小林健二作品の技法」タグアーカイブ

[透質層と透明体]+[XEDIA]+10/5のギャラリートークについて

「透質層と透明体(9/21-10/19)」開催期間中に作家からの話を聞きたいとの要望が増え、急遽10/5にギャラリートークが企画されました。

小林健二個展 [透質層と透明体] Gallery TSUBAKI
小林健二個展 [透質層と透明体] Gallery TSUBAKI
小林健二個展 [透質層と透明体] Gallery TSUBAKI
10/5ギャラリートークの会場 Gallery TSUBAKI

今回も小林健二による不思議な世界が画廊に現れ、素材感を忘れさせてしまう風景が表出されていました。それでもよくよく作品を覗き込んでみると「どうやってこの透明感が表現されているの?」「いろいろな形を持った透明体は何?」「透明と言っても一種類ではないのが不思議」

小林健二作品
小林健二作品[透質層と透明体]部分
小林健二作品[透質層と透明体]部分
小林健二作品[透質層と透明体]部分
小林健二作品[透質層と透明体]部分
小林健二作品[透質層と透明体]部分
小林健二作品[透質層と透明体]部分

私たちの生活の中で透明なものと言ったら「水」を思い浮かぶかもしれません。人によっては「ガラス」や「プラスチック」?でも比べてみるとみんなそれぞれに透明なもの・・・大きな括りの中に存在する透明なものたち。

小林健二作品[透質層と透明体]部分

小林健二が好きなものをあげるときに「水晶」や「クラゲ」と言ったものがしばしば上がります。

そして「透明なものが好き」と話します。まさに好きなものがテーマとなっているこの展覧会だから、作品からはゆったりとした無垢な雰囲気が漂っている、勝手にそう感じていました。

小林健二作品 [遥かな花を眺るままに] 2019
[遥かな花を眺るままに]作品を斜めから見てみると、透明、半透明、そして黒く描かれていたと思っていた部分は表面が削られて現れた下地の色彩、銀色にも見える。
小林健二作品[透質層と透明体]部分
近いところ
遠いところ
とても遠いところまで
全部同じ
(作品の下に描かれている記号のように見える文字?の意味ということです)
作品の凹んで見えている部分は実際に凹んでいて、キャンバスに描かれているこの作品はとっても不思議!
小林健二作品[透質層と透明体]部分
EMPTY
ANNULUS
PARITY
BEGINNING
TIME
MATTER
MAIND
(作品の下に描かれている記号のように見える文字?の意味ということです)


ギャラリートークでは透明な素材を加工するのに使用した小林の手道具などがテーブルに置かれ、多分それは本人が安心材料として持参して来たとも思われます。

綺麗に仕立てられているその道具についての話にたどり着く前に、質疑応答によりあっという間に予定の2時間が過ぎてゆきました。

今回の作品はやっぱり実物を見ることが大事と思えるものばかりでした。印刷物や撮影したものではとても感じ取れない、奥深さがありました。

同時開催された、小林健二個展[XEDIA] GT2
同時開催された、小林健二個展[XEDIA] GT2
同時開催された、小林健二個展[XEDIA] GT2

*会場に貼られたパネルの文章(標本仕様のXEDIA作品に付く小冊子より)

XEDIA

ケノーランドは絶対年代として、新太古代に存在していた超大陸である。

その後大陸の移動の分裂接合によって形成と破壊を繰り返しながらも、一部は近現代に至ってもなお盾状地(じゅんじょうち)として残っていた。この台地が最初に人間の歴史に記されたのは1612年にオランダの五人の登山家たちによるものだった。その台地の四面がほぼ垂直に切り立っているために当時は山頂部の状況は観測できなかったが、1860年代に地上より測量されおよそ標高3500m、四辺がそれぞれほぼ7kmである事が確認された。1930年代の偵察機及び空中写真術の発達により粗方の地図の作製を開始したものの、作業はその上底部が一年の9割近くを濃霧が立ち込めている事に依って難航し期間を要した。但し一部に800m位の滑走路として使用出来そうな平坦な場所が見つかった。当初それは光を強く反射する事から不安定な氷原とも考えられたが観測の末に着陸可能な場所として判断される。その後世界情勢の不安などの諸事情により1950年代初頭まで研究は中止されていた。1955年フランス及び英国によって結成された第一次調査隊によって辛くも着陸に成功したものの表面の薄雪により機体が安定せず、当日中に下山を余儀なくされた。その際その高地の滑走路を「奇妙な場所」としてパイロットたちはXedia(キセディア)と呼ぶようになった。1957年の第二次調査隊はそれまでの情報を精査していた為、登頂着陸に成功し38時間に及ぶ調査を終えて無事に帰還した。永い間その聳え立つ架空台地は外界との遮断によって、独自特別な生態系を持っていることが報告された。1960年代、各国の調査隊は発達した航空機、高山装備によって続々と新たな種の動植物及び鉱物を発見し、それらは一部の機関の耳目を集めたが資源確保、生態系保全の観点より1965年3月4日より公開を前提として、国連主導のもとWWF(世界自然保護基金)なども参加して本格的な調査研究が始められる。それにより1967年5月までに動植物等およそ6300、鉱物70余の新種が報告された。

しかし世界を最も驚愕させたのは人類、もしくはその亜種によって製作されたと思われる土器様の発掘物の発見であった。その発掘場所は暫時滑走路として使用していたキセディア地区であった。

発見のきっかけは着陸後の機体を整備点検していたパイロットが、航空機のタイヤの轍の下に氷のような透明な部分を見つけ、その下に何かが埋まっている事を知らせた事から始まった。

キセディアは直ちに規制され、急遽IARF(国際考古学研究機関)よりスウェーデン隊、日本隊が派遣された。これら出土品には特徴があり第一には、大きさが約10mmくらいから60mmくらいに収まり、分布状況が1.25mの正方面に意図的に配置されていること。そして第二には放射性核種、蓄積線量を検出できず、さらに熱残留磁気、地心双極子にも応答せず、これらの製作年代はまったく測定できないということだ。また、これらの発掘状況の全体像が把握しづらかったことは、この脆弱な人工的製作物は約20cm石英状硬透質の珪酸層に堅く包まれている状態にあったため、目視できても対象物を破損せずに回収することが技術的に障壁となり、一般には全ての状況は開示はしないまま次第に研究者の極度の体調不良、遅疑逡巡、意欲減退、各國の成果より資金不足及び世界情勢が再び混乱した事といった理由から1972年までに各国によって報道管制なども敷かれ、半ば強制的に再び「前世紀の闇中」にまで押し込められ忘れ去られていったのである。

(以上は大略で他は専門的な分野での仔細な報告となっているが判りづらい故に省略。)

共に付されている当時の報道の断片などを見ると、今にして思えば、この終焉には謎や疑問が多く残った。そもそも世界的な規模によって始められた研究計画がこの様に人心から消え去るものであろうか。そして特殊な考古学的発見に要因すると見られる一連の出来事が、他の貴重な諸々の研究までも中止に追い込んだという事なのか?確かに考古学隊のみ幻覚を伴う意識障害が重症化したと言う事柄は、その標本に直接触れた者だけの事であり、標本に付着した有毒物質や未知の原虫、細菌の感染も疑われていたからなのか。すべての研究に携わった者たちの沈黙に加えて、大国の政治的関与も囁かれる中でもあったと云う事だ。

ノートの断片よりー

ーかつてここに居たものたち・・・

硝子の大地に幻影を封じて

自らは何の心残りのないかのように

跡形もなく消え失せてしまった。

かつて 人格を持つ唯一の神などを求めず

岩や山、木や森、海洋を崇敬していたのだ。

大宇宙と意識を共有し

流れの中に記憶の種子を残していった・・・

宇宙には目的がある。

人間には計り知れない目的だが

それは穏やかな川の流れのようなものだ

それらは身を浸したとき、争いも競うことも不要になって

それほど多くを持たないまでも 

正当に命をまっとうできると伝えている。

小林健二


小林健二個展[ー朝の硝子ーMorgonglaz]review

小林健二個展[ー朝の硝子ーMorgonglaz] 2018年3月28日(水)~4月16日(月) YAMAGUCHI Gallery

春の要素が風に運ばれ、良い香りがしはじめる。すると ついさっきまで置いてあった壜や皿やコップなどの虚ろな隙間に朝のひかりが充蓄されて硝子のような姿を顕してゆく。

小林健二

小林健二作品[ー朝の硝子ーMorgonglaz]
2018 mixed media

小林健二作品[ー朝の硝子ーMorgonglaz]2018
*部分

案内状の作品は、中央に独特な半透明の形と爽やかで淡い色彩が散りばめられていて、明るく清々しい印象です。案内状に使用された画像では、斜光によって真ん中のフォルムが浮き上がって見えています。

小林健二作品[ー朝の硝子ーMorgonglaz]2018
mixed media

自作キャンバスに描かれた壜や不思議なものたち。この透明な層と淡い色彩による作品は、健二が20代頃に描いていた油絵を思い起こさせます。

4月7日(土)午後5時より「小林健二を囲んで(予約不要・無料)」というDMの案内。取り巻くように椅子が用意され、ミニトークになっていきました。

小林健二ミニトークの様子(2018,4/7)

小林健二ミニトークの様子(2018,4/7)

約3時間に及ぶミニトークの内容から、いくつか抜粋要約してまとめてみています。

*小林はK、参加者の質問はQとします。

まずはギャラリーオーナーである山口さんからの質問から始まりました。

Q:展覧会タイトル[ー朝の硝子ーMorgonglaz]について、作品の中にガラスのような透明な層がありますが、関係性はあるのですか?

K:作品に使用した技法の中にステレオクロームがあります。それは水ガラス(ケイ酸アルカリの濃い水溶液で、濃度の種類が何タイプかある)によって透明な層を形成します。透質なものが好きで、以前から作品に使用したこともありました。

今回の個展に向けて最初に手がけた新作が、このページに載っている壜などを描いた作品。今思うと「画家」を生業とする前の頃を思い出すような気持ちから始めたもので、それによって今回の一連の作品が生まれていった感じです。

北欧の言語には接続詞に当たるものがなく、[朝の硝子]を欧文表記した場合は普通「の」にあたる言語が必要になるけど、一言の[Morgonglaz]にしてみたもので、造語です。

余談だけど、硝子って液体なんですね。含有物によって若干緑がかったものが一般的で硬質なイメージ、それが液体だなんて不思議です。

Q:土星作品も展示されていました。まさに宙に浮いているように青く光りながら回っているのですが、まるで目の前に浮いていて触れられそうな感触に驚きました。小林さんが「土星」にこだわる理由は何かあるのですか?

K:中学生の頃、友人の家に遊びに行った時に初めて望遠鏡で土星を見る機会がありました。その時の感動は言葉にできない。「本当に輪がある!」って、意味もわからず涙が出てきたのを覚えていて、きっとその経験が忘れられずに今に至っているんだろうと思います。

それと輪があった方が、回っている時にダイナミックだよね(笑)。

 

今回はお客様と作家との距離が近く、歓談しながら充実した時間が過ぎていきました。まだまだたくさんの話が飛び交いましたが、編集能力の限界から、ここで一旦終了します。

文:ipsylon.jp

 

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小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]review

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]2017,9/9-30 ギャラリー椿(東京京橋)
案内状の作品とその作品に添えられた文

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会場風景

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会場風景

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会場風景

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会場風景

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会場風景

小林健二(ギャラリー椿にて)

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]会期中にトークショーが行われた。

9月16日(土)17:00より

テーマは「こころの中の風景」

前回でも少し紹介したが、今回はもう少し詳しく書き起こしてみました。ギャラリー椿のオーナーである椿原さん司会のもと進められたトークショー。以下敬称は略します。

ギャラリー椿はメインルームとGT2の2会場で構成されている。GT2ではギャラリー椿での小林健二最初の個展の案内状に使用した作品を展示。右側にその時の案内状も飾られていた。

椿原:健二くんの最初の個展は彼が26才の時で、その時は自漉紙の作品。今回GT2にその時の作品を1点展示しています。前回の展覧会からも9年ぶり。今回の個展タイトル[IYNKUIDU TFTWONS」とは?

そして今回展示されている作品は不思議な形をしているものが多い。

小林:ぼくの作品を見て「これなんですか?」とか「何を見て描いたんですか?」と聞かれることがある。具体的なものを見て絵を描くってこともあった。

18才の時に家を出て自活を始めるんだけど、会社に勤める能力もなかったし、ぼくはこういう風に生きていくことしかできなかった。

子供の頃から絵を描くことは好きだった。さらに不眠症だった。それは今でもそう。人が寝入っている夜に自分は眠れずに悶々としていることもある。夜に寝れてないから次の日は疲れていて、ベットに横になると知らずウトッとしたりする。その半ば夢と半ば現実の間の時に、現れる風景がある。それはえてして同じ街だったりするけど、いつもは右に行くところを今度は左に曲がってみようとか思っていると、初めての風景に出会ったりする。ベットの横にはノートがあって、そんな風景をなんとか思い出しながらエスキース帳に書き留めている。

それを絵に描いてるからこんな風な絵になる。だからぼくには説明はできないものばかり。実は自分がその夢の風景にもう一度出会いたいと思っているから作品にするのかも知れないね。

小林健二作品「still」2011

今回展示した「still」はメソポタミアのジグラッドから風景を思い起こしている。この作品を描くきっかけになったのが、東日本大震災。ぼくのいた東京小石川もすごく揺れて、思わず外に飛び出したら、向かいの高層マンションが捻るようにギュッギュッと揺れていた。そしてあの津波の映像。ぼくはどうしていいかわからず、何か自分に出来ることはないか、と非力を感じる日々を送っていて・・・そしてどうしょうもない気持ちになってあの作品を描いた。

今回の案内状の作品は似たような風景だけど、あの風景は夢で出会ったもの。不思議な荒野で遺跡のようなところに夢の中で辿り着く。そこで目にしたものが一連の今回の作品群になっています。

その荒野に僧侶のような人々が後ろ向きに座っていて、知らない言語で何か呪文のようものを唱えている。それが「イィヰンクイドゥ トゥフトゥウヲンズ」ぼくなりにスペルにすると「IYNKUIDU TFTWONS」。でもその時はこんな文字で示されている。

小林健二作品[IYNKUIDU TFTWONS]より
右下に不思議な文字のようなものが見える。

小林健二作品[IYNKUIDU TFTWONS]より

小林健二作品[IYNKUIDU TFTWONS]より

小林健二作品[IYNKUIDU TFTWONS]より

椿原:今回の個展テーマについては分かったけど、これまでの展覧会タイトルも造語だったりするの?例えば作品集のタイトルも「AION」だったり「ILEM」だったり・・・

小林:全てが造語って訳じゃないです。例えば「AION」はグノーシスの言葉で「私たちはどこから来てどこへ行くのか?」という文章が知られているよね。

「この世ってなんだろう?」ってことを考えていたいし、それがぼくのライフワークなんです。二度と悲惨な戦争なんて起きないようにと願っていながらも、世界のどこかで戦争は絶えない。クロマニオン人から現代人にいたり、 ラスコーやアルタミアの壁画があって、日本なら縄文時代があり弥生、飛鳥・・・歴史ってなんだろう?ってこととかも。

 

椿原:作品の中にはローマ字表記で読もうとすると読めるものもあります。今回の案内状の裏面に書かれた文を読んで「健二くんは詩人だなぁ」と思った。作品中の文章にも共通するけど、作品全体に詩心を感じて、見ていると安らいだ気持ちになる。

健二くんの作品にはあたたかくて柔らかくて、染み入るようなものを感じる。それが魅力のように思う。自分も海外に行って海外の作家の作品を見る機会が増えて思うのは、作品に社会性やメッセージがあること。健二くんが15歳の時に描いた作品(「AION」の冒頭に掲載されているもの)は醤油で色付けされた画用紙に怪物のようなものが描かれた絵。そこに添えられた文章に、その海外の作家と共通するメッセージ性を感じる。

そして健二くんの作品にはいろんな素材や技法が使われている。

「彼は一番強い生物。何故ならものを悩んだり、企んだりする脳を持っていないから。彼は一番強い生物。何故なら光の力をそのまま自分の血や肉に変えているから。彼は一番弱い生物。思いっきり愛することのできる重いハートを、4本の足で支えなければならないから。」
小林健二(15歳の時に描いた絵)

小林:例えばヒエログリフは読めないから意味がない訳じゃないと信じたいし、詩っていうものが形になって絵のようになったり立体的な作品になったり、音楽になったり・・・

ぼくの場合、自分のパレットの上に色のある絵の具ではなくて、いろんな物質が乗っているって感じ。イメージしているものにできるだけ近づけたいという思いから、その都度素材や技法を選んで行って、音楽も同じで、作ったものを今回も会場に流している。

小林健二作品「IYNKUIDU TFTWONS]より

小林健二作品[IYNKUIDU TFTWONS]の部分。光をあてると淡いピンクに。

椿原:これはなんだろう?禅問答じゃないけど、それを問いかけながら健二くんの作品と対峙する、そんな場が展覧会なんだね。

いつもは健二くんは体があまり丈夫じゃないから、作品搬入が終わるとぶったおれていて、入院したりすることもある。いつも「これが最後かもしれない」っていう気持ちで製作しているんだよね。でも今回は意外に元気なんで安心した(笑)。

小林:一応1週間後にトークがあることが決まっていたから、気をつけていた(笑)。それに一年前に個展が決まっていたから、一年かけて取り組んだのもある。でも作品製作が作業にならないように、ぼくの中ではテーマ作りに苦しい時期もあった。

 

*この後、作品をゆっくりと観れる時間が設けられました。展覧会の動画は下記をご覧ください。

KENJI KOBAYASHI

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]

2017,9/9(土)ー9/30(土)日曜祭日休廊 11:00-18:30

初日9/9 17:00より小林健二在廊予定・9/16小林健二イブニングトーク:こころの中の風景(ギャラリーまで要予約・参加費500円(1ドリンク付))

ギャラリー椿(104-0031東京都中央区京橋3-3-10 第1下村ビル1F Phone : 03-3281-7808)

http://www.gallery-tsubaki.net/2017/Kenji_Kobayashi/info.htm

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]の案内状です。

小林健二個展[IYNKUIDU TFTWONS]の案内状の裏面。

東京京橋にあるギャラリー椿では9年ぶりの小林健二新作展覧会となります。

前回は2008年の[MUTANT]です。

 

型を作るために、バンドソーで木取りしている様子。(小林健二の製作風景)

型に金網をのせ、中央を押して出っ張りを作っている様子。(小林健二の製作風景)

プラスチックのハンマーでゆっくりと型に押し込んでいる様子。(小林健二の製作風景)

金属製のローラーで金網を成形している様子。(小林健二の製作風景)

コーナーはその場で自作した治具で、金網を叩き込んでいく。(小林健二の製作風景)

特殊なハンマーでコーナーをさらに内側から成形している様子。(小林健二の製作風景)

長さ2mを超える作品のパーツが揃っている。それぞれの技法で仕上がっていった3つの不思議な形状。あくまでも製作途中ですが、すでに小林健二独自の世界が現れている。(小林健二の製作風景)

これまで小林健二に愛情を持って仕立てられ、出番を待つ道具たちの助けを借り、彼の心の中にあるイメージが具現化されてゆく。

この後作品がどのような仕上がりになっていくのか、是非会場で対峙して見てください。今週の土曜の9月9日から開催されます。

http://www.kenji-kobayashi.com/2017kk-expreview.html

KENJI KOBAYASHI

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小林健二の製作現場からVol.1

2017年9月9日~30日(日曜・祭日は休廊)ギャラリー椿(東京・京橋)にて小林健二個展が開かれる。

新作を製作している様子を少し紹介。(今後個展開催まで、何回かに分けてアップ予定です)

ここでも、使いやすいように整備されている様々な道具や工具が活躍しています。

小林健二の道具(US Micro-Mark社のミニパワーツール)右から、ディスクサンダー、スウォードソー、クロスソー(ジグソー)、ドリル、プレーン(電動鉋)、ベルトサンダー

小林健二の道具(US Micro mark社のミニパワーツール)ディスクサンダーを作品製作に使用しているところ

小林健二の道具(US Micro mark社のミニパワーツール)
クロスソー(ジグソー)をテーブルに固定して、ミシンのように使用している

小林健二の道具、彫刻刀など

小林健二の道具。木を削るにも、目的によって道具を使い分ける。

小林健二の木工道具

小林健二の道具。ソリ鉋など、右上はコンパスプレーン。

小林健二の道具。小林にとって西洋鉋は木材の加工に欠かせない道具の一つ。画像はスタンレー社のもの。

小林健二の道具。西洋ノミの一つ。

小林健二の道具。木の端を西洋ノミで斜めに削った後、日本のきわ鉋で整える。

小林健二の道具。カンナ屑が詰まりやすいため、台をその場でなおす。

小林健二の道具。台を直した鉋はスムーズにカンナ屑が出て、快適に使用できる。

小林健二の道具。同じ西洋ノミだが、使用方法は自在。

小林健二の製作現場。透明な素材を好んで使用する小林、多分その支持体を製作している模様。

小林健二の製作現場。透明な素材を支持するための木を加工し、サイズを合わせる。これも作品の一部になると思われる。

*2017,7/15、小林健二の仕事場にて

KENJI KOBAYASHI

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人工結晶

硫酸アンモニウムカリウムと硫酸アルミニウムクロムなどよって育成された結晶。(小林健二の結晶作品)

*「」内は小林健二談

人工結晶を作りはじめたのはいつ頃くらいですか?

「1992年くらいからですね。」

著書の『ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)』にもありましたけど、人工結晶は鉱石ラジオのクリスタル・イヤフォン用に作りはじめたんですか?

「そうですね。その時は圧電結晶を作りたくて、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)を買ってきて結晶を作ってみようと思ったんです。とにかく実験ができればいいなと思っていましたから、大きいものが作りたかったですね。

その後他の物質で結晶ができないかとか、自然石を母岩として結晶がくっついていたら綺麗だろうなとか思ったりして、だんだんハマって行きました。色々研究して実験しました。でも、塊を作りたいと思っても、平べったくしかならなかったり思い通りにはならない。まあ、その平べったいのは平べったいので美しいものなんですけどね(笑)。」

母岩に結晶の素となる種のようなものを付けとくんですか?

「その場合はまず種結晶を作るところからはじめて、母岩につけ、その後育成溶液の入った深い容器におくと、大きく成長していくんですね。あるいは、容器の中に石を入れておくと、ザラザラとした母岩の表面に自然と結晶ができていたりします。その時に水溶液の成分を変えると色が変わったりするけど、それぞれの相性が合わなかったり慌ててやったりすると、大抵はシャーベット状になってダメになります。それで何度悔しい思いをしたことか(笑)。

二ヶ月ほど旅行にに行っている間に、40も50も容器の中で人工結晶を作ってたんですけど、帰ってみると一つだけ変わった色の溶液のものがあって、何も結晶ができていなかった。他のはできていたのに一滴だけ違う水溶液がポトンと落ちたから、何もできなかったんですね。それは水溶液を捨てる時にたまたま混ざって一瞬にして何もできなかった容器の水溶液と同じ色に変わったから、わかったんですけど。

そんなことの積み重ねですね。他にも温度や湿度、色々気をつけなければなりませんね。」

硫酸銅と硫酸コバルトの結晶。(小林健二の結晶作品)

クロム酸リチウムナトリウムカリの結晶。(小林健二の結晶作品)

ロッシェル塩などの結晶。(小林健二の結晶作品)

ー手探りの実験結果

「何でもかんでも混ぜれば結晶になるかという訳ではないんです、、、。

関係資料なんか色々調べてみました。人工結晶っていうと、人工宝石などを作るベルヌーい法やフラックス法、人工水晶などを作る熱水合成法、その他半導体結晶を製作するための資料はあるんですけど、ちゃんとした実験設備がなければ無理なものばかりです。

しかも、水成結晶育成法については、それこそイヤフォンなどの圧電結晶をつくるための資料くらいしかなくて、いかに大きなスのない単結晶のものを作るかといった内容ばかり。個人で製作するにはあまりにも大規模なものが中心になってしまいます。例えば形が美しかったり、色々な色をしたり、群晶になったりすることは本来の目的ではないわけですから、ぼくなんかが求める資料は、基本的には見つかりませんでしたね。

だから最初は圧電結晶に使えそうなものを片っ端から選んで、あれはどうだろう?これはどうだろう?と手始めに実験していきました。そうして作れる結晶を探して行ったわけです。どこにもそんな実験については載っていないから手探りです。

一つ一つの実験にどうしても時間がかかるるし、実際結果が見えてくるまで何年もかかりますよね。

でもいずれ、もっと安定した方法で結晶を育成できるようになったら、人工結晶に興味がある人に教えてあげられるかもしれない。盆栽を作るような気持ちで、好きな人には結構楽しいかもしれない。」

硫酸アルミニウムカリウムなどの結晶。(小林健二の結晶作品)

鉄系とクロム系の物質によって結晶化させたもの。(小林健二の結晶作品)

リン酸カリと黄血塩などの結晶。(小林健二の結晶作品)

ミョウバンと赤血塩などの結晶。(小林健二の結晶作品)

コバルトを含むロッシェル塩などの結晶。(小林健二の結晶作品)

蛍光性の物質を混入している硫酸アンモニウムナトリウムの結晶。(小林健二の結晶作品)

[人工結晶]

例えば水晶は、573度よりも低温で安定な低湿型と、537度から870度の間で安定な高湿型があるが、結晶が生まれるには、高圧、高温が必要とされることが多い。人工水晶には地球内部の環境を半ばシュミレートした高温・高圧によって作られたものもあるが、ここで取り上げている人工結晶は、常温で水成培養できるものである。

小林健二氏によって様々な薬品を使って、常温で人工結晶を作る実験が行われており、今回その成果もいくつかが紹介されている。

中には全長30cmほどの単結晶、直径20cm以上の結晶など、かなり大きなものも作られているし、色味としても様々な美しいが生まれ落ちている。

*2002年のメディア掲載記事より編集抜粋しております。

KENJI KOBAYASHI

絵を描きはじめた頃から

[フルヌマユ:春のみずうみ] 春のみずうみは暖かい陽気が立ちこめている。やわらかな形たちが揺れながら遊んでいるようだ。みんなとても楽しそう。夢のような場所。誰かがいつもぼくを迎えてくれる。それほど遠くない場所。ぼくは眠りについてそこへ出かける。いつもなら彼らは怪物と呼ばれている。

[フルヌマユ:春のみずうみ]
春のみずうみは暖かい陽気が立ちこめている。やわらかな形たちが揺れながら遊んでいるようだ。みんなとても楽しそう。夢のような場所。誰かがいつもぼくを迎えてくれる。それほど遠くない場所。ぼくは眠りについてそこへ出かける。いつもなら彼らは怪物と呼ばれている。

それはやっぱり、幼い頃は鉛筆やクレヨン、水彩絵の具といった、何処にでもある方法だった。

10代も半ばを過ぎてから、油絵の具を知った。それはぼくにとって厚みのある透明色を持ったものもある気に入った媒体になった。また、 タッチや盛り上げも出来るし薄く伸ばすこともできる。

やがて絵の具自身を自分で作ってみたいと思った。

20代初め頃、溶接工や工事現場で日雇いのアルバイトをしながら、夜、絵を描いた。そして時々休日には国会図書館に通ってはいろいろな画法に関する資料を読み、また洋書の絵画材料や技法書を丸善などで入手し翻訳しながら、大げさに言えば研究に熱中した。

油絵の具の他、テンペラやデトランプ、アンコスティックや水ガラスによる ステレオクロミー画法など、とりわけ透明を感じる技法は、ぼくをワクワクさせた。貴石のクズを安く購入してそれを砕いて粉にし、水簸(すいひ)をしたあと乾燥させたものを様々な媒体によって溶き、それによって心の中の風景を描くことに喜びを感じていた。

[フルヌマユ:飛行する気流] ぼくは時々彼らと出合う。中に透明でゆるやかな姿をしている。彼らはレンズや風船、そして気球のようなその姿の中に、いっぱい素敵な喜びをたずさえている。とても巨大で怪物のように見えるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、何よりも安らぎを与えてくれる。

[フルヌマユ:飛行する気流]
ぼくは時々彼らと出合う。中に透明でゆるやかな姿をしている。彼らはレンズや風船、そして気球のようなその姿の中に、いっぱい素敵な喜びをたずさえている。とても巨大で怪物のように見えるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、何よりも安らぎを与えてくれる。

また、「刃物研ぎマス」といった小さな看板を当時共同で借りていたアトリエのドアに気が向くと下げて、刃物を研いだりした。それらは近所の日曜大工が趣味でいる人のカンナ刃や、オクサンたちの包丁だったりしたが、そこそこお小遣いになったりした。

また、キャンバスや絵の具を作り、それが知人たちに結構好評で、生活の糧の一部になった時もあった。

その頃、友人たちから時々美術館などの展覧会のタダ券が手に入ることもあったが、あまり行ったことがなかった。つまり、ギターを弾いたり、そんな調子で絵を描いたりするのは好きだったが、「美術」というものに興味が深いかどうかは未だあやしい。

工作もとても好きであっても、本職のようになりたいと思ったことはない。だからいつもぼんやりとした世界のことばかり想っている。近代や現代と言われる言葉に形容される文脈を持った美術に、あまり関係がなく生きてきた。記憶の底でいつか垣間みたかもしれない風景や物語を、描いていたり作ったりしている。

[巨きな生き物の平原] 初夏の夢は大抵ゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。巨きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平原から光色のエネルギーを吸い上げている3対の柱を持った生命体は時々夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間得た成分を虹のような香りや風のような音律にかえて、その上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

[巨きな生き物の平原]
初夏の夢は大抵ゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。巨きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平原から光色のエネルギーを吸い上げている3対の柱を持った生命体は時々夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間得た成分を虹のような香りや風のような音律にかえて、その上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

でも、こんな風にして絵を描いたり、石を彫ったりして生きている人たちはきっとぼくだけではないだろう。いうならば、ぼくはそのような人たちの一人に過ぎないと思う。

若い頃からつづく日々が、星の涯(はて)の世界や心の中の見えづらい世界のことばかりに惹かれていて、外へ出歩いたり人に会ったりするのが得意ではなく、今日がいったい何月何日なのかわからないでいることが多い。

只、絵を描いたりすることが単に自己を顕すためだけの仕事であったり、上ばかり見て深さを求めないような生き方であることを願ったことはない。

ぼくのようにありふれていながらも、そしていつの時代にもいるだろう人間であっても、知らないうちにこの世に生まれ、いつかは誰かのこころの中のうっすらと浮かんだ幻のような世界の中へ、溶けて行ってしまいたいとどこかで思っているのかもしれない。

絵を描きはじめた幼い頃から今に至るまで、生きている日々の暮らしと、それらが切り離れたことはないと思う。

小林健二

小林健二作品

[観測気球のようなこころ]
高い層の青い色へと近づきたくて、いつのまにかとても大きくなってしまった。でもすごくその場所は遠そうなのでこころを観測気球のようにして、体をすてて飛んでみることとしよう。

*2008年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

KENJI KOBAYASHI

パステルをつくろう

パステル(BT増刊)1993」より画像は複写して使用しております。

パステル(BT増刊)1993」より画像は複写して使用しております。

かけがえのない小さな力で見えない電磁波を探るといった小品から、世界の広さや歴史の重みを圧縮したかのような大作まで・・・小林さんの作品はさまざまな種類の材料と技法の混合でつくられる。作品をひとつのイメージに近づけて行くためには、古典技法や画材の製法から電気的な知識までが必要だ。

アトリエに並ぶ道具や材料の数々もおびただしい。

「道具そのものにも強い関心があるけれど、ぼくの本当の興味は、それらが長い美術史の中でどのように使われてきたかということの方にある。たとえばパステルひとつ例にとっても、いつの時代の画家がどんな色で何をどのように描くために作られたのか、といった条件によって原料の調合や製法もさまざまに違う。そして、そのパステルを作っていた職人が死んでしまうと、同じパステルは2度と作られない。同時にテクニックもまた忘れ去られてしまう運命にある。だから今後、道具をきちんと未来に残して行くとともに技法も伝授する『絵画や道具の博物館』が、美術館と同じくらい必要になってくると思う。」

小林さんはこれらの道具を眠らせることなく、日常的に使いながら製作する。自然界からたまたま今私たちの手元に持ち出されてきた素材たちもまた、全て『生きている』といってもいい。

彼は顔料のもとになる岩石や鉱石の多彩な表情にも思いをはせる。

小林さんの鉱物、岩石コレクションの一部。この中から柔らかいものは顔料にすることができる。

小林さんの鉱物、岩石コレクションの一部。この中から柔らかいものは顔料にすることができる。

「絵を描くことは本来人間にとってプリミティブ(原初的)な行為だということは、古代の洞窟画を見てもわかるよね。鉱物や植物の中から顔料として色彩を探りだし操ることは、天然にある共通の現象を使ったひとつの言語、アレロパシー(物質言語)だと思うんだ。さらに生命を持っていないはずの鉱石が、実はとても有機的な結晶構造を持っていたり、ラジオの電波の検波装置になったりすることを考え併せると、『モノ』にも心があるんじゃないだろうか。」

この時自分で画材を作ることが、絵を描くことに通じる。ともに『モノ』を愛することとして・・・。どんなものとも話ができるというミラクルをファンタジーではなくアートが可能にする。

では、どんな時に、なぜパステルを自作するだろう。

「パステルは柔らかく固着性に乏しく、しかも油で粒子が包まれた油彩絵の具と違って顔料が裸に近く、デリケートに反応しやすいので、技法的に紙の上で色を混ぜるにはあまり適さない。だからたくさんの色数を用意しなければならないんだけれど、それはちょっと大変。それから同じ色を大量に欲しい時。手で持って壊れず、紙の上で粒子に砕ける硬さに固めるのも難しいけどね。」

画材を作るということは、作品を作ることにつながる。現代で失われた『モノを作る』ことの本質が、ここにはある。

「鉱石や薬品から大きな発見が生まれる瞬間は、この世界に自分が自分として生まれてきた理由を見つける旅や実験なんだ。アートやアーティストが『人工』を語源とするものならば、それはいつの世でも、『天然』に対しても対峙できる知恵を持った人でありたいと思うんだ。」

自然の神秘の囁きに耳を澄ますように。自分だけのパステル作りから広がる宇宙へ。

少しづつ買い集めてきたという小林さんのパステルやコンテ。 今では手に入らないものもあるが、日常的に使うことで、その貴重な色は今生きていると言える。お気に入りはセヌリエのiriseというパールカラーのオイルパステル21色セット。

少しづつ買い集めてきたという小林さんのパステルやコンテ。
今では手に入らないものもあるが、日常的に使うことで、その貴重な色は今生きていると言える。お気に入りはセヌリエのiriseというパールカラーのオイルパステル21色セット。

材料は大きく分けて次の三種類。 1、顔料。色の元になるもの。 2、体質顔料。パステルのボディそのものを作る。カオリン(クレーや白土といった粘土の仲間)やムードン(炭酸カルシウム)、ボローニャ石膏(天然の硫酸カルシウム)など。 3、結合材。粒子を膠着させるメディウム。アラビアゴム、トラガカントゴム、膠(ニカワ)など。 これらの材料はたいてい大きな画材店や薬局で手に入れることができる。配合比は自分の好みでブレンドしながら選ぶのが良い。難しいことではあるが、そこに自作する意義がある。

材料は大きく分けて次の三種類。
1、顔料。色の元になるもの。
2、体質顔料。パステルのボディそのものを作る。カオリン(クレーや白土といった粘土の仲間)やムードン(炭酸カルシウム)、ボローニャ石膏(天然の硫酸カルシウム)など。
3、結合材。粒子を膠着させるメディウム。アラビアゴム、トラガカントゴム、膠(ニカワ)など。
これらの材料はたいてい大きな画材店や薬局で手に入れることができる。配合比は自分の好みでブレンドしながら選ぶのが良い。うまくいかない時もあるかもしれないけど、そこに自作する意義があると思う。

1, 作りたい色の顔料と体質顔料(カオリン、ムードン、ボローニャ石膏など)の粉末を均一に混ぜる。体質顔料が多くなると白っぽくなる。

1, 作りたい色の顔料と体質顔料(カオリン、ムードン、ボローニャ石膏など)の粉末を均一に混ぜる。体質顔料が多くなると白っぽくなる。

2,柔らかく握れるくらいになるように蒸留水を混ぜる。料理に例えるならば蕎麦をうつ感覚の柔らかさと言える。

2,柔らかく握れるくらいになるように蒸留水を混ぜる。料理に例えるならば蕎麦をうつ感覚の柔らかさと言える。

3,結合材としてアラビアゴムを用意。水につければ二日で溶ける。あるいは膠の場合は水につけて膨潤させ、40-50度で湯煎して溶かす。

3,結合材としてアラビアゴムを用意。水につければ二日で溶ける。あるいは膠の場合は水につけて膨潤させ、40-50度で湯煎して溶かす。

4,2に3をほんのすこしづつ足してペースト状に。微量だとソフト、多めだとハードな物ができる。色々試して自分にあった硬さを探す。

4,2に3をほんのすこしづつ足してペースト状に。微量だとソフト、多めだとハードな物ができる。色々試して自分にあった硬さを探す。

5,スラブ(大理石の板)か厚めのガラス板の上にのせて、練り混ぜる準備をする。木や金属の板だと違う顔料やゴミが混ざったりする恐れがある。

5,スラブ(大理石の板)か厚めのガラス板の上にのせて、練り混ぜる準備をする。木や金属の板だと違う顔料やゴミが混ざったりする恐れがある。

6,モレット(ガラス製の絵の具をねる道具)かスパテラ(金属製のへら)で練る。成分的に金属を嫌う顔料もあるのでモレットが便利。

6,モレット(ガラス製の絵の具をねる道具)かスパテラ(金属製のへら)で練る。成分的に金属を嫌う顔料もあるのでモレットが便利。

7,均一に練られたパテ状のものを手でパステル一本分の大きさに固める。時間をかけすぎるとボロボロに乾いてしまうので注意。

7,均一に練られたパテ状のものを手でパステル一本分の大きさに固める。時間をかけすぎるとボロボロに乾いてしまうので注意。

8,板を使ってパステルを転がし、円筒形のかたちに整える。あまり細くしすぎると、乾いたときに折れやすいものになってしまう。

8,板を使ってパステルを転がし、円筒形のかたちに整える。あまり細くしすぎると、乾いたときに折れやすいものになってしまう。

9, さらに自作の木型で挟んで成型するのも良い。固まって木型にくっつかないように、このとき紙で手製のラベルを巻いておくと良い。

9,さらに自作の木型で挟んで成型するのも良い。固まって木型にくっつかないように、このとき紙で手製のラベルを巻いておくと良い。

10,完成です。セラドングリーンと薄めのコバルトブルーのハンドメイドのパステルが出来上がった。ホコリのない場所で24時間ほど乾かす。余ったものはラップに包めば保存もできる。

10,完成です。セラドングリーンと薄めのコバルトブルーのハンドメイドのパステルが出来上がった。ホコリのない場所で24時間ほど乾かす。余ったものはラップに包めば保存もできる。

リサイクル

a,失敗して砕けてしまったものや小さくなって使いきれなかったパステルのかけらを、色別に分けて撮っておけば再利用ができる。

a,失敗して砕けてしまったものや小さくなって使いきれなかったパステルのかけらを、色別に分けてとっておけば再利用ができる。

b,作りたい色を考慮しながら、混ぜ合わせるものを選び出し、できるだけ細かく砕いて均一な粉末にする。ホコリやゴミの混入に注意。

b,作りたい色を考慮しながら、混ぜ合わせるものを選び出し、できるだけ細かく砕いて均一な粉末にする。ホコリやゴミの混入に注意。

c,2に戻って同様に適量の水とわずかな結合材を足して、混ぜて練る。あとは同様の手順で完成させる。見事にリサイクルできる。

c,2に戻って同様に適量の水とわずかな結合材を足して、混ぜて練る。あとは同様の手順で完成させる。見事にリサイクルできる。

「眠りへの風景:脈拍」 エンコスティックによる作品(自作のパステルも使われている) 1000X1335X55mm 1992

「眠りへの風景:脈拍」
エンコスティックによる作品(自作のパステルも使われている)1000X1335X55mm 1992

*1993年「パステル(BT増刊)」より抜粋編集し、作品以外の画像は記事を複写して使用しております。

KENJI KOBAYASHI

 

 

複焦点プレパラート製作法について

光学的な顕微鏡の観察は、実体顕微鏡のようなシステムを除くと、ほとんどがプレパラートの製作と関係している。そして、プレパラートと言っても、動物、植物、鉱物、金属、樹脂など、それぞれに独自な技法を、用する場合も多く、生物系では一時的な観察の為のものから、何年もの保存に耐えるものまで、種々の作り方がある。

スンプ法(セルロースの板を薬品で膨潤させ、試料に押し付け、型をとって、その表面を観察する方法)や、封入法(シリコンゴムなどで立体物を封入して観察する方法)まで入れると多様だ。ホビーとしてはあまり聞いたことはないが、ぼくは結構楽しんでいる。まして、それらを色々に染め分けてみたり、また組み合わせてみたりすることは、無限に発想を与えてくれる。

このようにして作られたプレパラートは、本来のサイエンスとしての意味はすでに逸脱せざるをえないものでも、コハクの中の昆虫のようだったり、あるいは多くの色彩を持つが故に、まるで宝石のように輝いて見える。

また、複数の切片を積層して作るプレパラートは、顕微鏡のように焦点距離の極めて抵深度のものでは、複数の焦点を持つことになる。もう少し解りやすく言えば、一枚のプレパラート上で、動物細胞を観察中に焦点を変えて行くと、植物細胞にピントがあって、あたかも動物細胞が、植物細胞へと変化したような不思議な錯覚を得ることになる。

最近実験中?なのは、薄く培地を引いたLSIのマイクロフィルムの上を移動する細胞性粘菌の実態撮影である。技術的にはなかなか困難なことであるのに、科学的進歩には何ら貢献しないわけだ。しかしながら、情報が氾濫する時代の中で、見ようと意志しなければ見えない世界は、ぼくにとっては、どういうわけか安心を与えてくれるのだ。

投影型偏光顕微鏡 このような小型(投影型では)のものを最近あまり見なくなった。今回のようなギャラリーでの展示に使用するのには上部の投影板(像が映る曇りガラスの部分)は暗く、照明用の ハロゲンランプの発熱の為必要な、強制冷却ファンの音が大きく、必ずしも理想的ではないかもしれない。個人的観察の為に入手したもので、比較的安価出会ったのと、何よりこの奇妙な形体に引かれたところがあった。

投影型偏光顕微鏡
このような小型(投影型では)のものを最近あまり見なくなった。今回のようなギャラリーでの展示に使用するのには上部の投影板(像が映る曇りガラスの部分)は暗く、照明用の ハロゲンランプの発熱の為必要な、強制冷却ファンの音が大きく、必ずしも理想的ではないかもしれない。個人的観察の為に入手したもので、比較的安価出会ったのと、何よりこの奇妙な形体に引かれたところがあった。

光学的単眼顕微鏡 この顕微鏡は長年使用しているものだ。少々ガタがきているので、時間のある時にゆっくり分解掃除をしてやりたいと思っている。これはまた、決して高価でも最新型でもないが、通常のプレパラートの観察では十分力を発揮してくれる。上の写真では、写真撮影用のカメラアダプターとカメラが取り付けてある。高倍率の実際の撮影には、あと外部にケーラー照明の光源が必要だろう。

光学的単眼顕微鏡
この顕微鏡は長年使用しているものだ。少々ガタがきているので、時間のある時にゆっくり分解掃除をしてやりたいと思っている。これはまた、決して高価でも最新型でもないが、通常のプレパラートの観察では十分力を発揮してくれる。上の写真では、写真撮影用のカメラアダプターとカメラが取り付けてある。高倍率の実際の撮影には、あと外部にケーラー照明の光源が必要だろう。

円筒ミクロトーム これは植物などの切片材料でプレパラートを製作するときには欠かせないものだ。丸い穴の所に試料をはさみ入れ、シリンダーの部分をマイクロゲージのように回転させると、わずかにせり出して来るので、そこのところを下にあるカミソリで薄くそいで切片を作る。このミクロトームでおよそ1メモリ=10マイクロの精度を持っている。

円筒ミクロトーム
これは植物などの切片材料でプレパラートを製作するときには欠かせないものだ。丸い穴の所に試料をはさみ入れ、シリンダーの部分をマイクロゲージのように回転させると、わずかにせり出して来るので、そこのところを下にあるカミソリで薄くそいで切片を作る。このミクロトームでおよそ1メモリ=10マイクロの精度を持っている。

小林健二[EXPERIMENT1]

薬品など
プレパラートを作るためにはスライドガラスやカヴァーグラス、及び薬品などが必要になる。ここの説明はさけるが、以下のようなものがある。バルサム、エタノール、ホルマリン、ファーマー溶液、カルノア液、ファン液、アセトカーミン液、酢酸オルセイン液、ゲンチアナヴァイオレット、ズダンスリー、サフラニンファストグリーン、ギムザ液、ヘマトキシリン液、ジェンダー液、シャウジン液、スンプ法材料等々。

ミクロトームを使用してプレパラートを作るとき、最初よくやるのが、葉や茎の断面だ。でもこれはなかなか奥が深くて、染色法二よっては、本当に鮮やかな色彩に出来上がる。左の写真はツバキの葉の断面だけど、ときにおいてはちょっと変な地球外的生物や、有機的未確認飛行物体のように見えて面白い。

ミクロトームを使用してプレパラートを作るとき、最初よくやるのが、葉や茎の断面だ。でもこれはなかなか奥が深くて、染色法によっては、本当に鮮やかな色彩に出来上がる。上の写真はツバキの葉の断面だけど、ときにおいてはちょっと変な地球外的生物や、有機的未確認飛行物体のように見えて面白い。

これは動物の硬骨組織と淡水植物プランクトンのケイ藻類との重複プレパラートだ。もちろん写真ではどちらか一方しか焦点が合わないわけで、この場合は硬骨組織にピントが合っている。 科学的根拠はほとんどないが、硬骨を形成するカルシウムは、生命現象を地球上に強く関係付けている物質である。有機的な物質というとぼくはどうしてもカルシウムを連想するのは、それによって作られる動物の骨、人も恐竜も共にその外形はいつも有機的だからかもしれない。 また、ケイ藻などは名の示す通り、細胞膜にはペクチン質を基本にしていても、それ以外はケイ酸化合物によって作られている。 ケイ酸イオンは、ぼくにはシリコンウエファーなどを連想させて、無機的なイメージが強い。共に高倍率では、結晶的な構造が強くて、生物における精神や意識の所在を、ふと考えさせられる。だからこのプレパラートは、ぼくにとっての無機と有機の生物学的結合なんだ。

これは動物の硬骨組織と淡水植物プランクトンのケイ藻類との重複プレパラートだ。もちろん写真ではどちらか一方しか焦点が合わないわけで、この場合は硬骨組織にピントが合っている。
科学的根拠はほとんどないが、硬骨を形成するカルシウムは、生命現象を地球上に強く関係付けている物質である。有機的な物質というとぼくはどうしてもカルシウムを連想するのは、それによって作られる動物の骨、人も恐竜も共にその外形はいつも有機的だからかもしれない。
また、ケイ藻などは名の示す通り、細胞膜にはペクチン質を基本にしていても、それ以外はケイ酸化合物によって作られている。
ケイ酸イオンは、ぼくにはシリコンウエファーなどを連想させて、無機的なイメージが強い。共に高倍率では、結晶的な構造が強くて、生物における精神や意識の所在を、ふと考えさせられる。だからこのプレパラートは、ぼくにとっての無機と有機の生物学的結合なんだ。

白雲母(Muscovite)と普通輝石(Augite) これらは共に珪酸塩鉱物である。ただ、前者フィロ珪酸塩と後者イノ珪酸塩出会って、偏光顕微鏡で観ると、見え方はまるで違う。しかし、両方共とても美しく、数多くの色を発色する。このプレパラートはただ単純に合わせて見ると、奇麗かなと思って作ってみた。

白雲母(Muscovite)と普通輝石(Augite)
これらは共に珪酸塩鉱物である。ただ、前者フィロ珪酸塩と後者イノ珪酸塩出会って、偏光顕微鏡で観ると、見え方はまるで違う。しかし、両方共とても美しく、数多くの色を発色する。このプレパラートはただ単純に合わせて見ると、奇麗かなと思って作ってみた。

上記以外のものでは、雲母の中のミジンコ。(次回の記事でご紹介予定です)

鉱物中に生命体が封じ込められていることは通常ありえないが、載物台を回転させて、種々の色が現れると、まるで時間が止まった水の中を泳いでいるようで面白い。あるいは、分子雲を写したフィルムの上の夜光虫、種々の花粉の咲き乱れる中の小さなテクタイト。銀河のように見える扁平上皮細胞の上の赤いゾエアは、ロボットの様だ。網膜の断面の横にリシウム鉱が偏光しているのも、とてもきれいだ。植物の切片や鉱石の薄片が紡いでゆく世界。ぼくの心を虜にしてしまう。

解説+写真:小林健二

*1993年の小林健二ART BOOK[EXPERIMENT1]に書かれた文を編集し、当時の写真がモノクロだったため、画像もモノクロで掲載しております。

KENJI KOBAYASHI

 

 

アストラルの食卓

左の椅子の作品:[EERR] W380XH1350XD390mm  iron,wood

左の椅子:[EERR] W380XH1350XD390mm  iron,wood
右の椅子:[FOUPOU] W375XH1345XD440mm  iron,wood
小林健二個展『アストラルの食卓』

家具の仕事ははじめてではないのですが、今回は特にデザイン的な発想というよりは、日ごろ製作している絵画やオブジェの感覚でつくってみました。しっかりとした構造を望んでいた故に少々ジグなどに苦労しました。

家具も人間にとっては使いやすさを要求される道具の一つと見なせるでしょう。しかし、それらは決して人間工学やデータスペックからだけでは、見つけ出すのは難しいのではないでしょうか。仮に合理性だけを求めた事務机があったとしても、何かの理由で廃棄する時には”愛着”などの非合理的な感覚の存在を改めて気付かされるからです。

この”思ったよりも座りいい”と言われた奇妙な椅子たちですが、 アートが人々という意味を持つ言葉であると信じたいぼくにとって、経済や流通だけではない人間の何かを期待しているということは、自分自身の希望でもあります。

小林健二

左から:[VEW] W375XH1200XD400mm iron,wood [CIRO] W375XH1230XD530mm iron,wood,stone,others [DUMEX] W380XH1343XD390mm iron,stone,others [ALIE] W375XH1190XD430mm iron,wood

左から:[VEW] W375XH1200XD400mm iron,wood
[CIRO] W375XH1230XD530mm iron,wood,stone,others
[DUMEX] W380XH1343XD390mm iron,stone,others
[ALIE] W375XH1190XD430mm iron,wood

東京新宿のデパートに期間限定で展示

東京新宿のデパートに期間限定で展示。その後ロンドンリバティーに展示。

[小林健二展ーT氏のコレクションより]Gallery TSUBAKIでの展示風景

[小林健二展ーT氏のコレクションより]2016.8/31-0/10-Gallery TSUBAKIでの展示風景

 

鉄板を切断する工具を使用する小林健二動画

Tools.vol.2 from Kenji Channel on Vimeo.

*1988年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

KENJI KOBAYASHI