手道具と電動工具2

額縁を作っている頃のアトリエの一隅

額縁を作っている頃のアトリエの一隅

手道具と電動工具2

私事的道具事情

ぼくも若い頃は誰もがするようにいろいろとアルバイトをしました。短期のものが多かったのですが、アセチレンガスの溶接や溶断の仕事は比較的長く続きました。その時に使っていた吹管は今でも手元にあります。しかし、この仕事は支払いがよかったかわりに危険でした。ぼくも事実、1年ばかりやって技能的にもロクダカも認められはじめていた頃、ちょっとした事故に巻き込まれバイトを中断しなくてはならなくなりました。その頃と言えば、20歳くらいから友人たちと共同で アトリエを借りて絵を描いたりしていたので、下宿の家賃も払えなくなるのではと、一時トホーに暮れたことがあります。仕方なくある種の特技?であった顔料の精製、絵具やキャンバス作りでしばらくはどうにかやっていたのですが、その善意ある発注元の大半が友人や知人ばかりで、勉強にはなってもこれはなかなかいけません。そんな時、自分用に趣味もかねて作っていたものが、ひょんなことから生活を支えてくれたのでした。それは額縁です。友人が変わったつくりのものを求めている額縁屋を紹介してくれたのでした。当初は月に2本くらい多少凝ったものを納めれば充分生活できるはずでしたが、実際仕事となると廉価で数ものというような注文も多くなり、最終的にはそれなりの数をこなしていたと思います。ただ額を作るといっても木工や彫刻的な部分もあれば、自作のテンペラ絵具で彩色したり、金や銀の箔を打ったり、古色を付けたりと結構いろいろ経験が必要となる場面が多く、いやがうえにも盛り沢山な体験ができました。そんな中で面トリ鉋を自作したり、何かの役に立つかも?、とちょっと面白い工具があると買ってみたりして、仕事場は半ば工具のオバケ屋敷へと変貌していったというありさまです。

思えば、もともと実家には工具はハイテステルほどあったのです。それは私事などうでもよい話しなのですが、父のある種の特異体質的わがままによって実家が電化製品の修理工場であった時は、ボール盤等当たり前の機械工具の中での日常でした。ぼくが小学校の四年生の夏休みの工作で、カステラの木箱のフタで作った馬の透かし彫りを提出したことがあり、「よくこんなに板に透かしを入れられましたね」と感心されたので、思わず「ボールバンを使ったんです」と言ったら、先生は「へっ?」と言ったきりでした。

その後父がどういうわけか刀鍛冶へとなった頃には、自家製で鞘なども作るので手道具も数多くありました。そのうち鉋などは、父の友人でもあった刃物鍛冶の石堂秀一氏や輝秀氏、延国こと落合宇一氏たちのものでした。家の手伝いもあって工具の手入れや、刃物の研ぎなどを数々やらされたわけですが、その頃はあまり興味はありませんでした。どちらかと言うと苦手の方で、だからといってそれが理由というわけではないのですがとにかくぼくはそんな家を飛び出してしまったのです。まあ、それがいちばんのきっかけでアルバイトをしはじめたのですが、それがいつのまにか工具も増え、いつの間にやらこんな記事を書いているといった訳で、、、。血は争えないということでしょうか。

人それぞれに様々な出合いがある様に、工具との出合いもあるでしょう。ものづくりには発想と同時に、実際にいろいろな素材と関わりながらそれを具体化していく作業と、それを支えてくれる道具たちの存在は必要になります。それら両輪がうまくかねあう事でよりイメージに近付けるような気がします。自分にあった道具に出会えたり、また自作することは、そういう意味では大切なことでしょう。またそれらを身近に置き、常に整備したり刃物は研いでいつでも使えるようにしておくことは、気持ちのいいものです。

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これらの額の写真は全て25年以上昔のもので、紙焼にしたのを複写しました。コーナーはニカワと石膏で盛り上げたり、テンペラ絵具で彩色したりする。

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ライオンは木を彫ったものに箔を打ったり(どういう訳か箔は貼るとは言わない)目の部分にはアメティストのオーバルカボッションを埋め込んである。

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天使の頭の盛り上がったところは、原形を造った後石膏で型取りしてニカワで付けてある。

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左は、盛り上げに箔、その後に目の細かいスチールウールで下地をこすり出している。右はニスで模様を書いて生乾きのところで箔を押すミッショーネという技法を使っている。

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小さくて特殊なものはだいたい店では中に鏡を入れていたようだった。

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箔と言えばもちろん金箔などだが、純度や混入物によって青金や赤金とあり、また厚みの違いや箔の処理(アカシ箔といってすでに回りを切りそろえて箔合紙の中央にあるものや、タチキリ箔といって箔合紙と共にそのまま断裁してあるものといろいろある)によって多数のタイプがある。また洋箔と呼ばれるシンチュウ箔(もちろん青口、赤口がある)、銀箔、ブロンズ箔、アルミ箔、銅箔、錫箔、プラチナ箔、等の金属箔がある。

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1978年頃のアトリエの壁面写真。おそらく2千本くらい手掛けたと思う。

MITER CUTTER & BISCUIT JOINER

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額縁を作っていた当時、額縁屋から与えられた「サオブチ・カッター」と呼ばれる本格的な切断機。

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スタンレー社(米国)のコーナークランプ+ノコギリ。このノコギリは取りはずしが出来、コーナークランプとしても使用できる。

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最近国内でも時々見かけるタイプのカッターですが、善し悪しいろいろあるので、安いから購入するというよりもよく選んだ方がよい。ブレードは、木、プラスチック、軽金属用とあって使い分けができる。

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「マイターカッター」。言うなら「サオブチ・カッター」の廉価版。でも切れ味はよい。出来たら台に固定すると安全で使い易い。

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普段使用しない時はレバーを取り外すことができ、場所も取らずまた安全に管理できる。

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このように45度に切れてその切断面はカンナガケをしたように滑らかだ。ただ、あらかじめだいたいナナメに切っておく方が仕事し易い。

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また90度もキレイに整えられるのはうれしい。

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ノコギリのないタイプのコーナークランプ。このタイプだとネットでも入手できる。

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本来は大型の枠組機械にマガジンでセットするL字型のピンですが、バラバラにして手作業用としても使用できる。最近では大きなD.I.Y.店では見かけることもある。

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コーナークランプにしっかりと接着剤を塗った後固定する。

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木目に平行に、またコーナーの所に正確にL字ピンが来るようにして、初めは静かに打ち込むとよい。とてもしっかりと固定できる。

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額のコーナーを合成繊維のベルトや薄いスチールのバンドで締め付ける工具。コーナークランプが使用できない程の小品や、釘を使用できない時などに便利。とくにビスケットジョイントを使用する時は必要。

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ビスケットジョイナー。日本でもこのところ浸透してきたが、その中でも小型のタイプが工作には適している。これはビスケットと言われる木の葉状の圧縮した木材のチップを浅い円周形に溝を彫り込んだ中に接着剤を塗り、そこへ差し込むとその水分で膨れてとても強力に接着する。

この工具はハンドルを持って目印のところにマークを合わせ、トリガースイッチを入れる。そして工具を木に押し付けるとバネの力によってカバーされていた刃が出て来て溝を彫り込む。

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リョービのビスケットジョイナー用の小さなビスケット。左より1号、2号、3号。

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この工具はアメリカリョービ製なので、危険の表示がドキッとする程分かりやすい。

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ビスケットジョイナーによって彫られた溝に、ビスケットを差し込んだところ。接着剤はあくまでも溝の方へ塗り込んでおく。

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普段の状態でブレードは見えない。

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スプリングで押さえられているベースが被加工物に押し付けられるとブレードが出てくる。その際深さを調整するノブによってビスケットの番手を決めることができる。

GLAZING

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ガラス切り各種。左より5本はダイアモンドカッター。その他は高速度鋼や超鋼製。一番上は円を切るためのもので右下のものはガラス管用カッター。

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ガラス切り用の定木は厚みのある木の板棒を使用する。

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ガラス切りでガラスを切る場合、白い線がガリガリと出ないようにする。あくまでも切れ目を入れるという感じ。

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一見何処にでもあるように見える金槌。でもその小口は台形で、エッヂが丸くなっていない。

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ガラスを止める小釘を打つ時、柄を浮かせて金槌の側面をスライドして安定した釘打ちができるように工夫してある。

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ブラッド、スクイザーあるいはセッターと呼ばれるもの。

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頭のところに磁石が付いていて、無頭釘(Brad)を保持できるものもある。

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釘の長さや額の太さによって調節して握りのレバーを引くと、釘が静かに押し込まれていく。

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グレージングガン用の弾各種。三角や菱形のものは下のタイプで比較的しっかりと固定したいときのもの。上のタイプの弾は、ノッチがあってドライバーなどではずしやすくなっている。

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グレージングガンとは、額縁にガラスを取り付けるための専用のもので、調度ホッチキスのように繋がった弾を入れて使用する。

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グレージングガンを使っているところ。本当は打つ辺を反対側から押さえて打つ振動でコーナーが再び外れないようにするべき。

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プッシュポイントと言われるガラス取り付け用のピンと押具。

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プッシュポイントは専用の押具で静かに押し付けるだけでガラスをしっかり止める。

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各種のガラス止めピンがガラスを押さえている様子。

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裏板を止める特殊なピン。コーナーに向かってギュッと押すと、それだけで止まる。

GILDING

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箔を切るナイフ3種。下右はそのナイフを研ぐ厚い皮。下左は箔バケ。このハケに頭髪を擦りその油で箔を付け運ぶ。

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箔台と呼ばれる皮製の台は自作して使う。上は竹製の箔バサミ。

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箔下との粉と言われる製品6種(一番手前と奥の5つ)とニスで、箔を付けるときのもの。ビン入り3種。

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固形状の箔下との粉(ボーロ、アシェットとも言う)左は青、上は黄、右は白、下は黒。他に赤、緑、茶などがある。

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箔下との粉での技法で箔の部分を磨くメノウ棒各種。水晶やメノウ、玉随などで自作することも多い。

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このようにメノウ棒で箔をその下地ごと磨くとピカピカになる。

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額の下地を作ったりする粉や古びさせたりヒビを入れて古く見せるニス等。

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下地を塗ったり、特殊な効果を出すために使われるハケやブラシ各種。

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額縁の面トリに楽に使える自作の台に仕込んだルーターと手持ちの市販のルーター。

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溝を彫るルータービット各種。1.5mmから20mmのストレートビット。

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各種のルーター用面トリビット。ぼくの若い頃は入手出来づらかったので大抵自作のカンナでやっていた。

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面トリビットだと一回でこの様に面トリができる。実際は安全のため少しづつ削った方がよい。

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25年程前入手して当時役にたった入子(いれこ)面取鉋など。二丁差しになっていたりするのは、研ぐ時に鉋身を研ぎやすくするためや面のカタチ上、そうせざるをえない場合がある。

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たとえばこのおっかけ鉋と言われるものは、両段匙面(内銀杏面とも言う)は、2つの刃によって1つの面を構成することで1枚の刃で削れない面にしている。1枚の刃で仮に作ると研ぐ事ができない。

小林健二(写真+文)2004年

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