アンテナとアースについて
鉱石ラジオを聴く場合、設備としてもっとも大事なのはアンテナとアースです。とは言っても昔の本に出てくるように大きく立派な空中線を敷設することは、現代の住宅事情を考えると不可能に思えますので、簡単にできる方法から紹介してみましょう。
1)100V電源コードからとる方法
まずビニール被覆線を用意します。見かけで1~ 2 mmくらいの細いものがいいと思いますが、基本的にはなんでも構いません。
2)家庭用100V電源からとる方法
これは家庭用の100Vの電源から直接電波を捕らえる方法です。
3)室内アンテナ1(卓上アンテナ)
使い方としては内でも外でもワイヤーの端から線を引いてラジオのアンテナとして使う他、これを一つのコイルと見なし、両端にバリコンを並列に接続して使うこともできます。もしこの室内アンテナを2m角くらいの大きさで、60~ 70mくらいワイヤーを巻いて作ると室外アンテナに劣らないようなものもできるでしょう。また、この種のアンテナはアースをつけなくても感度がとれる場合があります。ただ、アンテナの向きによって感度が違ってくるので注意しましょう。
4)室内アンテナ2
5)室外アンテナ
室外アンテナは庭の広い一戸建てや郊外の地域でないと無理のようですが、考え方によってはできないこともありません。たとえばもしマンションやアパートであれば自分の部屋から外部の壁づたいにそれほど重くないおもりをつけて線(よく電源のコードなどに使われる平行線をさいたものなど)を重らしたり、家の周りに日立たないように通わせてみたり、工夫しだいではいろいろとできると思います。ただ、もちろん安全で他人の迷惑にならない範囲で行ってください。
また同軸ケーブルやビデオデッキのアンテナ出力など、他にもいろいろとアンテナの役目のできるものがあるので試してみてください。
ー空中線の実際
鉱石ラジオにとって、空中線は部品というより設備に近い側面を持っていて、空中線のよしあしによっては受信できない場合もあるのです。鉱石ラジオが一般的であった時代は、都市においてもゆったりとした空中線を張ることができましたが、現在のように庭もなく、またビルの内側は電波からシールドされていて室内アンテナもあまり役に立たない環境のところもあります。このような現状ですから、昔のようには空中線を張ることはできないまでも、どのような空中線が効果的かを知るために、簡単に説明してみたいと思います。
まず電波によって空中線とアースの間に発生する電圧は、その空中線の高さと電界強度に比例します。ここで発生する電圧によって空中線に電流が流れますが、そのとき流れる電流は空中線の各部によって違い、上方の先端部より下方のアースに近いほど取り出せる電流は多くなります。空中線の導線と大地の間はコンデンサーになっていて、それぞれのコンデンサーに流れる電流は空中線の基部に集まる性質を持っているため、 下方にいくにしたがい電流は多くなります。
電流は空中線の先にいくほど少なくなるので、実際の高さより何割か低く見なければなりません。電波と電気力線はアースに垂直なので、空中線に電圧が発生するのはおもに垂直部分と考えられます。本来、水平部分は電圧を発生するには役立たないと考えられていますが、垂直部分の電流分布を増加して実効高を増すはたらきをするようです。
このように片方を接地した空中線は、波長の4分の1の実効高が最大感度となるのですが、たとえば1000kHzの電波であれば、計算すると波長約300mですから、その4分の1としても75mにもなってしまいます。
ですからできるかぎり高いほうがよく、またそこから横に張った水平の空中線でさらに補ってあげる形になるのです。以上のような空中線は開回路式空中線と呼ばれます。
ー室内アンテナ
実際に屋外に空中線を張るのが難しい場合に有効なのが室内アンテナです。それには以下のようなタイプのものがあります。ループアンテナ、枠形アンテナ、スパイダー形アンテナ、そしてバーアンテナ(μ (ミュー)アンテナともいう)などでこれらはアンテナコイルの一種とも考えられます。やはり巻いた枠が大きければ大きいほど効力はよく、あまり小さいとアンテナとしては役をなさないときがあります。また、このようなアンテナは電波の到来する方向に対して指向性があり、常に感度の最大になる位置を探すことが重要です。
また室内アンテナは、その構造上コイルとしての自己インダクタンスを持っているので、ラジオの内部にある同調回路のコイルとの関係を考慮しなければなりません。小判型といわれるタイプは、導線をニスなどで同めたものです。枠型は木や厚紙、ときにはベークライトなどで作ったもので、ラジオの本体に巻き付けるようにしたりします。スパイダー型にはいろいろな形があります。バーアンテナタイプはコイルの中に磁性体を入れることでインダクタンスを上げ、磁束密度を上げるようにしたものですが、鉱石ラジオにはあまり大きなものは適していません。これらのアンテナは、電波が発射してくる方向に対して直角になるときに最大感度を持ちます。このようなタイプを閉回路式空中線と言っています。
ー電灯線アンテナ
家庭に来ている100Vの電流は、電灯線とも言われますが、みなさんもご存じのように大きな電信柱を伝わってきます。その交流の100V電流中に、電波が電線によって共振して混入していると考えられます。もちろんこのままアンテナとして使用して鉱石ラジオに直接つないでしまうと大変なことになるので、前にもお話ししたコンデンサーを間にはさんで使います。
コンデンサーはその容量によって50Hzの低い周波数の電圧はほとんど通さず、高周波の信号の乗った電流だけを通しますので、アンテナとして使用できるのです。実際のやり方は上記を参照してください。
6)アースについて
昔の本で接地をすると言うと、地面に穴を掘って金属の板や棒を埋めそれから引き出し線をつけてアース線としました。このアースとの電気的な関係はいまでも変わっていません。しかしなかなか地面を掘れる人ばかりいないでしょう。またよく言われる水道管への接続ですが、これも昔は鉄管や鉛管を使っていましたが、現在ではほとんどが塩化ビニル管になり、アース線を取ることはできません。しかし昔には無くて現在の方がアースを取りやすくなっている部分も多いのです。
たとえば電気洗濯機や電気乾燥機などのモーターを使用する家庭電化製品は、緑色の被覆のアース線がついていて、それらの機器をおくところにはたいていアースが来ています。あるいはコンピューターのコンセントプラグは接地付きプラグが多く、それを差し込むコンセントのところにはアースラインが来ています。
ーアースについて
アースとは接地をする、すなわち大地に回路の一端を直接つけて大地との電位をまったくの0(ゼロ)ボルトに近づけるものです。空中線の回路にしても、回路という以上それはめぐりめぐってなにがしかの力を作用するものなので、アンテナや空中線からまるで雨水のように力が入ってきても、その出口がつまっていたのでは少しも流れにはならないということなのです。ですから、その流れの口が小さく抵抗があるより、少しでも大きく抵抗が少ないほうが力を十分に使用できるというわけです。ですから、昔からアースをいかにしてよくとることができるかは重要なポイントです。
ー昔のアースの取り方
昔のアースの取り方には、 30 cm平方、厚さ1mmくらいの銅版を1mくらい掘り下げた地面に湿らせた炭などといっしょに埋め、太めの銅版1~ 2 mmくらいのものをしっかリハンダ付けしてアース線としたり、銅の大きなグリッド(格子)を埋めたり、アース棒といわれる4~ 50mくらいの導線のついた太さ12mmくらいの炭素棒を地面に打ち込んだりする方法もあります。
また、水道管に直接導線を巻き付けてアースとすることもできますが、この場合は接点の抵抗を少しでも少なくするため、しっかりと締めつけることが重要です。
また特殊な方法としては、大地が乾いていたり、うまくアースがとれないときはカウンターポイズ(counter poises)といわれる特殊な方法をとることもあります。カウンターポイズとは、地上30 cmくらいの高さのところに10~ 15mくらいの絶縁性の高いゴム、あるいはビニール被覆の1~ 2 mmくらいの鋼、電灯線用コードを張り、大地とは絶縁をしてあるものです。これは必ずしもアンテナの下に設置しなければならないということはありません。普通のアースよりもかえって分離性がよくなる場合も多いようです。
結局、空中線回路は、コンデンサーのうちの一方を空中線として、もう 一方を接地してアースとして受信効果を高めているわけですがアース自体がよくとれなければかえって聞こえにくいので、必ずしも接地だけがアースの方法というわけではありません。
ー安全装置
もしいままで説明したように、昔のようないい状態で空中線が張れたとすると、こんどは安全装置についても考えなければなりません。それは落雷の危険性がゼロではないからです。昔はアレスターと呼ばれる避雷器がありましたが、今はあまり見かけませんので、簡単な写真のようなスイッチで空中線の引き込み線を受信機とアースとに切り替えられるようにセットしておいて、受信機を使用する時は受信機のほうへ、それ以外はアースのほうへ接続しておけば、万一落雷があっても空中線からアースヘと流れます。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。