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[鉱物顔料の世界と小林健二]

*2000年のメディア記事(小林健二へのインタビュー)からの抜粋です。

ーいつ頃から鉱物顔料に興昧をもつようになったのですか?

鉱物顔料というより鉱物自体に子どもの頃から興味があって集めていました。

絵を描くことが生活の中心になるようになって鉱物標本のなかでも色のついたものにとりわけ興味をもつようになったように思います。またティオフィルスやトンプソンを訳したり、チエンニ ーノ・チエンニ ーニ、グザヴィエ・ド・ラングレなどの本が出版されて、古典画法に輿味をもつようになりました。人聞が絵を描きはじめた頃、あるいは西洋の中世で鉱物顔料をいかにして絵具にしていたかなどを読んで興味をもち、よく通っていた鉱物標本屋で鉱物顔料を探すようになって、手の届くような廉価なものから徐々に買い集めていったのです。

シナバー(Cinnaber) 辰砂(しんしゃ)・主成分:HgS(硫化水銀)・朱、バーミリオン(Vermillion)と言う名の方が一般的でしょう。朱色と言うと不透明なイメージがあるようですが、鉱物結晶自体はたいていその表面はうすい酸化二湯追って黒変していても光に透かして見ると美しい赤色をした透質の結晶です。最も古い赤色原料の一つで、天然の鉱物から粉体にして作った岩絵の具の辰砂などはとても高価です。写真の標本は高さが3cmほどある大きさの物です。標本産地:中国貴州銅仁鉱山

シナバー(Cinnaber)
辰砂(しんしゃ)・主成分:HgS(硫化水銀)・朱、バーミリオン(Vermillion)と言う名の方が一般的でしょう。朱色と言うと不透明なイメージがあるようですが、鉱物結晶自体はたいていその表面はうすい酸化によって黒変していても光に透かして見ると美しい赤色をした透質の結晶です。最も古い赤色原料の一つで、天然の鉱物から粉体にして作った岩絵の具の辰砂などはとても高価です。写真の標本は高さが3cmほどある大きさの物です。標本産地:中国貴州銅仁鉱山

アズライト(Azurite) 岩群青(いわぐんじょう)・主成分:塩基性炭酸銅・マウンテンブルーとも呼ばれます。青く美しい結晶鉱物です。とりわけ高価な単結晶の素晴らしい標本であると裏から光をあてると濃い青色に透き通り宝石のような感じです。この鉱物は藍銅鉱と呼ばれ、粉体にすると粒子の細かいものほど明るい水色で粗くなると深い青色になります。標本産地:Touissit-mine,Oujda,Morocco

アズライト(Azurite)
岩群青(いわぐんじょう)・主成分:塩基性炭酸銅・マウンテンブルーとも呼ばれます。青く美しい結晶鉱物です。とりわけ高価な単結晶の素晴らしい標本であると裏から光をあてると濃い青色に透き通り宝石のような感じです。この鉱物は藍銅鉱と呼ばれ、粉体にすると粒子の細かいものほど明るい水色で粗くなると深い青色になります。標本産地:Touissit-mine,Oujda,Morocco

マラカイト(Marachite) 岩緑青(いわろくしょう)・主成分:含水酸基炭酸銅・マウンテングリーンとも呼ばれます。緑色の鉱物でその断面まるで孔雀の羽のような縞模様があることから孔雀石と一般的に呼ばれます。かつてクレオパトラがアイシャドウに使ったということで有名な緑色顔料です。マラカイトは彫刻をほどこしたり箱などの工芸品として加工されたりするのでその削った粉やかけらから顔料にしやすい鉱物です。・標本産地:Kolweiz,Shaba,Zaire

マラカイト(Marachite)
岩緑青(いわろくしょう)・主成分:含水酸基炭酸銅・マウンテングリーンとも呼ばれます。緑色の鉱物でその断面まるで孔雀の羽のような縞模様があることから孔雀石と一般的に呼ばれます。かつてクレオパトラがアイシャドウに使ったということで有名な緑色顔料です。マラカイトは彫刻をほどこしたり箱などの工芸品として加工されたりするのでその削った粉やかけらから顔料にしやすい鉱物です。・標本産地:Kolweiz,Shaba,Zaire

スギライト(Sugilite) 杉石・1977年に杉健一氏たちによって発見された石です。ぼくはこの石に今から1980年くらいに最初に出会い、むらさき色の顔料になるかもしれないと友人たちと試したことがありました。むらさき色の顔料は聞いたことがなかったのですが、杉石は明るいむらさき色の顔料になります。ぼくは 「スギムラサキ」と呼んでいました。標本産地:N7chwaning-mine,Hotazel,South Africa

スギライト(Sugilite)
杉石・1977年に杉健一氏たちによって発見された石です。ぼくはこの石に1980年くらいに最初に出会い、むらさき色の顔料になるかもしれないと友人たちと試したことがありました。むらさき色の顔料は聞いたことがなかったのですが、杉石は明るいむらさき色の顔料になります。ぼくは 「スギムラサキ」と呼んでいました。標本産地:N’chwaning-mine,Hotazel,South Africa

ー鉱物標本を買って、それで実際に絵具をつくったりしたのですね?

最初にトライしたのはいまから二十三、四年ぐらい前でラピスラズリでした。

チエンニ ーノ・チエンニ ーニが樹脂などと顔料をまぜ、水中でそれをもみだして青い成分を出したという話を読んで、本当にそんなことができるのか不思議に思って、自分で実際にいろいろな文献や資料を探して顔料をつくったりしました 。当時はウィンザ ー・ニュートン社からウルトラマリン・ジエニユインと いう本物のラピスラズリからつくった絵具が売られていました。その頃の値段でおそらく一万か二 万円ぐらいでした。ウルトラマリンが出切ったあとの残り淳のようなアッシュ・ブルーというグレーの顔料も、水彩のハーフパンで飛び抜けて高い値段で売られてました。そんな時代でしたから、ラピスラズリを精製したりするのが実験的でおもしろかったのです。

その当時、ラピスラズリの原石は御徒町あたりの宝飾品屋から断ち屑がキロ五千円ぐらいで買えました。これを業者にスタンプ・ミルで砕いてもらい、さらに細かくしていくポット・ミルという機械を自分で買ってきて使用していました。ちょうどその時期、ある友人の紹介で中国産の群青を精製する仕事をバイトでやりはじめたんです。顔料を粒子の大きさで水簸という方法によって選別する仕事でしたが、このようにして鉱物を絵具にする方法を覚えていったのです。いろいろな安い鉱物の断ち屑から自分のオリジナルな絵具ができるんじゃないかなと思って、ほかにもつくるようになりました。

ラピスラズリ(Lapis Lazuli) 瑠璃(るり) 天然のウルトラマリンブルーです。ラピスは石の意でラズリは青を意味する古語で、青金石(せいきんせき)と和名では言います。この鉱物は黄鉄鉱と産出することが多くその金色と青色の対比は美しく天然結晶標本は素晴らしいものです。上質のものは青い色というよりも深い夜のような色をしています。標本産地:Bacla Khshan,Afganistan

ラピスラズリ(Lapis Lazuli)
瑠璃(るり)
天然のウルトラマリンブルーです。ラピスは石の意でラズリは青を意味する古語で、青金石(せいきんせき)と和名では言います。この鉱物は黄鉄鉱と産出することが多くその金色と青色の対比は美しく天然結晶標本は素晴らしいものです。上質のものは青い色というよりも深い夜のような色をしています。標本産地:Bacla Khshan,Afganistan

ー鉱物顔料からつくった絵具をどういうふうに使っているんですか  ?

最初のうちはさまざまな青い顔料を使って作品を描いていましたが、高価なのと手聞がかかるので、だんだん市販されていないような油絵具をつくるようになりました。たとえばデイヴイス・グレーというウインザ ー・ニュートンの透明な灰色やペイニーズ・グレーのような透明色をもっと濃いグレーにしたものだとか、セヌリエ社のブラウン・ピンクに近い色。市販されている赤や青などはっきりした色じゃなくて、透明色でかすかに紫や青みがかったものを天然の顔料でつくるとおもしろいんじゃないかなと思ってね。紫雲母や緑色の雲母を粉砕して、雲母(きらら)の粉体をつくったりしました。ふつうは白雲母を主体にして精製しますが、そうではなくすでに色が若干ついているものを粉体にしました。

ほとんど白いままで色が出てこないんですが、油絵具のように屈折率の高い展色剤といっしょに混ぜると薄い透明な紫や緑の絵具ができるんです。

ーたとえば現在でも青の顔料は高価であっても手に入れることはできるんですか?

結局、いまの時代なんでもあるでしょう。

合成顔料に人工顔料、染料からつくった顔料、あるいは有機顔料もある。人聞が絵を描きはじめて以来の歴史を振り返ると、青はとても貴重な色だったといえるでしょう。宝石ではサファイアやタンザナイトのような鉱物結晶を想像するかもしれませんが、サファイアのように硬いものを粉体にするのは大変です。しかも真っ青なのに粉体にすると白くなるんですよね。青い鉱物というのは、どこにでもあるものじゃないから、おのずと高価なものになる。それがラピスラズリやアズライトです。日本語でいう瑠璃や群青です。ほんの百年前にはとても高価で一般の人たちには手に入らない絵具がいっぱいあった。ウルトラマリン・ブルーはいまではシリーズ中最も廉価な絵具なひとつですが、金よりも高い時代がありました。ラピスラズリからつくるブルー・ドート・メール(ウルトラマリン・ブルー)があまりにも高価だったので、フランス政府がこの色を合成的につくったものに懸賞金を設けた。それで1826年にギメが発明したのですが、これが工業的合成絵具の先駆けになったのです。

クリソコラ(Chrysocolla) 桂孔雀石(けいくじゃくいし) 宝飾品としては加工しやすいがもろいというのが欠点とされますが、かえってそれは顔料にはしやすいのです。それはこの鉱物が結晶度が低いからかもしれません。ぼくはテンダー・グリーン(Tender green 軟らかくもろい緑の意)と呼んでいます。標本産地:Ray-mine,Pinal County,Arizona,USA

クリソコラ(Chrysocolla)
桂孔雀石(けいくじゃくいし)
宝飾品としては加工しやすいがもろいというのが欠点とされますが、かえってそれは顔料にはしやすいのです。それはこの鉱物が結晶度が低いからかもしれません。ぼくはテンダー・グリーン(Tender green 軟らかくもろい緑の意)と呼んでいます。標本産地:Ray-mine,Pinal County,Arizona,USA

カイヤナイト(Kyanite) 藍晶石(らんしょうせき)・主成分:珪酸アルミニウム この石の組成からすると粉体にするといかにも真っ白になってしまいそうですが、屈折率の高いビヒクルと混ぜると青さを取り戻します。そこでぼくはファントム・ブルー(幻青の意)と呼んでいます。標本産地:Itapeco,Goias,Brazil

カイヤナイト(Kyanite)
藍晶石(らんしょうせき)・主成分:珪酸アルミニウム
この石の組成からすると粉体にするといかにも真っ白になってしまいそうですが、屈折率の高いビヒクルと混ぜると青さを取り戻します。そこでぼくはファントム・ブルー(幻青の意)と呼んでいます。標本産地:Itapeco,Goias,Brazil

ソーダライト(Sodalite) 方曹達石(ほうそうだいし) ソーダライトは透質感のある濃い藍色をしています。安価で入手しやすいのに青色顔料として使用されないのは、粉体にすると白いガラスの粉という感じになるからです。ぼくは屈折率の高い展色剤や水ガラス等を混ぜて絵の具を作ることがありますが、そんな時にはこの上なく透明な美しい水色となるのでサイレント・ブルー(Silent blue)と名付けて使っています。標本産地:Curvelo,Minas Gerais,Brazil

ソーダライト(Sodalite)
方曹達石(ほうそうだいし)
ソーダライトは透質感のある濃い藍色をしています。安価で入手しやすいのに青色顔料として使用されないのは、粉体にすると白いガラスの粉という感じになるからです。ぼくは屈折率の高い展色剤や水ガラス等を混ぜて絵の具を作ることがありますが、そんな時にはこの上なく透明な美しい水色となるのでサイレント・ブルー(Silent blue)と名付けて使っています。標本産地:Curvelo,Minas Gerais,Brazil

ー青以外にはどういう色がありますか?

いちばん有名なものはシナバー(辰砂)ですね。真っ赤な朱、ヴァーミリオンのことです。純正の赤や黄もなかなか天然には存在しづらい色で、顔料鉱物だけでつくられているものはとても珍しいのです。シナバーは硫化水銀です。朱には印鑑を押すときの朱肉のイメージがあるけれど、岩絵具を顕微鏡で見てみると、透きとおってきれいな、まるで色ガラスを砕いたような透明度の高い絵具だとわかります。岩絵具になるような辰砂は日本でも海外でも産地が少なく、やはり貴重なものだったんですね。

赤でもうひとつ有名なものにリアルガー、日本語で鶏冠石というのがあります。群馬県下仁田の鉱山が日本で鶏冠石が出るところだといわれていて、二十歳の頃友だちに誘われていっしょに掘りにいったことがあります。鶏冠石には砒素が多く含まれ毒性が高いので鉱山は閉鎖されていましたが、 近くに転がっていた鶏冠石の塊を拾ってきました。

オーピメント、日本語で石黄も成分的に鶏冠石によく似た透明な結晶体です。コバルト系のオーレオリンのような色で 、これを粉体にするとレモン・イエローをちょっとくすませたような顔料になります。

リアルガーもオーピメントもシナバーと同じように純粋な結晶体で透明度の高い美しい標本です。どれもひじように高価なので粉にして顔料にしようと思う人はいないでしょう。

他に、黒では鉱物としてグラファイトがあります。 黒鉛のことです。アイボリー・ブラックやパイン・ブラックのように動物の骨とか植物を焼いてつくった炭なども顔料に使われている。煤もそうですよね。成分によって若干色は違いますが、白や黒はわりに天然界に多く存在しています。白なら白亜、チョークの類があるし、鉛系のものでは酢で鉛を酸化させたものもあります。緑にはアズライトとよく似ているマラカイトがあり、これにはエジプトのクレオパトラがアイシャドウにしていたという逸話があります。アズライトもマラカイトも天然鉱物ですが、銅を腐食して緑色の錆としてつくった酢酸銅やエメラルド・グリーンのように鉱物以外のものからもよく絵具をつくったのです。

たとえばアンバーという土色は一種の酸化鉄ですが、イタリアのシエナ地方の石土がロー・シエナ、これを焼いたものはバーント・シエナといいます。黒っぽい鉛を光らせたようなへマタイトを摺りつぶすとちょうどベンガラのような赤になっていく。そういうふうにつくられる色もありますね。

絵具屋がない時代には、絵を描く人間たちは、こうしてひとつひとつの色を苦労して手に入れて自分で絵具をつくっていたわけです。ネイプルス・イエロー、ナポリ黄と呼ばれる色はパピロニア時代からあるといわれているし、絵師は表現する以前にまず必要な色を入手しなければならなかったということでしょう。ある程度の財力や入手ルートのコネがないと一枚の絵を仕上げることも出来なかったかもしれません。(笑)

リアルガー(Realger) 鶏冠石(けいかんせき)・主成分:硫化水素 赤色顔料として古い顔料で雄黄(ゆうおう)と言われることがあります。写真の標本は高さ8cmくらいのかたまりで赤く透明な結晶ですが、このようなものは一般的ではありません。この石より作られる鶏冠朱という色は朱より赤みの強い色で有毒です。単結晶の部分は美しいがもろく硬度がなく、顔料に適した面があっても標本としては光にも湿気にも弱く変質しやすい。標本産地:Mapdan,Macedonia,Yugoslavia

リアルガー(Realger)
鶏冠石(けいかんせき)・主成分:二硫化二砒素
赤色顔料として古い顔料で雄黄(ゆうおう)と言われることがあります。写真の標本は高さ8cmくらいのかたまりで赤く透明な結晶ですが、このようなものは一般的ではありません。この石より作られる鶏冠朱という色は朱より赤みの強い色で有毒です。単結晶の部分は美しいがもろく硬度がなく、顔料に適した面があっても標本としては光にも湿気にも弱く変質しやすい。標本産地:Mapdan,Macedonia,Yugoslavia

オーピメント(Orpiment) 石黄・主成分:二硫化水素 リアルガーを雄黄というのに対して雌黄(しおう)とも呼ばれます。とても軟らかく粉体にしやすい。この鉱物も透明な結晶をしていて金色にキラキラと輝いて美しいが、顔料にすると明るいレモン色の顔料になります。やはりとても古い顔料でオーピメントという名はauripigment( 金色絵具)という語がなまったものらしくやはり有毒です。標本産地:Getchell-mine,Humbidt Co.,Nevacla.USA

オーピメント(Orpiment)
石黄・主成分:三硫化二砒素
リアルガーを雄黄というのに対して雌黄(しおう)とも呼ばれます。とても軟らかく粉体にしやすい。この鉱物も透明な結晶をしていて金色にキラキラと輝いて美しいが、顔料にすると明るいレモン色の顔料になります。やはりとても古い顔料でオーピメントという名はauripigment(
金色絵具)という語がなまったものらしくやはり有毒です。標本産地:Getchell-mine,Humbidt Co.,Nevacla.USA

リモナイト(Limonite) この場合黄土の一種・主成分:含水酸化鉄 一般的に言う黄土から赤土などの褐鉄鉱の一種で、写真の標本は褐鉄鉱の成分が草の根の周囲に厚い皮常に殻を生成して管のようになったもので、俗名高師小僧(たかしこぞう)と呼ばれています。これを粉体とすると黄土色と成ります。標本産地:愛知県豊橋市高師原

リモナイト(Limonite)
この場合黄土の一種・主成分:含水酸化鉄
一般的に言う黄土から赤土などの褐鉄鉱の一種で、写真の標本は褐鉄鉱の成分が草の根の周囲に厚い皮常に殻を生成して管のようになったもので、俗名高師小僧(たかしこぞう)と呼ばれています。これを粉体とすると黄土色と成ります。標本産地:愛知県豊橋市高師原

アズロマラカイト(Azurimalachite) マラカイトとアズライトは混合して産出することが多く、それらをアズロマラカイトと呼んでいます。標本産地:Morenci,Arizona,USA

アズロマラカイト(Azurimalachite)
マラカイトとアズライトは混合して産出することが多く、それらをアズロマラカイトと呼んでいます。標本産地:Morenci,Arizona,USA

ヘマタイト(Hematite) 酸化鉄赤の一種・主成分:酸化鉄 外見は錆びた鉄状であったり、磨かれた黒っぽい金属のようだったりしますが、その名の示す通り (Hemaとは赤いという意味)砥石などで水をつけてゆっくりと研ぐと真っ赤な色が出てきます。写真の標本は板状に結晶していますが、このようなこのもあります。標本産地:Rio Marina,Elba,Italy

ヘマタイト(Hematite)
酸化鉄赤の一種・主成分:酸化鉄
外見は錆びた鉄状であったり、磨かれた黒っぽい金属のようだったりしますが、その名の示す通り (Hemaとは赤いという意味)砥石などで水をつけてゆっくりと研ぐと真っ赤な色が出てきます。写真の標本は板状に結晶していますが、このようなこのもあります。標本産地:Rio Marina,Elba,Italy

ー鉱物顔料を粉末にしたものをどうやって絵の具にしていくんですか?

砕いた粉末に膠着剤や展色剤を加え練りあわせていきます。粉自身の特性や展色剤をなににするかによっても絵具の質が決まるのです。水彩絵具と油性絵具という違いもあるし、あるいは同じ水性のアラビアゴムを使用したとしても、その中に入っているアラビアゴムの量や水分量によって水彩絵具にも、パステルにも、あるいは蝋などを加えてオイル・パステルにもできます。デトランプの技法にならって膠を加えて日本画の顔料にしたり、水ガラスを加えてステレオクローム式のものをつくったり、展色剤に卵の黄身や白身、あるいは全卵を加えてテンペラの材料をつくることもできます。

ー昔ヴァーミリオンとエメラルド・グリーンを混ぜると変色するといわれましたが実際はどうなんですか?

ヴァーミリオンには硫黄が含まれていて、エメラルド・グリーンにはそれに反応する成分が入っているという話ですね。 さっき話に出たヴァーミリオンは硫化水銀ですから硫化物が入ってますからね。エメラルド・グリーンは難しいので、鉛からつくったシルヴァー・ホワイトを例にすると、シルヴァー・ホワイトの鉛の成分と硫化物が反応して硫化鉛に変わり黒変します。ただ油絵具の場合、シルヴァー・ホワイトは塩基性炭酸鉛が主成分で、比較的遊離した硫黄分があってもそう簡単には反応しません。天然の硫化水銀からつくったものではないヴァーミリオンの場合には硫化物が安定しているので、油絵具の油が顔料のまわりをオブラートのようにくるんでますし、顔料と顔料が直接接触して反応することは少ないでしょう。ただ、顔料同士をそのまますり鉢ですったりすれば、みるみる色が変わっていくことは実際あります。

またウルトラマリン・ジェニュインをずっと水にひたしておくと、成分中の天然の硫化物が遊離して、だんだん水中に溶け出し、もとの顔料から硫黄分がどんどん抜けていってしまいます。そうすると青味がだんだん失せていくのです。顔料や鉱物結晶のもっている性質をよく理解しないと    わざわざ絵具をつくっても無意味になってしまうのです。

ーいまの時代、絵具屋に行けば買えるのに自分で鉱物の顔料を使って絵具をつくることでなにか発見できたことはありますか?

ぼく自身が絵具づくりの経験から得たことがあるとすれば、簡単に手に入ると思っているものが、じつはほんの一昔前まで手に入れるのがとても大変だったのだと身をもって知ったことですね。れにコチニールからとったクリムソン・レーキとか、茜の根から抽出してつくったローズ・マダー、ローズ・ドレーのような美しい透明な有機顔料など天然界のいろんなものを人聞が利用しながら絵を描くことの必然性を考えさせられました。中世やルネサンス、あるいはそれよりはるか以前の人たちの描いた絵を見たとき、ひじように手間のかかる工程を経なければその作品は描かれなかったと思うと、また絵の見え方が変わりますね。

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鉱石ラジオの検波に使える鉱物のいろいろ

鉱石検波器を作る上で重要な素材はもちろん鉱石です。ぼくも子どものころから好きで、鉱物を展示する博物館等に興味がありました。とりわけ当時の上野科学博物館にあった鉱物標本室はすばらしく、友達と2人で小学校を休んで一日中そこにいたこともありました。そして中学のころから神保町や千駄木にあった鉱物標本屋にときどき行くようになりました。きれいなものが好きだったぼくは透き通ったり色がついたりしたものに惹かれて、岩石標本やあまり見栄えのしない鉱物標本には特別関心を持っていなかったと思います。

もっとも最近のミネラルショーや鉱石市に並ぶようなすばらしい標本は当時はそれほど一般的ではなく、もっと学校教材的と言うか、いかにも鉱物標本という感じのものが多かったと思います。ときどき心を奪われるようなものに出くわしても、学生のぼくには気の遠くなるほど高価なものに感じられました。今から考えるとそれほどでもない標本でもけっこう高かったように記憶しています。

ぼくにとって鉱物がもう少し身近に勉強の対象としても近づいてきたのは二十歳のころ、古典絵画に興味を持ちはじめ、絵画材料としての顔料の研究から天然顔料鉱物を調べたり集めたりしたときのことでした。その後友人の紹介で、藍銅鉱(アズライト)の粉体を顔料にするため精製したり、水簸等をして岩群青を作る仕事をしたこともありました。顔料鉱石といえば、ラピスラジュリ(青金石)にリアルガー(鶏冠石)、オーピメント(石黄)、シナバー(辰砂)と挙げていけばきりがありませんが、みんな絵の具の原料にもなる鉱物なので色がきれいなことは言うまでもありません。

そんなぼくが10年くらい前から鉱石ラジオに興味を持ちはじめると、今までとはちがった見え方が加わってきたのです。今まであまり興味のなかった元素鉱物や硫化・酸化鉱物の中でも地味に見える鉱物たちです。自分の身の回りで何も変わっていなくても、自分の興味や見方が変わることでまた新しい世界を見る思いがしたのです。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

方鉛鉱 (高さ13 .5cm)

[方鉛鉱 GALENA ガレナ PbS]

鉱石ラジオ用検波鉱石の代表といえば、やはり方鉛鉱でしょう。単体で使用する場合(さぐり式など)、他の鉱石に比べ感度もよく、また比較的入手しやすいという側面からも教材用のキットや製品の検波器にかつてさかんに用いられました。

方鉛鉱は鉛の硫化鉱物で手に持つと重さを感じます。比重は7.5前後で(ちなみに鉄の比重は7.5です)まさに鉛色をしています。表面は酸化や風化でツヤのないものもあれば、キラキラと強い金属光沢をもったものまでいろいろとあります。

戦後の鉱石ラジオ制作記事等で、鉱石のピカピカした新鮮な割断面が感度がよいと書いてあったりしますが、ぼくの経験では必ずしもそうとは言えないと思います。ですから表面の具合で感度を判断しないようにして、とりあえずいろいろな箇所を試してみることをすすめます。

方鉛鉱は産出するとき、閃亜鉛鉱や黄銅鉱、黄鉄鉱等と共生しているものもあり、ちょっともろい印象の鉱石です。この方鉛鉱はハンマー等で軽くたたいても細かく割ることができ、完全な壁開(方向性のある割れ方をすること)力Sあるので小さく割ってもさいころのようにきれいに割れます。ただしこの性質のせいで、鉱石をそのまま検波器のホルダーにネジ等で押し付けて固定しようとするとその圧力で割れてしまうこともあります。その場合ハンダで台座を作る方法が有効となります。学術的には等軸品系といわれる結晶系の鉱物で、見かけがいかにも四角っぱいものもあれば、あられみたいなタイプのものもあります。また方鉛鉱を検波に使用する際、感度に少々差が生じるのは、本来鉛と硫黄の成分が中心の鉱物ですが、中に銀が含まれることがあるので、銀の含有率が高い方が感度も高くなるのではとぼくは思い、これは人工検波用鉱石を作るときに確かめることカミできました。

産地は岐阜県の神岡や秋田県の太良、愛知県の市ノ川の各鉱山は有名で、秋田、北海道、新潟、埼玉でも産出され、海外では米国のオクラホマ、カンザス、 ミズーリの各州、メキシコ、ペルー、ルーマニアとあるそうです。なお、車骨鉱と呼ばれる遠目で見ると方鉛鉱に似た比較的高価な鉱石がありますが、これは検波には向きません。他に、輝安鉱も見るとこれはと思いますが、やはり検波はできません。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

方鉛鉱 (左はあられ状のもの幅12 cm、右のものはバラ輝石との共生標本)

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

方鉛鉱はハンマーで叩くと四角く割れます。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

1920年代から米国で売られていたさぐり式検波器用鉱石の缶入りのもの3種、中には鉱石と共に小さなピンセットが入っているものもあります。これらはたいてい方鉛鉱です。

[黄鉄鉱 pyrite パイライト FeS2]

この鉱石には人工的とも見えるほど完全な立方体の結晶もあり、初めて見るとちょっと驚く人もあると思います。感度は方鉛鉱とくらべて遜色ありませんが、さぐり式の検波器として感度のよい場所を探しているときに、いかにも平らで均一に見える黄鉄鉱の結晶面に感度のいいところとそうでないところがあるのは何か不思議な感じがします。

結晶系は方鉛鉱と同じ等軸晶系ですが、先程のサイコロみたいな形のものもありながら、5角形の12面体のもの、正8面体の結晶でとでも細いものまで、見た目の形はいろいろあります。ただ、色はだいたい真鍮色をしているのでよくわかります。硬度は方鉛鉱が2~ 3で黄鉄鉱が6~ 6.5くらいですから硬く、そして方鉛鉱ほどはもろくないのでとでも扱いやすい鉱石です。

国内の産地は岩手県仙人鉱山、愛知県津具鉱山、秋田県小坂鉱山や、埼玉、大分、宮崎、栃木の各県にも産地があるようです。海外では米国のユタ、イリノイの各州スペイン、ペルー、イタリアなどです。

黄鉄鉱は石英、黄銅鉱、方解石、閃亜鉛鉱などと共生したものも多く、標本として美しいものもたくさんあります。パイライトという言葉のpyrは“火”という意味のギリシア語で、石をたたくと火打ち石のように火が出るところからきた名前だと言われています。実際暗いところでハンマーで端を欠くようにすると赤い火花が出るのが見えます。また、昔ゴールドラッシュで人がカリフォノンニアやアラスカの金鉱山に殺到したとき、この黄鉄鉱を金と間違えてとんだ日にあった人たちも多かったらしく、この鉱物を“愚か者の金”とも呼んだそうです。確かにぼくも小学校のころ、金の鉱物だと思っていました。

また黄鉄鉱は化石中に部分的に変成することがあります。19201940年代の鉱石ラジオの鉱石を見てみると、黄鉄鉱は海外で思ったより多く使われているようですまたハンダで台になる部分を作るときも比較的熱安定しているのか、ちょっと熱くしすぎたと思っても方鉛鉱ほど感度が特別落ちることはないようです。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

黄鉄鉱(幅 12 cm)

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

黄鉄鉱にはいろいろな形状のものがあります。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

黄鉄鉱の標本には小さな結晶の部分だけを集めたものも販売されています。検波器を作るのには便利でまた安価です。

[紅亜鉛鉱 zincite ジンサイト Zn(Mn)o]

鉱石ラジオが民生としてだけでなく軍事としても考えられていた時代、この紅亜鉛鉱という鉱物はおそらくとでも重要と考えられていたと思われます。それは付録に掲げる鉱石の感度表や当時の記事からよくわかります。しかしながらこの鉱物は日本ではまったく産出しません。世界でもただ1カ所だけに存在するといってもいいような鉱物なのです。その場所は米国ニュージャージー州にあるスターリングヒルとフランクリンという2つの隣接する鉱山です。

写真の大きな標本は白いところがサセックス石、赤いところが紅亜鉛鉱、黒いところはフランクリン鉄鉱と呼ばれるものです。このフランクリン鉄鉱の部分も、感度はあまりよくありませんが、検波することができます。この紅亜鉛鉱を洋書の鉱物標本の写真集で透過性のあるオレンジ色の粒状のものを見たことがあったので、いろいろと探してみたのですが、いまだ巡り合ったことはありません。紅亜鉛鉱はその名の示すように赤色系の鉱物です。本来の成分はZnoで、これは酸化亜鉛そのもので、ちょうど絵の具のジンクホワイト(亜鉛華)と同じで粉体にすれば真っ自なものです。ですからこの鉱物はその不純物(マンガン)によって赤色の特徴を持っているということができるのかもしれません。紅亜鉛鉱は六方晶系の結晶系で硬度は4、比重は5.4~ 5.7です。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

紅亜鉛鉱 (高さ12 cm)

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

赤みのあるところが紅亜鉛鉱で、拡大してみると少し透明感があるようです。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

自作鉱石検波器のところでも今後紹介予定ですが、半人工半天然と思える酸化亜鉛の結晶。透過性であることがよくわかると思います。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

いろいろな検波器用の鉱石、パッケージがそれぞれ面白くかわいい。大体3 cm以内のものです。上段の左と右は自作のものです。

これまであげた方鉛鉱、黄鉄鉱、紅亜鉛鉱が、鉱石検波器の三大鉱石といえると思います。以下はそれほどの成果は期待できなくとも検波ができる鉱物をいくつか紹介してみたいと思います。

[斑銅鉱 bornite ボーナイト Cu5FeS4]

斑(まだら)と言われるように、その表面は酸化していて、緑、青、紫、赤、黄等のメタリックな色が細かくあるいは一面に斑模様になっている感じで、全体には石っぽさを感じる鉱物です。銅をたくさん含んでいるためか、割ってみると少し赤っぽい鉛銀色というような色味で時間や日数が経つにつれだんだんと割る前の色へと変化していきます。感度は割ってすぐより酸化して落ち着いた方がいいようにぼくは感じました。硬度は3ですがしっかりした感じで、比重は49~ 5.1、労開は特別にないようです。結品系は昔の本だと等軸晶系と書いてありますが、最近の本だと斜方晶系となっています。この後で紹介する黄銅鉱に酸処理をして、いかにも美しい斑銅鉱(ボーナイト)として売っている外国製のものもあるようです。ただ色味は本物の斑鋼鉱の方が色が落ち着いたいい感じで、感度もすぐれています。

また斑鋼鉱や次の黄銅鉱は、接合式の検波器を作る場合、紅亜鉛鉱と組み合わせると方鉛鉱を単体でさぐり式として用いるよりも、はるかに感度を期待できます。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

斑銅鉱 (高さ10cm 暗い色のところが斑銅鉱です。)

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

暗い色のところが斑銅鉱です。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

斑銅鉱の部分

[黄銅鉱 chalcopyrite チャルコパイライト CuFeS2]

黄銅鉱はちょっと黄鉄鉱に似ていそうですが色がもっと濃い感じで、黄銅鉱が磨いたばかりの真鍮とするとそれからちょっと時間が経って黄色が強まったものという感じです。ぼくには黄鉄鉱よりもよっぽどこっちの黄銅鉱の方が金と間違えやすいのではと思えるときがあります。硬度は3~ 4、比重は4~ 43で、黄鉄鉱はカチッとした感じなのに対し、黄銅鉱はソフトな感じを与えるといった印象です。また黄鋼鉱にはところどころ自然に青や紫に色づいているところがあります。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

黄銅鉱 (高さ18 cm、金色の部分が黄銅鉱)

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

上段の2点は黄銅鉱に薬品で色をつけ斑銅鉱として販売されているものです。下右は黄銅鉱、下左は斑銅鉱です。

[輝水鉛鉱 molybdenite モリブデナイト MoS2]

工作機械のビット等で「モリブデンヴァナジューム鋼を使用Jとか、自転車のパイプに「クロモリ」クロームモリブデン鋼を使用といった表示で見ることのある、鋼の性質を増強するのに使われるモリブデンの鉱石です。ぼくはモリブデンとは硬い金属だと思っていたので、初めて輝水鉛鉱の金属質のところをさわったときその柔らかさに驚きました。見た感じはピカピカしていかにも金属なのに爪などで同じところをひっかいていると、まるで強い圧力で間めてある紙のように少しずつほぐれてくるような感じです。確かに鉱物の本で調べてみると硬度は1~ 1.5ととでも柔らかいのです。かといってもろいわけではなく粘りを感じるようで、この鉱物から鉛がとれると聞いたとしたら、よっぽどそれらしいと言った感じです。検波器に使うとき思ったより感度がよく、だいたいどの部分でも感度に良否なくて使いやすそうなのですが、なんといっても柔らかいことを頭に入れないと機械的には安定を取ることができません。色はいかにも鉛色でそれこそ紙に鉛筆みたいに線が引けます。比重は4.6~ 5.1、結晶系は大方208 晶系で板状になったりしているところははがれたり曲げることができたりします。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

上左 磁硫鉄鉱、上中 輝水鉛鉱、上右 硫砒鉄鉱、下左・閃亜鉛鉱(中央に方解石が付いています)、下右 硫砒銅鉱。

ここから先はあまリー般的ではないけれど、日頃使って確かに検波ができる鉱物をぼくの標本箱から選んでみました。これらの鉱物はときどきとでも感度のいい標本の部分に出会うことがありますが、検波器の機能を満たすのには不十分なことが多く、標本としても高価なものもあるので写真と簡単なデータだけにとどめておきます。

[磁硫鉄鉱 pyrrhotite パイロタイト Fel-xS(x=0~ 0.r)]

硬度は3.5~ 4.5、比重4.5~ 4.6、単斜晶系で錆びていなければ赤みのあるブロンズ色で磁石につき、またわずかな磁力を持っています。

[硫砒鉄鉱 arsenopyrite アーセノパイライト FeAsS]

硬度は5.5~ 6、比重6~ 62、単斜晶系でピカピカの銀色のものからちょっと黄鉄鉱がくすんだような感じのものまであって、小さな結晶のところだけでも入手できます。写真は愛知県の振草鉱山のものです。

[閃亜鉛鉱 sphalerite サファルライト ZuS]

酸化によってツヤの失われた部分がわずかに電導性が出て検波できることがあります。

[硫砒銅鉱 enargite エナジット Cu3AsS4]

硬度は3、比重4.4~4.5、斜方晶系で柱状に結晶をしていて、紫色っぽいようなところがある(この部分はコベリンかも)黒光りする感じの鉱物で写真のものはちょっと黄鉄鉱がついています。感度良好でいい標本を手に入れたら端の方の柱を1本ポキッと折って紅亜鉛鉱と組み合わせると、単体の方鉛鉱より感度のよいときがあります。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

左 赤銅鉱(8cm)、右 銅藍(コベリン)、下・アルゴドン石

[赤銅鉱 cuprite カプライト Cu2S]

もろいところがありますが、かえってそのあたりが感度がいいようです。

[銅藍(コベリン) covellite コベライト CuS

メタリックなブルーの色をした鉱物です。

[アルゴドン石 algodnme アルゴドナイト CuBAs]

これは逆に酸化によって抵抗値が高くなったところで検波ができます。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

左と上は錫石、右は石墨(グラファイト6 cm)、中央・ゲルマナイト。

[錫石 cassiterite カシィテライト Sno2]

硬度は6~ 7、比重6~ 7、黒くてピカピカした鉱物で、硬質で重みを感じます。

[石墨 graphite グラファイト C]

鉛筆の芯で検波ができる理由が分かります。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

上左 モースン鉱、上右・濃紅銀鉱(2.5cm)、下左・フランケ鉱、下右自然砒。

[モースン鉱 mawsonite モーソナイト Cu8Fe2SnS3]

ほとんど斑銅鉱と同じ感じです。

[濃紅銀鉱 pyrargyrite パィラルジライト Ag3SbS3]

直流抵抗がとでも高く、ぜったいに無理だと思っていましたが、かすかに検波できるところがありました。

[フランケ鉱 franckeite フランケイト Pb5Sn3Sb2S14]

ちょっとコークスのような感じで、かすかに検波ができます。

[自然砒 arsenic アーセニック As]

丸くて小さい塊はそのまま検波器に使用できます。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

本文に説明してありませんがその他の検波に使えた鉱物です。上左 磁鉄鉱
(Magnetite FeFe204)、上右・白鉄鉱(Marcaste FeS・)、下左・隕鉄(これで
検波器を作ると隕鉄検波器?)、下右硫砒鉄鉱(この鉱物も標本を売っているところで、黄鉄鉱と同じように小さな結晶部分だけのものが入手できます)。

小林健二[ぼくらの鉱石ラジオ]

これは電気石のいろいろです。検波用の鉱物ではなく、受話回路のクリスタル
イヤフォンのところで説明した圧電効果をもっている天然の結晶です。

他にも検波のできる鉱石はまだいくつかありますが、あまりに高抵抗(濃紅銀鉱)だったり、あるいはその逆ではとんど導体(自然銀)だったり、また聞き慣れないもの(フランケ鉱、モースン鉱等)だったりします。とにかくたくさんある鉱石の中でもまったく電気伝導性のないものを別として、いろいろと研究するのは楽しいことです。ぼくがテスターを標本に当てさせてもらえないかとお願いした鉱物標本店では、興味を持って協力してくれました。もちろんテスターを当てるのは標本には絶対に傷を付けないという最低限のマナーを守った上でのことです。

鉱物の魅力は多様で標本を扱うお店にも多種の目的の人々が訪れます。検波用鉱石を探していく人はきっとほとんどいないと思いますが、検波の話が鉱石と巡り合う楽しさやかかわり合うきっかけになったりすればと思います。また鉱物だけでなくドアのノブや錆びた釘など検波器として試せるものもあると思いますので、ぜひいろいろ見つけてみて下さい。

小林健二

*小林健二著書「ぼくらの鉱石ラジオ」から、一部編集して紹介しております。

KENJI KOBAYASHI

[地球に咲くものたち-私と鉱物標本]小林健二の鉱物標本室より

小林健二の鉱物標本

小林健二が高校生の頃、集めていた鉱物を入れるために自作したケースと標本たち

私と鉱物標本

幼い頃、経木(きょうぎ)といった木を薄く削ったものやボール紙等で出来ている小さな箱にいろいろな”好きなもの”を入れて楽しんでいたりしたものです。その頃は誰もが一度はそんな遊びをしていたものです。その内容はほとんどがガラクタですが、おのおのが皆好きなものを入れる訳ですから、それぞれの好みが反影して、お互いが見せ合っても面白いものでした。私の宝物はやはり色とりどりのガラス瓶のカケラがさざれたものでした。もっともそれらが宝石でないと知るのは、もっと年長になってからのことです。それらの”宝石”を陽に透かしたり重ねて見たりするのは今思い出してもわくわくした気持がよみがえってきます。

私が育った泉岳寺というところは、四十七士で知られる寺の多い町です。私の実家のすぐ裏も願生寺というお寺でした。そしてそこは私や近所の子供仲間にとっての良き遊び場だったのです。ある暖かい日、その寺の裏手にある井戸で皆でヤゴ釣りをしていたとき、偶然に足元にキレイな色をした平たく丸い石のようなものを見つけました。そして皆でその辺を掘ってみると、たくさんの色とりどりの同じ大きさのものが出てきたのです。その場にいたものはそれぞれに驚きはしゃぎましたが、私は人一倍興奮したように覚えています。なぜならある童話で「地中の中には美しい多数の宝石がかくれている」といった物語を既に読んでいたからです。何日かして気持のさめやらぬまま家の隣にあるメッキ工場の”サカイさん”と呼んでいつも遊んでもらっている方に「これって何だろう?」と見せると、彼は笑いながら「ケンボーそれは化石だよ」と言いました。「何の化石?」と聞くと、「それは水の化石だよ」と言ったのです。

その一言は大変な驚きを私にもたらしました。「水が化石になるなんて、何てことなんだろう。あんな風な色になるのは、水だけじゃなくてファンタオレンジやグレープ、そして田中君ちの赤いソーダ水もきっと化石になるんだ。」頭の中はぐるぐるになりっぱなしだったのです。

先程読んでいたと書いた物語はこんなお話だったと思います。ある貧しい人が不思議な老人から小さな瓶に入った薬をもらいます。その薬を片目にぬると地中にある数々の宝石を見ることができる、ということでした。その貧しい人は早速に片目にぬってみました。するとどうでしょう。くすんだ地面の中にキラキラ光る宝石が見えるのです。そしてその宝石を掘りあてると陽の光りに冴えわたり、彼はそれを売ったお金で貧しい家族に満足な食事と衣類を買うことができました。ところが彼はもっと宝石がないものかと老人との約束をやぶって両目に薬をぬってしまいます。すると宝石どころか彼の目は光を失い、それまで彼のまわりにあった全てをも失ってしまうというお話でした。私にとってこの物語の持っている暗示的なところよりも、はじめの方で片目に薬をぬりはしゃいでいる彼の姿の挿絵がとても気に入っていたのです。それは半分透過性となった地面の内に多数の結晶が描かれ、さらにきわだたせた表現のためか、空中にまでも宝石はちりばめられていたのです。

「あの話は本当なのかも知れない」子供の心は一直線なところがあるのでしょう。年下の友人とともに”小野モーターズ”の駐車場のはがれかけていたアスファルトを一生懸命にはがしていたときなど、大人たちは怒るどころか心配までしてくれたことを覚えています。

やがてウスウスとその平たく丸いものが実はガラスで、昔の石蹴りの遊びに使われていたものと分りはじめたころ、上野にある科学博物館で本格的?な鉱物標本と対面したのです。当時の科学博物館を知る方ならどなたでも声をそろえて「その鉱物室は素晴らしかった」と言われると思います。事実それは見事なものでした。傾斜のついた木のケースに整然と並べられた鉱物たちの魅力は、ある種の子供たちの一生を通じて、影響を与えるのに充分な引力を持っていたのです。たとえ「水が化石になる」ということを信じていたことから出発した子供でさえも、、、。

それでも私の集めたガラクタの中には一つ二つ、確かに水晶のカケラが入っていたことは今もって不思議なことでしたが、本来”石好き”と言われる方々は実際に山や人里離れた場所までリュックを背負い、地図やコンパスをたよりにして石を採集に行ったりするものです。私もほんの数度、若い頃に友人と水晶や鶏冠石(ケイカンセキ)を掘りに行ったことがありますが、たいていは標本を扱うところで購入したものです。

その最初は科学博物館の売店で、その次あたりは神田の高岡商店というとこでした。そこにはハニワやヤジリといったものと並んで水晶や岩石がありました。十代も後半になる頃からは東京は文京区にあった凡地学研究所というところでいろいろな鉱物と出合っていたのです。その頃の標本店で扱う鉱物は、近年海外からもたらされる象徴的な標本と比べるとそれほど鉱物の結晶がはっきりとせず、「黄鉄鉱」などの元素鉱物でさえもしばらくルーペで見ないと分りづらいようなものが多くありました。高価なものとなればもちろん別ですが、私には買えるようなものではありません。

最初に鉱物標本を入手してから40年以上の月日が流れました。鉱物世界からすれば一瞬の出来事ですが、一個人からすると決して短いものではありません。水晶も石英も共に美しい呼称と思い、子供心にもうっとりすることがありました。とりわけ透質で手が切れそうなくらい稜線がくっきりとした結晶の、その鏡のような面に何か知らない世界が映りはしないかと今でさえ思うことがあります。幼い頃、ポケットに入れていた宝物たちがジャラジャラするときに、痛々しくてお布団を敷いたような箱の中に入れようとしたことがあります。

昔の古い本の中に、水晶はかつては水精と呼ばれ深山渓谷の霧や霞が氷った後、化石になったという伝説があると知ったときから、あの幼い私に「水の化石」という一つの夢を与え続けてくれている「ケンボー、それは水の化石だよ」という言葉に、に今も感謝しているのです。

小林健二

小林健二の鉱物標本

[水晶と魚眼石]
岐阜県吉城郡神岡町神岡鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶]
山梨県牧丘町乙女鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶]
山梨県水晶峠

小林健二の鉱物標本

[水晶]
奈良県吉野郡天川村洞川五代松鉱山

小林健二の鉱物標本

[水晶と魚眼石]
岐阜県吉城郡神岡町神岡鉱山円山抗

小林健二の鉱物標本

[煙水晶とカリ長石]
岐阜県恵那郡蛭川村田原

小林健二の鉱物標本

[水晶と束沸石]
神奈川県足柄上郡山北町玄倉水晶谷

Photo by Kenji Kobayashi(撮影:小林健二)

地球に咲くものたち

KENJI KOBAYASHI

[地球に咲くものたち]小林健二の鉱物標本室より

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
Rio Grande do Sul,Brazil

喧噪も届かない遥かな場所、静かで何万年も変わることのない秘密の晶洞。

そんなところで鉱質の結晶たちは安らいでいるのです。この至純な眠りの国では絶え間なく美しい夢が紡がれ、まるで目には見えない不思議な情報に促されるように彼らはその姿を現わしてゆくのです。

この成功も失敗もない世界に於いてはまた、争うことも競いあう必要もありません。

ただ、この宇宙に流れている秩序の方向にその存在の軸を一つにしているのです。迷いやためらいもない穏やかな時間の中で夢を見続ける、それが彼らをまた祝福しているかのようです。

地質学的堆積の範囲を越えて、この地球の意識が発芽して花を待つような、いじらしくも壮大なこの一連の素敵な事実はまさにこの星、地球に咲くものたちを創ったのではないでしょうか。

この小さな冊子に於ける私の期待は、鉱物とその仲間たちの姿を通して人の世に生きる皆さんが何かを見つけてくれるのではないかという事です。そしてそれは鉱物学や結晶工学の話しではなく、また尖鋭的でも奇抜でもないあたりまえの方向の事としてなのです。

この彼らの営みは分子のレベルの緻密なものでありながらも、有機的でゆるがせなものであり、天然の力を受けとめているその光りは、自信というよりは遥かに静かで確かな輝きを持ってはいないでしょうか。

たおやかで静謐なその世界に触れるとき、いかなるものとも共和できる宇宙の資質を感じ、また私たちの心の深いところに潜んでいる善意の流れと源を同じくしているのではないかと感じたりするのです。

鉱物の結晶を見ているとまったく同じものに出合うことはありません。それは私たち人間がまさにそうなようにです。でも共にその背景には見えざる共通の願いがあるような気がしてなりません。この冊子を手にとってくれた皆さんに私が届けたい言葉があるとしたら、それはきっとこんな事なのです。鉱物たちだけではない、あまねく命の結晶とともにあなたは今、この地球に咲いているのです。

[Flowers inside the earth-from the mineral specimens of Kenji Kobayashi-地球に咲くものたち]

初稿1997年 小林健二

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
Amatitlan,Guerrero,Mexico

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Carinto,Minas Gerais,Brazil

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst)]
KingstonMt.,San Bemardino Co.,California,USA

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Bata Mare,Rumania

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Japanese Twin)]
La Tentadora Mine,Pampa,Blanco,Peru

小林健二の鉱物標本

[Quartz]
Mina Liliana,Mpio.,Chihuahua,Mexico

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Amethyst) on Anydorite]
Rio Grande do Sul, Brazil

小林健二の鉱物標本

[Quartz in Marble]
Carrara, Italy

小林健二の鉱物標本

[Quartz(Citrine)]
Loenae Mine, Conga, Africa

Photo by Kenji Kobayashi(撮影:小林健二)

小林健二の鉱物標本室よりNo.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11

私と鉱物標本

KENJI KOBAYASHI

 

今後、鉱物標本写真は随時アップします。