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直接結合回路鉱石受信機の製作(筐体+仕上げ編)

以前自作パーツ(クラウンコイル+探り式鉱石検波器+ヴァリコン)でご紹介した記事の筐体(ケース)を作ります。

クラウンコイルの製作

さぐり式鉱石検波器の製作

ヴァリコンの製作

ここではアンティークラジオのような形のものを木工によって作ってみました。まずケースの本体の木取りから始めます。

自作[直接結合回路鉱石受信機] 寸法はW155× D135× H200(mm)です(検波器端子は含まない)。

自作[直接結合回路鉱石受信機]
寸法はW155× D135× H200(mm)です(検波器端子は含まない)。

ケース前面、背面、底面、そして前面と背面をつなぐ木の棒です。板材は12mm厚のラワンベニヤで作り、断面が五角形のような棒は4cm×4cmの角材から作りました。

ケース前面、背面、底面、そして前面と背面をつなぐ木の棒です。板材は12mm厚のラワンベニヤで作り、断面が五角形のような棒は4cm×4cmの角材から作りました。

これらをボンドで接着します。頭の角材には工作途中でかなりの力をかけるので、くぎも打っておきます。

右に見えるのは、次の工程で側に曲げながら貼りつけるベニヤの板です。これは幅を本体の枠に合わせ、長さを多めにしてあります。 十分に水につけたあと、ラップにくるみ電子レンジで温めておくと曲げやすくなりま す。この作例が小さいため曲率が高いので大事をとったのですが、もっと大きなものなら水で湿す必要もないでしょう。

右に見えるのは、次の工程で側に曲げながら貼りつけるベニヤの板です。これは幅を本体の枠に合わせ、長さを多めにしてあります。十分に水につけたあと、ラップにくるみ電子レンジで温めておくと曲げやすくなります。この作例が小さいため曲率が高いので大事をとったのですが、もっと大きなものなら水で湿す必要もないでしょう。

作例は3mmのブナのベニヤを使いましたが、27mmのラワンベニヤか3mmのシナベニヤあたりが人手しやすいと思います。

本体の片側にボンドを塗って、下部の端をしっかりと合わせ、くぎで軽く仮止めします。そして徐々に上のほうへ向かって押しつけるようにして側板を密着させてゆきます。途中どうしてもすき間があいてしまうなら、そのつどくぎで仮止めをします。仮止めとは、細いくぎを半分くらい打ち込んでおき、ボンドが固まったあとでプライヤーやペンチで抜き取ってしまうやり方です。

写真13ではクリップやクランプで止めてありますが、実際はもっと簡単に、太い輪ゴムやひもでも固定できるでしょう。 このようにして片側を貼りおえたら、完全に乾くのを見計らい、上部に余っている ベニヤを切り取って、はみ出したボンドをきれいに削り取ります。そのあともう片側へ同じことを繰り返します。写真13の左のほうにもう片側に使うベニヤが筒に巻かれ、巻きぐせがつくようにしてあるのが見えます。

写真ではクリップやクランプで止めてありますが、実際はもっと簡単に、太い輪ゴムやひもでも固定できるでしょう。
このようにして片側を貼りおえたら、完全に乾くのを見計らい、上部に余っているベニヤを切り取って、はみ出したボンドをきれいに削り取ります。そのあともう片側へ同じことを繰り返します。写真左のほうにもう片側に使うベニヤが筒に巻かれ、巻きぐせがつくようにしてあるのが見えます。

写真14は両側の板を貼り乾かし、そしてサンドペーパーで仕上げた本体です。右側には本体からトレースしてベニヤを切り取って作りはじめたパネルが見えます。また本体の下のところの出っ張りは、あとでつけるパネルの厚み分の本片が接着されています。パネルがついたとき、同じ高さにするためです。パネルは3mmのベニヤを2枚貼り合わせるので、木片は6mmの厚みにしてあります。

写真は両側の板を貼り乾かし、そしてサンドペーパーで仕上げた本体です。右側には本体からトレースしてベニヤを切り取って作りはじめたパネルが見えます。また本体の下のところの出っ張りは、あとでつけるパネルの厚み分の本片が接着されています。パネルがついたとき、同じ高さにするためです。パネルは3mmのベニヤを2枚貼り合わせるので、木片は6mmの厚みにしてあります。

正面のパネルを作ります(写真15)。パネルのレイアウトをよく確かめて補強と装飾を兼ねてパネルの縁を二重にします。まずパネルと同寸の板をもう一枚切って、縁から一定の幅(作例では12mm)にケヒキなどでしるしをつけて、弓ノコなどで切り抜きます(写真16)。

正面のパネルを作ります。パネルのレイアウトをよく確かめて補強と装飾を兼ねてパネルの縁を二重にします。まずパネルと同寸の板をもう一枚切って、縁から一定の幅(作例では12mm)にケヒキなどでしるしをつけます。

小林健二の技法

ケヒキで印をつけたところを弓ノコなどで切り抜き、パネルには所定の位置に穴をあけます。

彫刻刀の丸刀などで面を取り、貼りつけます。

彫刻刀の丸刀などで面を取り、貼りつけます。

写真18のようにいろいろな断面をすでに削りだして棒状に形成した製品も面縁として売られています。

写真のようにいろいろな断面をすでに削りだして棒状に形成した製品も面縁として売られています。

写真19のようないろいろな面取り飽もまだ大工道具を売っているお店の隅に残っていることもあり、 1つ2つあるとなにかと楽しく工作ができるでしょう。

写真のようないろいろな面取り飽もまだ大工道具を売っているお店の隅に残っていることもあり、 1つ2つあるとなにかと楽しく工作ができるでしょう。

写真20は仕上げ前の本体とパネルです。本体下部の額縁のように面を取った部分は、工作材を彫刻刀で彫ったあと貼りつけたものです。本体にあいた穴の形がちがうのは、 パーツを仮に組んでみたらコイルが人らないので、設計変更をしたためです。

写真20は仕上げ前の本体とパネルです。本体下部の額縁のように面を取った部分は、工作材を彫刻刀で彫ったあと貼りつけたものです。本体にあいた穴の形がちがうのは、パーツを仮に組んでみたらコイルが人らないので、設計変更をしたためです。

写真52は全体のパーツが仕上がったところです。ヴァリコンはパネルにヴァーニャダイヤルであらかじめ取り付けておきます。ディテクターもついてます。背面パネルにはヘッドフォン用のターミナル2個とアンテナ用とアース用にそれぞれひとつずつのターミナルがつけであります。

写真は全体のパーツが仕上がったところです。ヴァリコンはパネルにヴァーニャダイヤルであらかじめ取り付けておきます。ディテクターもついてます。背面パネルにはヘッドフォン用のターミナル2個とアンテナ用とアース用にそれぞれひとつずつのターミナルがつけであります。

回路図と実体配線図を載せておきますので、参考に組み込んでください。

[直接結合回路鉱石受信機]回路図

[直接結合回路鉱石受信機]回路図

[直接結合回路鉱石受信機]実体配線図

[直接結合回路鉱石受信機]実体配線図

調整と聞き方

組み上がったあとの調整は、内部配線の接続を確かめ、アース線やアンテナ、ヘッドフォンの接続を確かめたあと、さぐり式の鉱石検波器の針を鉱石からはずしておいて、そこにダイオードを足を曲げて仮に取り付けておきます。コイルからヘッドフォンにつながるロータリースイッチをいちばん右(巻き数をいちばん小)にして、アースにつながるロータリースイッチは左から3番目くらいにして、ヴァリコンを動かしていちばん音が大きなところに合わせます。そしてそれぞれのロータリースイッチを動かしさらに分離がよく聞こえやすいところを探し、ふたたびヴァリコンを動かします。これを繰り返し、最もいいところを見つけたら、ダイオードを取り去り、さぐり用の針を鉱石にあてながら放送が最もよく聞こえるポイントを見つけます。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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6/4[小林健二Talk+WET]

小林健二 Talk [工作のヒント]+[不思議な世界]+[結晶育成] 会場:メガラニカ(Magallanica)

小林健二 Talk [工作のヒント]+[不思議な世界]+[結晶育成]
会場:メガラニカ(Magallanica)

2016,6/4の小林健二トークが昨日終了しました。

小林の道具談義から始まり(今回はケヒキについてでした)、電気を使った作品などを参加者と共に楽しみ、結晶育成の手始めの作業を進め(最終日6/19には完成予定だそうです)、自然とWETへと流れていきます。人数限定でのトークショーですが、トークの後に参加者といろいろな話をしていくWET(ウイークエンド・イヴニング・トーク)が企画されました。

小林の話を聞くというだけのスタンスと違い、工作や道具への質問や実際ものを作っている人からは製作工程でのアドバイスを聞いたりなど、歓談する場面が多く見られ、とても有意義な試みであったと思われます。

2016,6/4のトーク風景

2016,6/4のトーク風景

[遠方結晶交信機] 別の場所にいる人々交信し合える装置。水晶のような結晶の表面にのみ、お互いの動画が映し出される作品。一つのトーク会場で紹介するため、今回は2mほど離れたいるが同じテーブルの上で実験。

[遠方結晶交信機]
別の場所にいる人々が交信し合える装置。水晶のような結晶の表面にのみ、お互いの動画が映し出される作品。今回は一つのトーク会場で紹介するため、2mほど離れていますが同じテーブルの上で実験。

WET風景

WET風景

 

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クラウンコイルの製作について

クラウンコイルの製作

このコイルはぼくが設計したもので、形が王冠のようなのでクラウンコイルと名づけました。Q(効果が高い時など「Q(キュー)がいい」といいます)もとてもよいので、ぜひ試してみてください。

作例のコイルのリングはたまたまホビー材料屋で見つけたもので、サイズは外径9cm、内径6.5cm、厚さ12mmでした。適当なものが入手できないときは、糸ノコで切るか、写真のように自在キリという道具で裏と表から木の板にかけて作ることもできます。

ボール盤に自在キリを取り付けて円形に木をカットしている様子。

ボール盤に自在キリを取り付けて円形に木をカットしている様子。

ニスを塗った木の輪に、 7mmくらいの深さの切り込みを19本入れます。切り込みの深さを一定にするためには、金ノコの背にあたる部分の両側にプラスチック片などを瞬間接着剤でとめて、ストッパーとしておくと仕事がやりやすいでしょう。

ニスを塗った木の輪に、 7mmくらいの深さの切り込みを19本入れます。切り込みの深さを一定にするためには、金ノコの背にあたる部分の両側にプラスチック片などを瞬間接着剤でとめて、ストッパーとしておくと仕事がやりやすいでしょう。

厚さ1mmのプラスチック板(作例では布入ベーク)を35mm×12mmの大きさに切ったものを19枚作って、 リングの切り込みに垂直に差し込んでゆきます。金ノコの 切り込みの幅が1mm弱なので、強く押し入れるとちょうどとまるはずですが、もし きつすぎるなら、同じプラスチック板の余りなどを差し込んで4、5回こするとサイズがよくなります。

厚さ1mmのプラスチック板(作例では布入ベーク)を35mm×12mmの大きさに切ったものを19枚作って、 リングの切り込みに垂直に差し込んでゆきます。金ノコの切り込みの幅が1mm弱なので、強く押し入れるとちょうどとまるはずですが、もしきつすぎるなら、同じプラスチック板の余りなどを差し込んで4、5回こするとサイズがよくなります。

それぞれの羽がしっかりとリングに埋め込まれたら、垂直に入っていることを確かめて、瞬間接着剤で固定します。

それぞれの羽がしっかりとリングに埋め込まれたら、垂直に入っていることを確かめて、瞬間接着剤で固定します。そして導線の巻き初めをビスなどで固定して、スパイダーコイルと同じように羽2つずつジグザグに編むようにして巻いてゆきます。

スパイダーコイルの製作

そして巻き初めの反対側のほうに、2列タップを出す位置を決めます。そして向かって左側に巻き初めから1周して最初にその位置がきたときから12回ごとにマジックなどでしるしをつけ、それを6回おこないます。

右側のほうは、前回ご紹介したソレノイドコイルのときのように、最初が18回目で、以降12回ずつ巻いて5回しるしをつけます。そして補強も兼ねてさらに12回ほど巻いて、巻き終わりの端を巻き初めのとなりあたりにネジで固定して巻き上がりとします。

ソレノイドコイルの製作

巻き上がったコイルのタップを出すために、羽と羽のあいだのしるしをつけた場所 に、マイカの1cm幅に切った小板を差し入れます。 ドライバーのマイナスなどであらかじめじるしのついたところの縁を持ち上げておくとょいでしょう。

巻き上がったコイルのタップを出すために、羽と羽のあいだのしるしをつけた場所に、マイカの1cm幅に切った小板を差し入れます。 ドライバーのマイナスなどであらかじめじるしのついたところの縁を持ち上げておくとょいでしょう。

コイルを本体に取り付けるための金具を作ります。幅1cm、厚さ1mmくらいの真鍮板を曲げて、コイルの木枠にネジで3カ所に取り付け、金具のそれぞれの端は90度に曲げ、径3mmのタップを立てておきます。

コイルを本体に取り付けるための金具を作ります。幅1cm、厚さ1mmくらいの真鍮板を曲げて、コイルの木枠にネジで3カ所に取り付け、金具のそれぞれの端は90度に曲げ、径3mmのタップを立てておきます。

「コイルのタップ」と同じタップという言葉なのでわかりにくいかもしれませんが、「タップを立てる」というのはタッピングツールで雌ネジを作ることを言います。

*方法は下記に紹介しておりますので、参考にしてみてください。

マイカ板の上のタップの部分に前ハンダをしておきます。

マイカ板の上のタップの部分に前ハンダをしておきます。

1回路6接点のロータリースイッチにヨリ線とエンパイヤーチューブで配線をするのですが、作例の場合はケースが小さく、手やハンダごての入るスペースがないために、ダミーケースを作ってあらかじめ配線を仕上げておきました。

1回路6接点のロータリースイッチにヨリ線とエンパイヤーチューブで配線をするのですが、作例の場合はケースが小さく、手やハンダごての入るスペースがないために、ダミーケースを作ってあらかじめ配線を仕上げておきました。

ダミーケースとはこの場合、コイルのタップからの引き出し線をいちばんいい長さでロータリースイッチに配線するために、余った板などでそのコイルとスインチの距離をシュミレートしたものを作っておいて、それに部品を仮に取り付け配線を先に済ませてしまうことで作業を楽にしようとするものです。

このようにしてあらかじめスイッチまでの配線が終了したコイルです。

このようにしてあらかじめスイッチまでの配線が終了したコイルです。

タップで雌ねじを作る

タップによって雌ねじを作ることができれば、金属と金属、あるいはいろいろな材料を接合するのにとても便利です。アルミとアルミのようにハンダ付けが難しい素材や、プラスチック、木でもある程度硬度があれば、たいていの場合ビスやボルトで接合ができます。タップで作業することを「タップを立てる」と言います。またこのようにしておくと、接着剤による接合と違って再び取り外しがきくので、工作の幅を広げることができます。

写真1は手前に並んでいるのがタップのカッターで、左から1、14、17、2、2 3、2 6、3、4、5、6、8、10、16 mmです。後ろにあるのがタップのホルダーあるいはハンドルと呼ばれるもので、タップの大きさに見合ったものを使います。通常よく使うサイズは2.6~6 mmまでの間で、とりわけ3mmはよく使います。

写真は手前に並んでいるのがタップのカッターで、左から1、14、17、2、2 3、2 6、3、4、5、6、8、10、16 mmです。後ろにあるのがタップのホルダーあるいはハンドルと呼ばれるもので、タップの大きさに見合ったものを使います。通常よく使うサイズは2.6~6 mmまでの間で、とりわけ3mmはよく使います。

作業はまず雌ねじを作りたい場所にそのねじの直径に0.8をかけた大きさの下穴をドリルであけます。たとえば3mmのタップの場合、あらかじめ3X0.8=2.4mm(あるいは2.5mm)の大きさの下穴をポンチ等でマーキングしてあけます。それからタップをできるだけ垂直になるようにして、ゆっくりと時計画りに回していきます。

タップの作業。

タップの作業。

金属や固い材の場合、3回まわしたら2回戻すというようにして少しずつあけていき、ひっかかるようなら油をさしながら作業します。3mm以下のタップは折れやすく、もし折れてしまうと厄介なので注意が必要です。細いねじの場合は、材のほうを回すほうがタップが折れにくい場合もあります。

写真はタップを横から見たものです。ねじを切り終わったら逆さに回してタップをはずし、切りくずを取って終了です。

写真はタップを横から見たものです。ねじを切り終わったら逆さに回してタップをはずし、切りくずを取って終了です。

ダイスで雄ねじを作る

ダイスで雄ねじを作ることはタップを使う頻度より少ないかもしれませんが、前回紹介したヴァリオカップラーの工作のようにダイスを使えると便利な時があります。もちろんダイスにも小さいものから大きいものまでサイズがいろいろあります。

ヴァリオカップラーの製作

ダイスの使い方は、もし真鍮で3mmのねじを作る場合なら、その3mm径の棒を万力などでくわえて固定し、棒にそってダイスを回します。

ダイスの使い方は、もし真鍮で3mmのねじを作る場合なら、その3mm径の棒を万力などでくわえて固定し、棒にそってダイスを回します。

所定の位置まで来たら反対に回してダイスをはずします。このようにダイスで作業することを「ダイスを通す」言います。

ダイスで長いねじを作るのは少々むずかしいのですが、ピッチをそろえてきれいに作りたい時はボール盤に棒をくわえて手でダイスを持って作業するとうまくいきます。

ぼくは所定の位置までダイスがとおったら、ぱっと両手を同時にはなしてボール盤のスイッチを切るという感じで作業をしているので、人が見たらとてもあぶなく見えると思います。

所定の位置は加工する品物にあらかじめマジックで印を付けておくと品物が回転してもわかります。

所定の位置は加工する品物にあらかじめマジックで印を付けておくと品物が回転してもわかります。

またダイスを通すほどでもない場合や、とても長いねじが必要な時は全ねじ棒といって全体がすでにねじになっているものがあります。

通常金属材料店で手に入るのは、径が2、2.6、3、4、5、6、8、10、12 mmですが、これでたいてい間に合うと思います。

通常金属材料店で手に入るのは、径が2、2.6、3、4、5、6、8、10、12 mmですが、これでたいてい間に合うと思います。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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固定式鉱石検波器の製作について

固定式鉱石検波器は鉱石ラジオが最盛期を迎えた時代にもっとも普及しました。

上左から国産のフォクストン(古河電気工業)と呼ばれたものです。その右が米国ERLA製、その下の大きめのものはカーボランダムディテクターと呼ばれ、本来は0.lVくらいのバイアスをかけて使用します。3段目左は自作品、右は現在入手できるレプリカ品、4段日はともに自作品です。 自分なりにラベルを工夫したりすると楽しいと思います。

上左から国産のフォクストン(古河電気工業)と呼ばれたものです。その右が米国ERLA製、その下の大きめのものはカーボランダムディテクターと呼ばれ、本来は0.lVくらいのバイアスをかけて使用します。3段目左は自作品、右は現在入手できるレプリカ品、4段目はともに自作品です。
自分なりにラベルを工夫したりすると楽しいと思います。

ERLA製の固定検波器と自作の検波器を分解したもの。ERLA製のものは黄鉄鉱と燐青銅の0.6mmくらいの針の先をとがらせたもので作ってあり、自作のものは0.5mmタングステンで作ったスプリングと硫砒鉄鉱を使って作りました。このような構造だとねじを回し封じながら接点を取るので感度のいい場所でなかなかうまく止まってくれず大変ですが、いったん感度のいい点で止まると、タングステンのバネの利きがよくて少し落としたくらいでは位置がずれたりしません。

ERLA製の固定検波器と自作の検波器を分解したもの。ERLA製のものは黄鉄鉱と燐青銅の0.6mmくらいの針の先をとがらせたもので作ってあり、自作のものは0.5mmタングステンで作ったスプリングと硫砒鉄鉱を使って作りました。このような構造だとねじを回し封じながら接点を取るので感度のいい場所でなかなかうまく止まってくれず大変ですが、いったん感度のいい点で止まると、タングステンのバネの利きがよくて少し落としたくらいでは位置がずれたりしません。

昔のパッケージ入りの固定検波器など。

昔のパッケージ入りの固定検波器など。

フォックストン型鉱石検波器を作る前に、手慣らしとしてダイオードを使用したタイプを作ってみます。

ダイオードによる固定式検波器の製作

材料:プラスチックパイプ1本(太さ10mm長さ3-4cm)・ホック(スナップボタン)用オス金具2個・ゲルマニュームダイオード1本・金具用真鍮板1.5mm厚3cmくらい1枚と1mm厚8mmX7cmくらい1枚

 

まず、ホックのオスの裏側のへこんだところにハンダを溶かしながら埋め込んでおきます。このとき木の台などに穴をあけて、出っ張ったところを入れて安定して作業できるようにするとよいでしょう。

まず、ホックのオスの裏側のへこんだところにハンダを溶かしながら埋め込んでおきます。このとき木の台などに穴をあけて、出っ張ったところを入れて安定して作業できるようにするとよいでしょう。

このホックにダイオードの線が通る08~1mmくらいの穴を、ハンドドリルなどを使って貫通させておきます。

このホックにダイオードの線が通る0.8~1mmくらいの穴を、ハンドドリルなどを使って貫通させておきます。

アクリルなどのパイプ(作例では見やすいように透明)で、太さ10mm、長さ35mmくらいのものを用意します。中にダイオードを入れ両端から先ほどのホックをダイオードに通してホックとパイプとを瞬間接着剤でとめておきます。

アクリルなどのパイプ(作例では見やすいように透明)で、太さ10mm、長さ35mmくらいのものを用意します。中にダイオードを入れ両端から先ほどのホックをダイオードに通してホックとパイプとを瞬間接着剤でとめておきます。

ダイオードが真ん中にくるように調節して、両端のホックとダイオードとの線とをハンダ付けして余分な線は切ってしまいます。これでフォックストン型の検波器がで きます。

ダイオードが真ん中にくるように調節して、両端のホックとダイオードとの線とをハンダ付けして余分な線は切ってしまいます。これでフォックストン型の検波器がで
きます。

次にこのフォックストンをパネルにつける金具を作ってみましょう。

ここでは止める板はガラスエポキシ製の物を使用してますが、素材は自分の好みで決めてください。

ここでは止める板はガラスエポキシ製の物を使用してますが、素材は自分の好みで決めてください。

見るからに簡単な金具なのですが、今はもちろん市販されていません。この金具はバネのように弾力をもたせ、フォクストンの着脱をするために0.5mmの薄い真鍮板で作ります。そしてホックの出っ張りを入れて固定するため4mmの穴をあけるのですが、工作にはこんな簡単そうなところに思わぬ危険が隠れています。

ここに5mm厚と0.5mm厚の金属板があったとします。この板に直径4皿mの穴をあけようとしたとき、どちらのほうがあけやすいでしょう。ちょっと考えると薄いほうと思いがちですが、実はそうではありません。厚いほうは時間をかければハンドドリルでもいつかはあきます。しかし薄い金属板だと、ドリルが貫通しようとした瞬間、ドリルが材料に食い込み上部のほうへ急に持ちあげられたりして材料が変形したり、ひどい場合はドリルにからまって回転してしまい、材料を押さえていた手に思わぬケガをする危険があります。電動工具を用いて起こる事故の大半は、その危険な状態をイメージできないところから起きるのです。ですからここでは事故の少ない安全な方法を例として示してみたいと思います。

まず大きな板をしっかりと支えて先に穴をあけ、そのあとで必要なサイズにカット します。

まず大きな板をしっかりと支えて先に穴をあけ、そのあとで必要なサイズにカットします。

この場合は押し切りカッターを使っていますが、金切りばさみか、しっかりしたはさみで切ることができます。

この場合は押し切りカッターを使っていますが、金切りばさみか、しっかりしたはさみで切ることができます。

その後ペンチ等で途中を90°度に曲げてL字の形にしておきます。

その後ペンチ等で途中を90°度に曲げてL字の形にしておきます。

固定式鉱石検波器の製作

鉱石ラジオの要とも言うべき鉱石検波器を製作します。ここでは固定式のものを作ります。上記でダイオード使用の検波器を作ったのとほぼ同じ方法です。

材料:方鉛鉱の小さく割ったかたまり3~5 mmくらいのもの 1個・ホックのオス型のもの 2個・プラスチックの筒 外径10mm×35mmくらいのもの 1本・スプリング 筒の内径より少し細めのあまり強くないもの 1本(ここでは作ってみます)・取り付け金具 アルミのL字形押出材の15mmX15 mm 厚さ3mm長さ12mm

まずはダイオードで作った時のように、穴のあいた板の上などにホックを出っ張っ たほうを下にして安定させます。そしてハンダをハンダごてで溶かして入れます。次 に溶けてたまったハングの中にハンダごてを入れてハンダを液体にしておきながら、 ピンセットで鉱石をハンダの上に置き、少し押さえます。

まずはダイオードで作った時のように、穴のあいた板の上などにホックを出っ張ったほうを下にして安定させます。そしてハンダをハンダごてで溶かして入れます。次に溶けてたまったハングの中にハンダごてを入れてハンダを液体にしておきながら、ピンセットで鉱石をハンダの上に置き、少し押さえます。

1~ 2秒して鉱石も温まったら、ハンダごでをそこからはずし、ハンダが固まり鉱 石が安定するまでそのままピンセットで押さえておきます。

1~ 2秒して鉱石も温まったら、ハンダごでをそこからはずし、ハンダが固まり鉱石が安定するまでそのままピンセットで押さえておきます。

ハンダが冷えて固まれば作業は終了です。しかし、すぐに鉱石がはずれてしまうようなら、もう一度作業を繰り返してください。ただ、あまり鉱石を熱しすぎてしまうと、感度が落ちることがありますから注意してください。

鉱石は方鉛鉱のほか、黄鉄鉱や紅亜鉛鉱なども使用できます。いろいろな種類の鉱 石で作ったり、同じものでも複数作っておくとよいと思います。上は自作ケースにセットした検波器に使用する鉱石各種と下はやはり自作ケースにセットした台座付き検波器用鉱石各種。

鉱石は方鉛鉱のほか、黄鉄鉱や紅亜鉛鉱なども使用できます。いろいろな種類の鉱石で作ったり、同じものでも複数作っておくとよいと思います。上は自作ケースにセットした検波器に使用する鉱石各種と下はやはり自作ケースにセットした台座付き検波器用鉱石各種。

次にスプリングですが、内径より少し細めの市販のものを使います。材質はステンレスの線の細いものがいいでしょう。内径にくらべてあまり細いスプリングを使うと、スプリングの先が鉱石にうまく当たってくれないばかりか、中で曲がってしまって安定しません。作例では筒の内径が8mmで、市販のスプリングでぴったりのものがなかったので、作ることにしました。スプリングの材料は作例のようにタングステン線の0.2 mmくらいが理想ですが、入手がむずかしいのでステンレス線、あるいはニクロム線の細いもの(0.5 mmくらいまで)を使います。

スプリングを作るときは、この場合太さ6mmのネジにピッチに合わせて巻いてゆくと簡単にできます。

スプリングを作るときは、この場合太さ6mmのネジのピッチに合わせて巻いてゆくと簡単にできます。この写真では木の棒を使用。

内径より2まわりくらい小さいネジをゲージにします。手をはなすと少し広がりますので、あとは引っ張ったり押したりねじったりして大きさを合わせます。鉱石に当たるほうの端は、中心に尖った線の先がくるようにします。

鉱石のついたホックをパイプと瞬間接着剤で固定したあと、スプリングを入れ、蓋を開めるようにしてもう一方をホックで押さえ、セロテープで仮止めし、これまでにもしも自作したラジオがあれば、それで感度を確かめます。よい感度のときがくるまでスプリングの入れ方をいろいろと変え、よい感度が得られたときそのまま動かさずに接着剤で仮止めの部分を固定します。

鉱石のついたホックをパイプと瞬間接着剤で固定したあと、スプリングを入れ、蓋を開めるようにしてもう一方をホックで押さえ、セロテープで仮止めし、これまでにもしも自作したラジオがあれば、それで感度を確かめます。よい感度のときがくるまでスプリングの入れ方をいろいろと変え、よい感度が得られたときそのまま動かさずに接着剤で仮止めの部分を固定します。

ぼくらの鉱石ラジオ・小林健二

 

この検波器の取り付け金具は、アルミ製のL字棒を金ノコで切ってやすりで整えたあと、ドリルで本体につくほうに3mm、検波器のつくほうに4mmの穴をあけて作りました。

この検波器の取り付け金具は、アルミ製のL字棒を金ノコで切ってやすりで整えたあと、ドリルで本体につくほうに3mm、検波器のつくほうに4mmの穴をあけて作りました。

このようにして作った固定式鉱石検波器は、強く落としたりするとスプリングの位置が変わって感度を失うこともあります。そのようなことも考えて、昔は筒の中ほどに前もって2mmくらいの穴をあけておき、そこから針によって中のスプリングを動かして、感度のよい点に再び安定させたようです。

またいくつか作っておいて、いろいろ付け替えをして感度の違いを楽しんでみてください。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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ソレノイドコイルの製作について

ソレノイドコイルとは、筒状の芯の上に導線を巻いた最もポピュラーなコイルのことです。

今回の材料です。

・コイルのボビン(直径7 cm 長さ10~12 cm) 1本(作例ではベークライトの筒ですが、このサイズに近い紙筒でも可)

・エナメル線(太さ0.6mm)30mほど(作例では緑色に染めた二重絹巻き線を使用)

・絶縁板としてマイカ(雲母)もしくはベークライトの薄い板(作例ではベークライトの厚さ0. 5mmを6mm X85mmに切ったものを用いました。竹串でもよいのですが、ある程度ハンダの熱に耐えるものが望ましいのです)。

・ロータリースイッチ 3個(1回線12接点タイプ)

ベークライトの筒(直径7cm長さ10-12cm),二重絹巻き線(太さ0.6mm長さ30m),ベークライトの細長い板(厚さ0.5mm,6x85mm),ロータリースイッチ3個(1回線12接点タイプ)

ベークライトの筒(直径7cm長さ10-12cm),二重絹巻き線(太さ0.6mm長さ30m),ベークライトの細長い板(厚さ0.5mm,6x85mm),ロータリースイッチ3個(1回線12接点タイプ)

まずコイルの巻き初めのところに線が通るほどの穴を2つあけ、線を巻きはじめます。このコイルのタップは線をボビンに巻きながら8回巻いてタップの場所にくるたびに絶縁板をスライドさせて押し入れてゆくようにして進めてゆきます。

線を8回筒に巻くごとに絶縁板を差し込んでまたぎ、とこれを繰り返します。

線を8回筒に巻くごとに絶縁板を差し込んでまたぎ、とこれを繰り返します。

タップが出るところは左右にあります。巻き初めから8回目、16回目、24回目というように8回ピッチでタップ位置がくるところと、最初のタップが12回目にきて、それから8回ピッチでタップがくるところです。それぞれのタップは12カ所出て巻き終わりとなり、そのあとに線はつづいて1回巻く毎にタップが12カ所出る部分がきで、全巻き数は8X12+12=108回となります。言葉や図で説明するとちょっと面倒のようですが、製作はそれほど大変ではありません。

これがコイルの巻き上がりです。

これがコイルの巻き上がりです。

タップの部分に写真では白い布が挟んであるのは、タップを出すところの目印にするためです。

それぞれのタップが出るところの被覆をはがし、写真の左上のタップ引出し部分のようにあらかじめ前ハンダをして、配線をするためのワイヤーをハンダ付けします。

それぞれのタップが出るところの被覆をはがし、写真の左上のタップ引出し部分のようにあらかじめ前ハンダをして、配線をするためのワイヤーをハンダ付けします。そしてコイルのタップの部分に配線用の線をハンダ付けしたところです。

コイルの線の初めと終わりの白い帯のようなラインは、タップを出すために下にくぐらせた絶縁板の端を押さえるためにタコ糸を巻いたもので、コイル全体の機械的安定性を高めるために昔の手巻きコイルにはときどき用いられていた方法です。

エナメル線でも二重絹巻き線でも単線ですので、あまり曲げたり伸ばしたり動かしたりしていると、途中で折れるように切れてしまったり、ハンダ付けしたところに力が加わってとれてしまったりするので、気をつけなければなりません。また1回毎の部分のハンダ付けをする際、先の尖ったナイフなどでこすってエナメルをはがし、位置をずらしながらハンダ付けをするとよいでしょう。

ロータリースイッチを内部パネルに取りつけ、4mm× 30mmのスペーサーを2本つないで60mmの長さとして使います。

ロータリースイッチを内部パネルに取りつけ、4mm× 30mmのスペーサーを2本つないで60mmの長さとして使います。

ロータリースイッチは写真で見るようにいろいろな形状があって使用する目的によって使い分けるとよいでしょう。

ロータリースイッチは写真で見るようにいろいろな形状があって使用する目的によって使い分けるとよいでしょう。

4mm× 60mmのスペーサーがあればそのほうがよく、また工作上配線のしやすい距離を得るためのものですので、細かい作業が得意な人は20mmくらいの狭いスペースでも配線ができると思います。スペースはたくさんあればあるほど工作は楽になりますが、その分こわれやすくなるかもしれません。

ロータリースイッチヘの配線手順

ロータリースイッチヘの配線手順

ロータリースイッチヘの配線は、まず余裕をもたせてコイノレにハンダ付けしてある線(10cmほど)をロータリースイッチの所定の位置まで指で持って合わせ、余分な部分を5mmほど残して長めに切り、先端の被覆をはがします。ピンセットなどで線をロータリースイッチのハンダ付けをする端子のところに運び、端子の穴に線を引っかけ、曲げて安定させてからハンダ付けをします。

このあと配線が正しいかどうか、ちゃんとハンダ付けができているかどうかを確かめて、コイル部分は完成です。

このあと配線が正しいかどうか、ちゃんとハンダ付けができているかどうかを確かめて、コイル部分は完成です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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スパイダーコイルの製作について

スパイダーコイルの製作

スパイダーコイルは、筒型のソレノイドコイルとくらべると、いかにも鉱石ラジオ的な雰囲気をもっています。ソレノイド型と比較して、かならずしもすべてのスパイダーコイルがクオリティの面で優れているというわけではありませんが、巻き数が増えるたびに直径も増えてゆく構造なのでインダクタンスの増加率が高く、小型に作ることができます。

現在ではこのスパイダーコイルの巻き枠だけを買い求めることは難しいので、やはり自作をしなければなりませんが、それほど困難なことではありません。しかも、昔よりももっと上等のスパイダーの巻き枠を作ることもできます。

というのは、型抜きによって作られていた昔の巻き枠は薄いものが多く、そのため線と線との距離がとれず、コイルが密着して巻かれてしまうので、発生するコンデンサー成分も多く、かえってコイルのQ(クオリティ)を下げてしまうこともあるからです。これは巻き枠の厚みを増やすことで改良できます。それに、自分で作るから大きさや形、羽の数(奇数であれば可)などを変えて、いろいろと実験ができます。昔のスパイダーの巻き枠は、内径が32~ 35 mmくらいが普通でしたが、もっと大きめの内径から始めれば、全体の巻き数を減らしても最初のタップからインダクタンスを稼げるようになります。

かつて売られていたコイルの巻き枠

かつて売られていたコイルの巻き枠

全体的に透明感のある素材で仕上げた自作ラジオ(検波器はフォックストン型のゲルマニュームダイオード使用)

全体的に透明感のある素材で仕上げた自作ラジオ(検波器はフォックストン型のゲルマニュームダイオード使用)

丸で囲ってある部分が今回作るスパイダーコイルの枠です。

丸で囲ってある部分が今回作るスパイダーコイルの枠です。

スパイダーコイルの巻き枠を作る

スパイダーコイルの羽の数と全体の大きさを決めて製図をします。たとえば内径が35 mm、外径が85 mmで羽の数が15枚の場合、それぞれの円を同心円に作図し、外周の円周を15等分します。

円周を15等分するのは、普通のコンパスでは少々大変なので比例コンパスを使います。

この比例コンパスのラインズの15のところに目盛りを合わせ、X型に開いて、大きく開くほうをその円の半径に合わせると、小さく開くほうがその15等分した円周のひとつの単位を示します。しかしながら特殊なコンパスは持っていないと思いますので、その時は上の画像(かつて売られていたスパイダーコイル枠をプリントしたり、工夫してみてください。)

この比例コンパスのラインズの15のところに目盛りを合わせ、X型に開いて、大きく開くほうをその円の半径に合わせると、小さく開くほうがその15等分した円周のひとつの単位を示します。しかしながらかなり特殊なコンパスのため、お持ちでない場合は上の画像(かつて売られていたスパイダーコイル枠や付録として掲載した下の図をプリントしたりと工夫してみてください。)

スパイダーコイルの巻枠の図(付録)

スパイダーコイルの巻枠の図(付録)

円周のプロットができたら、それをそれぞれの中心点と結んでおきます。

製図ができたら、それを直接貼ったり、カーボン紙をはさんでなぞったり、針で印をつけたりして厚紙に写します。

内側の円との交点を2~ 6mmくらいのポンチで抜いていきます(厚い場合は大きめの穴にする)。何枚か厚紙を貼り合わせた台紙の場合は、表と裏から少しずつポンチを打てばされいにできます。

内側の円との交点を2~ 6mmくらいのポンチで抜いていきます(厚い場合は大きめの穴にする)。何枚か厚紙を貼り合わせた台紙の場合は、表と裏から少しずつポンチを打てばきれいにできます。

外周部をサークルカッターもしくは普通のカッターなどでまるく切り取ります。 中心点から今あけた穴の両端を通り、外側の円へと向かう直線にそってカッターナイフなどで切り取ります。

外周部をサークルカッターもしくは普通のカッターなどでまるく切り取ります。
中心点から今あけた穴の両端を通り、外側の円へと向かう直線にそってカッターナイフなどで切り取ります。

またコイルを巻くときのことを考え、あまり手触りがトグトグしているようなら、巻き枠の角や切り口をサンドペーパーなどでなめらかにするとよいでしょう。

必ずしも必要というわけではありませんが、補強と絶縁性を高めるために全体をラッカーあるいはシェラックニスなどに浸し、よく乾燥させればさらに上等のものとなります。

必ずしも必要というわけではありませんが、補強と絶縁性を高めるために全体をラッカーあるいはシェラックニスなどに浸し、よく乾燥させればさらに上等のものとなります。

スパイダーコイルの巻き方

スパイダーコイルを巻いてゆきます。

今回は二重絹巻き線太さ0.4mmのもの使用

今回は二重絹巻き線太さ0.4mmのもの使用。まき枠もF.R.P.(強化プラスチック)をカットして作っています。

作例では見やすいように透明なF.R.P.(強化プラスチック)の1mm厚で作った巻き枠を使っています。F.RP.やベークライト板などの固いもので巻き枠を作る場合は、穴はドリルであけ、金ノコで切ります。スパイダーの巻き枠にコイルを巻く方向はどちらでもかまいません。ただ、 15本ある羽を2枚おきにとばしながら交互に線を交差するようにして巻いてゆきます。そして15周巻くごとに、タップを10 cmくらいねじって出してそれを4回繰り返します。4本目のタップが出たあとは巻き枠いっぱいまで線を巻きます。

この際、巻く回数はあまり厳密なものではありませんが、途中で何回巻いたのかわからなくなった場合は、どこか羽のところで見えている線の数に4を掛けると全体の巻き数がわかります。

これは巻き上がったスパイダーコイルです。

これは巻き上がったスパイダーコイルです。

上部のほうにタップが出ています。このように1つの羽のところにタップがそろっていると、工作上とでも都合がいいのですが、実はなかなかそうはなってくれません。

ですからこの場合はそれぞれのタップが出ている巻き数は15回日、30回日、46回日、62回日、101回日となっています。

このように大ざっぱでいいのだろうかと疑間が出てきそうですが、 1、2回巻き数が前後することはさほど問題ではないので、あまり巻き数を気にしないで結構です。4回日のタップの後、巻き終わりまでの巻き数も、 75回でも80回でもいいのです。

スパイダーコイルの巻き方

スパイダーコイルの巻き方。羽を二つ飛びに巻いていきます。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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小林健二 Talk [工作のヒント]+[不思議な世界]

小林健二 Talk [工作のヒント]+[不思議な世界]+[結晶育成]

2016年6月4日(土)・11日(土)・19日(日) 14:00-16:00(13:30開場)

*6/4・6/11・6/19は終了しました。

会費2,000円(1ドリンク付)

要予約(高校生以上)先着順にて定員(少人数を予定)に達した時点で締め切ります。

会場:メガラニカ(Magallanica)

ご予約はメールにて受け付けております。

magallanica@kenji-kobayashi.com

*小林健二の作品はいろいろな素材や技法で表現されています。今回はそれらの技法に関しての質問コーナーに多く時間を割く予定です。また、素材のひとつでもある電気を使用した作品の紹介や化学実験なども時間内で行う予定です。工作に興味のある方や、実際に工作をしている方々は是非ご参加いただければ幸いです。

同時に会場には珍しい和洋のカンナを中心に展示し、解説などをトークの中に盛り込めればと考えております。

6/4,11(土)トーク終了の16:00より約一時間、WET(ウイークエンド・イブニング・トーク)としてみなさんといろいろお話できる機会をつくりたいと考えております。

WETには[工作のヒント]にご参加いただいた方が引き続いてご希望によりお残りいただくようにしておりますので、WETのみの参加は受け付けておりません。

尚、WET参加費は無料とさせていただきます。

6/4,11,19は程同じ内容となります。ご都合のいい日程をWET参加あるいは否も含めてお知らせ下さい。こちらからの返信によりご予約が確定いたします。

3日間通してのご参加をご希望の場合は、3回分会費4,000円(初日にいただきますが、キャンセルの場合、返金できませんのでご了承ください)とさせていただきます。

以上宜しくお願い致します。

画像は小林健二作品[EUINFINIS(無極放電管の作品)]の一部

画像は小林健二作品[EUINFINIS(無極放電管の作品)]の一部

トークの時に展示予定の道具の一部

トークの時に展示予定の道具の一部

接合型鉱石検波器の製作について

接合型鉱石検波器について

接合型鉱石検波器はぼくが実験した中でもっとも感度のよいものを作ることができました。ただ、工作上は少々難点が多く、たとえば鉱石と鉱石とを接触させ、お互いを破損させることなく安定して状態を維持しつづけるとなると構造のしっかりとしたものを要求されるからです。感度がよいのにもかかわらず、鉱石検波器が単体で市販されていた時代ですら一般的にはあまり普及しなかったのは、このような理由からだと思われます。

昔の鉱石ラジオの接合型検波部分

昔の鉱石ラジオの接合型検波部分

市販されていた接合型鉱石検波器

市販されていた接合型鉱石検波器

接合型鉱石検波器の製作

自作接合型鉱石検波器のホルダーは金属の鋳造で作ってみました。

自作接合型鉱石検波器のホルダーは金属の鋳造で作ってみました。

通常、金属の鋳造は高温を必要とするので一般的ではないのですが、ここでは融点が摂氏75度という低融点の金属を使いました。これは工作材料を売っている店などで大手できます。お湯の中で溶けるわけですから扱いも安全で楽ですが、ただちょっと高価です。

通常、金属の鋳造は高温を必要とするので一般的ではないのですが、ここでは融点が摂氏75度という低融点の金属を使いました。これは工作材料を売っている店などで大手できます。お湯の中で溶けるわけですから扱いも安全で楽ですが、ただちょっと高価です。型はシリコンで作ったほうが精密なものを作れますが、たくさん作るわけではないので、木の板を彫り粗い型として鋳込んだあとにドリルやヤスリで仕上げました。固まると思いのほか硬くて丈夫でした。

ホルダーに固定する鉱石には斑銅鉱を使用して、あらかじめ[さぐり式鉱石検波器の製作について]の木の板の型で作った方法で鉱石をハンダに埋め込んだものを作ります。それを真鍮の丸板にネジ(4mmX15mm)をつけた上にのせ、細いバーナーで軽くあぶってくっつけました。似たようにして、さぐり式では針金の部分に当たるところは紅亜鉛鉱で作ります。

真鍮の丸板にネジ(4mmX15mm)をつけた上に斑銅鉱をハンダの台にセットしたものを乗せている状態

真鍮の丸板にネジ(4mmX15mm)をつけた上に斑銅鉱をハンダの台にセットしたものを乗せている状態

似たようにして、さぐり式では針金の部分に当たるところは紅亜鉛鉱で作ります。細いバーナーで軽くあぶってくっつけている状態。

似たようにして、さぐり式では針金の部分に当たるところは紅亜鉛鉱で作ります。細いバーナーで軽くあぶってくっつけている状態。

接合型鉱石検波器のパーツが揃ったところ

接合型鉱石検波器のパーツが揃ったところ

上のほうのガラス管の切り口が黒いのは、ゴムペーストが塗ってあるためです。ゴムペーストはゴム靴の底を修理するときなどにも使うもので、これを塗ることによって金属とガラスといった硬いものどうしでも安全にキチッと止まります。

使い方は、紅亜鉛鉱のついた棒を少し引いてゆっくりと鉱石どうしを当てて手をはなすと、スプリングの力でその位置に止まります。それを繰り返して感度のよいところを探すわけです。

2つの鉱石のギャップは斑銅鉱の側のネジで調整し、スプリングの強さは2つの鉱石が当たっているときに、その力で欠けたりしない程度の力に調整します。

ここで不思議な鉱石についてお話しします。

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合 型で感度もよいものです。H195xW175× D175(mm)

英国の1920年代のメーカー製でとても端正に造られています。検波器は接合 型で感度もよいものです。H195xW175× D175(mm)

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

このように立派に見える昔の鉱石ラジオもたいていは中にコイル1つだけということが多く、かえって不思議な感じがすることがあります。

未知の鉱物

昔の鉱石受信機や鉱石検波器用の鉱物を見ていると、方鉛鉱と黄鉄鉱がいちばん多く、紅亜鉛鉱や人エガレナと呼ばれるものもときおり見かけます。しかしどう見ても思い当たる鉱物がないものに出会ったことが2例ほどありました。

ひとつは上の写真の鉱石ラジオの接合型検波器についている鉱物

ひとつは上の写真の鉱石ラジオの接合型検波器についている鉱石

もうひとつはさぐり式検波器用の替え鉱石の中にあったものです

もうひとつはさぐり式検波器用の替え鉱石の中にあったものです

共に人工結晶とは思いにくい天然鉱物の外観を持ちながらも半透明で、電気的にも導通があるのです。いろいろと鉱物関係の知人に相談したりしてみましたが結局分からず、最後にX線分析によって成分検索をしてもらったところ、前者はカドミウムの硫化物、後者は亜鉛の酸化物という結果が出ました。それぞれ1920年代のもので、当時の文献にはどちらも現れていない物質なので興味深く思いました(酸化亜鉛についても当時は天然の紅亜鉛鉱しか使用されていないことになっています)。 とりわけこんなに透過性のある硫化カドミウムの単結晶はおそらく天然ではなく、人工でも現代に至るまであまり報告のないところを見ると、当時から公開理論とは別に開発の現場ではいろいろな試みが行われていたと考えられます。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[美術家の木工具]

「PSYRADIOX(サイラジオ)」と名付けられた1987年の作品。アンティックラジオのように見えるが、筐体はもちろんプレートやツマミに至るまで自作されている。木工技術を使った作品の中でも小さなものではあるが、小林氏は趣味的にもこのような工作は好きであると言う。ちなみにこのラジオは受信した放送の音量によってガラスドーム内の結晶が光りながら明滅氏、また色の七色に変化する。

「PSYRADIOX(サイラジオ)」と名付けられた1987年の作品。アンティックラジオのように見えるが、筐体はもちろんプレートやツマミに至るまで自作されている。木工技術を使った作品の中でも小さなものではあるが、小林氏は趣味的にもこのような工作は好きであると言う。ちなみにこのラジオは受信した放送の音量によってガラスドーム内の結晶が光りながら明滅氏、また色の七色に変化する。

ー刃物との出会い

小林さんのアトリエには数多くの道具類がありますが、まず木工の手道具に興味を覚えたきっかけというのを教えてください。

小林:ぼくは生まれが下町だったからか、周りに職人さんが多かったんですよ。それに加えて父が刀をつくっていたから、ぼくと刃物との出会いはそこにありそうに思うでしょ。でも子供の頃から工作が好きで、プラモデルに夢中だったり、自分の中では自然と工具に親しんでいたんだよね。例えばエンピツを削ったりするときのボンナイフと言われる カミソリ製の廉価な刃物やトンボ印の彫刻刀なんかが、刃物との最初の出会いと言えるかしら。砥石でそれらの刃物を研いで切れ味が良くなった時の充実感は、今でも覚えていますよ。そして子供ながらによく使いこまれた道具や工具って美しいものだなって思っていました。

実家は電気関係の修理業も営んでいたんですが、まぁ言ってみれば町工場のようなもので、いろんな道具や工具があふれていたから、その影響があったかもしれない。小学校で夏休みなんかに工作の宿題が出ると、そこにあったあらゆる道具を駆使して凝ったものを作っていったんです。ぼくの担任の先生にどうやって作ったのかを説明しても、ボール盤は丸ノミなんていう単語はわかってもらえなかった(笑)。

もちろんそのコウバに木工具も置いてあり、刀のさやなんかを作ったりするためのカンナも含まれていた。父の知り合いだった関係で、中には今では貴重ないわゆる「名人」が作った鉋も多数あり、ぼくの手元に今も残っています。とにかく小さい時から工具にとても興味があって、自分なりに工夫したものもあったり、「三つ子の魂百までも」ってとこですかね(笑)。

古い木材を彫刻して作った1991年頃の作品。大きさはおよそ40cm,長さは2m強で一人で持ち上げるのはなかなか大変である。チェーンソーなどで加工する人も多いが、小林氏は手道具だけで仕上げたとのこと。

小林健二の作品

古い木材を彫刻して作った1991年頃の作品。大きさはおよそ40cm,長さは2m強で一人で持ち上げるのはなかなか大変である。チェーンソーなどで加工する人も多いが、小林氏は手道具だけで仕上げたとのこと。

上の作品を製作した時に使用した道具。大きさの違う手釿(てぢょうな)の刃幅は左から37,76,104mmで柄は自作。中ほどの大型のノミのようなものは「スリック」と呼ばれるもので、全長80cmくらいあり、重さも3kg以上ある。その重さで突き彫る道具であるとのこと。また上のように長い球状の作品では仕上げにスリックの上に乗っているドローナイフ(左)、右の銑(せん)も使う。

上の作品を製作した時に使用した道具。大きさの違う手釿(てぢょうな)の刃幅は左から37,76,104mmで柄は自作。中ほどの大型のノミのようなものは「スリック」と呼ばれるもので、全長80cmくらいあり、重さも3kg以上ある。その重さで突き彫る道具であるとのこと。また上のように長い球状の作品では仕上げにスリックの上に乗っているドローナイフ(左)、右の銑(せん)も使う。

もちろん彫刻にはノミ(チゼル)を使うわけだが、やはり彫る対象が大きいものだと、必然的に大きめになる。この写真は国外の製品であり、中ほどの幅が広く見えるノミは、フィッシュデイルチゼルと言って、刃幅76mmのもの。

もちろん彫刻にはノミ(チゼル)を使うわけだが、やはり彫る対象が大きいものだと、必然的に大きめになる。この写真は国外の製品であり、中ほどの幅が広く見えるノミは、フィッシュデイルチゼルと言って、刃幅76mmのもの。

こちらは日本のもの。右下の三本のノミは北海道(どさんこ)ノミとも言われ、堅い木材用のもので首が太く、強打にも耐えるように作られている。また変わった形のものは、表面の効果などに使われている。

こちらは日本のもの。右下の三本のノミは北海道(どさんこ)ノミとも言われ、堅い木材用のもので首が太く、強打にも耐えるように作られている。また変わった形のものは、表面の効果などに使われている。

ー若い時代を支えた額縁製作

その後美術家を目指されたわけですが、若い頃の生活を支えたものに木工もあったのですか?

小林:絵だけで最初から生活できるというと、いつだってそれが難しいよね。だから若い頃は体を使ったバイトなんかしました。でもガスやアークでの溶接や溶断なんかはそれはそれで勉強になった。その頃、趣味も兼ねて凝って作っていた額縁がもとで、額縁を作る仕事が舞い込んできました。それこそ伝統的な古典絵画が入りそうな額です。木を彫刻して下地を塗って、金箔を貼ってみがいたり、、、その他にもオリジナルの技法をこの時結構生み出したりもしました。鏡を入れるための額縁が欲しいとか、大使館で歴代大統領の写真を入れる額縁が必要とかで需要があり、そう言ったオーダーがぼくのところに来たわけです。もともと木工は好きだから熱も入ってやりましたね。額縁製作のために面取り鉋も収集して。見たこともないような面を取れる珍しいものを道具屋で見つけると、買わずにはいられなくてね(笑)。さらに自分でも、欲しい面を取れるように考えて面取り鉋自体を作っていました。本末転倒ですが、それを使うために額の断面をデザインしたりして(笑)。自分の制作活動が忙しくなってきて額縁からは離れましたが、今でも全ての鉋はきちんと手入れして使える状態になっています。

若き日の小林氏の生活を支えた額縁作りは、いろいろな木工技術の集合とも言える。木地から作る本格的なものなどでは、木組みや接合方などの技術や、とりわけ木彫する時には、数をこなすうちに学んだことがたくさんあったとのこと。

若き日の小林氏の生活を支えた額縁作りは、いろいろな木工技術の集合とも言える。木地から作る本格的なものなどでは、木組みや接合方などの技術や、とりわけ木彫する時には、数をこなすうちに学んだことがたくさんあったとのこと。

額縁用の入子面取り鉋など。研ぎにはコツがあるとのことだが、一丁で複雑な面が取れるので重宝したそうだ。

額縁用の入子面取り鉋など。研ぎにはコツがあるとのことだが、一丁で複雑な面が取れるので重宝したそうだ。

ー現在の木を使った造形活動について

現在製作している造形作品にも、木工の技術や道具が生かされているんですか?

小林:そうですね。作品には平面もあれば立体もありますが、イメージに出来る限り忠実になろうとすると、いろいろな表現方法や技法が必要になってきて、必然的に素材もさまざまで、その中でも木工は結構使ったりするんです。例えば古く見える木の作品とかは、それこそ鉋やノミなんかがないと製作できないし、古色をかけて昔のものみたいに見せる方法は、額縁製作時代に手に入れた技法の一つですね。ぼくは基本的に手を動かすのが好きだから、図面だけ書いてあとは外注するという方法は出来たらしたくない。やっぱりつくりながらリアルになってくるイメージもあるしね。でも大きな作品なんかは先ずは模型を作って構造なんかを確認し、それから本番に取り掛かるときもあります。美術館など大きなスペースでその会場で作る場合なんかは失敗ができないからね。

「ヨモツカド」1990年製作。まさに額縁の技術も用いて製作された作品。絵の部分は油彩で描かれ、その周りの鉛箔をはった部分がそれにあたる。作品自体は2m四方ほどの大きさのため、枠の細いところでも10cm以上はある。

「ヨモツカド」1990年製作。まさに額縁の技術も用いて製作された作品。絵の部分は油彩で描かれ、その周りの鉛箔をはった部分がそれにあたる。作品自体は2m四方ほどの大きさのため、枠の細いところでも10cm以上はある。

1991年の美術館での展示の一部。左の絵の重厚なパネル、中央の塔のようなもの、手前右の大きな立体は基本的に木工技術を中心に製作されている。塔のようなもので高さ7mもあり、このくらいの大きさになると、さすがに電動工具が活躍するそうだ。

1991年の美術館での展示の一部。左の絵の重厚なパネル、中央の塔のようなもの、手前右の大きな立体は基本的に木工技術を中心に製作されている。塔のようなもので高さ7mもあり、このくらいの大きさになると、さすがに電動工具が活躍するそうだ。

ー道具に求めるもの

小林さんは道具というものについて、自分との関わりをどう考えていますか?

小林:例えば「自分勝手」って言葉ばありますよね。悪い意味で使われることが多い言葉ですが、道具の仕様を示す言葉で「左勝手」「右勝手」というのがあることを考えると、「自分勝手」というのが自分仕様にカスタマイズされた道具をさす言葉だと思えば、別の見方も生まれてきそうでしょ。道具というのは自分の手に馴染んで愛着が生まれ、それがないと落ち着かないような、人間、特につくり手にとってそんな関係にあるんじゃないかな。ぼくが手元に置いているもので、絵の具を混ぜる時に使う棒があるんですけど、これはもともとなんてことない割り箸で、気にも留めないで混ぜ棒として使っていたんですが、使い終わって捨てるのももったい無い気がして、ウエスで拭いてまた違う絵の具を混ぜるのに使ったりしていたんですね。ある時ふと気がつくと、長い間に色々な絵の具が擦り込まれて、いい感じになっていたんですよ。割り箸に、使い込まれた道具としての美を見出したわけです(笑)。こうなると絵の具の準備をしようとする時にコレがないと落ち着かなくて、まずこの棒を探すことから始めます。暇な時などには持ちやすいように工夫したり、磨き込んで手入れをしてみたりしてね(笑)。ただの木切が使い手との歴史を重ねるうち、なくてはならない道具になっていたわけです。

道具には、長い歴史の中で様々な工夫と改良がなされ、伝えられてきたものが多くあります。人間との関わりの中で熟成されてきたモノな訳ですが、最終的にその道具に命を与えるのは使い手です。それぞれがその道具の持つ歴史を知った上で、自分の最も使いやすいものに調整していくことこそ、道具への本当の理解に繋がっていくのではないでしょうか。

普段木工手道具の中で最も使用しているスタンレーの鉋。No.1の小さなものからNo.7の大きなものまで写っている。

普段木工手道具の中で最も使用しているスタンレーの鉋。No.1の小さなものからNo.7の大きなものまで写っている。

俗に言う名品と呼ばれる鉋。父親が刀匠であり、その父と親交のあった落合宇一氏、石堂輝秀氏、などなど、多数の道具を譲り受けた。ただとても合板などに使用するわけにはいかないので、大切に使っていると言う。

俗に言う名品と呼ばれる鉋。父親が刀匠であり、その父と親交のあった落合宇一氏、石堂輝秀氏、などなど、多数の道具を譲り受けた。ただとても合板などに使用するわけにはいかないので、大切に使っていると言う。

若い頃から折につけ趣味で自作した小鉋など。鉋身は購入したり古い包丁やノミの刃を利用したりしているが、台は全て自作したそうだ。

若い頃から折につけ趣味で自作した小鉋など。鉋身は購入したり古い包丁やノミの刃を利用したりしているが、台は全て自作したそうだ。

やはりお気に入りの真鍮製の洋鉋各種。目的によって各々を使い分ける。使い込んだ道具の美しさが輝いている。

やはりお気に入りの真鍮製の洋鉋各種。目的によって各々を使い分ける。使い込んだ道具の美しさが輝いている。

コンパスプレーンと言う特殊な鉋。下端を供に外反りや内反り鉋として可変して使用することができる。上記の大きな塔のような作品の横スリにも使用したとのこと。

コンパスプレーンと言う特殊な鉋。下端を供に外反りや内反り鉋として可変して使用することができる。上記の大きな塔のような作品の横スリにも使用したとのこと。

鉄製の洋鉋の一例。木の板に古典技法によって絵を描くとき、パネルに引っかき傷をつけ、その上にのる下地の定着を良くする特殊なもの(左より2つ目)も含まれている。

鉄製の洋鉋の一例。木の板に古典技法によって絵を描くとき、パネルに引っかき傷をつけ、その上にのる下地の定着を良くする特殊なもの(左より2つ目)も含まれている。

音がほとんどせず、ギヤーによって作動させることができるジグソーの一種。 バヨネットソーの作動を説明している小林氏。確かに彼のアトリエにある電動工具はみな静かな作動音である。彼に言わせると、考えながら作業するのに音が大きな工具では使いにくいからということだ。

音がほとんどせず、ギヤーによって作動させることができるジグソーの一種。 バヨネットソーの作動を説明している小林氏。確かに彼のアトリエにある電動工具はみな静かな作動音である。彼に言わせると、考えながら作業するのに音が大きな工具では使いにくいからということだ。

*2005年のメディア記事より抜粋編集しております。

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ガラスの加工

板ガラスは、ガラス切り専用の工具(ダイアモンドカッター)あるいは高速度鋼(ハイスピードスティール)や超鋼(タングステンカーバイドスティール)等の硬度の高いものを使って、あまり力を入れず同じ力で線を引き一番端のところを軽く折り曲げるようにすると切れ、慣れれば曲線も切れるようになります。

板ガラスを曲線でカットしている様子。フリーハンドでやっているが、直線にカットする場合は、まっすぐな木の棒などを定規にするといい。

板ガラスを曲線でカットしている様子。フリーハンドでやっているが、直線にカットする場合は、まっすぐな木の棒などを定規にするといい。

ガラス管をカットしている様子。

ガラス管をカットしている様子。

ガラスの管は管の一部にヤスリでキズをつけて引っ張るようにするときれいに切れます。しかし馴れないと垂直にピタッとは切れません。そこで写真のようなガラス管切りを使って、ぐるりと円周を回して切り傷をつけ、折ると言うよりは引っ張り曲げるといった具合にするとうまく切れるものです。またとても薄かったり厚かったり太かったりする場合は、モーターツールに写真左端のダイアモンドカッターで水をつけながら切ると、とてもきれいに加工できます。

ガラスに穴を開けている様子。

ガラスに穴を開けている様子。

ガラスに穴をあけるには、ガラス用のドリルであけます。加工するものの穴をあけたい部分に水を絶やさないようにしていちばん低い回転数でゆっくりとあけていきます。写真では加工物全体が小さいので水中に入れて加工をしています。板のような場合は粘土等で穴の周りに土手を作り、中に水を入れて作業します。

穴があいたガラス

穴があいたガラス

ガラス専用のドリルビット各種

ドリルビット各種

上の左からコンクリートドリル(ドリルの先端に超鋼がついていて振動式のドリルエ具で使用します)、木工用フォースナービット(穴をあけた底が平らに上がります)、木工用ドリル、金属用ドリルビット。下の左から、オーガー式木エドリルビット(硬度のある木等に使用します)、ガラス用ドリルビット(先端に板状の超鋼がついています)プラスチック用ドリルビット(送り刃がないので穴があくときに急に材料が持ち上がったりして割れることがありません)、アクリル用ビット(熱によってアクリルを溶かさないように低速で使います)。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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