「シルバーポイント」とは数世紀前まで鉛筆の代わりによく用いられていたものです。銀は大気中の硫化物によって黒変します。とはいっても、鉛筆のように真っ黒ではなく柔らかい調子になります。ぼくは、その柔らかい感じが好きなので、シルバーポイントを使うことが多くあります。
この作品の、一見グレーの絵の具に見える箇所は、シルバーポイント(銀筆)という古典的な技法によって描かれていたり、ある種の錫、アンチモンの金属の粉によってなされています。
また右の立体的なところは樹脂ロウによって形成されていますが、ロウといっても蜜蝋のように68度くらいの温度になると指紋がつくようなものではありません。
古いペンの軸や、木の棒に銀の線や棒を付けたものです。
ペン軸にねじ込み式の雌ネジをはめこみ、銀線にはダイスで雄ネジをきってあります。
こんなように作らなくても、上のもののように穴を木にあけて差し込むだけでも同じです。
シルバーポイントには下地が必要です。
その為には普通(古典的には)ニカワで練った、亜鉛華、ジンクホワイトが使われていました。多少ザラザラとした感じでなければ、すべってしまうからです。ザラザラといってもツルツルのコンクリートぐらいです。
絵画用ゼラチンの場合は 水:ニカワ/3~4:1
ウサギニカワは 水:ニカワ/4~5:1
の割合でニカワを水で膨潤させ、湯せんで溶かした後、粉を練り、それを板などにヘラで塗り付け、乾いたら240番~320番ぐらいのサンドペーパーをかけます。
鉛筆ほど黒くはっきりしませんが、ハンダのように銀以外の金属が使われることもあります。その場合下地には、亜鉛華、ジンクホワイトなどの代わりに、ロッテストーンやパミス(軽石を粉砕した磨き粉の一種)でもちょうどよいでしょう。
ただし、その場合は水:ニカワ/5~6:1の割合の絵画用ゼラチンなどで粉を練って、ハケで冷めないうちに薄くさっと板にぬって使いましょう。(紙でも使えます)
またシルバーポイントは、油彩絵の具とはすべってしまうため、共存できないので、「デトランプ」や「テンペラ」などの技法と用います。
なので、金属のパウダーは絵画用ゼラチンで練って使っています。ニカワでは縁などに色がついてしまうことがあるからです。
金属の粉については、TIN POWDER (錫粉)、STAINLESS STEEL POWDER(鋼粉)、ANTIMON POWDER(アンチモン粉)。他にも、銀、銅、鉄、アルミ、ジュラルミン、真鍮、鉛、亜鉛、ブロンズ、アルマイト(赤、ピンク、黄、緑、青)といろいろあります。似たものとしては、金属粉でではないが、カーボン、アランダム、コランダム、カーボランダム、および一部の顔料、、、、、などを使っています。
文:小林健二