[原初の真空管をつくる]

原初の真空管をつくる オリジナル直熱3極管(ポリカーボネイト製固定枠に設置)

原初の真空管をつくる
オリジナル直熱3極管(ポリカーボネイト製固定枠に設置)

ー怪物のような真空管

ぼくはギターエフェクターのディストーションやテルミンのような特殊な楽器を組むとき以外、アンプやラジオは大抵トランジスターやICを使用します。それは以前真空管でセットを制作中に高圧に感電した経験があって、どうしても低電圧の回路に気持ちが入ってしまうからです。ですから真空管についてはそれほど多くの知識は持ち合わせていないのです。そんな真空管について素人であるぼくが、なぜこんな形をしたものに興味を抱いているかというと、ぼくにとっての「真空管」というものの魅力の一つは、その音質や性能というよりは、それがまだほぼ電球とそれほど違わなかった時代の、目に見えない熱電子のふるまいを感じさせるようなところにあります。そして当時のまるで原理模型のような、また怪物のような形態も、さらに心の引力に拍車をかけていると思います。

当初、酸素を使う専門のバーナーや真空ポンプ等をいろいろいじってみても、そう簡単にバルブなどは作れるものではありませんでした。そこで以前から特殊な放電球の政策を依頼していた技師の方に半ば無理やりに相談を持ちかけて、具体的な作業を行ってもらったのが今回のものです。

プレートの取り付け方など、1900年ころ米国で発表されたフレミングヴァルブをイメージさせるプリミティブな構造。

プレートの取り付け方など、1900年ころ米国で発表されたフレミングヴァルブをイメージさせるプリミティブな構造。金属円板の プレート、網状のグリッド、スパイラル状のタングステン材フィラメントで構成されている。ゲッター付きの高真空型というところが現代的。

魚焼き網を連想させるグリッド。マルコーニ5625(1927年)の構造を彷彿とさせる。スパイラル状のフィラメントは純タングステン材で、実物は眩しいほどに白熱発光する。

魚焼き網を連想させるグリッド。マルコーニ5625(1927年)の構造を彷彿とさせる。スパイラル状のフィラメントは純タングステン材で、実物は眩しいほどに白熱発光する。

このバルブがスペックが取れないのは、ぼくによるところの結果です。しかしそれはまたいいわけではなく、ぼくにとっては少しも失敗ではないと思っています。なぜかというとこの世に真空管が現れはじめ、「分子の影」や「エジソン効果」もまだ半分は謎の領域にあり、地球上の誰もがその効果や性能、そしてその将来の行く末も明らかでないものと対峙し始めた、そんな時代を追体験してみたかったからに他なりません。原理が発見された後は、理論や生産の合理化と競争になっていくのは人の世のならいであったのでしょう。僕としては、それら競い合う意識が未熟のまだぼんやりとして霞のかかった五月の朝のような、そんな時代を夢みるのが楽しく、便利さや合理性だけでは語れない世界に、どうしても今の時代が失ってしまった何かを感じてしまうのです。

小林健二氏によるオリジナル真空管の構想スケッチ。3極管の他にも2極管も製作中。

小林健二氏によるオリジナル真空管の構想スケッチ。3極管の他にも2極管も製作中。

今回、球形の2極管の写真は間に合いませんでしたが、風船玉やミジンコのようだったり、透明で何か小さな生き物のように何本もの裸線が触手のように出ているバルブを見ていると、何かウットリする気持ちになります。そしてこれらのいみじき者らが、本当に通電によって少しでも作動するということは、電子の世界の不思議さを感じさせてくれるのです。もちろんぼくはこんな気持ちを人に押し付けるつもりは少しもなく、ただ、何かよくわからない世界のことを日々考えていることが、子供の頃から好きでたまらないのです。

小林健二

*1999年のメディア掲載記事を抜粋編集しております。

HOME

KENJI KOBAYASHI

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA