小林健二の鉱物標本」タグアーカイブ

小林健二の自作レンズによる撮影[水晶編]

自作レンズと小林健二

小林健二の作品たちを一つの枠にあてはめることは難しい。絵画、彫刻、音楽や結晶・・・電気を使用している作品の中でもラジオや筐体の中で宙に浮かんで青く光って回転している土星など、表現媒体は実に自由。

カメラに自作レンズを装着して、幻想的な写真作品も発表している。

研究者としての一面も持つ小林健二。彼の道具は、日頃から作品製作に使用しているものに加え、資料としての興味で収集しているものまで様々。鉱物標本なども中学生の頃から機会があれば買い求め、特に水晶は心惹かれるようだ。

一貫して言えることは、そういうものが「好き」なのだ。

今回は水晶を撮影した写真を何点か選んで見た。

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

小林健二・写真作品「水晶」

文:ipsylon.jp

KENJI KOBAYASHI

検波に使える鉱石いろいろ

いろいろな黄鉄鉱

黄鉄鉱

鉱石ラジオによく使われた石で、感度の良い石です。硫黄と鉄の化合物で、びっくりするほど綺麗な立方体をしているものもありますが、他にも五角形の12面体のものや正8面体のとても細かな結晶など、形は様々です。また化石が黄鉄鉱化することもあります。「愚か者の金」と呼ばれるほど、見た目が金に似ていますが、金ではありません。方鉛鉱よりも固く、割れにくいので初めての人にはオススメの石です。

接合型鉱石検波器
鉱石検波器の多くは鉱石に細り針を立てる、点接点型の検波器でした。接合型と呼ばれる、鉱石どうしを面で接触させたものは、向かい合う面がコンデンサーとして働き、高周波電流が流れ込んで整流作用がうまく得られないためです。しかし、紅亜鉛鉱と他の鉱石を組み合わせると、方鉛鉱や黄鉄鉱よりはるかに良い感度が得られることがあるのです。
人工の紅亜鉛鉱(上)と人工ビスマス(下)の接点型鉱石検波器(小林健二作)

いろいろな方鉛鉱

方鉛鉱

検波器の代表といっていいくらいよく使われ、黄鉄鉱に負けないくらい感度の良い石です。硫黄と鉛の化合物で、見るからに「鉛」という色をしています。ハンマーで軽く叩いて割ることができるくらいもろく、劈開性があるため、小さく割ってもサイコロのようになります。そのため、ネジなどで押し付けると割れてしまうことがあるので、固定するときはハンダで台座を作ります。

斑銅鉱と黄銅鉱

斑銅鉱と黄銅鉱

これらも比較的感度が安定している石です。左側にある三点が斑銅鉱で、金色のところは黄鉄鉱です。斑銅鉱は硫黄と鉄と銅の化合物で、表面が酸化してメタリックな緑・青・紫・赤・黄の斑銅鉱担っています。感度は、割ってから酸化して落ち着いた頃の方がよくなる場合があります。

右側三点が黄銅鉱です。硫黄と鉄と銅の化合物ですが、斑銅鉱のようなメタリックカラーではなく、見た目は金のような感じです。ところどころ青や紫に色づいていることもあります。

紅亜鉛鉱(上段左以外は人工結晶と思われる)

紅亜鉛鉱

紅亜鉛鉱は本来、亜鉛の酸化物ですが、マンガンが不純物として混じっているものは赤っぽい色をしています。方鉛鉱や黄鉄鉱よりも感度が良い石です。日本では産出され図、アメリカ・ニュージャージー州のスターリングヒルとフランクリンという鉱山で飲み取れます。左の石は赤いところが紅亜鉛鉱です。不透明のように見えますが、拡大してみると透明感があります。透明な黄やオレンジに見える透き通った結晶などは人工の紅亜鉛鉱です。

この透明な結晶は酸化亜鉛です。12Vの電源に繋いでみると高輝度発光ダイオードが点灯しました。金属光沢もなく、透き通っているのに、電気を通すというのは不思議な感じがします。結晶の長さは20cmぐらいあります。

そのほかにも感度は保証できませんが検波できる鉱物です。

1、硫砒銅鉱
2、輝水鉛鉱
3、白鉄鉱
4、自然銀
5、銅藍
6、隕鉄

7、錫石
8、自然銅
9、石墨
10、赤銅鉱

 

*「趣味悠々-大人が遊ぶサイエンス(日本放送出版協会)」の小林健二の記事部分より一部抜粋。何回かに分けて紹介予定。画像は書籍を複写しており、鉱石は小林健二所有の標本です。

1,スパイダーコイルに挑戦しよう

KENJI KOBAYASHI

鉱物の魅力

「鉱物の結晶は本来この世に全く同じものは二つとないわけですよね。そうした事実をぼくたちは思い起こしてみるといいんじゃないかな。

明礬で作る結晶の実験なんかでも、本を読んでいると枝のような結晶が付いてできたら取るようにと書いてある。それはとりもなおさず、決まった形に育成していくことがいいと言っているようなものだよね。でもそうじゃなくて、それぞれに美しいと感じられる形があるし、天然現象としてその結晶自身が持っている方向のようなものがありんじゃないかと思うんです。

同じ鉱物が二つとないという鉱物の世界のようにね。そしてそれは、まるで人間がそれぞれの個人の魅力を自由な形で表現できる世界というのが理想だと思うようにね。

同じ種類の鉱物を並べても同じようには見えない。しかも一つの鉱物の中に数種類の鉱物がお互いを排除しないで共存しているものもある。鉱物、いや天然かな、そこには無駄や差別という概念がなくて素晴らしい。人間の世界もこんな風に、お互いを認め合えていけたらいいよね。

黄鉄鋼に褐鉄鋼がくっついていたり、透石膏に褐鉄鋼がくっついて、その後に中が溶けて空洞ができ外形だけが残っているものとかも洗う。珍しい標本だけど、これなんかもある意味で遺影の結晶とも言えるよね。

中心が透石膏でそのまわりに褐鉄鋼が仮晶した後、内部の透石膏が溶去して褐鉄鋼の部分だけが残ったもの。
Santa Eulalia,Mexico

示準化石や示相化石のように、化石だと全てではなくともその年代を同定できる場合があるけど、鉱物結晶はできるものに何千年かかったのか何万年なのかなかなか分かりづらい。それらは大抵光も当たらない場所で、ただただ変化し成長し続けていたわけですよね。

ここに海緑石化した貝だけど、どういう条件が揃えば貝のところだけが変化したり置換したりするのか、とても不思議なことだと思う。

腹足網の化石。外殻が海緑石(Glauconite)に置換されている。(記事を複写)
[Turritella terebralis]
Nureci,near Laconic,Central Sardinia,Italy

そんな神秘的なことがぼくたちの前にあらわれてくる。それを思うと、人間の世界から少し離れて自由な気持ちになれるわけです。

子供の頃から人と同じように物事ができなくて寂しくなったり孤独を感じたりしたことがあったけど、いまはそんな自分を変だと感じないでスムシ、心が落ち着いてきたと思う。

日常で大抵の人が感じる軋轢(あつれき )って、基本的には人間関係ってことが多いんないかしら。そんな時、鉱物の世界は一つの架け橋になってくれるような気がしますね。」

柱状の緑泥石を核とした、ザラメ砂糖のような水晶の結晶
Artigas, Uruguay

ー見た目に美しい鉱物ですが、精神性にまで影響があったりするんですね。ところで、人工の鉱物や宝石についてはどう思われますか?

「鉱物と宝石を趣味にする人ではタイプが違う場合があるように感じます。宝石で偽物を摑まされたとか嘆く人がいるけれど、その人がそれがガラス玉出会っても分からないかもしれないでしょ。それなら、あるがままに存在する天然のコランダムのルビーやサファイヤをあえてカットして磨くより、ガラス玉を付けても見た目には問題ないいじゃない(笑)。

硬度に違いがあるくらいで、もし赤くて透き通っているものとしてだけそれを見るのであれば、天然の鉱物である必要はないかも知れないね。

聞いた話ですが、最近の技術はすごくて、天然のエメラルドにはそれぞれに包含物やスがあるけど、人工のものにはそれがなくて均一だから見分けられていたんだそうです。それが今や、いかにして人工のエメラルドに天然に似た包含物やスを入れるかということになってきて、なかなか鑑定する人も大変だと思うけど、それはそれで天然の鉱物が少しでも助かるならいいなと思うんですけど(笑)。」

ー小林さんは色々な表現活動をされていますが、鉱物をテーマにしたものは作られているのですか?

「ぼくは怪物とか模型飛行機や星を見るのが好きだったし、絵の題材として怪物や透明なものや光ったりするものはよく出てきたし、高校の頃には水晶とか描いていたこともあった。

それは作品として仕上げ用というよりも、ただ好きなものを描いていた感じですね。みんなもそうかも知れないけど、今自分のやっている仕事と、そうなりたいと思っていたことが必ずしも一緒でない時期ってあるよね。でも表現方法は色々だけど、子供の頃から好きだったものってそんなに変われるものじゃないと思うんです。」

ー鉱物に対する思いがだんだんと作品と融合してきたわけですね。

「ぼくはこれまで生きた年と同じくらいこれからも生きているとも思えない。そうすると、だんだんと自分の素性に近いところで生きるようになってきたと思うんです。今までは作品を作ることと鉱物を見るということは意識として別のものだったけど、だんだんと近づいてきた部分があるような気がする。だからい色の変わる水晶の作品とか、鉱石ラジオとか人工結晶を作るようになったんです。

日常の中で記憶って時とともに薄らいでいくようなことがあっても、変わらないで蘇ってくるんです。それで、やっと自分のやりたいことが少しみつかてきたというか、昔のぼくと同じように不思議や鉱物が好きで、鉱石ラジオや人工結晶みたいなものまで興味がある人のために、何かできないかというのが今の興味なんです。

「ついにアブナイ博士の仲間入りをしたな!」とか言われたけどね(笑)

kingdom-kristal from Kenji Channel on Vimeo.

*2002年のメディア掲載記事より編集抜粋し、画像や動画は新たに付加しています。

KENJI KOBAYASHI

鉱物との出会い

アメティスト(紫水晶)表層の、まるでシュクル(アメ細工)のように小さな濃い紫やオレンジ色の結晶がついた標本。
Amatitlan,Guerrero,Mexico

ー小林さんの鉱物との出会いというのはいつ頃ですか?

「小学校の低学年の頃に、ちょっとした事件というかある出来事があって、そのことがショックとなってひどい対人恐怖症になってしまったんです。

その頃ぼくは恐竜などが好きで、友だちとよく上野の国立科学博物館に行って担ですよ。今はレイアウトがかなり変わってしまったけれど、その時に鉱物標本室というような展示室があって、随分と印象的なところでした。

傾斜になった古い木でできたガラスケースの中に、整然とたくさんの鉱物標本が並んでいて、子供の頃からクラゲや石英のような透明なものが好きだったので、水晶のような透き通るものにはとりわけ目が行ったし、また藍銅鉱や鶏冠石(けいかんせき)といった色のはっきりとしたものもたくさんあって、とても綺麗でしたね。そんな中で、何回か通ううちに、たまたま学芸員の人が鉱物を色々説明してくれるようになって、鉱物に対する興味が一段と湧いてきたし、だんだんと鉱物を介して人とコミュニカーションを取ることができるようになってきたんです。

実は先ほどの事件というのは、大人の男性から受けたもので、大人の男性に対して恐怖を感じたことに端を発していたんです。その学芸員の人と、ひいてはその鉱物と出会うことがなければ、一体今頃どうなっていたかと思うんです。

今は多少笑いながら話せますが、当時は命を奪われるほどの恐れを抱いたので、それが少しづつほぐされていったのが、本当にありがたいです。」

ドイツ・ボンの博物館は、昔(小林健二が小学ー中学生の時に通っていた頃)の上野にある国立科学博物館の鉱物標本展示室にどこか似ている、と話す。

ー35年以上前の話ですけど、鉱物との出会いは小林さんにとって貴重なものでしたね。ところでミネラル・ショーのようなものはなかったんですか?

「池袋や新宿で年に一回開催されていますね。当時は今のように鉱物をまとめて見る機会はほとんどありませんでした。神保町に高岡商店というのがあって、矢尻とか土偶と一緒に水晶のような鉱物標本がいくつか売られていたぐらいかな。

ぼくが成人した頃には、千駄木の凡地学研究社で鉱物を買うことができるようになりましたね。小さな木の階段をギシギシとスリッパに履き替えて上がっていってね。今となっては懐かしいね。」

ー海外ではバイヤーが集まるミネラル・ショーが行われたでしょうし、ショップもかなりあったんでしょうね。

「海外ではミネラル・ショーは以前から盛んで、特にツーソンやミュンヘン、デンバーなどはとりわけ有名ですね。今でもショップは数多くあります。日本では最初に「東京国際ミネラルフェア」がはじめられた時に、出店していた人たちもその後あんなに続くとは思わなかったんじゃないかな。でも当時に比べたら、鉱物標本を扱う店は増えたと思います。」

ー昔の標本屋さんはどんな感じでしたか?

「ぼくが子どもの頃ってほとんど日本で採れた鉱物ですよね。そうするとどうしても地味なんです(笑)。それに結晶性のものよりは石って感じのものが多かったですね。時々綺麗な鉱物があったけど、いいと思うものは当時のぼくが買えるような値段ではなかった気がする。

そういえばぼくが22-23歳の頃、凡地学研究社に半分に切断されたアンモナイトの一種が置いてあったんです。それは表面が真珠色で断面がよく磨かれていて、隔壁や外殻本体は黄鉄鋼化して金色で、さらにそれをうめる全手の連室はブラック・オパール化しているもので、もうそれは素晴らしかった。とりわけその中心から外側の方へ青色からピンク色へと変移していくところなんて、もうデキスギとしか言いようがなかった。」

ーそれ以降、同じようなものは見たことがないですか?

「ありませんね。その時は本当にこんなものが自然にできるのかと思ったくらいで、人間の技術や造形意識を超えた、天然の神秘な力を感じないわけにはいかなかった。今となって考えてみれば、天然を超える人間の美意識なんていうものを想像する方が、難しいと思うけど(笑)。

あとは無色の水晶に緑簾石(りょくれんせき)がまるで木の枝のように貫いて、その端が花のように咲いて見える大きな標本とか、細かい針状の水晶の群晶の中央に、真っ赤に透き通る菱マンガン鉱の結晶とか、言い出したらキリがないけど、色々な標本屋さんとかミネラル・ショーに行くと、博物館でも見られない標本を見ることができるのは素晴らしいことだと思うんです。」

 

「地球に咲くものたちー小林健二氏の鉱物標本室より」
岩手の石と賢治のミュージアムで開催された、小林健二の鉱物標本の展示風景

「地球に咲くものたちー小林健二氏の鉱物標本室より」

「流星飲料ーDrink Meteor」
石と賢治のミュージアムにある石灰採掘工場跡、そこに期間限定で不思議なお店が現れました。

「流星飲料ーDrink Meteor」
石と賢治のミュージアムにある石灰採掘工場跡。小林健二が作ったレシピによる ドリンクを、彼の土星作品に囲まれて楽しむお店です。とくに光る飲料水「流星飲料」を光るテーブルにて飲む瞬間は、時空を超えて流星が体内を通り過ぎ、気がつくと星々に囲まれているような錯覚を覚えた記憶があります。

小林健二個展「流星飲料」。期間限定で現れた不思議なお店、そこのレジの横には不思議な光源で光る鉱物の数々。

「流星飲料ーDrink Meteor」

石と賢治のミュージアム(石灰の採掘場に宮沢賢治が何度か訪れ、馴染みのある工場跡、そこに併設されて作られたミュージアムです)で開催された展覧会。その洞窟の奥にある小さな池に、小林健二は水晶作品を展示。
現在は地震の影響もあり、この洞窟には立ち入りが禁止されています。

*岩手の一関にある「石と賢治のミュージアム」では、鉱物展示用に設計された什器の中に、数多くの小林健二が選んだ鉱物が展示されています。

*2002年のメディア掲載記事より編集抜粋し、画像は新たに付加しています。

KENJI KOBAYASHI

[鉱石ラジオの時代]+[不思議な鉱石ジンカイト]

[健二式鉱石受信機] 小林氏が作る歴史的には存在しなかった最も原理的な鉱石ラジオ。束ねられた二重絹巻き銅線をコイルとし、白雲母の板に錫箔を貼ったバリコン、そして検波鉱物が共生している水晶などで構成されている。

[健二式鉱石受信機]
小林健二氏が作る歴史的には存在しなかった最も原理的な鉱石ラジオ。束ねられた二重絹巻き銅線をコイルとし、白雲母の板に錫箔を貼ったバリコン、そして検波鉱物が共生している水晶などで構成されている。

[鉱石ラジオの時代]

鉱石ラジオはアンテナとアース、バリコンとイヤフォン、コイルといった、いたってシンプルな材料によって成立する。電池もいらないが、ただ検波可能な方鉛鉱、黄鉄鉱などいくつかの結晶鉱物がなければ聞こえないという、不思議なラジオ。

ー鉱石ラジオは小さいときに作ったりしてたんですか?

「ぼくが小さい頃にはすでに鉱石ラジオのキットなんてなくて、やっぱりゲルマラジオでしたね。それでさえうまく作るとこはできませんでした。歴史的に見てもラジオって無線を傍受したりできるわけだから、戦争時代には抑制されたと聞きます。しかも鉱石ラジオって電源を必要とせずに聞けるわけですから、戦争後にまた鉱石ラジオは売り出されるけど、それらは戦前戦後を通じて固定式という型で、基本的な性格はゲルマラジオをあまり変わらないものと言えるんですね。昭和30年頃からそのゲルマニューム・ラジオにとって代わられるし、テレビ放送まで始まるし、時代は段々とラジオから離れていく。そして小型でアンテナやアースを設置しなくてもよく聞こえる トランジスタ・ラジオも製品化されるわけですしね。」

[PSYRADIOX(遠方放送受信装置)] 1993年以降に登場する作品は、一見アンティークに見えるが、筐体やアンテナ、ツマミなどの各部品、およびコードに至るまで小林健二氏自作による。

[PSYRADIOX(遠方放送受信装置)]
1993年以降に登場する作品は、一見アンティークに見えるが、筐体やアンテナ、ツマミなどの各部品、およびコードに至るまで小林健二氏自作による。

[BLUE QUARTZ COMMUNICATOR(青色水晶交信機)] 内部に閃ウラン鉱(ウラニナイト)が組み込まれており、そこからでる放射線(人体には無害な微量)をガイガーミューラー菅で検知し、それを特殊なフィルターがモールス信号のように変換している。筐体には入りきらないほど大きいはずの水晶がゆっくり回転し、その音とシンクロして白く明滅する作品。

[BLUE QUARTZ COMMUNICATOR(青色水晶交信機)]
内部に閃ウラン鉱(ウラニナイト)が組み込まれており、そこからでる放射線(人体には無害な微量)をガイガーミューラー菅で検知し、それを特殊なフィルターがモールス信号のように変換している。筐体には入りきらないほど大きいはずの水晶がゆっくり回転し、その音とシンクロして白く明滅する作品。

[CRYSTAL TELEVISION(鉱石式遠方受像機)] 中央のウレキサイトの画面に映像が浮かび出る受像機。音声は遠方から聞こえてくる。エジソンが構想していた霊界ラジオならぬ霊界テレビを連想させる作品。

[CRYSTAL TELEVISION(鉱石式遠方受像機)]
中央のウレキサイトの画面に映像が浮かび出る受像機。音声は遠方から聞こえてくる。エジソンが構想していた霊界ラジオならぬ霊界テレビを連想させる作品。

ー短波やハムの世界よりマイナーな訳ですね。

Crystal-Television from Kenji Channel on Vimeo.

「今となっては短波やハムもかなりマニアックだけどね。今でも続けている人たちはいるわけだけど、さすがに鉱石ラジオを作って聞いている人はあまり知らないね(笑)。」

ーゲルマニューム・ラジオや真空管ラジオの前に、鉱石ラジオしかない時期があったんですか?

「いや、逆に真空管ラジオの方が早いんです。ただ鉱物い検波作用があることが発見されたのは放送局ができる前だから、それが後で鉱石ラジオとして使えることになったわけです。しかもその頃はクリスタル・イヤフォンなんてなくて、それはトランジスタ・ラジオの頃にできたものですから、鉱石ラジオはハイインピーダンス・ヘッドフォンを使って聞かれていました。だから、鉱石ラジオを クリスタル・イヤフォンで聞くというのは、あまり例の多いことではなかったはずです。

[不思議な鉱石ジンカイト]

「最初に作品として鉱石ラジオを作った時には、鉱石ラジオといえば何か透質な結晶でできたラジオというイメーがありました。しかも蛍石や水晶、方解石とか透明な鉱物が好きだったから、実際に電波を受信する、つまり検波に使われる方鉛鉱とかイメージできなかったわけです。水晶や蛍石でどうやってラジオができるんだろうって思ってました。

それで、調べるとだんだんと本当の鉱石ラジオというものが分かってくるわけですけど、最初のイメージが払拭されるわけではないので、透明な鉱物が頭についたラジオを考えたんです。」

鉱石ラジオという言葉のイメージから小林健二氏が製作した[PSYRADIOX]

鉱石ラジオという言葉のイメージから小林健二氏が製作した[PSYRADIOX]

ー水晶や蛍石みたいな透過性のあるものでは実際は検波できないんですか?

「実際どの鉱物が一番感度がいいんだろうって調べてみたんです。だいたい透明な鉱物に電気が通るって想像つかないですよね。基本的に絶縁体では検波はできないわけだし、電気が通るということは自由電子があるということで、大抵の場合金属光沢を持っているものですからね。

ジンカイトは、まだ ソ連がある頃、ポーランドの亜鉛精製工場の煙突に結晶化して付着していたものを一年に一回カキ落とし、西側に流通させたものだと言われています。逸話何ですけどね。ぼくが買ったのは80年だから、当時は謎の鉱物ジンカイトとして買い求めていたんです。

ジンカイトって紅亜鉛鉱(ZINCITE)と同じスペルなんですね。ジンサイト(紅亜鉛鉱)というのは、ニュージヤージーにあるフランクリン鉱山以外にはほとんど産出されない珍しい鉱物で、紅いのはマンガンが含まれているからなんです。

ジンサイト(紅亜鉛鉱)。アメリカのニュージヤージー州にあるフランクリン鉱山以外にはほとんど産出されない珍しい鉱物で、赤色部分。マンガンが含まれているためこの色になる。

ジンサイト(紅亜鉛鉱)。アメリカのニュージヤージー州にあるフランクリン鉱山以外にはほとんど産出されない珍しい鉱物で、赤色部分。マンガンが含まれているためこの色になる。

その紅亜鉛鉱は鉱石ラジオの検波に使える感度のいいものの一つなんですね。それで、ある日『まてよ、ジンサイト(紅亜鉛鉱)とスペルが同じなら、ひょっとして感度が出るんじゃないの!』と思ったわけ。透過性があって全然似てないけど同じZINCITEなら検波できるかもしれないと。ジンカイトは紅亜鉛鉱と同じ酸化亜鉛なんです。で、ちょっと実験してみると、透明なジンカイトでもちゃんと電気を通すことがわかったんです。ジンカイトは通常入手できるものの中では、唯一、透過性があって検波に使える鉱物ですね。」

透過性のある結晶ジンカイトで通電の実験をしてみる。

透過性のある結晶ジンカイトで通電の実験をしてみる。豆電球が光っているということは、電気がこの不思議な結晶鉱物の中を通っている証拠です。

オレンジ色に透き通ったジンカイトと人工ビスマス(蒼鉛)の結晶検波器。とても感度がいい。

オレンジ色に透き通ったジンカイトと人工ビスマス(蒼鉛)の結晶検波器。とても感度がいい。

赤色のジンカイトと方鉛鉱の検波器。やはり感度大。

赤色のジンカイトと方鉛鉱の検波器。やはり感度大。

 

*2002年メディア掲載記事より一部抜粋編集し、画像は上の二点は記事からの複写、そのほかは新たに付加しております。

KENJI KOBAYASHI

 

小林健二と鉱物標本

小林健二は海外に旅行するときも、必ず自然史博物館には立ち寄る。ドイツに住んでいる友人を訪ねた時におとずれたボンにある博物館の外観。

小林健二は海外に旅行するときも、必ず自然史博物館には立ち寄る。ドイツに住んでいる友人を訪ねた時におとずれたボンにある資料館の外観。

いつ頃から石を好きになったかって?

うーん、小学校に入ったくらいにすでに石みたいなものは好きで拾っていたんだ。でも、それらは大抵さざれたビンのかけらや色ガラスだったかもしれない。鉱物の標本として少しづつおこづかいを貯めて手に入れたものは、小学校4-5年生頃だったと思う。でも、その時はまだビー玉や、化石と信じていた貝殻なんかと同じように扱っていたよ(笑)。

中学になって神保町の古本屋によく出かけるようになった頃、すずらん通りの中ほどに高岡商店というのがあって、そこで水晶や蛍石なんかを見たり集めたりしていた、あと当時は、上野の国立科学博物館の売店でも鉱物標本は少しずつ充実しはじめていたと思う。でも、今の鉱物フェアのようにカラフルで誰が見ても綺麗な標本って少なかった。

小林健二が中学ー高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作されたケースと標本たち。

小林健二が中学ー高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作されたケースと標本たち。

18歳くらいだったと思うけど、千駄木に「凡地学研究所」というのを知人に教えらたのが鉱物標本と離れられなくなったきっかけってことかな。「凡地」は当時細い路地にあって、今にも壊れそうな、靴を脱いで上がる木の階段の2階にあった。そこはぼくにとって夢の世界だった。高価で手に入るものばかりではなかったけど、見ているだけでも許してもらえて、その後溶接のバイトなんかでお金が入ると思わず飛んで行ったりしたよ。そういえば、その頃「凡地」に、黄鉄鉱化したアンモナイトで内側がオパール化した標本があった。生物の有機体が永遠の結晶に置き換わっていたんだ。声も出せずに見つめていたことがあったっけ。

やがて古典画法に興味を持ち始め、藍銅鉱(らんどうこう)や孔雀石、石黄やラピスラズリ、辰砂(しんしゃ)などの顔料鉱物が気になった時期もあって、友人と下仁田まで鶏冠石(けいかんせき)を掘りに行ったりして、やがて13-14年前からツーソンやミュンヘンのようなミネラルショウが日本でも開かれると聞いた時にはワクワクした。

一般の人でも鉱物標本に触れる機会が多くなったのは素晴らしいことだと思う。東京では6月に新宿、12月には池袋でミネラルショウもあるし、楽しみだよね。

どんな石が好きかって?

子供の頃から透質な結晶が好きだったことは今も変わってないけれど、鉱石ラジオをつくるにあたって、元素鉱物や硫化、酸化鉱物などに触れたり、顔料鉱物と出会った時も魅了されたよね。

ぼくは思うんだ。天然の世界にあるものって、どんなものでもそれぞれの魅力を持っていて、きっと彼らを見るぼくらの方が、何かに気づけて出合えたということじゃないのかな。

小林健二

ドイツ・ボンの博物館は、昔(健二が小学ー中学生の時に通っていた頃)の上野にある国立科学博物館の鉱物標本展示室にどこか似ている、と話す。

ドイツ・ボンの資料館は、昔(健二が小学ー中学生の時に通っていた頃)の上野にある国立科学博物館の鉱物標本展示室にどこか似ている、と話す。

ドイツ・フランクフルトの鉱物標本展示室。

ドイツ・フランクフルトの鉱物標本展示室。

ドイツ・ミュンヘンの自然史科学博物館の鉱物標本展示室。

ドイツ・ミュンヘンの自然史科学博物館の鉱物標本展示室。おそらく岩塩か何かなのであろう、さらにドーム型のケースに入れられている標本もある。

ドイツ・デュッセルドルフの資料館の鉱物標本展示スペース。

ドイツ・デュッセルドルフの資料館の鉱物標本展示スペース。

イタリア・ミラノにて。シチリア産の「硫黄」は有名な標本。

イタリア・ミラノにて。シチリア産の「硫黄」は有名な標本。

*1999年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。ミネラルショウに関しては最近は知名度も上がり、多くの愛好家によって画像などもアップされていると思われるので、ここでは省いています。また、文中の「高岡商店」や「凡地」は現在はお店はそこに存在していません。

[鉱物顔料の世界と小林健二]

鉱石ラジオの検波に使える鉱物のいろいろ

[地球に咲くものたち]小林健二の鉱物標本室より

HOME

KENJI KOBAYASHI

[鉱物顔料の世界と小林健二]

*2000年のメディア記事(小林健二へのインタビュー)からの抜粋です。

ーいつ頃から鉱物顔料に興昧をもつようになったのですか?

鉱物顔料というより鉱物自体に子どもの頃から興味があって集めていました。

絵を描くことが生活の中心になるようになって鉱物標本のなかでも色のついたものにとりわけ興味をもつようになったように思います。またティオフィルスやトンプソンを訳したり、チエンニ ーノ・チエンニ ーニ、グザヴィエ・ド・ラングレなどの本が出版されて、古典画法に輿味をもつようになりました。人聞が絵を描きはじめた頃、あるいは西洋の中世で鉱物顔料をいかにして絵具にしていたかなどを読んで興味をもち、よく通っていた鉱物標本屋で鉱物顔料を探すようになって、手の届くような廉価なものから徐々に買い集めていったのです。

シナバー(Cinnaber) 辰砂(しんしゃ)・主成分:HgS(硫化水銀)・朱、バーミリオン(Vermillion)と言う名の方が一般的でしょう。朱色と言うと不透明なイメージがあるようですが、鉱物結晶自体はたいていその表面はうすい酸化二湯追って黒変していても光に透かして見ると美しい赤色をした透質の結晶です。最も古い赤色原料の一つで、天然の鉱物から粉体にして作った岩絵の具の辰砂などはとても高価です。写真の標本は高さが3cmほどある大きさの物です。標本産地:中国貴州銅仁鉱山

シナバー(Cinnaber)
辰砂(しんしゃ)・主成分:HgS(硫化水銀)・朱、バーミリオン(Vermillion)と言う名の方が一般的でしょう。朱色と言うと不透明なイメージがあるようですが、鉱物結晶自体はたいていその表面はうすい酸化によって黒変していても光に透かして見ると美しい赤色をした透質の結晶です。最も古い赤色原料の一つで、天然の鉱物から粉体にして作った岩絵の具の辰砂などはとても高価です。写真の標本は高さが3cmほどある大きさの物です。標本産地:中国貴州銅仁鉱山

アズライト(Azurite) 岩群青(いわぐんじょう)・主成分:塩基性炭酸銅・マウンテンブルーとも呼ばれます。青く美しい結晶鉱物です。とりわけ高価な単結晶の素晴らしい標本であると裏から光をあてると濃い青色に透き通り宝石のような感じです。この鉱物は藍銅鉱と呼ばれ、粉体にすると粒子の細かいものほど明るい水色で粗くなると深い青色になります。標本産地:Touissit-mine,Oujda,Morocco

アズライト(Azurite)
岩群青(いわぐんじょう)・主成分:塩基性炭酸銅・マウンテンブルーとも呼ばれます。青く美しい結晶鉱物です。とりわけ高価な単結晶の素晴らしい標本であると裏から光をあてると濃い青色に透き通り宝石のような感じです。この鉱物は藍銅鉱と呼ばれ、粉体にすると粒子の細かいものほど明るい水色で粗くなると深い青色になります。標本産地:Touissit-mine,Oujda,Morocco

マラカイト(Marachite) 岩緑青(いわろくしょう)・主成分:含水酸基炭酸銅・マウンテングリーンとも呼ばれます。緑色の鉱物でその断面まるで孔雀の羽のような縞模様があることから孔雀石と一般的に呼ばれます。かつてクレオパトラがアイシャドウに使ったということで有名な緑色顔料です。マラカイトは彫刻をほどこしたり箱などの工芸品として加工されたりするのでその削った粉やかけらから顔料にしやすい鉱物です。・標本産地:Kolweiz,Shaba,Zaire

マラカイト(Marachite)
岩緑青(いわろくしょう)・主成分:含水酸基炭酸銅・マウンテングリーンとも呼ばれます。緑色の鉱物でその断面まるで孔雀の羽のような縞模様があることから孔雀石と一般的に呼ばれます。かつてクレオパトラがアイシャドウに使ったということで有名な緑色顔料です。マラカイトは彫刻をほどこしたり箱などの工芸品として加工されたりするのでその削った粉やかけらから顔料にしやすい鉱物です。・標本産地:Kolweiz,Shaba,Zaire

スギライト(Sugilite) 杉石・1977年に杉健一氏たちによって発見された石です。ぼくはこの石に今から1980年くらいに最初に出会い、むらさき色の顔料になるかもしれないと友人たちと試したことがありました。むらさき色の顔料は聞いたことがなかったのですが、杉石は明るいむらさき色の顔料になります。ぼくは 「スギムラサキ」と呼んでいました。標本産地:N7chwaning-mine,Hotazel,South Africa

スギライト(Sugilite)
杉石・1977年に杉健一氏たちによって発見された石です。ぼくはこの石に1980年くらいに最初に出会い、むらさき色の顔料になるかもしれないと友人たちと試したことがありました。むらさき色の顔料は聞いたことがなかったのですが、杉石は明るいむらさき色の顔料になります。ぼくは 「スギムラサキ」と呼んでいました。標本産地:N’chwaning-mine,Hotazel,South Africa

ー鉱物標本を買って、それで実際に絵具をつくったりしたのですね?

最初にトライしたのはいまから二十三、四年ぐらい前でラピスラズリでした。

チエンニ ーノ・チエンニ ーニが樹脂などと顔料をまぜ、水中でそれをもみだして青い成分を出したという話を読んで、本当にそんなことができるのか不思議に思って、自分で実際にいろいろな文献や資料を探して顔料をつくったりしました 。当時はウィンザ ー・ニュートン社からウルトラマリン・ジエニユインと いう本物のラピスラズリからつくった絵具が売られていました。その頃の値段でおそらく一万か二 万円ぐらいでした。ウルトラマリンが出切ったあとの残り淳のようなアッシュ・ブルーというグレーの顔料も、水彩のハーフパンで飛び抜けて高い値段で売られてました。そんな時代でしたから、ラピスラズリを精製したりするのが実験的でおもしろかったのです。

その当時、ラピスラズリの原石は御徒町あたりの宝飾品屋から断ち屑がキロ五千円ぐらいで買えました。これを業者にスタンプ・ミルで砕いてもらい、さらに細かくしていくポット・ミルという機械を自分で買ってきて使用していました。ちょうどその時期、ある友人の紹介で中国産の群青を精製する仕事をバイトでやりはじめたんです。顔料を粒子の大きさで水簸という方法によって選別する仕事でしたが、このようにして鉱物を絵具にする方法を覚えていったのです。いろいろな安い鉱物の断ち屑から自分のオリジナルな絵具ができるんじゃないかなと思って、ほかにもつくるようになりました。

ラピスラズリ(Lapis Lazuli) 瑠璃(るり) 天然のウルトラマリンブルーです。ラピスは石の意でラズリは青を意味する古語で、青金石(せいきんせき)と和名では言います。この鉱物は黄鉄鉱と産出することが多くその金色と青色の対比は美しく天然結晶標本は素晴らしいものです。上質のものは青い色というよりも深い夜のような色をしています。標本産地:Bacla Khshan,Afganistan

ラピスラズリ(Lapis Lazuli)
瑠璃(るり)
天然のウルトラマリンブルーです。ラピスは石の意でラズリは青を意味する古語で、青金石(せいきんせき)と和名では言います。この鉱物は黄鉄鉱と産出することが多くその金色と青色の対比は美しく天然結晶標本は素晴らしいものです。上質のものは青い色というよりも深い夜のような色をしています。標本産地:Bacla Khshan,Afganistan

ー鉱物顔料からつくった絵具をどういうふうに使っているんですか  ?

最初のうちはさまざまな青い顔料を使って作品を描いていましたが、高価なのと手聞がかかるので、だんだん市販されていないような油絵具をつくるようになりました。たとえばデイヴイス・グレーというウインザ ー・ニュートンの透明な灰色やペイニーズ・グレーのような透明色をもっと濃いグレーにしたものだとか、セヌリエ社のブラウン・ピンクに近い色。市販されている赤や青などはっきりした色じゃなくて、透明色でかすかに紫や青みがかったものを天然の顔料でつくるとおもしろいんじゃないかなと思ってね。紫雲母や緑色の雲母を粉砕して、雲母(きらら)の粉体をつくったりしました。ふつうは白雲母を主体にして精製しますが、そうではなくすでに色が若干ついているものを粉体にしました。

ほとんど白いままで色が出てこないんですが、油絵具のように屈折率の高い展色剤といっしょに混ぜると薄い透明な紫や緑の絵具ができるんです。

ーたとえば現在でも青の顔料は高価であっても手に入れることはできるんですか?

結局、いまの時代なんでもあるでしょう。

合成顔料に人工顔料、染料からつくった顔料、あるいは有機顔料もある。人聞が絵を描きはじめて以来の歴史を振り返ると、青はとても貴重な色だったといえるでしょう。宝石ではサファイアやタンザナイトのような鉱物結晶を想像するかもしれませんが、サファイアのように硬いものを粉体にするのは大変です。しかも真っ青なのに粉体にすると白くなるんですよね。青い鉱物というのは、どこにでもあるものじゃないから、おのずと高価なものになる。それがラピスラズリやアズライトです。日本語でいう瑠璃や群青です。ほんの百年前にはとても高価で一般の人たちには手に入らない絵具がいっぱいあった。ウルトラマリン・ブルーはいまではシリーズ中最も廉価な絵具なひとつですが、金よりも高い時代がありました。ラピスラズリからつくるブルー・ドート・メール(ウルトラマリン・ブルー)があまりにも高価だったので、フランス政府がこの色を合成的につくったものに懸賞金を設けた。それで1826年にギメが発明したのですが、これが工業的合成絵具の先駆けになったのです。

クリソコラ(Chrysocolla) 桂孔雀石(けいくじゃくいし) 宝飾品としては加工しやすいがもろいというのが欠点とされますが、かえってそれは顔料にはしやすいのです。それはこの鉱物が結晶度が低いからかもしれません。ぼくはテンダー・グリーン(Tender green 軟らかくもろい緑の意)と呼んでいます。標本産地:Ray-mine,Pinal County,Arizona,USA

クリソコラ(Chrysocolla)
桂孔雀石(けいくじゃくいし)
宝飾品としては加工しやすいがもろいというのが欠点とされますが、かえってそれは顔料にはしやすいのです。それはこの鉱物が結晶度が低いからかもしれません。ぼくはテンダー・グリーン(Tender green 軟らかくもろい緑の意)と呼んでいます。標本産地:Ray-mine,Pinal County,Arizona,USA

カイヤナイト(Kyanite) 藍晶石(らんしょうせき)・主成分:珪酸アルミニウム この石の組成からすると粉体にするといかにも真っ白になってしまいそうですが、屈折率の高いビヒクルと混ぜると青さを取り戻します。そこでぼくはファントム・ブルー(幻青の意)と呼んでいます。標本産地:Itapeco,Goias,Brazil

カイヤナイト(Kyanite)
藍晶石(らんしょうせき)・主成分:珪酸アルミニウム
この石の組成からすると粉体にするといかにも真っ白になってしまいそうですが、屈折率の高いビヒクルと混ぜると青さを取り戻します。そこでぼくはファントム・ブルー(幻青の意)と呼んでいます。標本産地:Itapeco,Goias,Brazil

ソーダライト(Sodalite) 方曹達石(ほうそうだいし) ソーダライトは透質感のある濃い藍色をしています。安価で入手しやすいのに青色顔料として使用されないのは、粉体にすると白いガラスの粉という感じになるからです。ぼくは屈折率の高い展色剤や水ガラス等を混ぜて絵の具を作ることがありますが、そんな時にはこの上なく透明な美しい水色となるのでサイレント・ブルー(Silent blue)と名付けて使っています。標本産地:Curvelo,Minas Gerais,Brazil

ソーダライト(Sodalite)
方曹達石(ほうそうだいし)
ソーダライトは透質感のある濃い藍色をしています。安価で入手しやすいのに青色顔料として使用されないのは、粉体にすると白いガラスの粉という感じになるからです。ぼくは屈折率の高い展色剤や水ガラス等を混ぜて絵の具を作ることがありますが、そんな時にはこの上なく透明な美しい水色となるのでサイレント・ブルー(Silent blue)と名付けて使っています。標本産地:Curvelo,Minas Gerais,Brazil

ー青以外にはどういう色がありますか?

いちばん有名なものはシナバー(辰砂)ですね。真っ赤な朱、ヴァーミリオンのことです。純正の赤や黄もなかなか天然には存在しづらい色で、顔料鉱物だけでつくられているものはとても珍しいのです。シナバーは硫化水銀です。朱には印鑑を押すときの朱肉のイメージがあるけれど、岩絵具を顕微鏡で見てみると、透きとおってきれいな、まるで色ガラスを砕いたような透明度の高い絵具だとわかります。岩絵具になるような辰砂は日本でも海外でも産地が少なく、やはり貴重なものだったんですね。

赤でもうひとつ有名なものにリアルガー、日本語で鶏冠石というのがあります。群馬県下仁田の鉱山が日本で鶏冠石が出るところだといわれていて、二十歳の頃友だちに誘われていっしょに掘りにいったことがあります。鶏冠石には砒素が多く含まれ毒性が高いので鉱山は閉鎖されていましたが、 近くに転がっていた鶏冠石の塊を拾ってきました。

オーピメント、日本語で石黄も成分的に鶏冠石によく似た透明な結晶体です。コバルト系のオーレオリンのような色で 、これを粉体にするとレモン・イエローをちょっとくすませたような顔料になります。

リアルガーもオーピメントもシナバーと同じように純粋な結晶体で透明度の高い美しい標本です。どれもひじように高価なので粉にして顔料にしようと思う人はいないでしょう。

他に、黒では鉱物としてグラファイトがあります。 黒鉛のことです。アイボリー・ブラックやパイン・ブラックのように動物の骨とか植物を焼いてつくった炭なども顔料に使われている。煤もそうですよね。成分によって若干色は違いますが、白や黒はわりに天然界に多く存在しています。白なら白亜、チョークの類があるし、鉛系のものでは酢で鉛を酸化させたものもあります。緑にはアズライトとよく似ているマラカイトがあり、これにはエジプトのクレオパトラがアイシャドウにしていたという逸話があります。アズライトもマラカイトも天然鉱物ですが、銅を腐食して緑色の錆としてつくった酢酸銅やエメラルド・グリーンのように鉱物以外のものからもよく絵具をつくったのです。

たとえばアンバーという土色は一種の酸化鉄ですが、イタリアのシエナ地方の石土がロー・シエナ、これを焼いたものはバーント・シエナといいます。黒っぽい鉛を光らせたようなへマタイトを摺りつぶすとちょうどベンガラのような赤になっていく。そういうふうにつくられる色もありますね。

絵具屋がない時代には、絵を描く人間たちは、こうしてひとつひとつの色を苦労して手に入れて自分で絵具をつくっていたわけです。ネイプルス・イエロー、ナポリ黄と呼ばれる色はパピロニア時代からあるといわれているし、絵師は表現する以前にまず必要な色を入手しなければならなかったということでしょう。ある程度の財力や入手ルートのコネがないと一枚の絵を仕上げることも出来なかったかもしれません。(笑)

リアルガー(Realger) 鶏冠石(けいかんせき)・主成分:硫化水素 赤色顔料として古い顔料で雄黄(ゆうおう)と言われることがあります。写真の標本は高さ8cmくらいのかたまりで赤く透明な結晶ですが、このようなものは一般的ではありません。この石より作られる鶏冠朱という色は朱より赤みの強い色で有毒です。単結晶の部分は美しいがもろく硬度がなく、顔料に適した面があっても標本としては光にも湿気にも弱く変質しやすい。標本産地:Mapdan,Macedonia,Yugoslavia

リアルガー(Realger)
鶏冠石(けいかんせき)・主成分:二硫化二砒素
赤色顔料として古い顔料で雄黄(ゆうおう)と言われることがあります。写真の標本は高さ8cmくらいのかたまりで赤く透明な結晶ですが、このようなものは一般的ではありません。この石より作られる鶏冠朱という色は朱より赤みの強い色で有毒です。単結晶の部分は美しいがもろく硬度がなく、顔料に適した面があっても標本としては光にも湿気にも弱く変質しやすい。標本産地:Mapdan,Macedonia,Yugoslavia

オーピメント(Orpiment) 石黄・主成分:二硫化水素 リアルガーを雄黄というのに対して雌黄(しおう)とも呼ばれます。とても軟らかく粉体にしやすい。この鉱物も透明な結晶をしていて金色にキラキラと輝いて美しいが、顔料にすると明るいレモン色の顔料になります。やはりとても古い顔料でオーピメントという名はauripigment( 金色絵具)という語がなまったものらしくやはり有毒です。標本産地:Getchell-mine,Humbidt Co.,Nevacla.USA

オーピメント(Orpiment)
石黄・主成分:三硫化二砒素
リアルガーを雄黄というのに対して雌黄(しおう)とも呼ばれます。とても軟らかく粉体にしやすい。この鉱物も透明な結晶をしていて金色にキラキラと輝いて美しいが、顔料にすると明るいレモン色の顔料になります。やはりとても古い顔料でオーピメントという名はauripigment(
金色絵具)という語がなまったものらしくやはり有毒です。標本産地:Getchell-mine,Humbidt Co.,Nevacla.USA

リモナイト(Limonite) この場合黄土の一種・主成分:含水酸化鉄 一般的に言う黄土から赤土などの褐鉄鉱の一種で、写真の標本は褐鉄鉱の成分が草の根の周囲に厚い皮常に殻を生成して管のようになったもので、俗名高師小僧(たかしこぞう)と呼ばれています。これを粉体とすると黄土色と成ります。標本産地:愛知県豊橋市高師原

リモナイト(Limonite)
この場合黄土の一種・主成分:含水酸化鉄
一般的に言う黄土から赤土などの褐鉄鉱の一種で、写真の標本は褐鉄鉱の成分が草の根の周囲に厚い皮常に殻を生成して管のようになったもので、俗名高師小僧(たかしこぞう)と呼ばれています。これを粉体とすると黄土色と成ります。標本産地:愛知県豊橋市高師原

アズロマラカイト(Azurimalachite) マラカイトとアズライトは混合して産出することが多く、それらをアズロマラカイトと呼んでいます。標本産地:Morenci,Arizona,USA

アズロマラカイト(Azurimalachite)
マラカイトとアズライトは混合して産出することが多く、それらをアズロマラカイトと呼んでいます。標本産地:Morenci,Arizona,USA

ヘマタイト(Hematite) 酸化鉄赤の一種・主成分:酸化鉄 外見は錆びた鉄状であったり、磨かれた黒っぽい金属のようだったりしますが、その名の示す通り (Hemaとは赤いという意味)砥石などで水をつけてゆっくりと研ぐと真っ赤な色が出てきます。写真の標本は板状に結晶していますが、このようなこのもあります。標本産地:Rio Marina,Elba,Italy

ヘマタイト(Hematite)
酸化鉄赤の一種・主成分:酸化鉄
外見は錆びた鉄状であったり、磨かれた黒っぽい金属のようだったりしますが、その名の示す通り (Hemaとは赤いという意味)砥石などで水をつけてゆっくりと研ぐと真っ赤な色が出てきます。写真の標本は板状に結晶していますが、このようなこのもあります。標本産地:Rio Marina,Elba,Italy

ー鉱物顔料を粉末にしたものをどうやって絵の具にしていくんですか?

砕いた粉末に膠着剤や展色剤を加え練りあわせていきます。粉自身の特性や展色剤をなににするかによっても絵具の質が決まるのです。水彩絵具と油性絵具という違いもあるし、あるいは同じ水性のアラビアゴムを使用したとしても、その中に入っているアラビアゴムの量や水分量によって水彩絵具にも、パステルにも、あるいは蝋などを加えてオイル・パステルにもできます。デトランプの技法にならって膠を加えて日本画の顔料にしたり、水ガラスを加えてステレオクローム式のものをつくったり、展色剤に卵の黄身や白身、あるいは全卵を加えてテンペラの材料をつくることもできます。

ー昔ヴァーミリオンとエメラルド・グリーンを混ぜると変色するといわれましたが実際はどうなんですか?

ヴァーミリオンには硫黄が含まれていて、エメラルド・グリーンにはそれに反応する成分が入っているという話ですね。 さっき話に出たヴァーミリオンは硫化水銀ですから硫化物が入ってますからね。エメラルド・グリーンは難しいので、鉛からつくったシルヴァー・ホワイトを例にすると、シルヴァー・ホワイトの鉛の成分と硫化物が反応して硫化鉛に変わり黒変します。ただ油絵具の場合、シルヴァー・ホワイトは塩基性炭酸鉛が主成分で、比較的遊離した硫黄分があってもそう簡単には反応しません。天然の硫化水銀からつくったものではないヴァーミリオンの場合には硫化物が安定しているので、油絵具の油が顔料のまわりをオブラートのようにくるんでますし、顔料と顔料が直接接触して反応することは少ないでしょう。ただ、顔料同士をそのまますり鉢ですったりすれば、みるみる色が変わっていくことは実際あります。

またウルトラマリン・ジェニュインをずっと水にひたしておくと、成分中の天然の硫化物が遊離して、だんだん水中に溶け出し、もとの顔料から硫黄分がどんどん抜けていってしまいます。そうすると青味がだんだん失せていくのです。顔料や鉱物結晶のもっている性質をよく理解しないと    わざわざ絵具をつくっても無意味になってしまうのです。

ーいまの時代、絵具屋に行けば買えるのに自分で鉱物の顔料を使って絵具をつくることでなにか発見できたことはありますか?

ぼく自身が絵具づくりの経験から得たことがあるとすれば、簡単に手に入ると思っているものが、じつはほんの一昔前まで手に入れるのがとても大変だったのだと身をもって知ったことですね。れにコチニールからとったクリムソン・レーキとか、茜の根から抽出してつくったローズ・マダー、ローズ・ドレーのような美しい透明な有機顔料など天然界のいろんなものを人聞が利用しながら絵を描くことの必然性を考えさせられました。中世やルネサンス、あるいはそれよりはるか以前の人たちの描いた絵を見たとき、ひじように手間のかかる工程を経なければその作品は描かれなかったと思うと、また絵の見え方が変わりますね。

続きを読む

[地球に咲くものたち-私と鉱物標本]小林健二の鉱物標本室より

小林健二の鉱物標本

小林健二が高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作したケースと標本たち

私と鉱物標本

幼い頃、経木(きょうぎ)といった木を薄く削ったものやボール紙等で出来ている小さな箱にいろいろな”好きなもの”を入れて楽しんでいたりしたものです。その頃は誰もが一度はそんな遊びをしていたものです。その内容はほとんどがガラクタですが、おのおのが皆好きなものを入れる訳ですから、それぞれの好みが反影して、お互いが見せ合っても面白いものでした。私の宝物はやはり色とりどりのガラス瓶のカケラがさざれたものでした。もっともそれらが宝石でないと知るのは、もっと年長になってからのことです。それらの”宝石”を陽に透かしたり重ねて見たりするのは今思い出してもわくわくした気持がよみがえってきます。

私が育った泉岳寺というところは、四十七士で知られる寺の多い町です。私の実家のすぐ裏も願生寺というお寺でした。そしてそこは私や近所の子供仲間にとっての良き遊び場だったのです。ある暖かい日、その寺の裏手にある井戸で皆でヤゴ釣りをしていたとき、偶然に足元にキレイな色をした平たく丸い石のようなものを見つけました。そして皆でその辺を掘ってみると、たくさんの色とりどりの同じ大きさのものが出てきたのです。その場にいたものはそれぞれに驚きはしゃぎましたが、私は人一倍興奮したように覚えています。なぜならある童話で「地中の中には美しい多数の宝石がかくれている」といった物語を既に読んでいたからです。何日かして気持のさめやらぬまま家の隣にあるメッキ工場の”サカイさん”と呼んでいつも遊んでもらっている方に「これって何だろう?」と見せると、彼は笑いながら「ケンボーそれは化石だよ」と言いました。「何の化石?」と聞くと、「それは水の化石だよ」と言ったのです。

その一言は大変な驚きを私にもたらしました。「水が化石になるなんて、何てことなんだろう。あんな風な色になるのは、水だけじゃなくてファンタオレンジやグレープ、そして田中君ちの赤いソーダ水もきっと化石になるんだ。」頭の中はぐるぐるになりっぱなしだったのです。

先程読んでいたと書いた物語はこんなお話だったと思います。ある貧しい人が不思議な老人から小さな瓶に入った薬をもらいます。その薬を片目にぬると地中にある数々の宝石を見ることができる、ということでした。その貧しい人は早速に片目にぬってみました。するとどうでしょう。くすんだ地面の中にキラキラ光る宝石が見えるのです。そしてその宝石を掘りあてると陽の光りに冴えわたり、彼はそれを売ったお金で貧しい家族に満足な食事と衣類を買うことができました。ところが彼はもっと宝石がないものかと老人との約束をやぶって両目に薬をぬってしまいます。すると宝石どころか彼の目は光を失い、それまで彼のまわりにあった全てをも失ってしまうというお話でした。私にとってこの物語の持っている暗示的なところよりも、はじめの方で片目に薬をぬりはしゃいでいる彼の姿の挿絵がとても気に入っていたのです。それは半分透過性となった地面の内に多数の結晶が描かれ、さらにきわだたせた表現のためか、空中にまでも宝石はちりばめられていたのです。

「あの話は本当なのかも知れない」子供の心は一直線なところがあるのでしょう。年下の友人とともに”小野モーターズ”の駐車場のはがれかけていたアスファルトを一生懸命にはがしていたときなど、大人たちは怒るどころか心配までしてくれたことを覚えています。

やがてウスウスとその平たく丸いものが実はガラスで、昔の石蹴りの遊びに使われていたものと分りはじめたころ、上野にある科学博物館で本格的?な鉱物標本と対面したのです。当時の科学博物館を知る方ならどなたでも声をそろえて「その鉱物室は素晴らしかった」と言われると思います。事実それは見事なものでした。傾斜のついた木のケースに整然と並べられた鉱物たちの魅力は、ある種の子供たちの一生を通じて、影響を与えるのに充分な引力を持っていたのです。たとえ「水が化石になる」ということを信じていたことから出発した子供でさえも、、、。

それでも私の集めたガラクタの中には一つ二つ、確かに水晶のカケラが入っていたことは今もって不思議なことでしたが、本来”石好き”と言われる方々は実際に山や人里離れた場所までリュックを背負い、地図やコンパスをたよりにして石を採集に行ったりするものです。私もほんの数度、若い頃に友人と水晶や鶏冠石(ケイカンセキ)を掘りに行ったことがありますが、たいていは標本を扱うところで購入したものです。

その最初は科学博物館の売店で、その次あたりは神田の高岡商店というとこでした。そこにはハニワやヤジリといったものと並んで水晶や岩石がありました。十代も後半になる頃からは東京は文京区にあった凡地学研究所というところでいろいろな鉱物と出合っていたのです。その頃の標本店で扱う鉱物は、近年海外からもたらされる象徴的な標本と比べるとそれほど鉱物の結晶がはっきりとせず、「黄鉄鉱」などの元素鉱物でさえもしばらくルーペで見ないと分りづらいようなものが多くありました。高価なものとなればもちろん別ですが、私には買えるようなものではありません。

最初に鉱物標本を入手してから40年以上の月日が流れました。鉱物世界からすれば一瞬の出来事ですが、一個人からすると決して短いものではありません。水晶も石英も共に美しい呼称と思い、子供心にもうっとりすることがありました。とりわけ透質で手が切れそうなくらい稜線がくっきりとした結晶の、その鏡のような面に何か知らない世界が映りはしないかと今でさえ思うことがあります。幼い頃、ポケットに入れていた宝物たちがジャラジャラするときに、痛々しくてお布団を敷いたような箱の中に入れようとしたことがあります。

昔の古い本の中に、水晶はかつては水精と呼ばれ深山渓谷の霧や霞が氷った後、化石になったという伝説があると知ったときから、あの幼い私に「水の化石」という一つの夢を与え続けてくれている「ケンボー、それは水の化石だよ」という言葉に、に今も感謝しているのです。

小林健二

小林健二の鉱物標本

[水晶と魚眼石]
岐阜県吉城郡神岡町神岡鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶]
山梨県牧丘町乙女鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶]
山梨県水晶峠

小林健二の鉱物標本

[水晶]
奈良県吉野郡天川村洞川五代松鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶と魚眼石]
岐阜県吉城郡神岡町神岡鉱山円山抗

小林健二の鉱物標本

[煙水晶とカリ長石]
岐阜県恵那郡蛭川村田原

小林健二の鉱物標本

[水晶と束沸石]
神奈川県足柄上郡山北町玄倉水晶谷

Photo by Kenji Kobayashi(撮影:小林健二)

地球に咲くものたち

KENJI KOBAYASHI

[地球に咲くものたち]小林健二の鉱物標本室より

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
Rio Grande do Sul,Brazil

喧噪も届かない遥かな場所、静かで何万年も変わることのない秘密の晶洞。

そんなところで鉱質の結晶たちは安らいでいるのです。この至純な眠りの国では絶え間なく美しい夢が紡がれ、まるで目には見えない不思議な情報に促されるように彼らはその姿を現わしてゆくのです。

この成功も失敗もない世界に於いてはまた、争うことも競いあう必要もありません。

ただ、この宇宙に流れている秩序の方向にその存在の軸を一つにしているのです。迷いやためらいもない穏やかな時間の中で夢を見続ける、それが彼らをまた祝福しているかのようです。

地質学的堆積の範囲を越えて、この地球の意識が発芽して花を待つような、いじらしくも壮大なこの一連の素敵な事実はまさにこの星、地球に咲くものたちを創ったのではないでしょうか。

この小さな冊子に於ける私の期待は、鉱物とその仲間たちの姿を通して人の世に生きる皆さんが何かを見つけてくれるのではないかという事です。そしてそれは鉱物学や結晶工学の話しではなく、また尖鋭的でも奇抜でもないあたりまえの方向の事としてなのです。

この彼らの営みは分子のレベルの緻密なものでありながらも、有機的でゆるがせなものであり、天然の力を受けとめているその光りは、自信というよりは遥かに静かで確かな輝きを持ってはいないでしょうか。

たおやかで静謐なその世界に触れるとき、いかなるものとも共和できる宇宙の資質を感じ、また私たちの心の深いところに潜んでいる善意の流れと源を同じくしているのではないかと感じたりするのです。

鉱物の結晶を見ているとまったく同じものに出合うことはありません。それは私たち人間がまさにそうなようにです。でも共にその背景には見えざる共通の願いがあるような気がしてなりません。この冊子を手にとってくれた皆さんに私が届けたい言葉があるとしたら、それはきっとこんな事なのです。鉱物たちだけではない、あまねく命の結晶とともにあなたは今、この地球に咲いているのです。

[Flowers inside the earth-from the mineral specimens of Kenji Kobayashi-地球に咲くものたち]

初稿1997年 小林健二

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
Amatitlan,Guerrero,Mexico

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Carinto,Minas Gerais,Brazil

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
KingstonMt.,San Bemardino Co.,California,USA

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Bata Mare,Rumania

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Japanese Twin)]
La Tentadora Mine,Pampa,Blanco,Peru

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Mina Liliana,Mpio.,Chihuahua,Mexico

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst) on Anydorite]
Rio Grande do Sul, Brazil

小林健二の鉱物標本

[Quartz in Marble]
Carrara, Italy

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Citrine)]
Loenae Mine, Conga, Africa

Photo by Kenji Kobayashi(撮影:小林健二)

小林健二の鉱物標本室よりNo.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11

私と鉱物標本

KENJI KOBAYASHI

 

今後、鉱物標本写真は随時アップします。