銀河通信社製の鉱石ラジオなどを作るための部分品
[キット開発者から見た側面]
ぼくが子供時代を過ごした昭和三十年代は、今と比べるとそれほど慌ただしくなく、一般的に貧しくありながらも子供にとってはワクワクしたりできる事がたくさんあったように思います。
ビー玉やメンコ、カンケリ、駄菓子屋通いといった遊びはもちろんでしたが、ぼくにとっては科学博物館や模型店に行くことは特別でありました。ただ今と比べれば当時は多かれ少なかれ誰しもが、模型や工作に接する機会が割合あったのです。それは文房具店や本を扱う店でも模型材料を置いているところが多く、また大人用の専門的な模型店もかなりありました。
それ以外にも少年雑誌などには、切手コレクション、天体望遠鏡や顕微鏡、自転車等の広告と共に、必ず模型や科学キットの関係も載っていたものです。ぼくが高校へ通う頃の昭和四十年代も後半になると、理由はいろいろと考えられますが、急激にそれらの店は少なくなって行きました。その頃時々訪れる「友人の誕生日」などのプレゼントを贈る時に、ちょっとしたキットを作ったりすると思いのほかウケがよく、一種の通信販売をする会社のようなスタンプを消しゴムで作ったりしていました。キットと言っても紙ヒコーキであったり、簡単なモーター、あるいは厚紙で作る筆入れや箱といったたわいの無いものばかりでしたし、説明書は手書きやガリ版刷りといった具合です。
屋号は「コバケンコメット社」というように、やはり子供の頃より好きで作っていたプラスチックモデルの日本の飛行機名である、「彗星」「流星」「銀河」といったものをその都度使っていたと言うわけです。
これら美しい名前の飛行機が実は悲しい時代に造られ、そしてたいそうつらい任務に付いていた事も知っていたことが、ぼくにとってそれらの呼称に対して一種の感慨を込めさせていた次第なのです。
鉱石ラジオキット「銀河1型」
やがていつのまにか二十代も後半になった頃より鉱石ラジオに興味を持つようになり、いろいろとオモチャのようなものを作ったり、友人へのプレゼントに「銀河通信社謹製」といった立派な社名?を使ったりするようになったのです。
この半ば冗談のようなママゴトのようなホビーは、十年程前鉱石ラジオの本を書く頃にはすでに結構友だちの中では人づてに伝わっていて、いっそのこと本当にキットを作ってみようと、無謀な考えがよぎることが多くなって行きました。
気持の中では遥かな無いはずの世界に引きずり回されていたわけですから、どうしても空想のお店でありはしてもいろいろと想像してしまう事もあったわけです。
それはまるで子供の頃の模型店のようなあの一見雑然としながらも、木製の引き出しや ガラスケースの中に事細かに木や金属、プラスチック等の材料、モーター、トランス、プラモデルや組み立て工作の数々が整然と並んでいて、そんな中で日永一日店主としていろいろな子供たちや専門的な工作好きと話をしたり、時間の空いた時には自分も工作に熱中する、店自身は古くて小さな木造の小屋のようでも、売り場と住居は別れていて清潔で好きなものばかりに囲まれている、そんな日常を想像して勝手に悦に入っていたのです。
時より届く遠方からの少年たちの注文や質問に手紙を添えて通信販売をする、もしそんな暮しができるのだったらいったいどんなだろうと、まるで余生の生き方を考えるように思い巡らしていたのです。しかしながら何せ合間を縫ってのホビーの延長で今に至り、中々アイテムを増やすことができません。日々の時間の中から最も優先的に注文に答えてゆくのは、想像していた昔の模型製作会社のイメージとは随分異なりますが、時々中学生から励ましの便りをもらったりすると、やはりうれしくなるものです。
既にキットらしきものを作りはじめて三十年余りが経過してきましたが、もしぼくのようなものを「キット開発者」と呼んでもらえるとしたら、この方向の製品を実際的に作ってゆくという事は、なかなか難しいところもあるのは事実です。たとえばキットを木やベークライトの材質で作りたいと思ったことによるパーツの入手不足、あるいは自作しなければならないものも随分とあって、ワークショップなどから急に数百もの注文が入ったりすると、それはもう昔の家内工業のような状態に落ち入る事もあるでしょう。それと発足時より採算をあまり考慮していなかったのが、開発困難さを決定的にする事もあるのです。
只、出来る限り合理性や科学原理の説明的なキットではなく、また一時代に対する懐古的なだけでもないようなものを目指しながら新しいキットを作り足して行きたいと願っています。
インターネットウェブに銀河通信を立ち上げて今年でおよそ七年になります。隠れているようなサイトなのにどこかから訪れる人々たちがいて、そのためこれからもキット開発?の継続を考えています。
本当は「風のフジ丸」から「分け身の術」を教えてもらえればとも思うのですが(笑)、今まで通りゆっくりとやっていこうとも思っています。しかし、いつかは何処かの町の片隅にて駄菓子屋とも模型屋とも見える風な木の造りで、小さなショーウインドウと硝子の入った引き戸の建具のある幻のお店を作ってみたいと夢みています。水色のトタンの看板には青色のペンキで「少年少女向模型各種 不思議製品多数」等と書かれてあり、その横には小さく「銀河通信社」と書いてあるような・・・。
2006年春
(一部当初の原稿を編集しています)
当初の頃などはガリ版刷りの説明書が多かったので、今でも多少その感じを残した手書きのものにしている。しかしぼく自身、字が下手なので、読みづらそうなものにはタイプ文字に変えてある。
ゲルマニウムダイオードとバリコンのセットにはエナメル線が付いていて、トイレットペーパーの芯などに巻いてコイルにしたり、それぞれ工夫して作るようになっている。右下は作例の一つ。
キットのパーツ類などを整理したりダミー作りのための場所。自分が[キット開発者]という幻想に入り込むためにあるような一角かもしれない。
実際にキットを製作する上でいろいろな自作した道具が必要と成る。例えばエナメル線を一定の長さに巻き取るための治具の一例。
パネルに多数の違った径の穴をあける時にも治具は必要となる。
[銀河1型]と名付けた製品のプロトタイプ。厚紙や色紙、あるいは手で描いたりして様子をみる。
最終的に細かな部分まで決定したら、印刷所に出す原稿や製函屋への金型の発注、そして部品の調達を確認してキットを製品化してゆく。
[銀河1型]の内部。スパイダー式コイルの巻き枠に色の違ったエナメル線で巻の異なる部分を平易にと考えたが、段々と色エナメル線の入手が難しくなってきた。
[彗星1型]のキットは鉱石ラジオが生まれた当時のように黒ベークライト製のパネルやツマミなどを使用し、筐体は木製にしている。
彗星1型の検波器は真鍮とタングステンのスプリングでできている。
鉱石ラジオキット[彗星1型]
[彗星2型]は当初ある博物館でのワークショップのために作ったものなので、作る人たちにもなるべく楽しんでもらえるようにとフロントパネルはベニヤ板にし、好きに色を塗って仕上げてもらうようにと考えた。
検波器をいかにして簡単に作れないかと工夫した例
鉱石ラジオキット[銀河3型]
銀河3型の内容
[銀河3型]の出来上がり
銀河3型のプロトタイプの裏側、穴の位置決めのケガキ線などが見える。
[銀河2型]のキット内容
[銀河2型]を作ってみる。まずはサンドペーパーでコイルを巻くための紙筒のフチや板の表面や角をなめらかにすることから始める。
コイルの巻き始めや巻き終わりの固定のため、穴を開けているところ。すでに位置は鉛筆で印しがしてある。写真では見やすくするために大きめの穴があいている。
ニスを巻き筒に塗っているところ。このようにすることでベークライト製の筒のような感じにもなり、強度が出る。薄く何回もウラオモテを乾かしては塗るようにする。
キットに筆は付属していない。乾かす間、筆はラップで包んでおき、洗浄には燃料用アルコールを使う。
木の板にもそれぞれ3回塗ってもまだ少しニスが残っている。とにかく時間をかけてニスを塗り終えてから、最低1日以上置いてから次の作業に入る。じっくり仕上げていきたいキットである。
エナメル線を巻き始める。方向はどちらでも構わないが、ゆっくり丁寧に巻くのがコツ。このコイルはソレノイドコイルと呼ばれるタイプで一見スパイダーまきのものよりありふれて見えるが、特性はよく、ただ巻くことも思いのほか難しい。ほぐしたエナメル線は写真のように手に通したりして絡まないように注意する。
図のようにタップを作る。その後もう一度タップを作り巻き上げてゆく。
残してあるニスを塗って巻きを固定する。そして1日以上乾燥させる。
コイルの出来上がり
コイルを板に取り付ける位置に付属の接着剤でスペーサーの厚紙を貼る。
バリコンボックスの底板を外して画鋲で固定し(この時にボンドの残りを併用しても可)、検波器となる部分も穴にはめ込む。
ターミナル部分へのためにリング状にエナメル線を加工したり、ハンダ付けして余分な線をカットしておく。
検波器の針となる部分はすでに出来上がっているので、説明図にしたがってあらかじめ曲げておく。
検波器はアンテナやアースを指定通りにした後、クリスタルイヤフォンで聞きながら細かな調整をする。
[銀河2型]の完成の一例(左)とおよそ10年前に作ったプロトタイプ
これからはもっと本格的なキットも開発してみたいと考えている。例えば金属製の鍛連エアバリコンや鉱石ラジオの初期に付いていたダイヤルを使ったものなど。
二重絹巻線などといった材料を用いたキットも考案してみたい
二重絹巻線は裸銅線の上に二重に絹糸を巻いて絶縁しているものだが、もはや国内ではバリコンやダイヤルと同様、まとまった量を確保するのは難しい。
検波器用にと考えている透質な鉱石は、品質や大きさを一定に保つのは難しい。しかし、それほどの数は製作できないが求める方の声が多く、限定でいずれ発表したいと考えている。
結晶のキットなどを計画する時には、なるべく安全で美しく誰にでも作れるようにと考えるため、たくさんの薬品を試すことになる。新品の試薬は保持性の高いポリ容器に入って売られているが、自分の趣味でわざわざガラス製の壜に入れ替えて使用している。
(もちろん薬品の特性に応じて密閉性を考慮している)
[赤色結晶育成キット]
(ルビーのように光に透かすと赤色に輝く結晶が育成できる)
[硝子結晶育成キット]の内容(現在で攪拌棒はプラスチック製のスプーンに変わっている)
説明書にしたがって湯と白色の粉を容器で溶かす
小瓶に入った「色の素」と呼ばれる薬品を入れる。多ければ針状に、少なければ塊状に結晶する。
急冷しないようにタオルなどをかけ、温度変化の少ない場所に静かに置いておく。
1日以上放置する途中で、あまり容器を動かしてはいけなが、母岩に結晶が出来始めたところを撮影してみた。
ペットボトルの底で結晶した硝子結晶の一例
硝子結晶と言っても硝子そのものではないが、ガラスの容器の中で育成を続けてもおもしろい。
*2006年のメディア掲載記事より抜粋し一部編集しております。
reblog:銀河通信より転載「幻的銀河通信事業」
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