子供の頃、家のそばに小さな町工場(まちこうば)というか、大きめの土間というか、そんな感じのところがあった。そこは、仲のいい同級生の家に向かう道の途中にあったので、まるで毎日のようにその前を行き来していた。そんなある日、その中から叫びとも掛け声ともつかぬ声とともに、やたらドカドカと音がする。好奇心に駆られて中に入ってみると、中年の男性が脚のある、どうやらイスのようなものに、スプリングや何かバンドらしきものをつけているか何かしていた。思ったよりすぐそばで目があっていたし、その汗まみれがニヤリと笑ったものだから、思わず「おじさん何作ってるの?」なんて聞いてしまった。すると男性は「カグダヨ」と言った。はっきり言って怖かったし、意味もよくわからなかったので、大急ぎで逃げるようにして家に帰った。家族に「あそこは何の家?」と尋ねたら、「あそこは自転車屋だよ」とのこと。「カグ」が「家具」とわかるのにも時間がかかった次第だし、ただの変わり者かもしれないおじさんとの出会いによって、中学の頃までイスは自転車屋が作るもtのとぼくは思っていた。
今にして思うと、気取り屋であったぼくにとっては、奇妙な建て増しや改造によってさながら妖怪屋敷の風であった我が家は、何にも増して悩みのタネであった。
そんな中では、突然3日ほどで内ブロが完成したりすることは日常茶飯事なのだが、倉庫の奥の端につくられたこれは、真昼でさえ懐中電灯を持たなければ、そこまでたどりつくことはできないと言った具合で、暑い夏の日の午後に、蝋燭を立ててそこで行水する母は、奇々迫るものがあった。
家がこんな感じだから、その中にある家具がどのようなものか想像してもらいたい。大体においてチャントシタ物、新品の物名ぢないわけだから、イスにしても机にしても小学校のうちに一通り作る機会に恵まれてしまったぼくに取って、家具を作るということは、アートとかデザインとかに関わらず、最も日常的なものになった。
話は急に飛んで、その後美術に関係する仕事を始めてから最初に家具に関わったのは、1987年だった。”家具のオリジナリティ”という内容を持ったイベントであったので、”共存”をテーマとして植物と一体化した家具を作った。それは、テーブルやイスの中に水回りやメンテナンスを考えて、土や保水剤を使い、実際に根をはらせ、一ヶ月以上の展示の間にも枯れたりすることのないよう計らったもので、植物は花を咲かせ、小さな実もつけたりしてくれた。
しかし、製作の依頼や注文といった具体的なことになったきっかけは、ある時、期限が一ヶ月もない急ぎの仕事を友人から受けた後のことであった。その時の内容は「製品として売れること目的としながら面白いもの」というやたら漠然としたもので、一瞬ヤバイかもと思ったが、簡単な家具や照明器具ならイケルと製作に入ったものの、照明器具に凝りすぎたため、家具の方は一週間ほどしか時間が無くなってしまった。ところがかえって、それで悩んだりせずに作ることに専念でき、気分転換にまでなったりした。
その時に作ったイスやテーブルの製作工程は、まず注文が出ないように、なるべく手持ちの材料と技術でできることを念頭に置いてエスキースを描き、その中から作るものを選ぶことから始めた。次に座るという目的のために、大体の各部位の寸法を出した。基本的には鉄と木が中心になり、装飾のため、石、樹脂石膏、布、松脂を使った。鉄部の板材は4.2ミリ厚で、ガスとプラズマ・カッターで溶断し、その切断面をサンダーで整え、脚となる直径16ミリの鉄棒などを溶接し、木部や他の素材や、ノックダウン(各部剤を接着剤などで固定せずに、取り外し可能な状態にする)するところなどには8ミリ六角レンチを使用するため、あらかじめタップ(ネジで固定できるように、あらかじめネジ穴を作ること)を立てておいた。
また、防蝕を兼ねた表面処理は時間がなかったため、酸洗いで黒皮を取った後、簡単に黒染めをして調子を整え、その上にウレタンを塗っておいた。ただこのままでは面白くないと思ったし、錆が出ていた時の鉄の感じも好きだったので、鉄粉とPVA(ポリビニールアルコール)とで絵の具状のものを作り、部分的に塗って、その上にオキシフルをかけサビを出した後、蠟を塗って落ち着かせた。物によってはその上に溶かした松脂と蜜蝋で麻の布を張ったり、石灰の粉を漆と混ぜて塗ったりした。木の部分は木の商いをしている友人が、ワレやネヂレためにはねられ、捨てなければならない木があるからと譲ってくれたジョンコン、マコーレ(南洋材)、タモなどの木を用いた。以前より持っていた釿(ちょうな)を使い、大きくハツッタ(ハツル=木をちょうなで大まかに剥ぎ取ること)後、トクサ(トクサ科の植物、茎は珪酸を含み、堅いので細工物などを磨くのに用いる)とウズクリ(茅などを束ねて荒縄で縛ったもの。木を磨くと木目を出すことができる)で仕上げた。当初は石を彫ってつけたりしたところもあったが、その後型を作って樹脂石膏に置き換えたりした。
このようにして作られた家具が、その後70個あまりになるとは思いもよらなかった。
ぼくはこれからも仕事をしていてものが見えなくなったり、疲れてしまうことがあったら、趣味として家具は作ってみたいと思う。なぜなら、ぼくの作ったものを持っていてくれる人たちが「あれ結構愛着湧いたりして具合いいよ」なんて言ってくれる時は嬉しいし、かつて、石のテーブルに咲いた花が小さな実をつけた時に、とても感動したことがあったから。
小林健二
Tools vol.3 from Kenji Channel on Vimeo.
*1990年のメディア掲載記事から編集抜粋し、画像が新たに付加しています。



![小林健二製作の家具。左から[ALIE] [FOUPOU] [DUMEX]。このイスたちは寝具専門店Al-jabrの依頼により製作されたもの。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/art-funiture5.jpg)
















![[昔風鉱石受信機] つまみ、ターミナル、ノッチスイッチ、検波器の金属ホルダー、コイル、バリコン、木製筐体まで全て小林健二の手製。W340xD203xH185mm](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj04.jpg)





![すでに1000人ほどの人がこの不思議な受信機から「過去の放送」を聴いたと言われる。 [IN TUNE WITH THE PAST TENSE]と名付けられた作品。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj12.jpg)
![小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE] 「地球溶液」と言われるアース部分。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj24-1.jpg)
![小林健二作品[IN TUNE WITH THE PAST TENSE] 透きとおった鉱物にタングステンの針を当てて検波すると、クリスタルイヤフォンで放送を聴くことができる。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj15.jpg)
![小林健二作品[夜光結晶短波受信機] 後ろの箱は電源。ディテクター(左)、スピーカー、本体(右)](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj11-1.jpg)
![小林健二作品[夜光結晶短波受信機] 高さ18.5cmの小さなスピーカー。金属の鋳造によって作られている。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj13.jpg)
![小林健二作品[夜光結晶短波受信機] ディテクター(検波部)、中の発光し透き通る赤色と緑色の石を、青色に光っている金属に当てるとヅピーカーから音が聴こえる。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/mj07.jpg)
![[フルヌマユ:春のみずうみ] 春のみずうみは暖かい陽気が立ちこめている。やわらかな形たちが揺れながら遊んでいるようだ。みんなとても楽しそう。夢のような場所。誰かがいつもぼくを迎えてくれる。それほど遠くない場所。ぼくは眠りについてそこへ出かける。いつもなら彼らは怪物と呼ばれている。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/furunumayu.jpg)
![[フルヌマユ:飛行する気流] ぼくは時々彼らと出合う。中に透明でゆるやかな姿をしている。彼らはレンズや風船、そして気球のようなその姿の中に、いっぱい素敵な喜びをたずさえている。とても巨大で怪物のように見えるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、何よりも安らぎを与えてくれる。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/fulunumayu.jpg)
![[巨きな生き物の平原] 初夏の夢は大抵ゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。巨きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平原から光色のエネルギーを吸い上げている3対の柱を持った生命体は時々夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間得た成分を虹のような香りや風のような音律にかえて、その上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。](http://ipsylon.jp/wp-content/uploads/2016/11/huge-creature2.jpg)


















