ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)を使ってクリスタルイヤフォンを作ることはかなり難しそうですが、ロッシェル塩の大きな単結品を使って、この結晶がピエゾ電気効果(正確にはピエゾ圧電気逆効果)によってほんとうに音を発することを確かめることはできます。それにはまずロッシェル塩の単結晶を作る必要があります。実はこの結晶作りだけでも十分に興味深く楽しいものなので、ごく簡単に紹介してみたいと思います。
この際気温が高い夏期などには、40℃ の水にもっとたくさん溶かしてもよく、共にほぼその温度における飽和溶液にして使います。少し時間がかかりますが、室温と同じ温度の水に少しずつロッシェル塩を入れて溶け残りが出てきたところで飽和溶液と見なしてもけっこうです。ただ、あまりにも溶液温度と保管する所とに温度差があったり、保温して徐々に温度を下げていかないと過冷却の状態になってしまい、一気に細かな細品が析出してしまい、失敗となります。この場合はもう一度溶かしてやり直します。
このように入工結晶を作っていく方法には基本的に飽和点を下げることで結晶を析出させていく冷却法と、溶媒を揮発させ溶質濃度を上げながら結晶析出をうながす蒸発法とが代表的です。
冷却法で成長を促進する場合も、できる限り少しずつ温度が下がるようにしないと失敗します(理想的には1日で0.1度くらいの下がり具合)。そして大きな結晶を作るには何日もかかります。温度管理に自信がない場合は蒸発法で大きくすることをすすめます。この場合は種結晶があらかじめ3~ 5 mmくらいになったものを使い、結晶を作ろうと思うところの室温と同じ温度の飽和溶液を育成母液として使い、ゴミやチリが人らないように心がけで気長にやることです。育成母液に種結晶を入れ10時間~ 1日おきに観察して、種結晶のまわりのところなどにたくさん小さな結晶が析出してくるようならガーゼなどで漉して、きれいになった母液に再び種結晶を戻すことを繰り返します。
そして共鳴箱やピンと張ったグラシン紙(ブーブー紙)に取り付けるともっと大きくなります。
もしできるなら、結晶を薄くスライスしたりさらにはそのスライスしたものを貼り合わせたりすると効果的です。もしスライスして貼り合わせることができるなら、 2枚のロッシェル塩の板のあいだにも錫箔を入れて貼り、その端と両側の箔をショートした部分にオーディオ信号を印加するといいでしょう。
ぼくはダイヤモンドのブレードのついた石やガラスを切るバンドソーでロッシェル塩の飽和溶液をかけながら切りますが、こんなことは一般的ではありません。しかし時間をかけるなら、水でしめらせた糸を張った糸ノコで少しずつカットすることができ、この方法がいちばんきれいに切ることができます。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
reblog:銀河通信より