げて行くときりがありません。しかしそれらは、事物が産業革命以降、合理化の道を進んで行くのに対し、あくまでもキッチュを使いジョークを交えて対抗していたと思われます。そこがおそらく懐古的な意味もふくめてぼくが鉱石ラジオに惹かれる理由の一つかもしれません。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[自作鉱石式受信機の解説]1

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[自作鉱石式受信機の解説]1

ぼくが昔の製作記事からヒントを得て作ったり、あるいは実験をしながら思いついて作ったりした鉱石式受信機のなかから、少し変わったものをいくつか紹介してみたいと思います。

ポストカード式ラヂオ

これはアメリカの製作記事をヒントに作りました。1945年の記事なのでまだダイオードを使わない、小さな鉱石さぐり式です。しかもインダクタンスをタップで可変するところが、いかにも実用的ではなくておもしろかったので作ってみました。

記事のタイトルに“LETTER” RADIO can be mailedと書いてあり、 しかも大きなヘッドフォンが横に置いであります。製作には自分の好きなポストカードを選んで作ると楽しいでしょう。もちろんゲルマニウムダイオードを検波に使えばもっと感度がよくなる可能性がありますし、もっと薄くも作れるでしょう。オリジナルの記事ではコイルのタップで同調するような仕組みでしたが、どうも調子がよくなかったので、カード紙に錫箔を貼ってセロファンでカバーしたヴァリコンを付け足して楽しんでいます。

実際に誰かに送ってみようと考えたこともありましたが、アンテナや受話器のことを思うと送っても送られてもお互い大変そうなので、未だに手元にある次第です。

ポストカード式ラヂオ160X105(mm)

ポストカード式ラヂオ160X105(mm)

コイルのタップにクリップを付けて同調を取ります。左端に出ている小さな板状のものはコンデンサーです。

コイルのタップにクリップを付けて同調を取ります。左端に出ている小さな板状のものはコンデンサーです。

透明ラヂオ

これは全体的に無色のラジオです。コイルは無色の石英ガラスの筒に銀の導線を使って作りました。ヴァリコンは自雲母の薄片に錫箔を貼り、セルロイドの透明な棒で回転体を作りました。検波器にはピーコックパイライトを使いました。

この鉱物標本は10年ほど前にパキスタンの業者から手に入れたもので、黄鉄鉱の表面がところどころ水色や紫色になっていて、しかも無色の水晶と共生していてとでも美しかったので使ってみたのです。鉱石の台は錫にアンチモンを加えたもので作り、支持体はガラスのカップを使いました。全体は無色の有機ガラスでできていて、有機ガラス板を曲げるのにはあらかじめ型を作る必要があります。また端子やツマミも、導体部分以外は透き通るようにポリエステルなどを使い工夫しました。この受信機を朝早くに聞くと、 とてもわくわくした気持ちになります。

透明ラデオW236×D138×H160(mm)

透明ラヂオW236×D138×H160(mm)

透明ラヂオ内部にあるピーコックパイライトを使用した検波器の部分です。

透明ラヂオ内部にあるピーコックパイライトを使用した検波器の部分です。

ベイブクリスタルセット

これはエマーソン社のベイビー・エマーソンという1球式のラジオの形がとても好きだったので、その形に似せて作ったものです。本来ならラジオの上部には真空管の一部が見えているのですが、その部分に鉱石検波器を取り付けてみました。大きさもエマーソン社のものよりずっと小さく作りました。筐体は木で作り、その上に麻布の日の細かいものを貼り、ニスを塗って仕上げました。パネルは紙にド図を描き、インスタントレタリングなどで文字を入れ、コピーでポジネガ反転してニスを塗って仕上げました。ちょっとみるととでも凝って作ってあるように見えます。

ツマミは市販品を使い、鉱石検波器のケースは試験管を切って作りました。 1つの大きめのヴァリコンと2列にタップを出したソレノイドコイルでできています。

ベイブクリスタルセットW173× D90(ツマミを含む)X H170(mm)

ベイブクリスタルセットW173× D90(ツマミを含む)X H170(mm)

鉱石受信機キット2種

この古めかしい鉱石ラジオは、共に1930~60年代のアメリカのクリスタルセットのキットを復刻するような形で作ってみました。この薄い木の板の上に作られたラジオの検波には剃刀の刃と鉛筆の芯が使用され、その他の部品にも安全ピンやクリップなどを使用していてとでもかわいらしい感じがします。この検波器は思ったより感度がよいので驚きました。

またもう一つの紙筒を利用したソレノイドコイルのものは、ゲルマニウムダイオードを検波に使っていたのですが、ぼくなりに初めて鉱石検波器を取り付けてみたものです。鉱石検波器は真鍮の20mmくらいの棒の中心に16mmの穴をあけて、方鉛鉱をハンダで固定して作りました。その後、人工鉱石を作ってみたところとでも感度がよかったので方鉛鉱と取り替え、最初使っていたニッケルのワイヤーをタングステンのワイヤーと交換して、ゲルマラジオより感度のよい鉱石ラジオ第1号となりました。

昔の米国製のキットの復刻ラジオ。剃刀と鉛筆の芯が検波器になっています。 W148×D98×H40(mm

昔の米国製のキットの復刻ラジオ。剃刀と鉛筆の芯が検波器になっています。
W148×D98×H40(mm

やはり昔のキット風のもので自作の人工鉱石が検波器に使用してあります。 W132×D137×H80(mm)

やはり昔のキット風のもので自作の人工鉱石が検波器に使用してあります。
W132×D137×H80(mm)

鉱石標本式受信機

これは検波のできる鉱石を探しているときに思いついたもので、鉱石による検波の違いを確かめようと作ってみたものです。この一見すると古めかしい鉱石標本箱の中には、検波のできる鉱石や電気すら通さない鉱石がいろいろ入っていて、それらにタンタルの金属針で触れていきます。LやCはすでに箱の中の見えないところにセットされていて、 JOAKとFENが聞けるように調整されています。コイルは昔式の紙を貼り合わせシェラックニスを塗った巻枠に、昔若草色だった風に2重絹巻き線を染めて作りました。鉱石の入っている標本箱の底全体には、見えないように厚さ0.1mmの錫箔がしわを付けて敷いであります。またコンデンサーはトリマーと呼ばれる半固定のものと固定のコンデンサーを使いました。単純な発想の受信機ですが、検波を初めて体験する人たちにはとても不思議に見えるようで好評です。

鉱石標本式受信機W225×D168(端子を含む)×H30(mm)

鉱石標本式受信機
W225×D168(端子を含む)×H30(mm)

針を鉱物に当てて検波できる石を探しています。

針を鉱物に当てて検波できる石を探しています。

蝶類標本型鉱石式受信機

標本の部分は一般的な方法で作づであり、蝶たちは命を失っても美しい姿をとどめています。ここにはぼくの好きな9つの個体が標本になっていて、このうちのいくつか(全での個体に当てはまる数だけの局を分離できなかったので)は、その個体を貫いている虫ピンに導線を触れることでラジオとして聴取することができるようになっています。虫ピンの裏側には固定したコンデンサーを直列にしたり並列にしたりすることで同調点を決定しています。この構造もそして機構も簡単なものですが、虫ピンに触れながらラジオを聴いているとちょっと不思議な心持ちになります。 トーマス・エジソンが晩年に霊界通信機を構想していたと言われていますが、もしそのような通信機がほんとうにあったとしたら、こんなに儚い有機質があしらってあるかもしれません。

蝶類標本型鉱石式受信機 W242×D195×H40(mm)

蝶類標本型鉱石式受信機
W242×D195×H40(mm)

ピンのところにクリップを付けたところ。蝶の名前は“W00D-NYMPH”(本の妖精)、 FENが聞こえています。

ピンのところにクリップを付けたところ。蝶の名前は“W00D-NYMPH”(木の妖精)、 FENが聞こえています。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[自作鉱石式受信機の解説]2

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[すすめ!永遠の科学少年]

[サイラジオ:透質結晶受信機(PSYRADIOX:ICE CRYSTAL RECEIVER)] 木、合成樹脂、電子部品、他 (透質結晶が青く光りながら回転し、同時にラジオも受信する)

[サイラジオ:透質結晶受信機(PSYRADIOX:ICE CRYSTAL RECEIVER)]
木、合成樹脂、電子部品、他
(透質結晶が青く光りながら回転し、同時にラジオも受信する)

ー実験や工作は自分自身を見つめることでもあるんだ

小林さんはオブジェ的な魅力をもった作品の製作や、『ぼくらの鉱石ラジオ』をはじめとした著作を通して、実験、工作に対するこだわりの姿勢を貫いてきた。

小林健二「僕らの鉱石ラジオ」出版:筑摩書房

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」出版:筑摩書房

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」出版:筑摩書房

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」出版:筑摩書房

「通常、日本語で”実験”といった場合、普通の人には、化学的な薬品の反応をみるといったような意味合いが強いかもしれない。だけどぼくは、”実験する”ということは、何かに向かい合って行こうとする姿勢みたいなものだと思う。つまり、人間が森羅万象を理解して行こうとする時に関わり合う”通路”、または”手続き”と言えばいいのかな。」

ー顕微鏡ひとつで、身の回りも世界が変わる

枯れた草に火をつけるということも、古代人にとっては、生きていく上での重要な”実験(試み)だった。だからみんなもあまり難しく考えないで、身近なところから始めてみてほしい、と小林さん。例えば、忙しい日々のさなか、ぽっかりと自分の時間がとれた時などに、机の上のものを顕微鏡で覗いて見るだけでもいい。

「新品の精密な顕微鏡を買おうものなら、下手な中古車ぐらいはかかるから、学童用の顕微鏡。または虫めがねでも十分。紙が細かい繊維でできていることを頭では知っていても、現実に目の当りにすると、多分驚くと思う。そういう新たな視点、見方から触発されたり、人生観が深まることだってあるからね。」

小林健二の自作プレパラートと顕微鏡

小林健二の自作プレパラートと顕微鏡

ー工作道具をいじっているだけで、心が安らぐ効果がある

「実験や工作に、あえて目標を定める必要はないんだ。ある意味では、自分自身と向き合うことでもあるんだから。例えば、サビた刃物を無心に研ぐだけで、気持ちが次第に楽になっていく。これは実際想像するよりはるかに効果的で、一度ためしてみる価値はあるよ。心が安らげるっていう受動的な立場でありながら、刃が研げるという能動的な結果も出る(笑)。」

小林さんはこうした実験、工作の醍醐味が味わえるようなキットを世に送り出している。中の材料からパッケージまで、オリジナル部品ばかりだ。品切れのものもあるが、今後のラインナップに期待したい。

鉱石ラジオキット[銀河1型] 6,000円(税抜き価格) 仕上がり寸法:H75XW190XD120mm 部品表 ケース/エナメル線/ツマミ(黒ベーク)/スパイダーコイル巻枠/鉱石ターミナル(赤2、黄1、緑1、青1)/ナット7個/ワッシャー(小)9枚/ワッシャー(大)4枚/バリコン/透明リング/ネジ(3×10/1個/バリコン用2個)/ドライバー/銅線 S字/鉱石検波器(本体+針)/説明書/クリスタルイヤフォン/シャフト/ベークカラー/ハンダ/サンドペーパー/ゲルマニウムダイオード キットの組み立てには、ハンダゴテやペンチなどの工具が必要の場合があります。 バリコン以外は鉱石ラジオ発足当時の原形をとどめるとも言えるキットです。黒色紙製スパイダーコイルにさぐり式検波器を装置しています。このさぐり式の鉱石ラジオは、最も象徴的な形式です。 この銀河通信社製鉱石ラジオは東洋に於いては始めて作られたさぐり式の鉱石ラジオキットです。当社では数種のさぐり式鉱石ラジオキットを製作しておりますが、安定性と感度を期待できる組立キットの1つと言えるでしょう。みなさんも、この結晶式受信機によってあなたの透明な通信を受け取ってください。(説明書より抜粋)

鉱石ラジオキット[銀河1型]
6,000円(税抜き価格)
仕上がり寸法:H75XW190XD120mm
部品表
ケース/エナメル線/ツマミ(黒ベーク)/スパイダーコイル巻枠/鉱石ターミナル(赤2、黄1、緑1、青1)/ナット7個/ワッシャー(小)9枚/ワッシャー(大)4枚/バリコン/透明リング/ネジ(3×10/1個/バリコン用2個)/ドライバー/銅線 S字/鉱石検波器(本体+針)/説明書/クリスタルイヤフォン/シャフト/ベークカラー/ハンダ/サンドペーパー/ゲルマニウムダイオード
キットの組み立てには、ハンダゴテやペンチなどの工具が必要の場合があります。
バリコン以外は鉱石ラジオ発足当時の原形をとどめるとも言えるキットです。黒色紙製スパイダーコイルにさぐり式検波器を装置しています。このさぐり式の鉱石ラジオは、最も象徴的な形式です。
「この銀河通信社製鉱石ラジオは東洋に於いては始めて作られたさぐり式の鉱石ラジオキットです。当社では数種のさぐり式鉱石ラジオキットを製作しておりますが、安定性と感度を期待できる組立キットの1つと言えるでしょう。みなさんも、この結晶式受信機によってあなたの透明な通信を受け取ってください。(説明書より抜粋)」

鉱石ラジオキット[銀河2型] 5,000円(税抜き価格) 仕上がり寸法:W11XD16XH9cm 部品表 ソレノイドコイル用紙筒 /エナメル線 /木の板 /バリコンセット(ポリバリコン+ツマミ)/鉱石検波器(本体+針)/クリスタルイヤフォン/鉱石ターミナル(黒2)/ハンダ/サンドペーパー /ゲルマニウムダイオード/画鋲 2個/銅線 S字/説明書/木工接着剤/鉱石ラジオ用ニス 尚、キットの組み立てには、ハンダゴテやペンチなどの工具が必要の場合があります。 バリコン以外は鉱石ラジオ発足当時の原形をとどめるとも言えるキットです。2型は紙筒ソレノイドコイルを使用し、さぐり式検波器を装置しています。このさぐり式の鉱石ラジオは、最も象徴的な形式ですが、今まで我国でキットとして発売されたことはありませんでした。当社でも初期に設計、デザインが仕上がった組立キットの1つです。 鉱石ラジオの構造が分かりやすく配置されており、子供から大人まで手作り感覚が楽しめるキットです。

鉱石ラジオキット[銀河2型]
5,000円(税抜き価格)
仕上がり寸法:W11XD16XH9cm
部品表
ソレノイドコイル用紙筒 /エナメル線 /木の板 /バリコンセット(ポリバリコン+ツマミ)/鉱石検波器(本体+針)/クリスタルイヤフォン/鉱石ターミナル(黒2)/ハンダ/サンドペーパー /ゲルマニウムダイオード/画鋲 2個/銅線 S字/説明書/木工接着剤/鉱石ラジオ用ニス
尚、キットの組み立てには、ハンダゴテやペンチなどの工具が必要の場合があります。
バリコン以外は鉱石ラジオ発足当時の原形をとどめるとも言えるキットです。2型は紙筒ソレノイドコイルを使用し、さぐり式検波器を装置しています。このさぐり式の鉱石ラジオは、最も象徴的な形式ですが、今まで我国でキットとして発売されたことはありませんでした。当社でも初期に設計、デザインが仕上がった組立キットの1つです。 鉱石ラジオの構造が分かりやすく配置されており、子供から大人まで手作り感覚が楽しめるキットです。

 

硝子結晶育成キット 2,500円(税抜き価格) パッケージサイズ:W14XH12XD18cm 約1週間から10日で母岩の上に高さ6cm前後の淡い緑色を帯びた結晶が群晶となって成長します。

硝子結晶育成キット
2,500円(税抜き価格)
パッケージサイズ:W14XH12XD18cm
約1週間から10日で母岩の上に高さ6cm前後の淡い緑色を帯びた結晶が群晶となって成長します。

6/4,11,19の小林健二トークの時に3回にわたって育成した「硝子結晶」

6/4,11,19の小林健二トークの時に3回にわたって育成した「硝子結晶」

「今は情報が溢れすぎているから、感覚が緩慢になっているところがある。エレガントなものや、繊細なものの現象があっても、それに気づかなかったりする。だからこそ、実験や工作をやることで、自分自身を見つめる機会があってもいい。鉋をかけた経験が一つあれば、神社や寺なんかの建築の細工に驚くこともあるかもしれない。そういうことに気づけたり、感動できる受け口は、いくらあってもいいんじゃないかな。」

*2001年のメディア記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しております。また、キットのキャプションは銀河通信社サイトから転用しております。

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[原初の真空管をつくる]

原初の真空管をつくる オリジナル直熱3極管(ポリカーボネイト製固定枠に設置)

原初の真空管をつくる
オリジナル直熱3極管(ポリカーボネイト製固定枠に設置)

ー怪物のような真空管

ぼくはギターエフェクターのディストーションやテルミンのような特殊な楽器を組むとき以外、アンプやラジオは大抵トランジスターやICを使用します。それは以前真空管でセットを制作中に高圧に感電した経験があって、どうしても低電圧の回路に気持ちが入ってしまうからです。ですから真空管についてはそれほど多くの知識は持ち合わせていないのです。そんな真空管について素人であるぼくが、なぜこんな形をしたものに興味を抱いているかというと、ぼくにとっての「真空管」というものの魅力の一つは、その音質や性能というよりは、それがまだほぼ電球とそれほど違わなかった時代の、目に見えない熱電子のふるまいを感じさせるようなところにあります。そして当時のまるで原理模型のような、また怪物のような形態も、さらに心の引力に拍車をかけていると思います。

当初、酸素を使う専門のバーナーや真空ポンプ等をいろいろいじってみても、そう簡単にバルブなどは作れるものではありませんでした。そこで以前から特殊な放電球の政策を依頼していた技師の方に半ば無理やりに相談を持ちかけて、具体的な作業を行ってもらったのが今回のものです。

プレートの取り付け方など、1900年ころ米国で発表されたフレミングヴァルブをイメージさせるプリミティブな構造。

プレートの取り付け方など、1900年ころ米国で発表されたフレミングヴァルブをイメージさせるプリミティブな構造。金属円板の プレート、網状のグリッド、スパイラル状のタングステン材フィラメントで構成されている。ゲッター付きの高真空型というところが現代的。

魚焼き網を連想させるグリッド。マルコーニ5625(1927年)の構造を彷彿とさせる。スパイラル状のフィラメントは純タングステン材で、実物は眩しいほどに白熱発光する。

魚焼き網を連想させるグリッド。マルコーニ5625(1927年)の構造を彷彿とさせる。スパイラル状のフィラメントは純タングステン材で、実物は眩しいほどに白熱発光する。

このバルブがスペックが取れないのは、ぼくによるところの結果です。しかしそれはまたいいわけではなく、ぼくにとっては少しも失敗ではないと思っています。なぜかというとこの世に真空管が現れはじめ、「分子の影」や「エジソン効果」もまだ半分は謎の領域にあり、地球上の誰もがその効果や性能、そしてその将来の行く末も明らかでないものと対峙し始めた、そんな時代を追体験してみたかったからに他なりません。原理が発見された後は、理論や生産の合理化と競争になっていくのは人の世のならいであったのでしょう。僕としては、それら競い合う意識が未熟のまだぼんやりとして霞のかかった五月の朝のような、そんな時代を夢みるのが楽しく、便利さや合理性だけでは語れない世界に、どうしても今の時代が失ってしまった何かを感じてしまうのです。

小林健二氏によるオリジナル真空管の構想スケッチ。3極管の他にも2極管も製作中。

小林健二氏によるオリジナル真空管の構想スケッチ。3極管の他にも2極管も製作中。

今回、球形の2極管の写真は間に合いませんでしたが、風船玉やミジンコのようだったり、透明で何か小さな生き物のように何本もの裸線が触手のように出ているバルブを見ていると、何かウットリする気持ちになります。そしてこれらのいみじき者らが、本当に通電によって少しでも作動するということは、電子の世界の不思議さを感じさせてくれるのです。もちろんぼくはこんな気持ちを人に押し付けるつもりは少しもなく、ただ、何かよくわからない世界のことを日々考えていることが、子供の頃から好きでたまらないのです。

小林健二

*1999年のメディア掲載記事を抜粋編集しております。

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単一回路鉱石ラジオの製作(筐体+仕上げ編)

小林健二自作単一回路鉱石ラジオ

自作単一回路鉱石ラジオ。 作例のサイズを参考までに示すと、W140×D178(ツマミを含む)× H90(mm)です。

回路図です。

回路図です。

代表的な鉱石式受信機を紹介してみたいと思います。これまでの記事でこの受信機に使用するソレノイドコイルや鉱石検波器については紹介しているので、今回はケースや調整についてです。

ソレノイドコイルの製作

固定式鉱石検波器の製作

コイルのインダクタンスの調整によって同調をとり、感度を計るものです。作例では実際に1920年代に存在していた受信機のコイル部分を復元し、他の部品は今でも電気店などで購入できるもので代用しながら製作してみようと思います。

ケースの製作

ケースはどのような素材によって作られていてもかまわないので、ここではアクリルの板で作ってみます。

ケースについては、あらかじめできているものを使う場合は、最も目的に近い大きさのものを選ぶということになりますが、自分で作る場合はコイルなどの中に入るものの大きさや配置が決まってから、それに合わせて作れるという利点があります。

今回は黄色いアクリル板の5 mm厚のものを使いました。

まず、組み上がったコイルを見ながら、ケースのサイズを考えます。ケースの形は自分なりに考えるのが楽しいと思います。全体の大きさが決まったら、それぞれの板材のサイズを割り出してカットしてゆきます。

2~ 3 mm厚くらいの場合は、Pカッターなどで、きっかくようにして樹脂板に切れ日を入れ、切れ目にそって割るようにして手で切り離します。5mm厚となると少したいへんなので、あらかじめPカッターで筋目を少し入れておいてから、金ノコを使うとまっすぐに早く切ることができます。

2~ 3 mm厚くらいの場合は、Pカッターなどで、きっかくようにして樹脂板に切れ日を入れ、切れ目にそって割るようにして手で切り離します。5mm厚となると少したいへんなので、あらかじめPカッターで筋目を少し入れておいてから、金ノコを使うとまっすぐに早く切ることができます。切り口がぎぎぎぎになるの でサンドペーパーをかけて仕上げることを考えに入れて、サイズ付けのとき、こころもち大きめにマーキングをしておくとよいでしょう。

サンドペーパーで切り口を仕上げるとき、90度の出ているものにあてながら、平らなところにサンドペーパーを敷いて前後にゆっくり動かして削ると、 きちんと上がります。

サンドペーパーで切り口を仕上げるとき、90度の出ているものにあてながら、平らなところにサンドペーパーを敷いて前後にゆっくり動かして削ると、 きちんと上がります。

箱の板材が切れたら組み立てですが、その際90度が出るように小型のスコヤで計りましょう。

箱の板材が切れたら組み立てですが、その際90度が出るように小型のスコヤで計りましょう。

接着にはアクリル用接着剤として市販されている四塩化エチレンを使います。

この接着剤はアルコールのようにサラサラした揮発性の高い透明な液体で、アクリル材のすき間に流し込むようにして使用します。

この接着剤はアルコールのようにサラサラした揮発性の高い透明な液体で、アクリル材のすき間に流し込むようにして使用します。

 

あらかじめセロテープで軽く仮止めをしてずれないようにしてから作業するとずれなくて安心です。

あらかじめセロテープで軽く仮止めをしてずれないようにしてから作業するとずれなくて安心です。

そのまましばらく置いておけば完了です。このとき仮止めしたテープを伝ってよけいな場所に液が流れてしまわないように注意しましょう。

一面一面ていねいに仮組みをしたあとで組んでゆけば、しっかりとした箱になります。

ケースが組み上がりました。

ケースが組み上がりました。

作例ではこのままだと角が尖って手ざわりがよくないので、サンドペーパーで面をとって丸めておきました。

作例ではこのままだと角が尖って手ざわりがよくないので、サンドペーパーで面をとって丸めておきました。

全体の組み立て

組み上がったケースと内部のコイル、そして検波器を組み立て、配線をします(配線図を参照して下さい)。

ケース全体がつや消しになっているのは、はみ出した接着剤をサンドペーパーで取るときに、ついでに400番のペーパーを全体にかけてつやを落ちつかせたためです。ピカピカに仕上げたいときには、このあと800番、1200番くらいの耐水サンドペーパーを水につけながら全体にかけ、プラスチックポリッシュや金属用のつや出し剤をやわらかな布につけて磨きます。

向かっていちばん右のターミナルは紫色ですが、これは市販の白いものを樹脂染料で染めてみたものです。

向かっていちばん右のターミナルは紫色ですが、これは市販の白いものを樹脂染料で染めてみたものです。

配線図です。

配線図です。

調整と聞き方

組み立てが終了したら、念のため接続に誤りがないかハンダ付けはうまくできているかもう一度確かめます。アンテナ、アース、ヘッドフォンなどをそれぞれのターミナルに接続します。配線がうまくいっていれば、ヘッドフォンをかけた段階で小さくても何かしら放送が聞こえるはずです。

作例で用いたロータリースイッチは1回路12接点のタイプで、カチカチと同してゆくといくらでも回って、とくに止まるところがありません。ですからツマミをつけるときに、いちばん巻き数の少ないタップのところがきている位置にツマミを12時方向(じるしが真上にくる)にしたりして、自分でわかるように取り付けておくとよいでしょう。

調整はまずコイルのヘッドフォンヘとつながるタップのスイッチを、巻き数がいちばん小さなところへ合わせておきます。そして空中線のターミナルにつながるタップのツマミをひとつずつ静かに回して、いちばん大きく聞こえるところに合わせます。そしていちばん大きく聞こえるポイントを見つけたら、今度はアースのターミナルにつながるタップのツマミを回して、さらにいちばんよく聞こえるところを探し、その次に初めにいちばん巻き数を小さくしておいたツマミを動かし、次いでまたもう一巡、全体の作業を繰り返します。

もし全然音が聞こえないようなら、固定式鉱石検波器と金具の接点がしっかりとついているか調べてください。

固定式鉱石検波器がついているフロントパネル。

固定式鉱石検波器がついているフロントパネル。

音が聞こえても小さい場合や、フォックストンの接点もしっかりしているのに聞こえないときは、フォックストンを取り去り、そこにダイオードを入れてみてください(できたら仮にハンダ付けをして)。もしそれで聞こえるようなら、フォクストンの調子が悪いのです。

上記のことをすべてしても音が聞こえなかったりしたら、ハンダ付けか配線の不良がどこかにあると思います。あきらめないでもう一度チェックしてみてください。

なお、この回路ではそれほど多くの局は入らなくて、きっと1つか2つくらいが受信できると思います。 しかし、思いのほか分離がよいと思います。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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直接結合回路鉱石受信機の製作(筐体+仕上げ編)

以前自作パーツ(クラウンコイル+探り式鉱石検波器+ヴァリコン)でご紹介した記事の筐体(ケース)を作ります。

クラウンコイルの製作

さぐり式鉱石検波器の製作

ヴァリコンの製作

ここではアンティークラジオのような形のものを木工によって作ってみました。まずケースの本体の木取りから始めます。

自作[直接結合回路鉱石受信機] 寸法はW155× D135× H200(mm)です(検波器端子は含まない)。

自作[直接結合回路鉱石受信機]
寸法はW155× D135× H200(mm)です(検波器端子は含まない)。

ケース前面、背面、底面、そして前面と背面をつなぐ木の棒です。板材は12mm厚のラワンベニヤで作り、断面が五角形のような棒は4cm×4cmの角材から作りました。

ケース前面、背面、底面、そして前面と背面をつなぐ木の棒です。板材は12mm厚のラワンベニヤで作り、断面が五角形のような棒は4cm×4cmの角材から作りました。

これらをボンドで接着します。頭の角材には工作途中でかなりの力をかけるので、くぎも打っておきます。

右に見えるのは、次の工程で側に曲げながら貼りつけるベニヤの板です。これは幅を本体の枠に合わせ、長さを多めにしてあります。 十分に水につけたあと、ラップにくるみ電子レンジで温めておくと曲げやすくなりま す。この作例が小さいため曲率が高いので大事をとったのですが、もっと大きなものなら水で湿す必要もないでしょう。

右に見えるのは、次の工程で側に曲げながら貼りつけるベニヤの板です。これは幅を本体の枠に合わせ、長さを多めにしてあります。十分に水につけたあと、ラップにくるみ電子レンジで温めておくと曲げやすくなります。この作例が小さいため曲率が高いので大事をとったのですが、もっと大きなものなら水で湿す必要もないでしょう。

作例は3mmのブナのベニヤを使いましたが、27mmのラワンベニヤか3mmのシナベニヤあたりが人手しやすいと思います。

本体の片側にボンドを塗って、下部の端をしっかりと合わせ、くぎで軽く仮止めします。そして徐々に上のほうへ向かって押しつけるようにして側板を密着させてゆきます。途中どうしてもすき間があいてしまうなら、そのつどくぎで仮止めをします。仮止めとは、細いくぎを半分くらい打ち込んでおき、ボンドが固まったあとでプライヤーやペンチで抜き取ってしまうやり方です。

写真13ではクリップやクランプで止めてありますが、実際はもっと簡単に、太い輪ゴムやひもでも固定できるでしょう。 このようにして片側を貼りおえたら、完全に乾くのを見計らい、上部に余っている ベニヤを切り取って、はみ出したボンドをきれいに削り取ります。そのあともう片側へ同じことを繰り返します。写真13の左のほうにもう片側に使うベニヤが筒に巻かれ、巻きぐせがつくようにしてあるのが見えます。

写真ではクリップやクランプで止めてありますが、実際はもっと簡単に、太い輪ゴムやひもでも固定できるでしょう。
このようにして片側を貼りおえたら、完全に乾くのを見計らい、上部に余っているベニヤを切り取って、はみ出したボンドをきれいに削り取ります。そのあともう片側へ同じことを繰り返します。写真左のほうにもう片側に使うベニヤが筒に巻かれ、巻きぐせがつくようにしてあるのが見えます。

写真14は両側の板を貼り乾かし、そしてサンドペーパーで仕上げた本体です。右側には本体からトレースしてベニヤを切り取って作りはじめたパネルが見えます。また本体の下のところの出っ張りは、あとでつけるパネルの厚み分の本片が接着されています。パネルがついたとき、同じ高さにするためです。パネルは3mmのベニヤを2枚貼り合わせるので、木片は6mmの厚みにしてあります。

写真は両側の板を貼り乾かし、そしてサンドペーパーで仕上げた本体です。右側には本体からトレースしてベニヤを切り取って作りはじめたパネルが見えます。また本体の下のところの出っ張りは、あとでつけるパネルの厚み分の本片が接着されています。パネルがついたとき、同じ高さにするためです。パネルは3mmのベニヤを2枚貼り合わせるので、木片は6mmの厚みにしてあります。

正面のパネルを作ります(写真15)。パネルのレイアウトをよく確かめて補強と装飾を兼ねてパネルの縁を二重にします。まずパネルと同寸の板をもう一枚切って、縁から一定の幅(作例では12mm)にケヒキなどでしるしをつけて、弓ノコなどで切り抜きます(写真16)。

正面のパネルを作ります。パネルのレイアウトをよく確かめて補強と装飾を兼ねてパネルの縁を二重にします。まずパネルと同寸の板をもう一枚切って、縁から一定の幅(作例では12mm)にケヒキなどでしるしをつけます。

小林健二の技法

ケヒキで印をつけたところを弓ノコなどで切り抜き、パネルには所定の位置に穴をあけます。

彫刻刀の丸刀などで面を取り、貼りつけます。

彫刻刀の丸刀などで面を取り、貼りつけます。

写真18のようにいろいろな断面をすでに削りだして棒状に形成した製品も面縁として売られています。

写真のようにいろいろな断面をすでに削りだして棒状に形成した製品も面縁として売られています。

写真19のようないろいろな面取り飽もまだ大工道具を売っているお店の隅に残っていることもあり、 1つ2つあるとなにかと楽しく工作ができるでしょう。

写真のようないろいろな面取り飽もまだ大工道具を売っているお店の隅に残っていることもあり、 1つ2つあるとなにかと楽しく工作ができるでしょう。

写真20は仕上げ前の本体とパネルです。本体下部の額縁のように面を取った部分は、工作材を彫刻刀で彫ったあと貼りつけたものです。本体にあいた穴の形がちがうのは、 パーツを仮に組んでみたらコイルが人らないので、設計変更をしたためです。

写真20は仕上げ前の本体とパネルです。本体下部の額縁のように面を取った部分は、工作材を彫刻刀で彫ったあと貼りつけたものです。本体にあいた穴の形がちがうのは、パーツを仮に組んでみたらコイルが人らないので、設計変更をしたためです。

写真52は全体のパーツが仕上がったところです。ヴァリコンはパネルにヴァーニャダイヤルであらかじめ取り付けておきます。ディテクターもついてます。背面パネルにはヘッドフォン用のターミナル2個とアンテナ用とアース用にそれぞれひとつずつのターミナルがつけであります。

写真は全体のパーツが仕上がったところです。ヴァリコンはパネルにヴァーニャダイヤルであらかじめ取り付けておきます。ディテクターもついてます。背面パネルにはヘッドフォン用のターミナル2個とアンテナ用とアース用にそれぞれひとつずつのターミナルがつけであります。

回路図と実体配線図を載せておきますので、参考に組み込んでください。

[直接結合回路鉱石受信機]回路図

[直接結合回路鉱石受信機]回路図

[直接結合回路鉱石受信機]実体配線図

[直接結合回路鉱石受信機]実体配線図

調整と聞き方

組み上がったあとの調整は、内部配線の接続を確かめ、アース線やアンテナ、ヘッドフォンの接続を確かめたあと、さぐり式の鉱石検波器の針を鉱石からはずしておいて、そこにダイオードを足を曲げて仮に取り付けておきます。コイルからヘッドフォンにつながるロータリースイッチをいちばん右(巻き数をいちばん小)にして、アースにつながるロータリースイッチは左から3番目くらいにして、ヴァリコンを動かしていちばん音が大きなところに合わせます。そしてそれぞれのロータリースイッチを動かしさらに分離がよく聞こえやすいところを探し、ふたたびヴァリコンを動かします。これを繰り返し、最もいいところを見つけたら、ダイオードを取り去り、さぐり用の針を鉱石にあてながら放送が最もよく聞こえるポイントを見つけます。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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クラウンコイルの製作について

クラウンコイルの製作

このコイルはぼくが設計したもので、形が王冠のようなのでクラウンコイルと名づけました。Q(効果が高い時など「Q(キュー)がいい」といいます)もとてもよいので、ぜひ試してみてください。

作例のコイルのリングはたまたまホビー材料屋で見つけたもので、サイズは外径9cm、内径6.5cm、厚さ12mmでした。適当なものが入手できないときは、糸ノコで切るか、写真のように自在キリという道具で裏と表から木の板にかけて作ることもできます。

ボール盤に自在キリを取り付けて円形に木をカットしている様子。

ボール盤に自在キリを取り付けて円形に木をカットしている様子。

ニスを塗った木の輪に、 7mmくらいの深さの切り込みを19本入れます。切り込みの深さを一定にするためには、金ノコの背にあたる部分の両側にプラスチック片などを瞬間接着剤でとめて、ストッパーとしておくと仕事がやりやすいでしょう。

ニスを塗った木の輪に、 7mmくらいの深さの切り込みを19本入れます。切り込みの深さを一定にするためには、金ノコの背にあたる部分の両側にプラスチック片などを瞬間接着剤でとめて、ストッパーとしておくと仕事がやりやすいでしょう。

厚さ1mmのプラスチック板(作例では布入ベーク)を35mm×12mmの大きさに切ったものを19枚作って、 リングの切り込みに垂直に差し込んでゆきます。金ノコの 切り込みの幅が1mm弱なので、強く押し入れるとちょうどとまるはずですが、もし きつすぎるなら、同じプラスチック板の余りなどを差し込んで4、5回こするとサイズがよくなります。

厚さ1mmのプラスチック板(作例では布入ベーク)を35mm×12mmの大きさに切ったものを19枚作って、 リングの切り込みに垂直に差し込んでゆきます。金ノコの切り込みの幅が1mm弱なので、強く押し入れるとちょうどとまるはずですが、もしきつすぎるなら、同じプラスチック板の余りなどを差し込んで4、5回こするとサイズがよくなります。

それぞれの羽がしっかりとリングに埋め込まれたら、垂直に入っていることを確かめて、瞬間接着剤で固定します。

それぞれの羽がしっかりとリングに埋め込まれたら、垂直に入っていることを確かめて、瞬間接着剤で固定します。そして導線の巻き初めをビスなどで固定して、スパイダーコイルと同じように羽2つずつジグザグに編むようにして巻いてゆきます。

スパイダーコイルの製作

そして巻き初めの反対側のほうに、2列タップを出す位置を決めます。そして向かって左側に巻き初めから1周して最初にその位置がきたときから12回ごとにマジックなどでしるしをつけ、それを6回おこないます。

右側のほうは、前回ご紹介したソレノイドコイルのときのように、最初が18回目で、以降12回ずつ巻いて5回しるしをつけます。そして補強も兼ねてさらに12回ほど巻いて、巻き終わりの端を巻き初めのとなりあたりにネジで固定して巻き上がりとします。

ソレノイドコイルの製作

巻き上がったコイルのタップを出すために、羽と羽のあいだのしるしをつけた場所 に、マイカの1cm幅に切った小板を差し入れます。 ドライバーのマイナスなどであらかじめじるしのついたところの縁を持ち上げておくとょいでしょう。

巻き上がったコイルのタップを出すために、羽と羽のあいだのしるしをつけた場所に、マイカの1cm幅に切った小板を差し入れます。 ドライバーのマイナスなどであらかじめじるしのついたところの縁を持ち上げておくとょいでしょう。

コイルを本体に取り付けるための金具を作ります。幅1cm、厚さ1mmくらいの真鍮板を曲げて、コイルの木枠にネジで3カ所に取り付け、金具のそれぞれの端は90度に曲げ、径3mmのタップを立てておきます。

コイルを本体に取り付けるための金具を作ります。幅1cm、厚さ1mmくらいの真鍮板を曲げて、コイルの木枠にネジで3カ所に取り付け、金具のそれぞれの端は90度に曲げ、径3mmのタップを立てておきます。

「コイルのタップ」と同じタップという言葉なのでわかりにくいかもしれませんが、「タップを立てる」というのはタッピングツールで雌ネジを作ることを言います。

*方法は下記に紹介しておりますので、参考にしてみてください。

マイカ板の上のタップの部分に前ハンダをしておきます。

マイカ板の上のタップの部分に前ハンダをしておきます。

1回路6接点のロータリースイッチにヨリ線とエンパイヤーチューブで配線をするのですが、作例の場合はケースが小さく、手やハンダごての入るスペースがないために、ダミーケースを作ってあらかじめ配線を仕上げておきました。

1回路6接点のロータリースイッチにヨリ線とエンパイヤーチューブで配線をするのですが、作例の場合はケースが小さく、手やハンダごての入るスペースがないために、ダミーケースを作ってあらかじめ配線を仕上げておきました。

ダミーケースとはこの場合、コイルのタップからの引き出し線をいちばんいい長さでロータリースイッチに配線するために、余った板などでそのコイルとスインチの距離をシュミレートしたものを作っておいて、それに部品を仮に取り付け配線を先に済ませてしまうことで作業を楽にしようとするものです。

このようにしてあらかじめスイッチまでの配線が終了したコイルです。

このようにしてあらかじめスイッチまでの配線が終了したコイルです。

タップで雌ねじを作る

タップによって雌ねじを作ることができれば、金属と金属、あるいはいろいろな材料を接合するのにとても便利です。アルミとアルミのようにハンダ付けが難しい素材や、プラスチック、木でもある程度硬度があれば、たいていの場合ビスやボルトで接合ができます。タップで作業することを「タップを立てる」と言います。またこのようにしておくと、接着剤による接合と違って再び取り外しがきくので、工作の幅を広げることができます。

写真1は手前に並んでいるのがタップのカッターで、左から1、14、17、2、2 3、2 6、3、4、5、6、8、10、16 mmです。後ろにあるのがタップのホルダーあるいはハンドルと呼ばれるもので、タップの大きさに見合ったものを使います。通常よく使うサイズは2.6~6 mmまでの間で、とりわけ3mmはよく使います。

写真は手前に並んでいるのがタップのカッターで、左から1、14、17、2、2 3、2 6、3、4、5、6、8、10、16 mmです。後ろにあるのがタップのホルダーあるいはハンドルと呼ばれるもので、タップの大きさに見合ったものを使います。通常よく使うサイズは2.6~6 mmまでの間で、とりわけ3mmはよく使います。

作業はまず雌ねじを作りたい場所にそのねじの直径に0.8をかけた大きさの下穴をドリルであけます。たとえば3mmのタップの場合、あらかじめ3X0.8=2.4mm(あるいは2.5mm)の大きさの下穴をポンチ等でマーキングしてあけます。それからタップをできるだけ垂直になるようにして、ゆっくりと時計画りに回していきます。

タップの作業。

タップの作業。

金属や固い材の場合、3回まわしたら2回戻すというようにして少しずつあけていき、ひっかかるようなら油をさしながら作業します。3mm以下のタップは折れやすく、もし折れてしまうと厄介なので注意が必要です。細いねじの場合は、材のほうを回すほうがタップが折れにくい場合もあります。

写真はタップを横から見たものです。ねじを切り終わったら逆さに回してタップをはずし、切りくずを取って終了です。

写真はタップを横から見たものです。ねじを切り終わったら逆さに回してタップをはずし、切りくずを取って終了です。

ダイスで雄ねじを作る

ダイスで雄ねじを作ることはタップを使う頻度より少ないかもしれませんが、前回紹介したヴァリオカップラーの工作のようにダイスを使えると便利な時があります。もちろんダイスにも小さいものから大きいものまでサイズがいろいろあります。

ヴァリオカップラーの製作

ダイスの使い方は、もし真鍮で3mmのねじを作る場合なら、その3mm径の棒を万力などでくわえて固定し、棒にそってダイスを回します。

ダイスの使い方は、もし真鍮で3mmのねじを作る場合なら、その3mm径の棒を万力などでくわえて固定し、棒にそってダイスを回します。

所定の位置まで来たら反対に回してダイスをはずします。このようにダイスで作業することを「ダイスを通す」言います。

ダイスで長いねじを作るのは少々むずかしいのですが、ピッチをそろえてきれいに作りたい時はボール盤に棒をくわえて手でダイスを持って作業するとうまくいきます。

ぼくは所定の位置までダイスがとおったら、ぱっと両手を同時にはなしてボール盤のスイッチを切るという感じで作業をしているので、人が見たらとてもあぶなく見えると思います。

所定の位置は加工する品物にあらかじめマジックで印を付けておくと品物が回転してもわかります。

所定の位置は加工する品物にあらかじめマジックで印を付けておくと品物が回転してもわかります。

またダイスを通すほどでもない場合や、とても長いねじが必要な時は全ねじ棒といって全体がすでにねじになっているものがあります。

通常金属材料店で手に入るのは、径が2、2.6、3、4、5、6、8、10、12 mmですが、これでたいてい間に合うと思います。

通常金属材料店で手に入るのは、径が2、2.6、3、4、5、6、8、10、12 mmですが、これでたいてい間に合うと思います。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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KENJI KOBAYASHI