小林健二の技法」カテゴリーアーカイブ

人工結晶を作る

ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)を使ってクリスタルイヤフォンを作ることはかなり難しそうですが、ロッシェル塩の大きな単結品を使って、この結晶がピエゾ電気効果(正確にはピエゾ圧電気逆効果)によってほんとうに音を発することを確かめることはできます。それにはまずロッシェル塩の単結晶を作る必要があります。実はこの結晶作りだけでも十分に興味深く楽しいものなので、ごく簡単に紹介してみたいと思います。

市販されている酒石酸ナトリウムカリウムは透明な1mm弱のザラメのような感じのもので、なめると塩っぱいような少し苦いような味がして、溶けるときにちょっと冷たさを感じます。

市販されている酒石酸ナトリウムカリウムは透明な1mm弱のザラメのような感じのもので、なめると塩っぱいような少し苦いような味がして、溶けるときにちょっと冷たさを感じます。

水100gを30℃ にしてそこに200gのロッシェル塩を入れ、溶けるだけ溶かしてシャーレなどの平たいお皿に溶けた上澄みだけを入れ、それを発泡スチロールなどの箱に入れ静 かにおいておきますと、四角い平たい結品が析出してきますので、その中から形のよいものを選びます。

水100gを30℃ にしてそこに200gのロッシェル塩を入れ、溶けるだけ溶かしてシャーレなどの平たいお皿に溶けた上澄みだけを入れ、それを発泡スチロールなどの箱に入れ静かにおいておきますと、四角い平たい結品が析出してきますので、その中から形のよいものを選びます。

この際気温が高い夏期などには、40℃ の水にもっとたくさん溶かしてもよく、共にほぼその温度における飽和溶液にして使います。少し時間がかかりますが、室温と同じ温度の水に少しずつロッシェル塩を入れて溶け残りが出てきたところで飽和溶液と見なしてもけっこうです。ただ、あまりにも溶液温度と保管する所とに温度差があったり、保温して徐々に温度を下げていかないと過冷却の状態になってしまい、一気に細かな細品が析出してしまい、失敗となります。この場合はもう一度溶かしてやり直します。

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

この作業でいい形のものが最初10個くらい見つけられたら溶液をガーゼなどで漉して、 キラキラしたとても細かい結品があればほんの少し暖めてこれを溶かして熱がとれた後、さっきの結晶(種結品と呼びます)をその中に入れ、また成長させてゆきます。

そしてだんだんと大きくして、欠けたり、小さな結品がくっついてしまわないものを選んで繰り返してゆきます。

そしてだんだんと大きくして、欠けたり、小さな結品がくっついてしまわないものを選んで繰り返してゆきます。

このように入工結晶を作っていく方法には基本的に飽和点を下げることで結晶を析出させていく冷却法と、溶媒を揮発させ溶質濃度を上げながら結晶析出をうながす蒸発法とが代表的です。

ロッシェル塩については種結品を冷却法で作り、その後を蒸発法で行うとぼくはよいと思います。うまくなると10 cmくらいの大きなものも作れると思いますので、いろいろ工夫してやってみてください。

ロッシェル塩については種結晶を冷却法で作り、その後を蒸発法で行うとぼくはよいと思います。うまくなると10 cmくらいの大きなものも作れると思いますので、いろいろ工夫してやってみてください。

冷却法で成長を促進する場合も、できる限り少しずつ温度が下がるようにしないと失敗します(理想的には1日で0.1度くらいの下がり具合)。そして大きな結晶を作るには何日もかかります。温度管理に自信がない場合は蒸発法で大きくすることをすすめます。この場合は種結晶があらかじめ3~ 5 mmくらいになったものを使い、結晶を作ろうと思うところの室温と同じ温度の飽和溶液を育成母液として使い、ゴミやチリが人らないように心がけで気長にやることです。育成母液に種結晶を入れ10時間~ 1日おきに観察して、種結晶のまわりのところなどにたくさん小さな結晶が析出してくるようならガーゼなどで漉して、きれいになった母液に再び種結晶を戻すことを繰り返します。

大きな結晶ができました。

大きな結晶ができました。

そして大きな結晶ができたら布などで液を拭いよく乾かしたあと、いちばん広い向かい 合う両面に錫箔あるいはアルミ箔を貼り、そこにトランジスタラジオのイヤフォンからの線、あるいはステレオのヘッドフォンやスピーカーの端子からの線をそれぞれに接触させて、少しづつ音を大きくしていくと、結晶から音が出てくるのを確認できるでしょう。

そして大きな結晶ができたら布などで液を拭いよく乾かしたあと、いちばん広い向かい合う両面に錫箔あるいはアルミ箔を貼り、そこにトランジスタラジオのイヤフォンからの線、あるいはステレオのヘッドフォンやスピーカーの端子からの線をそれぞれに接触させて、少しづつ音を大きくしていくと、結晶から音が出てくるのを確認できるでしょう。

そして共鳴箱やピンと張ったグラシン紙(ブーブー紙)に取り付けるともっと大きくなります。

もしできるなら、結晶を薄くスライスしたりさらにはそのスライスしたものを貼り合わせたりすると効果的です。もしスライスして貼り合わせることができるなら、 2枚のロッシェル塩の板のあいだにも錫箔を入れて貼り、その端と両側の箔をショートした部分にオーディオ信号を印加するといいでしょう。

ぼくはダイヤモンドのブレードのついた石やガラスを切るバンドソーでロッシェル塩の飽和溶液をかけながら切りますが、こんなことは一般的ではありません。しかし時間をかけるなら、水でしめらせた糸を張った糸ノコで少しずつカットすることができ、この方法がいちばんきれいに切ることができます。

写真6は左から単結品がいくつか群品となったロッシェル塩の大きな結品、まん中は 人工水晶(自作ではありません)、そして右は育成母液のなかに石やなにかの塊(この場合はアンチモンの塊)を入れておくときれいな鉱物標本のようなものを作ることができる例です。

左から単結晶がいくつか群品となったロッシェル塩の大きな結晶、まん中は人工水晶(自作ではありません)、そして右は育成母液のなかに石やなにかの塊(この場合はアンチモンの塊)を入れておくときれいな鉱物標本のようなものを作ることができる例です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

reblog:銀河通信より

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アンテナとアースについて

アンテナとアースについて

鉱石ラジオを聴く場合、設備としてもっとも大事なのはアンテナとアースです。とは言っても昔の本に出てくるように大きく立派な空中線を敷設することは、現代の住宅事情を考えると不可能に思えますので、簡単にできる方法から紹介してみましょう。

1)100V電源コードからとる方法

まずビニール被覆線を用意します。見かけで1~ 2 mmくらいの細いものがいいと思いますが、基本的にはなんでも構いません。

写真のように電灯線、たとえばスタンドや電化製品の電源コードに20~ 40回くらい巻きつけてその端をアンテナとして利用する方法です。これは電灯線の中によぎれこんでいる高周波電流を、巻き付けたビニール線をコンデンサーとして働かせることで拾いだそうとするものです。安全でしかも手軽なので試してください。感度が悪い場合、巻き数や電源コードヘの密着状態をいろいろ変えてみてください。

写真のように電灯線、たとえばスタンドや電化製品の電源コードに20~ 40回くらい巻きつけてその端をアンテナとして利用する方法です。これは電灯線の中によぎれこんでいる高周波電流を、巻き付けたビニール線をコンデンサーとして働かせることで拾いだそうとするものです。安全でしかも手軽なので試してください。感度が悪い場合、巻き数や電源コードヘの密着状態をいろいろ変えてみてください。

2)家庭用100V電源からとる方法

これは家庭用の100Vの電源から直接電波を捕らえる方法です。

写真の中央に見えるのは昔のアンテナソケットと言われるもので、中にコンデンサーを直列にハンダ付けして作られています。これはコンセントのどちらか一方に差し込んで使います。コンデンサーはマイカコンデンサーやセラミックコンデンサーのような高周波特性のよいタイプを使い、容量は100 pFくらいで耐圧125V以上、できたら200Vくらいの製品を選びます。 また市販のコンセントプラグを利用して2本の金属の足のうち一方には何も接続しないで、もう一方にコンデンサーを直列に入れてアンテナとすることもできます。 またもし古いタイプのコンセントプラグが手に入れば、この方が内部が広いのでコンデンサーを入れやすいかもしれません(写真右)。

写真の中央に見えるのは昔のアンテナソケットと言われるもので、中にコンデンサーを直列にハンダ付けして作られています。これはコンセントのどちらか一方に差し込んで使います。コンデンサーはマイカコンデンサーやセラミックコンデンサーのような高周波特性のよいタイプを使い、容量は100 pFくらいで耐圧125V以上、できたら200Vくらいの製品を選びます。
また市販のコンセントプラグを利用して2本の金属の足のうち一方には何も接続しないで、もう一方にコンデンサーを直列に入れてアンテナとすることもできます。
またもし古いタイプのコンセントプラグが手に入れば、この方が内部が広いのでコンデンサーを入れやすいかもしれません(写真右)。
写真上部の四角い箱は裏側にプラグの足が出ていてこのままコンセントに入れると表側のところからアンテナとして利用できるというもので昭和30年代のものです。中にはそれぞれコンデンサーとインダクター(コイルの一種)が直列に入っています。このようにコンデンサーを入れると50~ 60 Hzの低い周波数では100 pFのコンデンサーを通ることができないので高い周波数の電流だけを取り出そうとするものです。

3)室内アンテナ1(卓上アンテナ)

鉱石ラジオが使われていた時代の室内アンテナは写真のようなタイプのものが多く、主に真空管式の受信機に使われていました。この自作した室内アンテナは高さは約72 cmで腕の長さが1本30 cm、張ったワイヤーが約23mと小さなものです。作例では0.08/30の絹巻リッツ線というものを使用しましたが、0.6mmくらいのエナメル線でも同じです。 あまり大きくなると感度はよくなっても置き場所に困ると思ったからですが、これでもそれなりにアンテナとして働いてくれます。ほんとうはもっと巻き数を増やしてワイヤーの長さをかせいだ方がよいでしょう。

鉱石ラジオが使われていた時代の室内アンテナは写真のようなタイプのものが多く、主に真空管式の受信機に使われていました。この自作した室内アンテナは高さは約72 cmで腕の長さが1本30 cm、張ったワイヤーが約23mと小さなものです。作例では0.08/30の絹巻リッツ線というものを使用しましたが、0.6mmくらいのエナメル線でも同じです。
あまり大きくなると感度はよくなっても置き場所に困ると思ったからですが、これでもそれなりにアンテナとして働いてくれます。ほんとうはもっと巻き数を増やしてワイヤーの長さをかせいだ方がよいでしょう。

作り方としては9mm角の硬めの本(この場合はラミン)を使って十字に組み、木の端に切り込みのスリットを10 cmくらい切り、垂直方向に16~ 20個穴をあけておき ます。そこにちょうどコイルを巻くように鋼製の釘や竹ひごを入れながら内から外へ向かってワイヤーを巻いていきます。実用性だけなら大きめの段ボール箱にぐるぐる巻いたものでもかまわないと思います。

作り方としては9mm角の硬めの本(この場合はラミン)を使って十字に組み、木の端に切り込みのスリットを10 cmくらい切り、垂直方向に16~ 20個穴をあけておき
ます。そこにちょうどコイルを巻くように鋼製の釘や竹ひごを入れながら内から外へ向かってワイヤーを巻いていきます。実用性だけなら大きめの段ボール箱にぐるぐる巻いたものでもかまわないと思います。

使い方としては内でも外でもワイヤーの端から線を引いてラジオのアンテナとして使う他、これを一つのコイルと見なし、両端にバリコンを並列に接続して使うこともできます。もしこの室内アンテナを2m角くらいの大きさで、60~ 70mくらいワイヤーを巻いて作ると室外アンテナに劣らないようなものもできるでしょう。また、この種のアンテナはアースをつけなくても感度がとれる場合があります。ただ、アンテナの向きによって感度が違ってくるので注意しましょう。

4)室内アンテナ2

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

また室内アンテナと言っても卓上型だけでなく、図のように部屋の天丼に対角線にビニール線を張ったり、その長さを稼ぐために天丼や壁にぐるぐるとコイル状に線を巡らせるだけでもアンテナの役目をはたします。

また室内アンテナと言っても卓上型だけでなく、図のように部屋の天丼に対角線にビニール線を張ったり、その長さを稼ぐために天丼や壁にぐるぐるとコイル状に線を巡らせるだけでもアンテナの役目をはたします。

5)室外アンテナ

室外アンテナは庭の広い一戸建てや郊外の地域でないと無理のようですが、考え方によってはできないこともありません。たとえばもしマンションやアパートであれば自分の部屋から外部の壁づたいにそれほど重くないおもりをつけて線(よく電源のコードなどに使われる平行線をさいたものなど)を重らしたり、家の周りに日立たないように通わせてみたり、工夫しだいではいろいろとできると思います。ただ、もちろん安全で他人の迷惑にならない範囲で行ってください。

また同軸ケーブルやビデオデッキのアンテナ出力など、他にもいろいろとアンテナの役目のできるものがあるので試してみてください。

空中線(室外アンテナ)のいろいろ

空中線(室外アンテナ)のいろいろ

ー空中線の実際

鉱石ラジオにとって、空中線は部品というより設備に近い側面を持っていて、空中線のよしあしによっては受信できない場合もあるのです。鉱石ラジオが一般的であった時代は、都市においてもゆったりとした空中線を張ることができましたが、現在のように庭もなく、またビルの内側は電波からシールドされていて室内アンテナもあまり役に立たない環境のところもあります。このような現状ですから、昔のようには空中線を張ることはできないまでも、どのような空中線が効果的かを知るために、簡単に説明してみたいと思います。

まず電波によって空中線とアースの間に発生する電圧は、その空中線の高さと電界強度に比例します。ここで発生する電圧によって空中線に電流が流れますが、そのとき流れる電流は空中線の各部によって違い、上方の先端部より下方のアースに近いほど取り出せる電流は多くなります。空中線の導線と大地の間はコンデンサーになっていて、それぞれのコンデンサーに流れる電流は空中線の基部に集まる性質を持っているため、 下方にいくにしたがい電流は多くなります。

(A)垂直型空中線と(B)逆L字型空中線の電流の分布を仮面積で示すと図のようになります。

(A)垂直型空中線と(B)逆L字型空中線の電流の分布を仮面積で示すと図のようになります。

電流は空中線の先にいくほど少なくなるので、実際の高さより何割か低く見なければなりません。電波と電気力線はアースに垂直なので、空中線に電圧が発生するのはおもに垂直部分と考えられます。本来、水平部分は電圧を発生するには役立たないと考えられていますが、垂直部分の電流分布を増加して実効高を増すはたらきをするようです。

このように片方を接地した空中線は、波長の4分の1の実効高が最大感度となるのですが、たとえば1000kHzの電波であれば、計算すると波長約300mですから、その4分の1としても75mにもなってしまいます。

ですからできるかぎり高いほうがよく、またそこから横に張った水平の空中線でさらに補ってあげる形になるのです。以上のような空中線は開回路式空中線と呼ばれます。

ロジャース式埋没式空中線 変った空中線 地下型空中線

ロジャース式埋没式空中線
変った空中線(地下型空中線)

ー室内アンテナ

実際に屋外に空中線を張るのが難しい場合に有効なのが室内アンテナです。それには以下のようなタイプのものがあります。ループアンテナ、枠形アンテナ、スパイダー形アンテナ、そしてバーアンテナ(μ (ミュー)アンテナともいう)などでこれらはアンテナコイルの一種とも考えられます。やはり巻いた枠が大きければ大きいほど効力はよく、あまり小さいとアンテナとしては役をなさないときがあります。また、このようなアンテナは電波の到来する方向に対して指向性があり、常に感度の最大になる位置を探すことが重要です。

また室内アンテナは、その構造上コイルとしての自己インダクタンスを持っているので、ラジオの内部にある同調回路のコイルとの関係を考慮しなければなりません。小判型といわれるタイプは、導線をニスなどで同めたものです。枠型は木や厚紙、ときにはベークライトなどで作ったもので、ラジオの本体に巻き付けるようにしたりします。スパイダー型にはいろいろな形があります。バーアンテナタイプはコイルの中に磁性体を入れることでインダクタンスを上げ、磁束密度を上げるようにしたものですが、鉱石ラジオにはあまり大きなものは適していません。これらのアンテナは、電波が発射してくる方向に対して直角になるときに最大感度を持ちます。このようなタイプを閉回路式空中線と言っています。

室内アンテナのいろいろ

室内アンテナのいろいろ

ー電灯線アンテナ

家庭に来ている100Vの電流は、電灯線とも言われますが、みなさんもご存じのように大きな電信柱を伝わってきます。その交流の100V電流中に、電波が電線によって共振して混入していると考えられます。もちろんこのままアンテナとして使用して鉱石ラジオに直接つないでしまうと大変なことになるので、前にもお話ししたコンデンサーを間にはさんで使います。

コンデンサーはその容量によって50Hzの低い周波数の電圧はほとんど通さず、高周波の信号の乗った電流だけを通しますので、アンテナとして使用できるのです。実際のやり方は上記を参照してください。

6)アースについて

昔の本で接地をすると言うと、地面に穴を掘って金属の板や棒を埋めそれから引き出し線をつけてアース線としました。このアースとの電気的な関係はいまでも変わっていません。しかしなかなか地面を掘れる人ばかりいないでしょう。またよく言われる水道管への接続ですが、これも昔は鉄管や鉛管を使っていましたが、現在ではほとんどが塩化ビニル管になり、アース線を取ることはできません。しかし昔には無くて現在の方がアースを取りやすくなっている部分も多いのです。

たとえば電気洗濯機や電気乾燥機などのモーターを使用する家庭電化製品は、緑色の被覆のアース線がついていて、それらの機器をおくところにはたいていアースが来ています。あるいはコンピューターのコンセントプラグは接地付きプラグが多く、それを差し込むコンセントのところにはアースラインが来ています。

ーアースについて

アースとは接地をする、すなわち大地に回路の一端を直接つけて大地との電位をまったくの0(ゼロ)ボルトに近づけるものです。空中線の回路にしても、回路という以上それはめぐりめぐってなにがしかの力を作用するものなので、アンテナや空中線からまるで雨水のように力が入ってきても、その出口がつまっていたのでは少しも流れにはならないということなのです。ですから、その流れの口が小さく抵抗があるより、少しでも大きく抵抗が少ないほうが力を十分に使用できるというわけです。ですから、昔からアースをいかにしてよくとることができるかは重要なポイントです。

ー昔のアースの取り方

昔のアースの取り方には、 30 cm平方、厚さ1mmくらいの銅版を1mくらい掘り下げた地面に湿らせた炭などといっしょに埋め、太めの銅版1~ 2 mmくらいのものをしっかリハンダ付けしてアース線としたり、銅の大きなグリッド(格子)を埋めたり、アース棒といわれる4~ 50mくらいの導線のついた太さ12mmくらいの炭素棒を地面に打ち込んだりする方法もあります。

また、水道管に直接導線を巻き付けてアースとすることもできますが、この場合は接点の抵抗を少しでも少なくするため、しっかりと締めつけることが重要です。

また特殊な方法としては、大地が乾いていたり、うまくアースがとれないときはカウンターポイズ(counter poises)といわれる特殊な方法をとることもあります。カウンターポイズとは、地上30 cmくらいの高さのところに10~ 15mくらいの絶縁性の高いゴム、あるいはビニール被覆の1~ 2 mmくらいの鋼、電灯線用コードを張り、大地とは絶縁をしてあるものです。これは必ずしもアンテナの下に設置しなければならないということはありません。普通のアースよりもかえって分離性がよくなる場合も多いようです。

結局、空中線回路は、コンデンサーのうちの一方を空中線として、もう 一方を接地してアースとして受信効果を高めているわけですがアース自体がよくとれなければかえって聞こえにくいので、必ずしも接地だけがアースの方法というわけではありません。

ー安全装置

もしいままで説明したように、昔のようないい状態で空中線が張れたとすると、こんどは安全装置についても考えなければなりません。それは落雷の危険性がゼロではないからです。昔はアレスターと呼ばれる避雷器がありましたが、今はあまり見かけませんので、簡単な写真のようなスイッチで空中線の引き込み線を受信機とアースとに切り替えられるようにセットしておいて、受信機を使用する時は受信機のほうへ、それ以外はアースのほうへ接続しておけば、万一落雷があっても空中線からアースヘと流れます。

アレスターのいろいろ

アレスターのいろいろ

アンテナスイッチ

アンテナスイッチ

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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アストラルの食卓

左の椅子の作品:[EERR] W380XH1350XD390mm  iron,wood

左の椅子:[EERR] W380XH1350XD390mm  iron,wood
右の椅子:[FOUPOU] W375XH1345XD440mm  iron,wood
小林健二個展『アストラルの食卓』

家具の仕事ははじめてではないのですが、今回は特にデザイン的な発想というよりは、日ごろ製作している絵画やオブジェの感覚でつくってみました。しっかりとした構造を望んでいた故に少々ジグなどに苦労しました。

家具も人間にとっては使いやすさを要求される道具の一つと見なせるでしょう。しかし、それらは決して人間工学やデータスペックからだけでは、見つけ出すのは難しいのではないでしょうか。仮に合理性だけを求めた事務机があったとしても、何かの理由で廃棄する時には”愛着”などの非合理的な感覚の存在を改めて気付かされるからです。

この”思ったよりも座りいい”と言われた奇妙な椅子たちですが、 アートが人々という意味を持つ言葉であると信じたいぼくにとって、経済や流通だけではない人間の何かを期待しているということは、自分自身の希望でもあります。

小林健二

左から:[VEW] W375XH1200XD400mm iron,wood [CIRO] W375XH1230XD530mm iron,wood,stone,others [DUMEX] W380XH1343XD390mm iron,stone,others [ALIE] W375XH1190XD430mm iron,wood

左から:[VEW] W375XH1200XD400mm iron,wood
[CIRO] W375XH1230XD530mm iron,wood,stone,others
[DUMEX] W380XH1343XD390mm iron,stone,others
[ALIE] W375XH1190XD430mm iron,wood

東京新宿のデパートに期間限定で展示

東京新宿のデパートに期間限定で展示。その後ロンドンリバティーに展示。

[小林健二展ーT氏のコレクションより]Gallery TSUBAKIでの展示風景

[小林健二展ーT氏のコレクションより]2016.8/31-0/10-Gallery TSUBAKIでの展示風景

鉄板を切断する工具を使用する小林健二動画

Tools.vol.2 from Kenji Channel on Vimeo.

*1988年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

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夢の場所

ーいろいろなアイディアやプランを書き留めてあるノートをたくさんお持ちですが、これらは夢で見た世界を記したある種の「夢日記」のようなものなのでしょうか?

「確かに夢で見たものを書いたりしているけど、日記という几帳面なものではなく、その時手近にあるノートに絵や簡単な内容なども書いているので、全くその都度という感じです。」

ーすると、何年も前のものと最近のものがバラバラにページに書いてあるという感じですか?

「そうですね。」

「透質の門;西の門」 CRYSTALLINE DOOR ; THE DOOR TO THE WEST 木、紙、硝子、樹脂ロウ wood,paper,glass,wax resin 400X300X56mm 1999 6月の夢から覚めてもその世界の入り口についてすぐには忘れられない。その西の門をくぐるとき体が軽くなるような気がする。この光をとおす大きな石が磁石のように引き付けるのだ。

「透質の門;西の門」 CRYSTALLINE DOOR ; THE DOOR TO THE WEST
木、紙、硝子、樹脂ロウ wood,paper,glass,wax resin
400X300X56mm 1999
6月の夢から覚めてもその世界の入り口についてすぐには忘れられない。その西の門をくぐるとき体が軽くなるような気がする。この光をとおす大きな石が磁石のように引き付けるのだ。

「アマゾナイトの不思議な塔」STRANGE TOWER OF AMAZONITE 鉄、鉛、石 iron,lead,stone 615X300X300mm 1999 夢の中の立体について;トロフィーのような形、その上にアマゾナイトで作られた大きなジャガイモみたいな形をしている。錆びたところはおそらく鉄だろう。特別な意味があるとは思えないが、ぼくの好きな形をしている。6月(1980)

「アマゾナイトの不思議な塔」STRANGE TOWER OF AMAZONITE
鉄、鉛、石 iron,lead,stone
615X300X300mm 1999
夢の中の立体について;トロフィーのような形、その上にアマゾナイトで作られた大きなジャガイモみたいな形をしている。錆びたところはおそらく鉄だろう。特別な意味があるとは思えないが、ぼくの好きな形をしている。6月(1980)

ー今回の展覧会[惑星(ほし)の記憶ー6月7日物語(1999年)]のタイトルに、特定の日が付いていますが、どういうところから出てきたのですか?

「ノートには日付を書くときとそうでない時がありますが、たまたまいくつか似たような日付があって、ぼくは毎年同じような時期に同じような夢を見ているのかな、と思ったりして(笑)。その中で6月とか6月7日、あるいは7月6日という頃のものが何かところどころに会って、その辺のスケッチを中心に取り出してみたのです。」

「蝋のような眠り」DREAMS IN WAX 板に自漉紙、軟質ビニール、ロウ、テンペラ handmade paper,soft vinyl,wax,tempera on board 1230X760X30mm 1999 ロウのような眠り、明るい室内には静かな呼吸と気配がある。鎧戸の隙間をとおして、淡く光を放つそよ風のような物体が部屋に入ってくるらしい。ゆるやかにオルゴールのように回転していて小さく歌を歌っている。まるで遅い中性子星のように抑揚をつけて遠い過去や未来を想いだす。6月7日明るい日(おそらく'89年)

「蝋のような眠り」DREAMS IN WAX
板に自漉紙、軟質ビニール、ロウ、テンペラ
handmade paper,soft vinyl,wax,tempera on board
1230X760X30mm 1999
ロウのような眠り、明るい室内には静かな呼吸と気配がある。鎧戸の隙間をとおして、淡く光を放つそよ風のような物体が部屋に入ってくるらしい。ゆるやかにオルゴールのように回転していて小さく歌を歌っている。まるで遅い中性子星のように抑揚をつけて遠い過去や未来を想いだす。6月7日明るい日(おそらく’89年)

ー作品には何か一種のメタファーや意味があるようにも感じるのですが、そのあたりはどうなのですか?

「夢の中の出来事と言ってしまえばそれまでなわけですし、その本人がスケッチを見て、こんなものがあったのかと思うくらいだから、この頃の夢にどのような脈絡があるのかは自分でもよくわかりません。」

ーでもそれぞれに何か不思議な世界を感じます。こんな風景が「惑星の記憶」というように何処かにあるような。

「ぼくにも実際説明できないけど、何かの機械の一部や発掘物、あるいは生き物のようだったりするものたちが、どこともなく関係しているような気がしないでもないし、ただそれらはみんな夢の場所の出来事ですからね。」

「薄荷のような出来事」 HAPPENING,IT'S LIKE A PEPERMINT 板にボローニャ石膏、ポリカーボネイト、樹脂、テンペラ、ローズ合金 plaster of Bologha,polycarbonate,resin,tempera,rose's alloy on board 940X730X80mm 1999 はっかのような出来事が、晴れ渡った白い世界に出現している。それらはそれぞれ語りあい歌いあう。香りの良い風に似たその歌は心地よく目には見えない地中深くに銀色をした稲妻は封じられていて、謎は時間とともに止まってしまう。

「薄荷のような出来事」 HAPPENING,IT’S LIKE A PEPERMINT
板にボローニャ石膏、ポリカーボネイト、樹脂、テンペラ、ローズ合金
plaster of Bologha,polycarbonate,resin,tempera,rose’s alloy on board
940X730X80mm 1999
はっかのような出来事が、晴れ渡った白い世界に出現している。それらはそれぞれ語りあい歌いあう。香りの良い風に似たその歌は心地よく目には見えない地中深くに銀色をした稲妻は封じられていて、謎は時間とともに止まってしまう。

 「ピンク色の飲料水」 BEVERAGE IN PINK 銅張特殊鋼板に木、油彩、テンペラ、樹脂ロウ wood,oil,tempera,wax resin on bronze covered special metal board 1000X800X40mm 1999 建物のようなこの物体は、見晴らしのよい食堂や何かの昆虫みたいであったりするのだが、実は飛行体で、今はピンク色の飲み物をとって力をつけている。出発は6月7日である。あるいは21日。誰の目にも旧式に見えるが、この型はめずらしくて、そのすじでは名が通っている。光は金色から青色へと、そして透明になっていくのだ。


「ピンク色の飲料水」 BEVERAGE IN PINK
銅張特殊鋼板に木、油彩、テンペラ、樹脂ロウ
wood,oil,tempera,wax resin on bronze covered special metal board
1000X800X40mm 1999
建物のようなこの物体は、見晴らしのよい食堂や何かの昆虫みたいであったりするのだが、実は飛行体で、今はピンク色の飲み物をとって力をつけている。出発は6月7日である。あるいは21日。誰の目にも旧式に見えるが、この型はめずらしくて、そのすじでは名が通っている。光は金色から青色へと、そして透明になっていくのだ。

ー話はかわりますが、平面や立体の作品はそれぞれ色々な技法や素材で製作されていますね。そこには何かこだわりのようなものがあるのですか?

「こだわりというよりも、ぼくにとってイメージを伝えるのに、平面や立体の方が表しやすく感じたり、水彩やテンペラより油彩画の方が向いていたり、その逆だったりする時があるというだけです。」

ー「夢」のようなその人以外からは見えにくい世界を表そうとするためには、かえって現実的な技術や技法も必要かもしれませんね。

「そうですね。そしてまたぼくは色々な古典画法、例えばテンペラやフレスコ画、エンコスティック(蝋画)などに若い頃から興味を持っていますし、透明な液体ガラスを媒剤とするステレオクロミーのような技法にも魅かれるので、それらを勉強することも好きだからだと思います。」

ー確かに蝋のような質感や透明な水ガラスの層、スタッコの盛り上がった感じは、独自な表現ですね。そしてそれぞれの作品に文字が付いているのも面白いですね。

「ノートの中の覚書にはスケッチと短い文章が付いていましたからね。でも文章を読むと、もっと意味がわからなくなってしまいそうですね(笑)。」

「巨きな生き物の平原」HUGE CREATURE' S PLAIN 板に油彩、樹脂ロウ、鉛、硝子、鉄 oil,wax resin,lead,glass,iron 1300X1670X80mm 1999 初夏の夢は大抵いつもゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。大きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平野から、光色のエネルギーを吸い上げている三対の柱をもった生命体はときどき夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間貯えた成分を虹のような香りや風のような音律にかえてその上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

「巨きな生き物の平原」HUGE CREATURE’ S PLAIN
板に油彩、樹脂ロウ、鉛、硝子、鉄 oil,wax resin,lead,glass,iron
1300X1670X80mm 1999
初夏の夢は大抵いつもゆっくりと、そしてうっとりとしている気がする。暖かく涼しく、そして眠い。大きな生き物たちも霧かもやの中で穏やかでいる。青色の液状平野から、光色のエネルギーを吸い上げている三対の柱をもった生命体はときどき夢の平原のどこかしらに出現していたらしい。そのものは長い時間貯えた成分を虹のような香りや風のような音律にかえてその上部より上方へと世界を楽しませる為に解き放っている。この次に出会った時にもっとその姿を眺めてみよう。そして出来たら少し話しかけてみよう。初夏の国の不思議な風景の中。

ー小林さんの作品は、頭で考えるというよりも何かもっと説明できない領域にメッセージや詩のようなものを感じる人が多いと思いますが。

「ぼくに取っても合理的に説明できなかったりする部分や言葉に置き換えにくいところが、絵になって出てくるように感じでいます。ですから「この絵は何ですか?」と問われても、すぐには答えられないこともあるんです。でもこんな気持ちで絵を描いている人ってぼくはいるように思っているんですけど。」

「何かを探している」LOOKING FOR SOMETHING 板に油彩、樹脂、ロウ、鉛筆 oil,resin,wax,pencil on board 615X465X55mm 1999 何かを探している。時折その人形は歩き始める。それは何かを探しているのだ。心の中に謎がおこって、その在処を探しているのだ。疑いを持つ時、その人形はいて、信じるものを見つけた時、その人形は消えるのだ。

「何かを探している」LOOKING FOR SOMETHING
板に油彩、樹脂、ロウ、鉛筆 oil,resin,wax,pencil on board
615X465X55mm 1999
何かを探している。時折その人形は歩き始める。それは何かを探しているのだ。心の中に謎がおこって、その在処を探しているのだ。疑いを持つ時、その人形はいて、信じるものを見つけた時、その人形は消えるのだ。

「旅人たちは探されている。石は謎を問いかけている」TRAVELERS ARE SOUGHT,ENIGMAS ARE QUESTIONED BY STONES 木、鉄、石 wood,iron,stone 650X438X218 mm 1999 旅人たちは探されている。石は謎を問い掛けている。この風景を見ているとぼくは夢を見ているのだと知っていた。なぜなら、門のように見えるのは一つの結界で、その狭間から見える世界は蜃気楼のように揺らいでいる。

「旅人たちは探されている。石は謎を問いかけている」TRAVELERS ARE SOUGHT,ENIGMAS ARE QUESTIONED BY STONES
木、鉄、石 wood,iron,stone 650X438X218 mm 1999
旅人たちは探されている。石は謎を問い掛けている。この風景を見ているとぼくは夢を見ているのだと知っていた。なぜなら、門のように見えるのは一つの結界で、その狭間から見える世界は蜃気楼のように揺らいでいる。

*2000年のメディア掲載記事を抜粋編集し、画像は付加しています。

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趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅

趣味の工作は、事物や自分自身との対話を楽しむ旅ーゆったり流れる手仕事の時間

マルチメディア技術は、アニメーションという、かつては経済的にも工数的にも一人の人間が趣味で取り組むには困難だった表現手段も手軽なものにしてくれた。これも技術進展の賜物だ。

一方で、昔ながらに自分の手で直接材料に触りながら何かを作っていく楽しみもある。その楽しみに自らのめり込み、その意味について思索を重ね、そうした趣味を見直そうと呼びかける小林健二さんを訪ねた。

小林さんは芸術家で、絵画、立体造形など様々な作品を作ってきたが、ここ数年は作品を発表せずに、もっぱら趣味としての鉱石ラジオ工作に没頭してきた。しかもコイルやコンデンサーなど、パーツのひとつひとつから自分で手作りしているという。

「鉱石ラジオを作り始めたのは、夢でチカチカ光る不思議なラジオを見て、そんなラジオが欲しいと思ったから。その夢のラジオを追い求めているうちに、鉱石ラジオというものに出会った。その原理を勉強したら、ぼくらが普段接している工業製品としてのラジオとは全く違うラジオが、自分の好きに作れるんじゃないかって思えてきたんだ。この装置の本質ーー人間の願望と自然の摂理の不思議な出会いを象徴する形のラジオがね。」

小林さんは本当にそんなラジオを製作した。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「趣味で作ることに失敗なんてない。どんな形になってもいい。この自由さが大事なんだ」と語る小林さんが作った鉱石ラジオとゲルマラジオ。

「これから音が聞こえてきた時は本当に嬉しかった。神秘的な現象は解明されて歴史の後ろに消えていってしまったわけじゃない。今だってこれは十分神秘的。自分の手で作ったからこそ、余計それを感じるんだと思う。」

そう言って小林さんは、今度はものを作るプロセスを体験する喜びについて語り始めた。

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「こんなものがラジオになるんだから不思議だと思わない?」

「ぼくらは工業製品に囲まれて暮らしている。だからどんな物を見ても、誰かが専門的な機械を使って作ったのだろうと思ってしまい、その物の背後に隠れている技や知恵をわざわざ考えてみようとはしない。もっぱら、役割や機能、値段という視点で物を見がちだ。でも自分の手で作ろうと思ってその物に触れていけば、そうした眼差しでは見落とされていた、先人の知恵や材料の特性が織りなす世界を紐解いていける。例えばこんな コイル一個にだって、そうした世界はあるんだ」

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんが最初に巻いたコイル。ラジアルバスケット・コイルといい、余計な特性(キャパシタンス)の少ないコイルを作ろうと1910年代に考え出されたものの一種。

小林さんから自作のコイルを渡された。そのホイールを見ると、円筒に放射状の切れ込みを入れて、11枚の薄い羽根が差してある。どうやって、切り込みをこんな風に中心軸に向かって同じ深さだけ入れるのだろう。円周を11等分する方法は・・・ いざ作り方を考えると、いくつも疑問が湧いてくる。作ろうとしただけで、何気ないものに色々発見がある。それは物と対話しながら、ブラックボックスの蓋を開いていくワクワクする体験だという。

さらに小林さんは、工作が自分自身について考え、知る体験でもあるという。

「例えば、その切り込み味だけど、ぼくは器用じゃないから、ただ単純に鋸を当てたんじゃ、とてもこんな風には切れない。でも、切るときに円筒の側面に常に垂直に歯が当たるような状況を作り出すことは、そんなに難しくないし、鋸の歯に切りすぎ防止のストッパーを付ければ、切り込みの深さが一定になる。

即ち、ぼくの手にどの程度のことができるかを考えて、否が応でもこんな切り込みができるような工夫をすればいい。そして望んでいたように切る込みが入れられた時、とてもいい気持ちになれる」

そうやって、一つ一つのことをクリアしていくプロセスを、小林さんは旅に喩える。完成させることだけが目的ではないし、急ぐ必要もない。道中の色々な出会いや発見が楽しいのだ。

*1997年のメディア掲載記事から抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

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鉱石と光

鉱石と光

鉱石検波器には検波できること以外にも、いくつかの面白い性質があります。そのひとつは光による起電効果です。これは簡単に言えば、鉱石検波器に光を当てるだけで、電池のように電圧が発生するというものです。

このことは実験によって容易に確かめられます。鉱石検波器の鉱石につながる端子と金属の線につながる端子にテスターのリードポイントを当てて、直流電圧(D.C.V.)の一番低いレンジに合わせます。そして鉱石検波器に光を当てたり遮ったりしてみるとメーターが触れるのが確認できます。

ゲルマニュームダオードで実験

ゲルマニュームダオードで実験

ゲルマニュームダイオードで実験の様子。テスターのデジタル数字の変化。

ゲルマニュームダイオードで実験の様子。テスターのデジタル数字の変化。

もうひとつの方法は、検波器のさっきと同じところにクリスタルイヤフォンかハイインピーダンスのヘッドフォンを当てておいて、鉱石の真上あたりで影をせわしなく動かしてみます。カリッと音がするでしょう。この方法であまりうまく聞こえない場合、もう少し手間はかかりますが電圧の発生をもっとはっきりした音として確認する方法があります。たとえばプロペラをつけた小さなモーターやちょっと太めの輸ゴムなどを用意します。そしてプロペラを回したり、ピンと張ったゴムを弦のように指ではじいたりして、規則的に早く動く影を作り鉱石の上のところに落ちるようにします。するとブーンとかポンポンとか音が聞こえると思います。影の動くスピードが周波数を決めるようにして交番電流を作り、それが受話器で音に変わって聞こえるのです。

これはまた、ゲルマニウムダイオードでも確かめることができます。昔風のガラスの部分の大きなダイオードほど効果は大きいですが、テスターの感度が高く、光が強ければ現在のものでも反応が出ると思います。ただなるべく熱は伝えないように朝の日光などで実験するとよいでしょう。

また鉱石によってトランジスターのような鉱石増幅器を作ることも、実験上なら不可能ではないと思います。これは鉱石に2本の針を紙1枚のスペースをあけて立てて実験します。詳細は長くなるので省きますが、これによって安定した作動をする鉱石増幅器ができたとしたら、オールクリスタルスーパーラジオでスピーカーが鳴るような受信機ができるかもしれません。

電子工作であると便利なテスターなど。

L・Cメーター

実際工作をしていく上で、部分品まで自作する場合、コンデンサーの容量やコイルのインダクタンスを計算式によって割り出してゆくのはかなりめんどうなことですし、またあまり高い精度は望めません。そんな時にL・Cメーターといわれる一種のテスターがあると面倒な計算から解放されますし、部分品をつくっている途中でも容量やインダクタンスを実測したりできるので、安心して工作に熱中できます。一見できそこないに見えるコンデンサーでも、テスターにデジタルで数字が表示されると妙にりっぱに見えるものです。それに工作者の不安を取り除き、カット&トライ(切ったり貼ったりして調整しながら作ること)を助けてくれます。ですから計算式によってコンデンサーやコイルのだいたいの大きさや作り方をイメージしておき、実作に入ってからはL・Cメーターによってそれぞれの定数まで追い込んでいけるようにすれば、 一段と工作も深まっていくと思います。

L・Cメーターはあまり使わない場合には高価なものと感じられることもあるかもしれませんが、電子工作をする上では、通常のテスターとともにとでも役に立つものです。

左はL・C・Rメーターで、コイルのインダクタンス、コンデンサーのキャパスタンスを直読で計れ、またRのレンジではインピーダンスを計れます。右はDMTデジタルマルチテスターと呼ばれ、直流抵抗、直流の電流と電圧、交流の電流と電圧などが計れるのでこれもまた便利です。

左はL・C・Rメーターで、コイルのインダクタンス、コンデンサーのキャパスタンスを直読で計れ、またRのレンジではインピーダンスを計れます。右はDMTデジタルマルチテスターと呼ばれ、直流抵抗、直流の電流と電圧、交流の電流と電圧などが計れるのでこれもまた便利です。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論](関連記事)

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自作のヴァリアブルコンデンサー

ヴァリコンは簡単な構造のものでもちゃんと機能します。

左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

自作のヴァリアブルコンデンサー。左から、ガラスに錫箔を貼ったもの、真鍮板を自在に開き具合を調節できる板の内側に取り付けたもの、太さのちがう試験管のそれぞれの外側に錫箔を貼ったものです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーです。

ぼくの作ったヴァリアブルマイカコンデンサーですが、このようにするとマイカ本来の性能はあまり期待できません。とくにスライドさせる時にマイカ同士がこすれるため、ひっかかってはがれないようにニスなどで固めておく必要があります。ニスは高周波ニスが最高ですが、ニトロセルロース系のラッカーなどで十分です。なるべく顔料などの人らない透明なものがよいでしょう。特にこのコンデンサーについては性能よりもきれいなものにしてみたかったので、ぼくはマイカを使いました。内部の導体は錫の箔を使いました。これもライデン瓶などに使われたように昔からの材料で、本来なら別に導体ならば何でもいいわけです。ただアルミ箔とくらべても革のようにしなやかで、アルミでは不可能なハンダ付けができるという利点があります。そしてなにより錫箔の落ち着いた銀色が気に入っているのです。

こういったいろいろな鉱石やニッケルやタングステンなどの金属を探しに鉱物専門店や特殊金属の店を巡るのも日常とはちょっと違って、未知の空間と出会うようで素敵です。こんなところにも工作をするよろこびがあるのかもしれません。

ここで絶縁材料について触れておきます。

普通の工作全般で使われる材料以外で、電気に関する特別なものとしては、絶縁材料が挙げられます。本来鉱石ラジオの製作だけを考えると、電庄も電流も大きくないので、厳密な指定はありません。ただ、日頃あまり手にしない材料ですが、どういうわけか美しいものが多いので、いろいろ試してみるのもおもしろいでしょう。

代表的な3種について説明します。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の棒材です。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト、エボナイト等の板材。

ベークライト(bakeute)一一板状のものは0.5mm~ 3cm厚くらいが普通で、大きさもいろいろすでにカットしたものを売っています。筒状(パイプ)や丸棒も直径2mm~10 cmくらいまであります。色は少々透過性のある黄・黄褐色・茶・こげ茶とあり、成形から時間が経つほど色は濃くなります。またこれら生地色以外にも製品として、ターミナルの頭やツマミなどには色の付いたものもあります。また布入リベークといって、なかに繊維を入れて普通のベークライト板より強度を高めたものもあります。数はあまり多くありませんが、黒ベーク板という黒色のものもあります。ベークライトは本来商品名で、材質としてはフェノール樹脂と呼ばれ、石炭酸とホルムアルデヒドにアルカリを触媒として熱を加えて作ったものです。

エボナイト(ebonite)一一前に述べたベークライトと混同している人もあるようですが、この2つはまったく違うものです。エボナイトは一種の硬質ゴムで、生ゴムに加硫といって硫黄を加えて作ります。色は黒色しかなく、その黒檀ebonyのような色から名前がついたと言われています。ただ経年するとエボ焼けといって、独特の緑がかった褐色になることがあります。形状は板、丸棒とありますが、ベーク板ほどはサイズに幅はありません。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

自雲母の薄板(w15 cm)です。

マイカ(雲母mica)一一空気をはじめとして絶縁物はたくさんありますし、技術的に簡単と言うなら紙やセロファンもいいと思いますが、なかでもマイカは工作上美しいし、性能上も他を圧しているようにぼくは思います。

雲母は天然鉱物で鉱物学上これに属するものには本雲母群、脆雲母群等があって、実用に供されるのは本雲母群のものです。このなかには大きくわけて7種類があります。

白雲母muscovite、曹達雲母paragonite、鱗雲母lepidolite、鉄雲母lepidomelane、チンワルド雲母zinnawaldite、黒雲母biotite、金雲母phlogopiteで、日本画などで雲母末のことをきらと言うように、まさにキラキラしていてぼくの好きな鉱石の一つです。雲母はインド、北アメリカ、カナダ、ブラジル、南米、アフリカ、ロシア、メキシコ等が有名ですが世界各地で産出します。日本ではあまりとれないのでもっぱら輸入にたよっています。白雲母は別名カリ雲母といって無色透明のものですが、黄や緑や赤の色を帯びることがあります。そのうちの赤色のマイカはルビー雲母rubymicaとも呼ばれ、 とても美しいものです。比重は276~4.0くらい、硬度は28~ 3.2です。

金雲母はマグネシア雲母、琥珀雲母amber micaとも呼ばれ、比重は275~ 2.90、硬度は25~27、少々ブラウン色に透きとおり、やはりとでもきれいです。

雲母を工作に使用する際には、むやみやたらとはがさないで、最初に半分にしてそれぞれをまた半分にするというように順にはがしてゆくと厚さをそろえやすく、好みの大きさに切る時は写真などを切断する小さな押し切りでよく切れます。厚いうちに切断しようとすると失敗することが多いので、使用する厚さになった後でカットするようにした方がよいでしょう。なお工作の際、マイカの表面に汗や油をつけないように気をつけましょう。

このほか、ガラスエポキシ、ポリカーボネイトなどがあります。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[自作鉱石検波器の解説]

鉱石ラジオの部品の中でも、鉱石検波器自体は重要な役割を持っているので、感度を上げるための工夫や機械的安定性も合理的に設計され製作されていたことは言うまでもありません。

そこでぼくは当時(鉱石ラジオが使用されていた大正から昭和の初め頃)もなかったしそれ以降も登場しなかった、言うならこの星で最初と思われる鉱石検波器を発表しようと思います。このように大きく出たところでとりわけ何かが起こるわけではないのですが、いろいろ工作や実験をしている最中に何かを見つけたような気持ちになるとそれほどうれしいものなのです。そんなわけでぼくなりに発見のあった特殊(きっと他にはないという意味で)鉱石検波器を紹介します。

天然系検波器

まずは鉱石の形をそのままに検波器としたものです。ぼくは鉱石の色や形をなるべくそのままに、機能を持たせたいと考えていろいろ実験をしました。実験中はよいのですが、その感度のいい状態を継続して安定させるのはけっこう難しいものでした。

もちろんさぐり式検波器の場合、いかにして針を鉱石の敏感なところにいい接触状態といい圧力をもって安定しつづけるかがいつも問題になります。このようなむき出しの鉱石を使う検波器でいちばん問題となる点は、鉱石自身と導体部分の接点抵抗をいかに小さくし、またそこにコンデンサー成分をなるべく作らないかということです。とりあえずさぐり式の鉱石を固定する方法を用いてハンダで接触面を大きくしようとしても、大きな結品の標本の場合だとどうしても温度の高い状態を長くしないとならないので、その熱が鉱石の感度を下げてしまうらしいのです。

そこでぼくが思いついたのは低融点金属でした。この金属を使うとその熱の問題をクリアできるばかりか作業性も高く、鉱石の表面によくのびてとでもよくくっつき、コンデンサー成分も作りません。なにしろ75℃ 前後で工作できるわけですから、紙などで角型やコーン型にした筒の先を切り、その先をあらかじめあたためた鉱石のうらから当て溶けたものを流し込めばよいのです。

天然系検波器1の検波器はそのようにして作りました。またこの4点のものは結晶の形がおもしろいというだけでなく、本来なら不向きのところがあるのです。たとえば中央上の磁鉄鉱とその下の赤鉄鉱です。磁鉄鉱はもともと検波器の素材のひとつに上げられるものですが、この標本のように天地5 cmくらいのわりに大きなものになるととでも直流抵抗が高くなってしまい、検波どころか電流はほとんど流れてくれません。また赤鉄鉱のほうも同じで、板状結晶のこの標本の場合、埋め込んでしまうわけにもいかないので真鍮の厚い板に低融点金属で接着してあります。

この2つのようなとても高抵抗な鉱石は導体との接着面の面積を大きくしたり、見かけの状態ではわからないように導体の部分が針の接点のところに近くまで寄ることで抵抗を低くして、大きな結晶のままや結晶状態を観察しながら検波することが可能となります。

また左に自然銅、右に入エビスマスの標本を使ったものがありますが、これらは逆にほとんど導体なので検波にはむずかしいタイプですが、このように台に付けておくと、うすい硫酸や修酸、あるいは二酸化セレン(ビスマスの場合)による弱い腐食によって、酸化もしくは亜酸化皮膜ができて、ときとしてうまい整流作用を持つのでそれによって検波をすることもできるのです。

 

天然系検波器 1 中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器 1
中央の磁鉄鉱を使ったもの(H5cm)

天然系検波器2はまるで鉱物標本そのままです。水晶のところどころに黄鉄鉱の小さな結晶が共生しているものですが、全体に目立たないように硝酸銀などでうすくメッキをかけ更に使用する前に伝導性の電解質でうすくしめらせると、本来絶縁体である石英の上にあるのにちゃんとこの黄鉄鉱が検波をしてくれます。

このような検波器はもちろん実用というよりは実験としての楽しみですが、普通の鉱石標本からまるで音が聞こえてくるようでとでも不思議な体験ができると思います。

天然系検波器 2 (W15cm)

天然系検波器 2
(W15cm)

透過性検波器

この美しい鉱物はどれも光を透過します。手前の細長い鉱物は、ポロナイトと呼ばれるポーランドで作られた人工結晶です。またその右上の鉱物は、ジンサイトと名付けられて最近鉱石ショーで時々見かける鉱物です。おそらくこれも人工だと思うのですが、天然鉱石の持つ一種の有機性(変な表現ですが)があってとでも魅力的です。確かにこんな単結品の紅亜鉛鉱が東欧の鉱山から出てきたら大変なことだと思います。

本来、宝石や宝飾品のために作られたと聞いていますが、成分はまさに純度の高い酸化亜鉛です。ですからひょっとしたらと思い、まずはテスターを当てると導通がありました。このように透過性の鉱物に電気が通るというのはわかっていても、ぼくには驚きで、さっそく検波の実験をすると確かに検波できるばかりか、紅亜鉛鉱単体に針を立てるよりもはるかに感度が安定しているのです。

写真左の透明なうすい緑色の鉱物は、同じジンサイトの標本のところにあったものです。ちょっと見るとぶどう石prehniteと見まごうような美しい標本で、これも検波できるのです。確かに紅亜鉛鉱と言われても、その赤みは不純物として入っているマンガンによるものと言われていますから、考えてみれば不思議ではありませんがやはりどきどきしてしまいました。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

透過性検波器に使っている鉱物。下のオレンジ色のものは7cm。うわさによればこれらの鉱物は東欧のどこかの金属精錬工場の煙突の中に気相より析出して結晶するもので、人工とも天然とも言いきりがたい状況で生まれてくるそうです。それを1年に1回かき取ってくる業者が宝石の原石として、かつて東西対立があった時代にひそかに西側に放出していたと言われています。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

細長く結晶した酸化亜鉛の結晶に電気を通して豆電球を光らせているところです。導通状態は非常によく、透きとおっているのにまさに金属と言うことができ、不思議な感じがします。

化石式検波器

この写真は貝とアンモナイトの化石です。この二枚貝は左がparaspirifer bownockeriで右がmediospirifer audaculusです。約3億8千万年前の化石で、中央のアンモナイトは約1億8千万年前のものです。まともに考えると気が遠くなるほどの過去の生物ですが、写真はその年月とともに化石となる際、部分的に黄鉄鉱化した標本です。

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

黄鉄鉱化した化石 中央のアンモナイト H7cm

そして作ってみたのがこの検波器で、化石式検波器fossil detectorとでも呼べるものと思います。実際は黄鉄鉱が検波している訳ですが、数億年もの昔の生物が変化したものから音楽や人の声が聞こえてくると想像してみてください。不思議な心持ちになりませんか?

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

化石式検波器 H6cm(ノブを含む)

銀成硝子検波器

一種の酸化覆膜にも整流作用を持つnl能性があるとすると、まだまだ感度の善し悪しを考えなければ検波できるものがいろいろとあるのではと思い、ぼくは身近にあるものをかたっばしから実験してみました。錆びた金属、導体性の金属鉱石、 ドアのノブ、ナイフ、はさみ……。いい加減やりつくしたころに見つけてドキドキしたのが、ハーフミラーです。これは金属の蒸着メッキによって作られます。そして実験の末、形にしたのがこの写真の検波器です。ときに銀色にまた半透過性へと移行するその質感は美しく、また不思議な感じを起こさせます。ホルダーは錫と銀とアンチモンによって作りました。

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

銀成硝子検波器 W11cm(台の長さ)

極光水晶検波器

そしてこのハーフミラーを使った銀成硝子検波器は、ぼくの作ったもののなかでもっとも美しい極光水晶検波器を作るきっかけとなりました。

この写真はその極光水晶検波器auroracrystal detectorです。このオーロラクリスタルは最近の技術によって装飾用として作られたものです。おそらく二酸化チタンのうすいメッキによるもので、その鍍膜厚を変えることでいろいろなタイプができると思われます。

この人工の加工を受けた鉱石は、それまでぼくにとってとりわけ魅力的なものではありませんでした。しかし、透明でときどき反射する光が淡いピンクやブルーに照り返るこの結晶石によって検波ができたときには本当にうれしく、鉱石受信機によって初めて放送を聞いた昔の工作少年たちに、こんな検波器で作ったラジオを見せることができたらとしばらく感慨に耽ってしまいました。もっとも、少々手を加えないと実用に十分な感度はとれませんが、このくらいは秘密にしておきましょう。

極光水晶検波器 左 H7cm

極光水晶検波器 左 H7cm

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

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[自作鉱石式受信機の解説]2

前回ご紹介した「[自作鉱石式受信機の解説]1」の続きです。

 

火星人式交信鉱石受信機(固定L型同調)

これは手前に件んでいる古風な火星人の腕の先にワイヤーを触れるように握手させると、メッセージが聴取できるというものです。それぞれの腕は基本的にコイルのタップで、しかも小さなインダクターによってあらかじめ局を固定してあります。

前出の蝶類標本型と同じで、これらの受信機のアンテナはあらかじめ決まったものを使用します。他のアンテナを使うとCやLの定数が合わなくなって放送が聞こえなくなることがあるからです。空飛ぶ円盤の中と台の中にコイルがあり、この2つのコイルを可動させることでヴァリオカップラーのようにある程度調整できると考えました。もっとも工作上の外観を重視したため、あまり効果は上がりませんでしたが・・・・。火星人の頭の中には固定式で作った感度のよい検波器が入っています。もし作ってみようと思う方がいたら、ダイオードを用いたほうがよい結果が出ると思います。

火星人式交信鉱石受信機W150×D150×H120(mm)

火星人式交信鉱石受信機
W150×D150×H120(mm)

火星人の手(足?)にワイヤーを接触(握手?)させているところです。

火星人の手(足?)にワイヤーを接触(握手?)させているところです。

超小型実験室型鉱石受信機

これは、鉱石ラジオを設計したり実験したりするために必要なだいたいの部品や材料が組み込まれた、持ち運びできる小さな実験室といったふうのものです。上部のガラスケースはステンドグラスの技法で作り、全体は木で作ってあります。この本の板は近所の印刷屋さんの前に積んである、紙を運ぶためのパレットと呼ばれるものをわけでもらいました。プレーナーのかかっていないザラザラの本の板が妙に懐かしい感じで好きなので、見かけよりずいぶんと手をかけで作ったものです。

中には3種類の太さの導線、7種類のコイル、5種のゲルマニウムダイオード、3種のヴァリコン、 10種のコンデンサーとインダクター、 7種20個の鉱石、タンタル、ニッタル、タングステンのワイヤー、雲母板、錫およびアルミ箔、鉱石を手入れするためのアルコール、各種ネジ金具、金属素材、ナイフ、 ドライバー、小型のニッパー、回路図を書き込んだ小さなノート、クリスタルイヤフォン、ツマミ、LC周波数割り出し表、鉛筆、消しゴムなどが入っています。

中心にあるメインコイルは引き出し式になっていて、その奥には秘密データが入っています。窓はプレパラート用の薄いガラスで作り、ノブは昔からある自分の机のものを使いました。底の部分にはコイルアンテナが埋め込んであり、ローディングコイルを用いた引き出し式のアンテナも備えであります。

全体の色は自作したテンペラ絵具で、牛乳から作ったガゼインと孔雀石を粉にしたマウンテングリーンでできています。ぼく以外の人にはあまり意味のない工作に思えますが、ぼくのお気に入りの一つです。ひまがあると少しずつ手を入れたり、また取り外したりして楽しんでいます。

超小型実験室型鉱石受信機 W195XD202×H98(mm)

超小型実験室型鉱石受信機
W195XD202×H98(mm)

フロントパネルをはずし中に入っている品々を出したようす。

フロントパネルをはずし中に入っている品々を出したようす。

緑色のコイルのLにある小さな引き出しの中には検波用鉱石が入っています。

緑色のコイルのLにある小さな引き出しの中には検波用鉱石が入っています。

盆栽式鉱石受信機

このような小さな盆栽は小品盆栽と呼ばれ、「石抱き」の形に作ったものを植え替えのとき石をうまくはずし、その部分に比較的水に強い黄鉄鉱などをうまく抱かせれば検波器として作っていけるでしょう。もちろん何年もかけてはじめから根を石にまわしてつくってもいいと思います。この場合、全体が金属質の鉱石というよりは、方解石や水晶などに共生しているようなものにした方がいいでしょう。

作例は香丁木と呼ばれる木ですが、ちょうどうす紫の花が咲き始めています。鉱石は魚眼石と水品に黄鉄鉱が共生しているものを使い、錫で裏打ちしてありますまた作例のように「根上がり」の状態に仕込んでおいて、中の鉱石を随時交換するという方法もあります。コイルはバンク巻きに作ってあり、鉢の下部に作ってあります。なにぶんにも盆栽は生きているので、木を痛めないように心がけています。

盆栽式鉱石受信機 W80×D80×H150(mm)

盆栽式鉱石受信機
W80×D80×H150(mm)

小鳥ラヂオ

15年くらい前、駒込は富士神社の縁日で邯鄲(かんたん)という小さな虫を買いました。コオロギの仲間ですが、淡い若草色の体と半透明なうすい羽をもったちいさくて細い弱々しい生き物でした。美しくリューリューと鳴くその声は今でも忘れられません。しかしその名の響きとは裏腹に飼うことはむずかしく、寿命だったのかぼくが悪かったのかわかりませんが、ひと月もするといけなくなりました。そのとき前年にもぼくがひやかしていたのを覚えていた夜店のおじさんが、古い虫かごをわけてくれてそれがずっと残っていたので、それを使ってこの小鳥ラジオを作ったわけです。

小鳥のくちばしは銀でできていて、水飲み用の錫製のカップには銅藍(コベリン)が入っています。下の方に絹巻き線でコイルが巻いであり、かごを吊るための線が空中線とアースになっています。小鳥の色はうぐいす色より少し明るい邯鄲の色にしてあります。感度はあまりよくありませんが、思い出のこもった受信機です。

小鳥ラヂオ W72×D60×H65(mm)

小鳥ラヂオ
W72×D60×H65(mm)

燐寸箱型鉱石受信器

これは古いマッチの箱を利用して作りました。ミュー同調式でぼくのパジャマのボタンがツマミになっています。中身はふだんは中にイヤフォンが入っています。

カプセルゲルマラデオ

これはグルマニウムダイオードを使い、ケースにカプセルを利用したものです。カプセルの外形は太さ8 mm長さ15 mmで、コイルのかわりにマイクロインダクターとセラミックコンデンサーを使っています。

鉛筆型鉱石受信機

これは1935年のアメリカの製作記事から作ってみたものです。ぼくなりに改良を加え、確かに聞こえるようにコイルのスライド部分を作りました。鉱石には方鉛鉱を使い、針には0.5mmのタングステンを使いました。とでも感度がよく気に入っています。

上から燐寸箱型鉱石受信機W56XD38×H18(mm) カプセルグルマラデオ(カプセルは大さ8 mm長さ10 mm) 鉛筆型鉱石受信機W146×D12×H12(mm)

上から燐寸箱型鉱石受信機W56XD38×H18(mm)
カプセルグルマラデオ(カプセルは大さ8 mm長さ10 mm)
鉛筆型鉱石受信機W146×D12×H12(mm)

コメットゲルマラデオ

これはツマミを動かすと中の彗星が動く小さな受信機です。もしあわただしくゲルマラジオの時代が過ぎ去っていかなければ、ブリキのおもちゃの一つとしてこのようなロボット風のラジオも作られたのではないかと思い、作ってみました。

COMET GERMA Radio W82X D70×H132(mm)(端子、ツマミを合み、アンテナは含まず)

COMET GERMA Radio
W82X D70×H132(mm)(端子、ツマミを合み、アンテナは含まず)

このように鉱石式受信機はいろいろなものを作ることができます。工作は技術と発想の工夫だと思います。どのみち現代においてはあまり実用的でも合理的でもないわけですから、逆に気楽にあそべるのではないでしょうか。

内外の古い鉱石ラジオの製作記事や資料を見ていると、思わず吹き出したり戸惑ったりすることがあります。たとえばネクタイラジオ、メガネラジオ、シルクハットにステッキラジオ、パイプラジオと身につけること力゛できるものなどもその一つです。たいてい紳士が身に付けて紹介されているのですが、どう考えても不格好でもし町でこんな紳士にばったり出会ったりしたら、ほとんどの人は足がすくむことでしょう。

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」

このほか、クッション、コーヒーカップ、時計、本にノート、椅子や家具、上げて行くときりがありません。しかしそれらは、事物が産業革命以降、合理化の道を進んで行くのに対し、あくまでもキッチュを使いジョークを交えて対抗していたと思われます。そこがおそらく懐古的な意味もふくめてぼくが鉱石ラジオに惹かれる理由の一つかもしれません。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[自作鉱石式受信機の解説]1

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[自作鉱石式受信機の解説]1

ぼくが昔の製作記事からヒントを得て作ったり、あるいは実験をしながら思いついて作ったりした鉱石式受信機のなかから、少し変わったものをいくつか紹介してみたいと思います。

ポストカード式ラヂオ

これはアメリカの製作記事をヒントに作りました。1945年の記事なのでまだダイオードを使わない、小さな鉱石さぐり式です。しかもインダクタンスをタップで可変するところが、いかにも実用的ではなくておもしろかったので作ってみました。

記事のタイトルに“LETTER” RADIO can be mailedと書いてあり、 しかも大きなヘッドフォンが横に置いであります。製作には自分の好きなポストカードを選んで作ると楽しいでしょう。もちろんゲルマニウムダイオードを検波に使えばもっと感度がよくなる可能性がありますし、もっと薄くも作れるでしょう。オリジナルの記事ではコイルのタップで同調するような仕組みでしたが、どうも調子がよくなかったので、カード紙に錫箔を貼ってセロファンでカバーしたヴァリコンを付け足して楽しんでいます。

実際に誰かに送ってみようと考えたこともありましたが、アンテナや受話器のことを思うと送っても送られてもお互い大変そうなので、未だに手元にある次第です。

ポストカード式ラヂオ160X105(mm)

ポストカード式ラヂオ160X105(mm)

コイルのタップにクリップを付けて同調を取ります。左端に出ている小さな板状のものはコンデンサーです。

コイルのタップにクリップを付けて同調を取ります。左端に出ている小さな板状のものはコンデンサーです。

透明ラヂオ

これは全体的に無色のラジオです。コイルは無色の石英ガラスの筒に銀の導線を使って作りました。ヴァリコンは自雲母の薄片に錫箔を貼り、セルロイドの透明な棒で回転体を作りました。検波器にはピーコックパイライトを使いました。

この鉱物標本は10年ほど前にパキスタンの業者から手に入れたもので、黄鉄鉱の表面がところどころ水色や紫色になっていて、しかも無色の水晶と共生していてとでも美しかったので使ってみたのです。鉱石の台は錫にアンチモンを加えたもので作り、支持体はガラスのカップを使いました。全体は無色の有機ガラスでできていて、有機ガラス板を曲げるのにはあらかじめ型を作る必要があります。また端子やツマミも、導体部分以外は透き通るようにポリエステルなどを使い工夫しました。この受信機を朝早くに聞くと、 とてもわくわくした気持ちになります。

透明ラデオW236×D138×H160(mm)

透明ラヂオW236×D138×H160(mm)

透明ラヂオ内部にあるピーコックパイライトを使用した検波器の部分です。

透明ラヂオ内部にあるピーコックパイライトを使用した検波器の部分です。

ベイブクリスタルセット

これはエマーソン社のベイビー・エマーソンという1球式のラジオの形がとても好きだったので、その形に似せて作ったものです。本来ならラジオの上部には真空管の一部が見えているのですが、その部分に鉱石検波器を取り付けてみました。大きさもエマーソン社のものよりずっと小さく作りました。筐体は木で作り、その上に麻布の日の細かいものを貼り、ニスを塗って仕上げました。パネルは紙にド図を描き、インスタントレタリングなどで文字を入れ、コピーでポジネガ反転してニスを塗って仕上げました。ちょっとみるととでも凝って作ってあるように見えます。

ツマミは市販品を使い、鉱石検波器のケースは試験管を切って作りました。 1つの大きめのヴァリコンと2列にタップを出したソレノイドコイルでできています。

ベイブクリスタルセットW173× D90(ツマミを含む)X H170(mm)

ベイブクリスタルセットW173× D90(ツマミを含む)X H170(mm)

鉱石受信機キット2種

この古めかしい鉱石ラジオは、共に1930~60年代のアメリカのクリスタルセットのキットを復刻するような形で作ってみました。この薄い木の板の上に作られたラジオの検波には剃刀の刃と鉛筆の芯が使用され、その他の部品にも安全ピンやクリップなどを使用していてとでもかわいらしい感じがします。この検波器は思ったより感度がよいので驚きました。

またもう一つの紙筒を利用したソレノイドコイルのものは、ゲルマニウムダイオードを検波に使っていたのですが、ぼくなりに初めて鉱石検波器を取り付けてみたものです。鉱石検波器は真鍮の20mmくらいの棒の中心に16mmの穴をあけて、方鉛鉱をハンダで固定して作りました。その後、人工鉱石を作ってみたところとでも感度がよかったので方鉛鉱と取り替え、最初使っていたニッケルのワイヤーをタングステンのワイヤーと交換して、ゲルマラジオより感度のよい鉱石ラジオ第1号となりました。

昔の米国製のキットの復刻ラジオ。剃刀と鉛筆の芯が検波器になっています。 W148×D98×H40(mm

昔の米国製のキットの復刻ラジオ。剃刀と鉛筆の芯が検波器になっています。
W148×D98×H40(mm

やはり昔のキット風のもので自作の人工鉱石が検波器に使用してあります。 W132×D137×H80(mm)

やはり昔のキット風のもので自作の人工鉱石が検波器に使用してあります。
W132×D137×H80(mm)

鉱石標本式受信機

これは検波のできる鉱石を探しているときに思いついたもので、鉱石による検波の違いを確かめようと作ってみたものです。この一見すると古めかしい鉱石標本箱の中には、検波のできる鉱石や電気すら通さない鉱石がいろいろ入っていて、それらにタンタルの金属針で触れていきます。LやCはすでに箱の中の見えないところにセットされていて、 JOAKとFENが聞けるように調整されています。コイルは昔式の紙を貼り合わせシェラックニスを塗った巻枠に、昔若草色だった風に2重絹巻き線を染めて作りました。鉱石の入っている標本箱の底全体には、見えないように厚さ0.1mmの錫箔がしわを付けて敷いであります。またコンデンサーはトリマーと呼ばれる半固定のものと固定のコンデンサーを使いました。単純な発想の受信機ですが、検波を初めて体験する人たちにはとても不思議に見えるようで好評です。

鉱石標本式受信機W225×D168(端子を含む)×H30(mm)

鉱石標本式受信機
W225×D168(端子を含む)×H30(mm)

針を鉱物に当てて検波できる石を探しています。

針を鉱物に当てて検波できる石を探しています。

蝶類標本型鉱石式受信機

標本の部分は一般的な方法で作づであり、蝶たちは命を失っても美しい姿をとどめています。ここにはぼくの好きな9つの個体が標本になっていて、このうちのいくつか(全での個体に当てはまる数だけの局を分離できなかったので)は、その個体を貫いている虫ピンに導線を触れることでラジオとして聴取することができるようになっています。虫ピンの裏側には固定したコンデンサーを直列にしたり並列にしたりすることで同調点を決定しています。この構造もそして機構も簡単なものですが、虫ピンに触れながらラジオを聴いているとちょっと不思議な心持ちになります。 トーマス・エジソンが晩年に霊界通信機を構想していたと言われていますが、もしそのような通信機がほんとうにあったとしたら、こんなに儚い有機質があしらってあるかもしれません。

蝶類標本型鉱石式受信機 W242×D195×H40(mm)

蝶類標本型鉱石式受信機
W242×D195×H40(mm)

ピンのところにクリップを付けたところ。蝶の名前は“W00D-NYMPH”(本の妖精)、 FENが聞こえています。

ピンのところにクリップを付けたところ。蝶の名前は“W00D-NYMPH”(木の妖精)、 FENが聞こえています。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

[自作鉱石式受信機の解説]2

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