前回の続きです。
鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
前回の続きです。
鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
前回の続きです。
鉱石ラジオとは、いったいどのような姿をした受信機だったのでしょう。ぼくのコレクションのなかから、当時のものをいくつかお目にかけたいと思います。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
鉱石式送信機
鉱石ラジオが全盛だったころ、鉱石ラジオの受話器に話しかけると近所のラジオに混信してその声が聞こえるという報告が当時の雑誌にいくつか紹介されています。これはもしかしたら鉱石式受信機が送信機になったということでしょうか。
ひとつにこの現象はアンテナをコンデンサーを介して電灯線から取っていたために起こったのではないかと説明されていますが、電源もない受信機から送信ができるとはおもしろいことだと思います。ぼく自身も本当にこの不思議な現象を何度か実験で確かめていますが、この事実を安定して作動させることはとても難しいと思います。そこでぼくは鉱石式電波発生器を使って簡単な信号を送る実験をしてみたいと思います。
鉱石式電波発生器とはいったいなにかというと、ライターなどの発火装置のことです。上の画像のものは、おそらくガス給湯器の発火装置なのでしょう。これらはピエゾ圧電素子を利用したものでボタンを押すとレバーとスプリングの機構によって中にある圧電素子をハンマーが強くたたいて、高い電圧が発生する仕組みになっています。この素子から出ている電線の端を導体に近づけると4~ 5 mmのギャップで火花が出ます。人体に触れるとビリッと衝撃を受けます。この線を空中線に接続してボタンを押すと、普通のAM受信機の局間などでパチッパチッという音を受信します。これは一種の火花送電です。
そしてもちろん鉱石ラジオでも受信ができます。
(ここで小林健二が電気工作に熱中するきっかけとなる出来事を、彼の著書「ぼくらの鉱石ラジオ」から拾ってみました。)
ぼくにとって、電子工作につながる道は意外なところから開けました。
10代のころから高じてきた音楽の趣味から、多重録音をしていろいろ曲を作っていたのですが、そんな時にいつもエフェクター(音質などをいろいろと変える機械)がほしくて、でもお金がないので、カタログを見てはあこがれる純情な毎日でありました。20代の初めのそんなある日、ギターやキーボードの雑誌でエフェクターの制作記事を見かけ、ビンボー人の執念とは恐ろしいもの、前後の見境もなく秋葉原に直行し、マッド・エクスペリメントの始まりとあいなったわけです。
当初の製作物のうち、いちおう音の出るものもあったとはいえ、一部は音のかわりに煙を出し、コンデンサーが爆竹のかわりになったりもしました。そしてその他はほとんど、なにより恐ろしい沈黙を守っていたのです。
秋葉原へのお百度参りは回を重ね、みんなから定期が必要とまで言われながらも、機械の作製は遅々として進まず、いつのまにか「電気いじりは日常」というアリ地獄ならぬ電気地獄にひきずりこまれてしまいました。友人を巻き込み、私財をなげうってのこの壮大な試行錯誤の日々は、またたく間に生活をおびやかしていきました。
そんな時、たまたま友人といっしょにDNR(ダイナミックノイズリダクション)を作っていると、ノイズを取るどころかほとんどハム(雑音の一種)発生器となった基盤の上で、ぼくらのシグナルトレイサー(回路の信号をチェックする機械)はなんと、ふいに飛び込んできたラジオ放送をキャッチしていました。
しかも、装置の電源を切った後でさえ、その放送はとぎれることがなく、音楽や会話を聞かせつづけたのです。一人になったアトリエで、ぼくはその省エネルギー的遊びをつづけました。こんなにラジオをまじめに聞いたことがはたしてあったでしょうか。イヤホーンから聞こえてくる小さな声の放送に、はじめてセンチメンタルで美しい、そして空が急に広くなりそよ風の吹いてくるような、あの電波少年たちの想いを受け取ったのだという確信をぼくは抱きはじめたのです。
original-effector from Kenji Channel on Vimeo.
1930年当時の鉱石検波理論
・熱電流説―一検波器の回路の中に高周波電流が流れるたびに、細い金属と小さな鉱石との接点において局部的に熱が発生することによる、というものです。この抵抗熱と熱電流によって接点の温度が変化し、それによっておこる抵抗の増減が高周波交番電流に作用し、電流がピークを迎えたとき、発電量と抵抗値が増えることによって、タイミングが合った部分の交流分の片方が流れにくくなり、整流されるというものです。
・表面酸化説一一上記のものとだいたい同じようなものですが、やはり高周波電流によって温められた接点の金属がそのつど酸化することで、金属どうしの接点抵抗が変化し、整流されるというものです。
・熱起電力発生説ーー図のように2種の金属、たとえば鉄と銅をねじりあわせたものに、ヘッドフォンをあてて金属のねじったところをろうそくなどの火であぶると、ガリガリッと音が聞こえてきます。これは2種の金属に熱を与えたことで、電子がはじき出され、電流をおこしてヘッドフォンで聞こえたのです。これと同じように、高周波電流によって温められた2種の金属の熱起電力によって、音として検出できる低周波電流に変化するというものです。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
ヴァリコンは簡単な構造のものでもちゃんと機能します。
こういったいろいろな鉱石やニッケルやタングステンなどの金属を探しに鉱物専門店や特殊金属の店を巡るのも日常とはちょっと違って、未知の空間と出会うようで素敵です。こんなところにも工作をするよろこびがあるのかもしれません。
ここで絶縁材料について触れておきます。
普通の工作全般で使われる材料以外で、電気に関する特別なものとしては、絶縁材料が挙げられます。本来鉱石ラジオの製作だけを考えると、電庄も電流も大きくないので、厳密な指定はありません。ただ、日頃あまり手にしない材料ですが、どういうわけか美しいものが多いので、いろいろ試してみるのもおもしろいでしょう。
代表的な3種について説明します。
ベークライト(bakeute)一一板状のものは0.5mm~ 3cm厚くらいが普通で、大きさもいろいろすでにカットしたものを売っています。筒状(パイプ)や丸棒も直径2mm~10 cmくらいまであります。色は少々透過性のある黄・黄褐色・茶・こげ茶とあり、成形から時間が経つほど色は濃くなります。またこれら生地色以外にも製品として、ターミナルの頭やツマミなどには色の付いたものもあります。また布入リベークといって、なかに繊維を入れて普通のベークライト板より強度を高めたものもあります。数はあまり多くありませんが、黒ベーク板という黒色のものもあります。ベークライトは本来商品名で、材質としてはフェノール樹脂と呼ばれ、石炭酸とホルムアルデヒドにアルカリを触媒として熱を加えて作ったものです。
エボナイト(ebonite)一一前に述べたベークライトと混同している人もあるようですが、この2つはまったく違うものです。エボナイトは一種の硬質ゴムで、生ゴムに加硫といって硫黄を加えて作ります。色は黒色しかなく、その黒檀ebonyのような色から名前がついたと言われています。ただ経年するとエボ焼けといって、独特の緑がかった褐色になることがあります。形状は板、丸棒とありますが、ベーク板ほどはサイズに幅はありません。
マイカ(雲母mica)一一空気をはじめとして絶縁物はたくさんありますし、技術的に簡単と言うなら紙やセロファンもいいと思いますが、なかでもマイカは工作上美しいし、性能上も他を圧しているようにぼくは思います。
雲母は天然鉱物で鉱物学上これに属するものには本雲母群、脆雲母群等があって、実用に供されるのは本雲母群のものです。このなかには大きくわけて7種類があります。
白雲母muscovite、曹達雲母paragonite、鱗雲母lepidolite、鉄雲母lepidomelane、チンワルド雲母zinnawaldite、黒雲母biotite、金雲母phlogopiteで、日本画などで雲母末のことをきらと言うように、まさにキラキラしていてぼくの好きな鉱石の一つです。雲母はインド、北アメリカ、カナダ、ブラジル、南米、アフリカ、ロシア、メキシコ等が有名ですが世界各地で産出します。日本ではあまりとれないのでもっぱら輸入にたよっています。白雲母は別名カリ雲母といって無色透明のものですが、黄や緑や赤の色を帯びることがあります。そのうちの赤色のマイカはルビー雲母rubymicaとも呼ばれ、 とても美しいものです。比重は276~4.0くらい、硬度は28~ 3.2です。
金雲母はマグネシア雲母、琥珀雲母amber micaとも呼ばれ、比重は275~ 2.90、硬度は25~27、少々ブラウン色に透きとおり、やはりとでもきれいです。
雲母を工作に使用する際には、むやみやたらとはがさないで、最初に半分にしてそれぞれをまた半分にするというように順にはがしてゆくと厚さをそろえやすく、好みの大きさに切る時は写真などを切断する小さな押し切りでよく切れます。厚いうちに切断しようとすると失敗することが多いので、使用する厚さになった後でカットするようにした方がよいでしょう。なお工作の際、マイカの表面に汗や油をつけないように気をつけましょう。
このほか、ガラスエポキシ、ポリカーボネイトなどがあります。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
ぼくは電子工作が好きなので秋葉原の部品屋によく出かける。家電などを扱う表通りに対して、その場所は電飾もなく、昔の「ヤミ市」とはこんな感じかと思わせるところが多い。タタミ一畳ほどのブースのような小さな店には、数え切れない電子部品が並べられていて、それと同じ数の夢まで詰め込まれているようだ。世の中に二つとないこんな不思議な世界を、ちょっと興味のある方は観光してみたらどうだろう。
しかしながら、この「電子人生横丁」に入る人の数も年々減ってきていると聞く。確かに最近、ぼくもこの場所で子ども達と出会わなくなったと思う。
そんなわけだからラジオ工作の雑誌は今ではほとんどが廃刊になったり、オーディオ雑誌へと変貌していたりするというのもうなずける。「 ラジオの製作」はそんな中、よくぞ続いているものだと感心する。早速7月号を見てみると、まず別冊付録が挟まっていて、「組み立てようぼくだけのパソコン」とある。
お金さえ出せば何でも手に入る時代になっても、かつての工作少年を思い出すようで面白い。記事には「ポケット・ラジオの製作」「タッチ・ランプの製作」「ステレオアンプの製作」と電子工作が9種も載っている。余暇の過ごし方がイマイチと感じる人がいるなら、これらの実用性?もある電子工作にふけってみるのも一考だろう。回路図が読めなくても作れるような配慮は嬉しい。
「エレクトロニクス入門」というコーナーでは、デジタル回路について、一般読者にもわかりやすい連載もある。日頃「もう少し電気に強かったら」と嘆いている方には打って付けではないだろうか。最近は「理科離れ」「手を動かさない日本人」とか言われるが、同じフレーズは戦前の本にも顔を出していた。基本的にはあまり変わっていないのだから、落ち込む前にこんな雑誌を覗いてみたらどうだろう。ひょっとするとヤミツキになるかもしれない。
電子の世界というと、難しい数式が支配する「合理性の親玉」というイメージがあるようだが、「ラジオ工作」に代表される電子工作について言うならば、それは当てはまらないと思う。むしろ詩の世界に通じるものがあって、その向こう側に、電化社会の便利さに追いやられてしまった大切なものを発見できるかもしれない。
本来、電子も電波も目には見えないものである。しかしかつて、幾多の少年たちの夢や期待を育んだ透明な通信の世界は、現代に生きるぼくたちに、便利なものだけでは見つけられないものがあることを伝えているような気がする。
小林健二
「ラジオの製作」は1954年に創刊、1999年に休刊になりました。また秋葉原の東京ラジオデパートの中では、現在営業していないお店もあります。
*1998年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。
鉱石ラジオの部品の中でも、鉱石検波器自体は重要な役割を持っているので、感度を上げるための工夫や機械的安定性も合理的に設計され製作されていたことは言うまでもありません。
そこでぼくは当時(鉱石ラジオが使用されていた大正から昭和の初め頃)もなかったしそれ以降も登場しなかった、言うならこの星で最初と思われる鉱石検波器を発表しようと思います。このように大きく出たところでとりわけ何かが起こるわけではないのですが、いろいろ工作や実験をしている最中に何かを見つけたような気持ちになるとそれほどうれしいものなのです。そんなわけでぼくなりに発見のあった特殊(きっと他にはないという意味で)鉱石検波器を紹介します。
天然系検波器
まずは鉱石の形をそのままに検波器としたものです。ぼくは鉱石の色や形をなるべくそのままに、機能を持たせたいと考えていろいろ実験をしました。実験中はよいのですが、その感度のいい状態を継続して安定させるのはけっこう難しいものでした。
もちろんさぐり式検波器の場合、いかにして針を鉱石の敏感なところにいい接触状態といい圧力をもって安定しつづけるかがいつも問題になります。このようなむき出しの鉱石を使う検波器でいちばん問題となる点は、鉱石自身と導体部分の接点抵抗をいかに小さくし、またそこにコンデンサー成分をなるべく作らないかということです。とりあえずさぐり式の鉱石を固定する方法を用いてハンダで接触面を大きくしようとしても、大きな結品の標本の場合だとどうしても温度の高い状態を長くしないとならないので、その熱が鉱石の感度を下げてしまうらしいのです。
そこでぼくが思いついたのは低融点金属でした。この金属を使うとその熱の問題をクリアできるばかりか作業性も高く、鉱石の表面によくのびてとでもよくくっつき、コンデンサー成分も作りません。なにしろ75℃ 前後で工作できるわけですから、紙などで角型やコーン型にした筒の先を切り、その先をあらかじめあたためた鉱石のうらから当て溶けたものを流し込めばよいのです。
天然系検波器1の検波器はそのようにして作りました。またこの4点のものは結晶の形がおもしろいというだけでなく、本来なら不向きのところがあるのです。たとえば中央上の磁鉄鉱とその下の赤鉄鉱です。磁鉄鉱はもともと検波器の素材のひとつに上げられるものですが、この標本のように天地5 cmくらいのわりに大きなものになるととでも直流抵抗が高くなってしまい、検波どころか電流はほとんど流れてくれません。また赤鉄鉱のほうも同じで、板状結晶のこの標本の場合、埋め込んでしまうわけにもいかないので真鍮の厚い板に低融点金属で接着してあります。
この2つのようなとても高抵抗な鉱石は導体との接着面の面積を大きくしたり、見かけの状態ではわからないように導体の部分が針の接点のところに近くまで寄ることで抵抗を低くして、大きな結晶のままや結晶状態を観察しながら検波することが可能となります。
また左に自然銅、右に入エビスマスの標本を使ったものがありますが、これらは逆にほとんど導体なので検波にはむずかしいタイプですが、このように台に付けておくと、うすい硫酸や修酸、あるいは二酸化セレン(ビスマスの場合)による弱い腐食によって、酸化もしくは亜酸化皮膜ができて、ときとしてうまい整流作用を持つのでそれによって検波をすることもできるのです。
天然系検波器2はまるで鉱物標本そのままです。水晶のところどころに黄鉄鉱の小さな結晶が共生しているものですが、全体に目立たないように硝酸銀などでうすくメッキをかけ更に使用する前に伝導性の電解質でうすくしめらせると、本来絶縁体である石英の上にあるのにちゃんとこの黄鉄鉱が検波をしてくれます。
このような検波器はもちろん実用というよりは実験としての楽しみですが、普通の鉱石標本からまるで音が聞こえてくるようでとでも不思議な体験ができると思います。
透過性検波器
この美しい鉱物はどれも光を透過します。手前の細長い鉱物は、ポロナイトと呼ばれるポーランドで作られた人工結晶です。またその右上の鉱物は、ジンサイトと名付けられて最近鉱石ショーで時々見かける鉱物です。おそらくこれも人工だと思うのですが、天然鉱石の持つ一種の有機性(変な表現ですが)があってとでも魅力的です。確かにこんな単結品の紅亜鉛鉱が東欧の鉱山から出てきたら大変なことだと思います。
本来、宝石や宝飾品のために作られたと聞いていますが、成分はまさに純度の高い酸化亜鉛です。ですからひょっとしたらと思い、まずはテスターを当てると導通がありました。このように透過性の鉱物に電気が通るというのはわかっていても、ぼくには驚きで、さっそく検波の実験をすると確かに検波できるばかりか、紅亜鉛鉱単体に針を立てるよりもはるかに感度が安定しているのです。
写真左の透明なうすい緑色の鉱物は、同じジンサイトの標本のところにあったものです。ちょっと見るとぶどう石prehniteと見まごうような美しい標本で、これも検波できるのです。確かに紅亜鉛鉱と言われても、その赤みは不純物として入っているマンガンによるものと言われていますから、考えてみれば不思議ではありませんがやはりどきどきしてしまいました。
化石式検波器
この写真は貝とアンモナイトの化石です。この二枚貝は左がparaspirifer bownockeriで右がmediospirifer audaculusです。約3億8千万年前の化石で、中央のアンモナイトは約1億8千万年前のものです。まともに考えると気が遠くなるほどの過去の生物ですが、写真はその年月とともに化石となる際、部分的に黄鉄鉱化した標本です。
そして作ってみたのがこの検波器で、化石式検波器fossil detectorとでも呼べるものと思います。実際は黄鉄鉱が検波している訳ですが、数億年もの昔の生物が変化したものから音楽や人の声が聞こえてくると想像してみてください。不思議な心持ちになりませんか?
銀成硝子検波器
一種の酸化覆膜にも整流作用を持つnl能性があるとすると、まだまだ感度の善し悪しを考えなければ検波できるものがいろいろとあるのではと思い、ぼくは身近にあるものをかたっばしから実験してみました。錆びた金属、導体性の金属鉱石、 ドアのノブ、ナイフ、はさみ……。いい加減やりつくしたころに見つけてドキドキしたのが、ハーフミラーです。これは金属の蒸着メッキによって作られます。そして実験の末、形にしたのがこの写真の検波器です。ときに銀色にまた半透過性へと移行するその質感は美しく、また不思議な感じを起こさせます。ホルダーは錫と銀とアンチモンによって作りました。
極光水晶検波器
そしてこのハーフミラーを使った銀成硝子検波器は、ぼくの作ったもののなかでもっとも美しい極光水晶検波器を作るきっかけとなりました。
この写真はその極光水晶検波器auroracrystal detectorです。このオーロラクリスタルは最近の技術によって装飾用として作られたものです。おそらく二酸化チタンのうすいメッキによるもので、その鍍膜厚を変えることでいろいろなタイプができると思われます。
この人工の加工を受けた鉱石は、それまでぼくにとってとりわけ魅力的なものではありませんでした。しかし、透明でときどき反射する光が淡いピンクやブルーに照り返るこの結晶石によって検波ができたときには本当にうれしく、鉱石受信機によって初めて放送を聞いた昔の工作少年たちに、こんな検波器で作ったラジオを見せることができたらとしばらく感慨に耽ってしまいました。もっとも、少々手を加えないと実用に十分な感度はとれませんが、このくらいは秘密にしておきましょう。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
前回ご紹介した「[自作鉱石式受信機の解説]1」の続きです。
火星人式交信鉱石受信機(固定L型同調)
これは手前に件んでいる古風な火星人の腕の先にワイヤーを触れるように握手させると、メッセージが聴取できるというものです。それぞれの腕は基本的にコイルのタップで、しかも小さなインダクターによってあらかじめ局を固定してあります。
前出の蝶類標本型と同じで、これらの受信機のアンテナはあらかじめ決まったものを使用します。他のアンテナを使うとCやLの定数が合わなくなって放送が聞こえなくなることがあるからです。空飛ぶ円盤の中と台の中にコイルがあり、この2つのコイルを可動させることでヴァリオカップラーのようにある程度調整できると考えました。もっとも工作上の外観を重視したため、あまり効果は上がりませんでしたが・・・・。火星人の頭の中には固定式で作った感度のよい検波器が入っています。もし作ってみようと思う方がいたら、ダイオードを用いたほうがよい結果が出ると思います。
超小型実験室型鉱石受信機
これは、鉱石ラジオを設計したり実験したりするために必要なだいたいの部品や材料が組み込まれた、持ち運びできる小さな実験室といったふうのものです。上部のガラスケースはステンドグラスの技法で作り、全体は木で作ってあります。この本の板は近所の印刷屋さんの前に積んである、紙を運ぶためのパレットと呼ばれるものをわけでもらいました。プレーナーのかかっていないザラザラの本の板が妙に懐かしい感じで好きなので、見かけよりずいぶんと手をかけで作ったものです。
中には3種類の太さの導線、7種類のコイル、5種のゲルマニウムダイオード、3種のヴァリコン、 10種のコンデンサーとインダクター、 7種20個の鉱石、タンタル、ニッタル、タングステンのワイヤー、雲母板、錫およびアルミ箔、鉱石を手入れするためのアルコール、各種ネジ金具、金属素材、ナイフ、 ドライバー、小型のニッパー、回路図を書き込んだ小さなノート、クリスタルイヤフォン、ツマミ、LC周波数割り出し表、鉛筆、消しゴムなどが入っています。
中心にあるメインコイルは引き出し式になっていて、その奥には秘密データが入っています。窓はプレパラート用の薄いガラスで作り、ノブは昔からある自分の机のものを使いました。底の部分にはコイルアンテナが埋め込んであり、ローディングコイルを用いた引き出し式のアンテナも備えであります。
全体の色は自作したテンペラ絵具で、牛乳から作ったガゼインと孔雀石を粉にしたマウンテングリーンでできています。ぼく以外の人にはあまり意味のない工作に思えますが、ぼくのお気に入りの一つです。ひまがあると少しずつ手を入れたり、また取り外したりして楽しんでいます。
盆栽式鉱石受信機
このような小さな盆栽は小品盆栽と呼ばれ、「石抱き」の形に作ったものを植え替えのとき石をうまくはずし、その部分に比較的水に強い黄鉄鉱などをうまく抱かせれば検波器として作っていけるでしょう。もちろん何年もかけてはじめから根を石にまわしてつくってもいいと思います。この場合、全体が金属質の鉱石というよりは、方解石や水晶などに共生しているようなものにした方がいいでしょう。
作例は香丁木と呼ばれる木ですが、ちょうどうす紫の花が咲き始めています。鉱石は魚眼石と水品に黄鉄鉱が共生しているものを使い、錫で裏打ちしてありますまた作例のように「根上がり」の状態に仕込んでおいて、中の鉱石を随時交換するという方法もあります。コイルはバンク巻きに作ってあり、鉢の下部に作ってあります。なにぶんにも盆栽は生きているので、木を痛めないように心がけています。
小鳥ラヂオ
15年くらい前、駒込は富士神社の縁日で邯鄲(かんたん)という小さな虫を買いました。コオロギの仲間ですが、淡い若草色の体と半透明なうすい羽をもったちいさくて細い弱々しい生き物でした。美しくリューリューと鳴くその声は今でも忘れられません。しかしその名の響きとは裏腹に飼うことはむずかしく、寿命だったのかぼくが悪かったのかわかりませんが、ひと月もするといけなくなりました。そのとき前年にもぼくがひやかしていたのを覚えていた夜店のおじさんが、古い虫かごをわけてくれてそれがずっと残っていたので、それを使ってこの小鳥ラジオを作ったわけです。
小鳥のくちばしは銀でできていて、水飲み用の錫製のカップには銅藍(コベリン)が入っています。下の方に絹巻き線でコイルが巻いであり、かごを吊るための線が空中線とアースになっています。小鳥の色はうぐいす色より少し明るい邯鄲の色にしてあります。感度はあまりよくありませんが、思い出のこもった受信機です。
燐寸箱型鉱石受信器
これは古いマッチの箱を利用して作りました。ミュー同調式でぼくのパジャマのボタンがツマミになっています。中身はふだんは中にイヤフォンが入っています。
カプセルゲルマラデオ
これはグルマニウムダイオードを使い、ケースにカプセルを利用したものです。カプセルの外形は太さ8 mm長さ15 mmで、コイルのかわりにマイクロインダクターとセラミックコンデンサーを使っています。
鉛筆型鉱石受信機
これは1935年のアメリカの製作記事から作ってみたものです。ぼくなりに改良を加え、確かに聞こえるようにコイルのスライド部分を作りました。鉱石には方鉛鉱を使い、針には0.5mmのタングステンを使いました。とでも感度がよく気に入っています。
コメットゲルマラデオ
これはツマミを動かすと中の彗星が動く小さな受信機です。もしあわただしくゲルマラジオの時代が過ぎ去っていかなければ、ブリキのおもちゃの一つとしてこのようなロボット風のラジオも作られたのではないかと思い、作ってみました。
このように鉱石式受信機はいろいろなものを作ることができます。工作は技術と発想の工夫だと思います。どのみち現代においてはあまり実用的でも合理的でもないわけですから、逆に気楽にあそべるのではないでしょうか。
内外の古い鉱石ラジオの製作記事や資料を見ていると、思わず吹き出したり戸惑ったりすることがあります。たとえばネクタイラジオ、メガネラジオ、シルクハットにステッキラジオ、パイプラジオと身につけること力゛できるものなどもその一つです。たいてい紳士が身に付けて紹介されているのですが、どう考えても不格好でもし町でこんな紳士にばったり出会ったりしたら、ほとんどの人は足がすくむことでしょう。
このほか、クッション、コーヒーカップ、時計、本にノート、椅子や家具、上げて行くときりがありません。しかしそれらは、事物が産業革命以降、合理化の道を進んで行くのに対し、あくまでもキッチュを使いジョークを交えて対抗していたと思われます。そこがおそらく懐古的な意味もふくめてぼくが鉱石ラジオに惹かれる理由の一つかもしれません。
*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。
小林さんはオブジェ的な魅力をもった作品の製作や、『ぼくらの鉱石ラジオ』をはじめとした著作を通して、実験、工作に対するこだわりの姿勢を貫いてきた。
「通常、日本語で”実験”といった場合、普通の人には、化学的な薬品の反応をみるといったような意味合いが強いかもしれない。だけどぼくは、”実験する”ということは、何かに向かい合って行こうとする姿勢みたいなものだと思う。つまり、人間が森羅万象を理解して行こうとする時に関わり合う”通路”、または”手続き”と言えばいいのかな。」
ー顕微鏡ひとつで、身の回りも世界が変わる
枯れた草に火をつけるということも、古代人にとっては、生きていく上での重要な”実験(試み)だった。だからみんなもあまり難しく考えないで、身近なところから始めてみてほしい、と小林さん。例えば、忙しい日々のさなか、ぽっかりと自分の時間がとれた時などに、机の上のものを顕微鏡で覗いて見るだけでもいい。
「新品の精密な顕微鏡を買おうものなら、下手な中古車ぐらいはかかるから、学童用の顕微鏡。または虫めがねでも十分。紙が細かい繊維でできていることを頭では知っていても、現実に目の当りにすると、多分驚くと思う。そういう新たな視点、見方から触発されたり、人生観が深まることだってあるからね。」
ー工作道具をいじっているだけで、心が安らぐ効果がある
「実験や工作に、あえて目標を定める必要はないんだ。ある意味では、自分自身と向き合うことでもあるんだから。例えば、サビた刃物を無心に研ぐだけで、気持ちが次第に楽になっていく。これは実際想像するよりはるかに効果的で、一度ためしてみる価値はあるよ。心が安らげるっていう受動的な立場でありながら、刃が研げるという能動的な結果も出る(笑)。」
小林さんはこうした実験、工作の醍醐味が味わえるようなキットを世に送り出している。中の材料からパッケージまで、オリジナル部品ばかりだ。品切れのものもあるが、今後のラインナップに期待したい。
「今は情報が溢れすぎているから、感覚が緩慢になっているところがある。エレガントなものや、繊細なものの現象があっても、それに気づかなかったりする。だからこそ、実験や工作をやることで、自分自身を見つめる機会があってもいい。鉋をかけた経験が一つあれば、神社や寺なんかの建築の細工に驚くこともあるかもしれない。そういうことに気づけたり、感動できる受け口は、いくらあってもいいんじゃないかな。」
*2001年のメディア記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しております。また、キットのキャプションは銀河通信社サイトから転用しております。