カテゴリー別アーカイブ: [ぼくらの鉱石ラジオ]

ネームプレートを作る

「オーロラ通信社製鉱石ラジオ(小林健二作)」プレート部分

鉱石ラジオのような工作をするときに、小さくてもネームプレートなどがついたりすると、急に本格的になったような感じがします。ネームプレートは金属の板や樹脂板に文字を彫ったりする方法もありますが、ここでは金属の板を腐食して作る方法を紹介してみたいと思います。

材料は銅、あるいは真鍮、アルミ、亜鉛などの0.5~ 2 mm厚くらいの板を硝酸、第二塩化鉄で腐食して作ることが多いのですが、ここでは1mm厚の銅板を第二塩化鉄で腐食する方法を示します。

表面をよく磨いた(商品名ピカールなどのメタルポリッシュで)1mm厚の銅板を用意します。銅板は七宝材料などを扱うお店や銅版両などの材料を扱う画材店で入手できます。

上がアクリル板などを切るのに使用するPカッター(替え刃式)・下が銅板などを切るための道具。ともに定規を当ててV字に切り込んでカットしていきます。

すでに必要な大きさに金ばさみや金鋸、あるいは鋼板切りといって銅版画材料店にあるプラスチックカッター(Pカッター)のような工具でカットしておきます。

端は少しなだらかになるようにヤスリで面を少しとっておきます。そして裏側には腐食止めをするために粘着テープかカッティングシートなどを貼っておきます。そして文字として出っ張らせたいところにはインスタントレタリングを貼り、マークや絵は油性のマジックインキを使ってなるべくしっかりと防食できるように重ね書きをしてよく乾かしておきます。自分が満足できるデザインに仕上がったらなるべく指紋や油を腐蝕する部分に付着しないようにして作業を進めます。

腐食しないように金属板の裏にはカッテイングシートを貼っておきます。

腐蝕しようと思う銅板が十分に入る大きさで2~ 3 cmくらい深さのあるプラスチックやガラス製のお皿かバットを用意して、中に第二塩化鉄の腐蝕液を入れておきます。この液はやはり画材店の銅版画のコーナーや電子工作のパーツなどを扱う店のプリント基板の製作材料コーナーで人手できます。用意ができたらその液の中にさきほどの銅板を静かに入れ、ときどき様子を見ながら自分の思う深さまで腐蝕が進んだかどうかを5~ 10分おきにみながら作業してください。もし途中でインスタントレタリングやマジックの線がはがれてくるようなら、液からあげて水洗いをし、乾かして修正をして、作業を続けてください。

このようにして何度か練習をすれば、すぐにうまく作れるようになります。

腐蝕液は何度も使えますが、そのうち腐蝕力が落ちてきて使いづらくなってきたら、そのまま下水などに流したりせずに、炭酸カルシウムで中和してから処理してください。この処理の詳しい方法は、入手するときに店の人が教えてくれるはずです。

このようにしてプレートができたら、文字をもっときわだたせるために低い部分に塗料を塗ります。黒のつや消しのスプレーなどを全体にかけて、80~ 100番くらいの粗い耐水サンドペーパーで水をつけながら磨くと、文字などの高く残ったところが浮き出てきますから、そのあとをメタルポリッシュなどで磨き、ビスや釘でプレートを取りつけるための穴をあけたりして出来上がりです。色も自分の好きなものを選んでください。

この作り方を知っておくといろいろなことに利用できると思います。また、文字や数字を刻印する方法(工具は彫金材料店で人手できます)や、写真焼き付けで字や絵の防触層を作る方法(この材料はさきほどのプリント基板の材料コーナーで入手できます)もありますので、いろいろ試してみてください。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

*小林健二の作品にも自作プレートが使われていて、その中の何点か紹介してみます。

「1965年3月27日午前」
木、鉛、電気、風景
1991
(通電すればその時だけ約一時間ほど1965年3月2日の風景が箱の中に現出するとのこと。不思議と人によっては心の中にそれが浮かんでくることもある) *プレートは鉛板にタイトルが刻印されています。

「サイラジオ-透質結晶受信機-」
木、合成樹脂、電子部品、他
1993
(透明結晶が青く光りながら回転し、同時にラジオも受信する)*金属製のプレート

KENJI KOBAYASHI

コイルの巻き方

以前いろいろなコイルについて説明をしましたが、コイルを製作する上で参考にしてもらうために、ここではいくつかの巻枠と巻き方の実際を紹介してみたいと思います。

図はハニカムコイルのホルダーの巻枠部の展開図です。 上は単ハニカムコイル
の巻順で、図のように巻いていきます。
コイルが十分巻き上がったらホルダーからピンを抜きニス等で固めて作ります。
中は複ハニカム巻きでホルダーは同じですが、巻き方がちょうど1つおきに巻い
ていきます。 一巡巻き終わった後、 下のようにさきほどとばしていったところを
巻いていきます。

図はウェーブコィル等を巻くときのホルダーです。棒の部分は真鍮製でネジが切ってあり中心部のコアに付いていて、コイルを巻き終わった後、棒を回し取ってしまい、 コイルがバラバラにほどけてしまわないようにワイヤーが交差したところを糸等でしばってしっかりさせます。

スパィダーコイルはこのように巻枠に羽2つごとに互い違いに巻いていきます。

ハニカムコイルを手巻きで巻くホルダー

バスケットコイル等を巻くための自作のホルダー

図はバスケットコイルの巻枠で、上のものは米国で売られていたものです。コ
イルの径を変えられるようになっています。下はポピュラーなもので堅い木に穴
をあけ真鍮製の棒を抜き差しして使用します。 2列に穴があいているのはコイル
の径を変えるためです。

画像は左上・芯のついたラジアルバスケットコイル、中上・ウェーヴコイル、右上・クラウンコイル(小林健二設計)、左下・スポークコイル、中下・スパイダーコイル(大正時代のもの)、右下・ナローバスケットコイル。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

コイルについて

KENJI KOBAYASHI

鉱石ラジオを作る

まず、基本的な「鉱石ラジオ」を作ってみましょう。必要な部品はコイル、コンデンサー、検波器、クリスタルイヤフォンです。
「鉱石ラジオ」は検波器として鉱石を使っているものを言います。部品やデザインのバリエーションも紹介しているので、参考にしてください。

材料
1、紙管(70mm径,80mm長さ)・2、エナメル線・3、木の角柱・4、ビニル被覆線(30cmほど)・5、ドールハウスのフライパンなど・6、クリスタルイヤフォン・7、木板(150mmX80mmまたはハガキサイズ、厚さ15mm)・8、真鍮板(70mmX50mm2枚、55mmX60mm1枚、各0.5mm厚)・9、カッティングシートなど・10、真鍮平角棒(1.5mm厚、6mm幅)・11、圧着端子(0,5mmX3mm、針を挟んでつぶせば良いので多少太くても可)・12、縫い針・13、方鉛鉱または黄鉄鉱・14、画鋲・15、木のブロック・16、釘・17、ネジ(サラネジではない3mm径、8mm長くらい。ワッシャーもあると良い。タッピングネジ(木ネジ)でも良い。)
*これらの寸法や材料はあくまでも便宜的なものです。自分なりの工夫で色々考えてみてください。

用具
1、電気ドリル・2、プライヤー・3、金切りハサミ・4、ピンセット・5、ワイヤーストリッパー・6、カッター・7、ニッパー・8、紙ヤスリ・9、耐熱ボード・10、ハンダ・11、ハンダゴテ・12、ペースト・13、ガストーチ・14、万力・15、ノコギリ・16、洗濯バサミ・17、平ヤスリ・18、丸棒・19、定規・20、ポンチ・21、千枚通し・22、プラスドライバー・23、金槌

接着剤
1、ホットメルト(グルーガンやホットボンドも同じもの)・2、シェラックニス・3、燃料用アルコール・4、シェラックニスを燃料用アルコールで薄めたもの・5、瞬間接着剤・6、ボンド・7、紙コップ・8、筆

ーコイルの作り方

1、紙管の両端から1cmほどの所にそれぞれ千枚通しで穴を開けます。

2、先に開けた穴から、紙管の端に沿って少し離れたところに、それぞれもう一つ、同じように穴を開けます。

3、穴にエナメル線を通し、紙管の方を回しながら巻いていきます。この時紙管を回す方向はどちらでも構いません。またエナメル線の端は10cmくらい残しておきます。

4、エナメル線の端を管の中に入れ、残りは手に掛けるなどして巻いていくと、絡んだりしにくく取り扱いがしやすいでしょう。また、エナメル線は押さえながら巻いて行きます。

5、反対側の穴のところまできたら、巻き終わりです。巻いたエナメル線を押さえながら、端を穴に通します。

ひと工夫
紙管にニスを塗っておくと強度が増し、エナメル線もほどけにくく巻きやすくなリマス。はじめに内側を塗り、次に木の板などを入れて外側を塗ると手が汚れずに全体に塗れます。
左がニスを塗っていない紙管、右が塗った紙管。
巻いたエナメル線の表面にも塗っておきます。こうするとほどけてきません。

ーコンデンサーの作り方

1、真鍮板を金切りバサミなどで切り、手を怪我しないように角を紙ヤスリで丸めます。

2、穴を開けた70mmX50mmの真鍮板を万力にはさみ、木の板を当てて曲げます。穴は真鍮板にポンチでくぼみをつけ、画鋲が通るくらいの穴を開けます。またこれは、両面テープや接着剤で固定しても良いので色々と工夫してください。

3、もう一枚の70mmX50mmの真鍮板も同じように穴を開け、曲げます。

4、55mmX60mmの真鍮板を包むように、カッテイングシートを両面に貼ります。この時、ハンダ付けをする部分は残し、はみ出したところはカッターで切ります。

写真ではすでにカッテイングシートが貼られていますが、その前に真鍮板の、今後配線する部分に少量のハンダをつけておきます。これは前ハンダと良い、ハンダ付けを行う時にはしておくと良いでしょう。

5、角ブロックにのこぎりで切れ目を入れ、瞬間接着剤で真鍮板に取り付け、取手ににします。(回路に直接手を触れないようにするためです)

ー検波器(ディテクタ)の作り方

1、耐熱版の上に置いた、ドールハウスのフライパンの内側にペーストを塗り、切ったハンダを入れてガストーチで加熱し溶かします。

2、ハンダが溶けたら、方鉛鉱をのせます。

3、ハンダが固まるまで、放冷します(急冷はしないでください)

4、ディテクタの針を作ります。尖っている先端5mmをプライヤーでくわえ、ガストーチで赤くなるまで加熱し、焼きなまします。こうすることで柔らかくなり曲げやすくなります。光っているところはなまっていない部分です。針の代わりにピアノ線でもできますが、その時は焼きなます必要はありません。

5、焼きなました針の、穴の開いている方を圧着端子に差し込み、ニッパーで2箇所くらい切断しない程度の力でつぶします。

6、圧着端子を直角に曲げてから、丸い棒に針を巻きつけるようにして曲げます。

適度な圧力で方鉛鉱に接する必要があるので、必ず方鉛鉱に当ててみて高さを調整してください。

針ではなく、ピアノ線を巻いてバネのようにして使うこともできます。このようにすれば、方鉛鉱物の高さが多少変わっても、適度な圧力を保つことができます。

ー配線の仕方

作った部品をこのように木板上に配線していきます。

1、角柱を木板にボンドで接着し、ネジ用の直径2.4~2.5っmの穴を開けておきます。木ネジを使う場合は、キリで開けても良いでしょう。

2、木板にコイルを画鋲で止めます。この時エナメル線を巻いた部分に刺さないように注意します。

3、真鍮平角棒を角柱とコイルにのせ、釘を通す穴の位置と、カットする位置に印をつけます。

4、金切りバサミで切ったら、平ヤスリか紙ヤスリで角を丸めます。配線する側は、印の位置に穴を開け、先端は熱容量を小さくするために補足し、その部分に前ハンダをしておきます。

5、ホットメルトガンで ディテクタを取り付けます。

6、木板にネジを半分ほど入れておきます。

前ハンダをした2枚のL字真鍮板に、取手のついた真鍮板をはさみ、洗濯バサミで止めておき、木板に画鋲で固定します。この時、L字の真鍮板の間が空きすぎないように調節します。

7、L字板どうしを前ハンダをしてエナメル線でつなぎます。エナメル線にも先端を紙ヤスリでこすり、被覆を剥がして前ハンダをしておきます。これはコンデンサーの面積を広げ、電気容量を増やすすためです。

8、コイルとコンデンサーのエナメル線の先をやはり紙ヤスリでこすり被覆を剥がします。そして右巻きにネジに巻きつけます。こうするとネジを締めるときに戻りません。

8、コイルとコンデンサーのエナメル線の先をやはり紙ヤスリでこすり被覆を剥がします。そして右巻きにネジに巻きつけます。こうするとネジを締めるときに戻りません。

真鍮平角棒をとりつけます。何回もコイルの上を動かしてコイルにつく傷の位置を調べます。真鍮平角棒は、あらかじめやや下に曲げ、コイルに当たるときに少し圧力がかかるようにしておきましょう。

10、定規などの薄めの板んび挟んだ紙ヤスリで、コイルの傷跡部分の皮膜を丁寧に剥がします。(こすりすぎて線を切らないように注意)。綺麗に剥がれたかどうかはテスターなどでチェックしておきましょう。

11、ディテクタにハンダでビニル被覆線を取り付けます。

12、ディテクタから伸びているビニル被覆線を、スライダーの端にハンダで取り付けます(前ハンダを忘れずに)

13、クリスタルイヤフォンの線をほぐして軽く1回しばっておきます。

14、スライダーから伸びているビニル被覆線を、コンデンサーの真ん中の真鍮板にハンダづけします。

15、真ん中の真鍮板を引き出したところ。

感度をチェックするときには、鉱石に当たっている針を外してゲルマニウムダイオードを写真のようにつけて行います。受信できなかった場合に、鉱石のディテクタに原因があるのか、他のところにあるのかわかりやすくするためです。

16、鉱石ラジオの完成です。これはあくまでも一つの例であって、それぞれの工夫によって色々と磨きをかけてください。そしてゆっくりと急がずに作ることが何より大切です。

太鼓鋲をスライダーにつけると、コイルとの接触が良くなり、ツマミをつけることで回路に直接触らずにすみます。
これが太鼓鋲。
ひと工夫で仕上げてみた鉱石ラジオです。

ーコイルと スライダーのバリエーション 続きを読む

鉱石ラジオの歴史と魅力

ーはかなかった鉱石ラジオの歴史

鉱石ラジオの前身である鉱石受信機は、ヨーロッパで1906年頃から製造されました。しかしこれは軍用無線のために作られたもので、一般の人が使うようなものではありませんでした。

放送局からの電波を受信して聞く鉱石ラジオは。1919年頃からアメリカやヨーロッパで製作されました。日本では1924年頃から製造され、翌25年にはJOAK東京放送局(NHK第一放送の前身)の本放送が始まりました。小林さんのコレクションの中に、当時の貴重なラジオがあります。

日本でラジオ放送が始まったばかりの頃の鉱石ラジオ。「JOAK」の名前が入った珍しいラジオです。
小林健二所蔵

「このころは、東京の新任教員の給料が25円なのに、国産の鉱石ラジオが30円以上もするという非常に高価なものでした。放送の聴衆者数は1割にも達していませんでした。鉱石ラジオの黄金時代を迎えたのは、放送局が全国の主要都市に開局し、さらに電波の出力を上げた1928年以降のことです。」

感度のよくない鉱石ラジオでも放送が聞けるようにと始められたこの事業は、当時「全国鉱石化」と呼ばれました。鉱石ラジオ自体も、量産化によって価格が相良い、感度も向上して行ったことで全国に普及していったのです。

ところがこの黄金時代は、わずか数年で幕を閉じてしまいます。1930年頃から安価になった真空管を使った、取り扱いの簡単なラジオが出ると、混信の多い鉱石ラジオは急速に減っていきます。大震災や終戦後の一時期、また台風で停電した時のために”非常時のラジオ”として活躍はしますが、実用品としての魅力を失った鉱石ラジオは、少年の工作の対象となっていきます。1946年頃から再開された少年科学雑誌にも盛んに取り上げられ、学校教材としても普及していきました。

しかし、1955年頃にゲルマニウムダイオードを使ったゲルマラジオが発売され、安価になるにしたがって、教材としての場所もゲルマラジオに譲って、鉱石ラジオは姿を消していくことになります。

1925年イギリス製の鉱石ラジオ。検波器に方鉛鉱が使用されています。小林健二所蔵

BBCのマークが入った1920年代のイギリスの鉱石ラジオ。上のコイルを取り替えて、局を選ぶことができます。小林健二所蔵

レバーの接点はコイルのタップに接続していて、これで感度のいいところを探します。右下は海外の学童用キット。小林健二所蔵

1930年代にアメリカでよく作られたタイプの鉱石ラジオ。そのほとんどは主婦などの女性が組み立てたそうです。小林健二所蔵

戦前の日本製鉱石ラジオ。「メロディークリスタル」という名前にふさわしく、可愛らしい緑色に彩色され、赤や青のツマミも鮮やかです。小林健二所蔵

ー鉱石ラジオと小林さんの出会い

「”鉱石ラジオ”を作ったことがあるという人に、何度もあったことがあるんですが、ほとんどの人はこのゲルマラジオなんですね。」

小林さんが最初に作ったものも、やっぱりゲルマラジオで、小学3-4年生の理科の授業でのことでした。

「子供のころから工作は好きだったのですが、コイル巻きのように面倒くさいことが嫌いなものだから、数も数えないでメチャメチャに巻いた コイルを適当にハンダつけしたのです。格好だけは整えたけれど、もちろん全然聞こえない(笑)。」

ラジオ製作との再会は20代の初め。趣味でやっていた音楽の多重録音がきっかけでした。ノイズを取るための器材を自作していた時に、基盤からガリガリと雑音が出てきて、その雑音の中に偶然キャッチしたラジオ放送が聞こえてきたのです。

電源を切っても聞こえてくる、かぼそく不思議な音に魅せられた小林さんは、ラジオ作りに再び挑戦することになりました。そして1986年に生まれたのが、鉱石ラジオという言葉のイメージから作られた作品としてのラジオの第一号でした。それは上に乗せた結晶が七色に光り、ラジオの音声によって光が明滅するという美しいものでした。

「ぼくにとって、鉱石ラジオは、鳴るはずがないようなものから音が聞こえてくるのが面白いんです。」

その言葉通り、小林さんの作品には”不思議”が詰まったものがいくつもあります。そして、この”不思議を愛する好奇心”こそが、サイエンスの根源なのではないでしょうか。

鉱石ラジオの良さは、自由に自分の興味で作っていけるところにもあると、小林さんは言います。

「原理が簡単だからアレンジがしやすいんです。美しいものを作るとか、いろいろな石を試してみるとか、メカニズムに凝るとか、幅の広い楽しみ方がある。趣味って1位2位と順番をつけるものじゃないでしょう。人それぞれの楽しみ方があっていい。鉱石ラジオは、それができるんです。」

10年ほど前の「シークレットボイス」は、透明なものを使って作りたいという小林さんの長年の思いが結晶した作品。ため息のようなささやき声でラジオの音声が聞こえてきます。

1987年の作品「サイラジオ」。ガラスドームの中の鉱石が、ゆっくりと七色に変化しながら光り、その光がラジオの音声に合わせて明滅します。下部に置かれた環状列石も青い光を放って、見ていると心が安らぎます。

 

*「趣味悠々-大人が遊ぶサイエンス(日本放送出版協会)」の小林健二の記事部分より一部抜粋。何回かに分けて紹介予定。画像は書籍を複写しております。

1,スパイダーコイルに挑戦しよう

2,検波に使える鉱石いろいろ

KENJI KOBAYASHI

検波に使える鉱石いろいろ

いろいろな黄鉄鉱

黄鉄鉱

鉱石ラジオによく使われた石で、感度の良い石です。硫黄と鉄の化合物で、びっくりするほど綺麗な立方体をしているものもありますが、他にも五角形の12面体のものや正8面体のとても細かな結晶など、形は様々です。また化石が黄鉄鉱化することもあります。「愚か者の金」と呼ばれるほど、見た目が金に似ていますが、金ではありません。方鉛鉱よりも固く、割れにくいので初めての人にはオススメの石です。

接合型鉱石検波器
鉱石検波器の多くは鉱石に細り針を立てる、点接点型の検波器でした。接合型と呼ばれる、鉱石どうしを面で接触させたものは、向かい合う面がコンデンサーとして働き、高周波電流が流れ込んで整流作用がうまく得られないためです。しかし、紅亜鉛鉱と他の鉱石を組み合わせると、方鉛鉱や黄鉄鉱よりはるかに良い感度が得られることがあるのです。
人工の紅亜鉛鉱(上)と人工ビスマス(下)の接点型鉱石検波器(小林健二作)

いろいろな方鉛鉱

方鉛鉱

検波器の代表といっていいくらいよく使われ、黄鉄鉱に負けないくらい感度の良い石です。硫黄と鉛の化合物で、見るからに「鉛」という色をしています。ハンマーで軽く叩いて割ることができるくらいもろく、劈開性があるため、小さく割ってもサイコロのようになります。そのため、ネジなどで押し付けると割れてしまうことがあるので、固定するときはハンダで台座を作ります。

斑銅鉱と黄銅鉱

斑銅鉱と黄銅鉱

これらも比較的感度が安定している石です。左側にある三点が斑銅鉱で、金色のところは黄鉄鉱です。斑銅鉱は硫黄と鉄と銅の化合物で、表面が酸化してメタリックな緑・青・紫・赤・黄の斑銅鉱担っています。感度は、割ってから酸化して落ち着いた頃の方がよくなる場合があります。

右側三点が黄銅鉱です。硫黄と鉄と銅の化合物ですが、斑銅鉱のようなメタリックカラーではなく、見た目は金のような感じです。ところどころ青や紫に色づいていることもあります。

紅亜鉛鉱(上段左以外は人工結晶と思われる)

紅亜鉛鉱

紅亜鉛鉱は本来、亜鉛の酸化物ですが、マンガンが不純物として混じっているものは赤っぽい色をしています。方鉛鉱や黄鉄鉱よりも感度が良い石です。日本では産出され図、アメリカ・ニュージャージー州のスターリングヒルとフランクリンという鉱山で飲み取れます。左の石は赤いところが紅亜鉛鉱です。不透明のように見えますが、拡大してみると透明感があります。透明な黄やオレンジに見える透き通った結晶などは人工の紅亜鉛鉱です。

この透明な結晶は酸化亜鉛です。12Vの電源に繋いでみると高輝度発光ダイオードが点灯しました。金属光沢もなく、透き通っているのに、電気を通すというのは不思議な感じがします。結晶の長さは20cmぐらいあります。

そのほかにも感度は保証できませんが検波できる鉱物です。

1、硫砒銅鉱
2、輝水鉛鉱
3、白鉄鉱
4、自然銀
5、銅藍
6、隕鉄

7、錫石
8、自然銅
9、石墨
10、赤銅鉱

 

*「趣味悠々-大人が遊ぶサイエンス(日本放送出版協会)」の小林健二の記事部分より一部抜粋。何回かに分けて紹介予定。画像は書籍を複写しており、鉱石は小林健二所有の標本です。

1,スパイダーコイルに挑戦しよう

KENJI KOBAYASHI

スパイダーコイルに挑戦しよう

「趣味悠々-大人が遊ぶサイエンス(日本放送出版協会)」の書籍より

巻き枠を作ります。羽の数を15枚として、2枚貼り合わせた厚紙に円盤を、比例コンパスで15等分し、印をつけます。印をつけたら、それぞれ中心点と線で結んでおきます。

比例コンパスを使わないで15等分する方法です。平行に等間隔で引いた16本の直線上に、厚紙円盤の円周と等しい長さの細い紙を乗せます。紙を斜めにすれば、直線のところで15等分されます。これを円盤に巻きつけ印をつければいいのです。

V字に切った厚紙を型紙にして、15等分の線を中心にしてV字の線を引きます。

円盤の内側の円と15等分の線の交点にポンチで穴を開け、穴の両端から、V字の線に沿ってカッターで切り取ります。

全体にニスを塗ります(この場合、見やすいように黒いニスにしています。)

羽を2枚ごとに飛ばしながら、エナメル線を巻いていきます。

タップを出したいときは、途中でエナメル線をより合わせます。(わかりやすくするため写真ではエナメル線の色を変えています)

アイスキャンディーの棒を使ってもスパイダーコイルや、バスケットコイルの芯などを作ることもできます。

コイルのいろいろ

コイルの巻き方にはいろいろあって、目的に応じて使われています。ソレノイドコイルは作るのは簡単ですが、隣り合う線同士がコンデンサーになり、その電気容量のせいで計算値とずれたり、高周波の電流が流れてしまったり、いろいろと問題が起きます。コイルはコンデンサー部分がすくなくて、インダクタンスの高い物がラジオにとって性能のいいコイルと言えます。1~8は小林健二作のコイルです。

1,ソレノイドコイル
2,ビノキュラーコイル
3,スペース巻きコイル
4,相互インダクタンスを変えられるコイル
5,クラウンコイル(小林健二設計)とバスケットコイル
6,デイーコイル(Dコイル)
7,ウエーブコイルとスパイダーコイル
8,スパイダーコイルとオクタゴンコイル
9,ベークライト板(コイル枠)*1~8は小林健二作のコイルです。

ルーズカップラー
タップが出ていて巻き数を変えることで、自己インダクタンスを変えるだけでなく、中のコイルを出し入れして相互インダクタンスを変えることができます。

コンデンサーのいろいろ

電気容量の変えられるコンデンサーのことを「ヴァリアブルコンデンサー」通称「ヴァリコン」と言いますが、絶縁物を挟んで向かい合っている2枚の極板の、間隔が面積を変えることができればいいので、簡単なものは自作することも可能です。写真3を除き、ぼくが作ったものです。

1,エアーヴァリコン。空気を絶縁物としたものです。ダイアルを回すと羽の向かい合う面積が変わるようになっています。
2,本のように開くことのできる板の内側に真鍮板を貼ったもの。開き具合で電気容量を調整します。3,エアーヴァリコン。真鍮製で重いのでバランスウエイトが手前についています。
4,表面に錫箔を貼った太さの違う試験管を重ね、内側の試験管をスライドさせることで電気容量を変えます。
5,ガラスに錫箔を貼ったもの。
*1,2,4,5は小林健二作

*「趣味悠々-大人が遊ぶサイエンス(日本放送出版協会)」の小林健二の記事部分より一部抜粋。何回かに分けて紹介予定。画像は書籍を複写しております。

検波に使える鉱石いろいろ

鉱石ラジオの歴史と魅力

KENJI KOBAYASHI

空中線回路について

この図は以前にも掲載していますが、鉱石ラジオの構造を4つに分けてあります。今回は「空中線」の部分です。

空中線

基本的にこの回路は電波をとらえるアンテナ(A)と余分な電流を流すアースによって成り立っていて、途中に次の回路に電流を進めるコイル(L)が入ったり、同調回路のコイルと共有になったりすることもあります。本来なら、鉱石ラジオではアンテナのことを空中線とするのがふさわしいのかもしれません。

なぜかというと、鉱石ラジオができたころ、イギリスにいたマルコーニが大西洋横断の無線通信に初めて成功した実験で、 150mの高さにあげた凧から垂らした針金で電波をキャッチしました。それでイギリスでは今でもエアリアルearialと言っていて、空中線はその訳語だからです。

アメリカでは比較的早くから真空管式ラジオが発達し、感度がよいのであまり大きくない空中線でも聞こえるため室内アンテナが開発され、可般性のものが大半であったため、そこからアンテナantenna(昆虫などの触角)と言うようになったようです。

室内アンテナのいろいろ

電波と空中線

電気力線の向き

電波をキャッチするのも空中線ですが、電波を送信機から放出するのも空中線です。ではいったいどのようにして電波は空中線から放出されるのでしょう。

同調回路のところでお話ししたように、コンデンサーの両端に直流の電圧をかけると(+)から(ー )のほうへ電気力線が発生します。

もう一度くり返しますと、電気力線は図に書いたような線として実際に存在しているわけではなく一種のたとえのようなものですが、低い電圧ではその数は少なく、電圧が高くなると数も増え電圧の向きを変えると電気力線も向きを変えると考えます。

ですからもしこのコンデンサーに交流の電圧をかけると、電気力線も増えたり減ったり、逆向きになったりするわけです。

またこのコンデンサーの極板の距離を少しずつ離してゆくと、電気力線はそのお互いの反発力によって、(+)から(― )へはゴムの線のように引き合いながらも横のほうへと広がって、徐々に膨らんでゆくのです。

このように直流の電圧の場合は、横にいくら膨らんでいても電気力線はそのままを保っていますが、ここに交流の電圧をかけるとちょっとおもしろい現象が起こると考えられています。低い周波数のときにはそれでも電気力線は少々膨らみながらもせわしくその方向を変え、増えたり減ったりしているのですが、周波数が高くなるにつれ、大きく膨らんだ電気力線は、中のほうへ戻ることができなくなりはじめあとからあとから、まるで押し出されてゆくように順々に外のほうへと飛び出すようになってゆくのです。それがいったいどのように行われているか、本来、人間の時間系ではおよそ想像することは不可能に思えます。そこで1秒に30万km(正確には299.792.458m)を移動する電波を1秒に1cmくらいの速度にみたてて、もし目で見ることができれば信じられないほどあるはずの電気力線のうち1本だけに注目して説明したいと思います。もちろんこれはあくまでも仮定であって、電磁波の現象を理解するうえでの便宜上の説明であり、未米においてはまったく別の方法でもっとうまく説明できるかもしれません。

①電圧がコンデンサーに全然かかっていないと、電荷は中和しているようなもので、電気力線も発生していません。
②電圧がかかりはじめ、電気力線が発生し、外側が膨らみはじめます。
③さらに電圧がかかるピークを超え、電気力線は少しずつ縮まろうとします。
④電圧の極性が変わり、新たな向きの電気力線が発生します。
⑤内側からの電気力線の圧力で、外側の電気力線も縮よりきれなくなります。
⑥電圧がゼロになって電気力線は切り離されます。
⑦2つの電気力線はつながり、輪のようになります。
⑧内側からさらに発生した圧力によって外側に押し出されます。
⑨完全に電荷から切り離された状態。
⑩連続して電気力線が出ている状態。
⑪実際にはその一つ一つの膨らみに、たくさんの電気力線が東になっていると考えられます。
⑫ちょうど真ん中のあたりに注目して卜下をカットすると、一種の疎密波になっています。
⑬このエネルギーの変化を電圧に置き換えると電波の波が見えてきます。

電波の発射

上の図はコンデンサーの電荷の間で電気力線が発生するようすと、電圧の変化(電圧や方向)を示してあります。おそらくこのようにして、電波は空間に飛び出してゆくと考えられます。低い周波数では電気力線はコンデンサーに戻ってしまい、ある程度高い周波数にならないと電波にはなりにくいということです。そのようなわけで電波の出力をする空中線やアンテナはまさに一種のコンデンサーであると言えるのです。

 

コンデンサーからアンテナヘ

よりよく電波を出す工夫

実際の空中線はコンデンサーの格好をしているわけではなく、もっと電波の出やすいように工夫されています。どのように工夫しているかというと、図の(A)→ (B)→ (C)というように、片方にどんどん開いてゆくとそれだけ電波は出やすくなり、(D)180° に開ききると導体の反対から同距離になるのでさらに出やすくなります。(E)はその一端を大地に接してしまうと、大地は良導体と考えられるので、まるで片方の一端を地中深くに埋めたような効果をもちます。この機構こそが大地(アース)を用いるという考え方で、空中線回路のもうひとつの重要なポイントとなるのです。アースを使う考え方はマルコーニが考案したもので、彼の発明のなかで最も大事なものとも言われています。そこで昔はこのような空中線機構(片方を接地したもの)を、マルコーニエアリアル(マルコーニアンテナ)と呼んでいました。

音声を電波にのせる

振幅変調

マイクから入った音やあらかじめ録音されていた音声などの低周波信号は、いったん増幅され、発振器から出て増幅された高周波の電流と変調器によって合成されます。単純にまぜるだけだと(C)のようになってしまい、(D)のような変調波型にはなってくれません(ここでは変調器の変調理論の説明は省きます)。

この複雑な変調器によって、人の声などの低い周波数の音声信号は、高周波の搬送波carrier waveとともにさらに増幅されて、音声の成分を含んだ電波として空間に飛び立ってゆくのです。

変調とは
FM( frequency modulation)周波数変調・音声電流の波形によって搬送波の周波数を変化させる方式。・搬送波周波数76~ 90MHz(メガヘルツ) AM(amplitude modulation)振幅変調・音声電流の波形によって搬送波の振幅を変化させる方式。・搬送波周波数531~ 16112kHz(キロヘルツ) A ,音声信号 ・B, 搬送波(キャリア)・C ,AとBがまざった波形 ・D, AがBによって変調された波形

 

国内の―般放送の開始(中波による)

アメリカのピッツバークのKDKA局が1920年、 イギリスのロンドンBBC局が1923年、日本の東京のJOAK局が1925年等々、世界のあちこちで国内に向けての一般放送が始まります。これらの放送に使われているのは、中波の周波数の電波です。それまでの経験から、お互いが送受信をするわけでもなくまた国内という限られた範囲での一般向けの放送なので、巨大な設備の必要な長波や遠方まで通信するための短波ではなく、中波の周波数帯が選ばれたわけです。

東京放送局では大正14年3月1日日曜日、芝浦の東京高等工芸学校(現都立大学工学部)の図書館の中に設けたスタジオからその第一声を発しました。「アー、アー、アー、よく聞こえますか?」午前9時半、海軍軍楽隊の行進曲の演奏が始まり、人々はまだ珍しい受信機の前にむらがって耳を傾けていて、その声が聞こえたときには「聞こえた、聞こえた!」と感動のあまり泣きだす人もいたほどでした。この試験放送は成功して、3月22日の仮放送に続き、 7月12日には本放送が開始されたのです。

JOAKの本放送が始まった大正14年当時のヘッドフォン付き鉱石ラジオ。

電界強度

感覚的にも感じるように、電波は距離が遠くになるにつれてだんだんと弱くなります。それは、アンテナからの距離の2乗に反比例していて、たとえば距離が2倍なら1/4、5倍なら1/25というように弱くなるのです。この電波の強さのことを電界強度と言います。もっとも、この減衰率も理想的な状態のときのもので、実際には山や森、高い建物などが電波の伝わるのを邪魔してしまうので、さらに弱くなるのです。これは減衰定数とも言われ、この定数が大きいほど減衰ははなはだしくなります。やはり、でこぼこしている山岳地ではとでも大きくて、森や建物の多いところ→少ないところ→平らな土地→海という順で小さくなります。この電界強度は〔V/m〕という単位で表され、有効な高さ1mのアンテナに1Vの電圧が誘起された場合、 1V/mということになりますが、実際このようなことがあれば怖くて外も歩けないでしょう。通常はこの1000分の1の〔mV/m〕あるいは100万分の1の〔μV/m〕を使用します。

電波の伝わり方

ヘルツが実験で火花のスパークによって電波を発見したころ、その周波数は今でいう短波帯に属するものでした。ところがこれでは電波はどんどん上空に飛んでいってしまい、地球のように円い地面のところでは遠方の地域へは届かないと考えられ、外のほうへ逃げずに地表に沿って進む電波(地上波)が初期の電信事業では開発されていました。短波のように空間に広がる空間波の性質を持つものより長い波長のものほど、地面に広がる性質があって、その地表波の代表が長波です。

ところが通信に長波を使うと、その長い波長に合わせた空中線、同調回路がみな巨人になりますし、先ほどの電界強度の減衰率がとでも大きくて、遠方への通信には莫大なエネルギーを必要としてしまうのです。しかも長波の周波数が低いので、搬送波として用いた場合にどうしてもそれに乗せることのできる音声の帯域は短波のように広くとれないのでした。そのような理由から、ラジオ放送が中波を用いて開始されたと考えられます。

波長と周波数

先ほどから何度も出てくる波長と周波数ということについて、ちょっとまとめておこうと思います。まず周波数というのは交流の電流あるいは電磁波などの交番する周期が、 1秒間に何回あるかを示したものです。 1周期は、交番波形の山から次の山まで、もしくは谷から次の谷まで、 というように同じ向きでもう 1度同じ場所まで戻ってくる間の部分を言います。

この波形の1周期分が1秒間に1回くれば、その周期は1 Hz(ヘルツ)であると言います。たとえば、 1秒間にその周期が50回あれば50Hzで、これは東日本の家庭のコンセントなどに来ている100Vの交流の周波数です。そしてぼくたちの声のような音声を低周波、電波などを高周波と言って、だいたい20 kHz(キロヘルツ)くらいを境にして感覚的に分けています。

電波法などでは30 kHz以上を高周波、 100 kHz以上を無線(ラジオ)周波数などと言っています。

鉱石式送信機

ケネリー・ヘヴィサイド層(電離層)の発見

アンテナやアースのいろいろ

 

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

*この内容から想起するアンテナやアースを使用した小林健二作品を紹介します。

健二式鉱石受信機

KENJI KOBAYASHI

 

 

ケネリー・ヘヴィサイド層

ケネリー・ヘヴィサイド層(電離層)の発見

電波(電磁波)は、本来、光の仲間ですが、周波数が高くなればなるほど、さらに光の持っている性質に近づいてゆきます。ですから短波は光のように直進する性質が強く、長波のように地表に沿って進んではくれず、地球の球面の陰になってしまうところまでは届かないと考えられていました。しかし1901年から1902年におけるマルコーニの大西洋横断無線電信の一連の実験で、イギリス・カナダ間という直進するだけでは届くはずのない位置にある場所どうしの通信が行われ、人々を不思議がらせます。この実験結果に興味を持ったイギリスのヘヴィサイドOliverHEVISIDE(1850-1925)とアメリカのケネリーArthur Edwin KENELLY (1861-1939)は、それぞれほぼ同時期に上空の大気中に電波を反射する何かが存在すると推論するようになりました。

やがて1924年、イギリスのアップルトンなどによって、この電波を反射する層は上空85 kmに存在することが確認され、ケネリー・ヘヴィサイド・レイヤー(K・H層)と呼ばれるようになります。

電波が電離層で屈折し地表で反射する様子(これらの層の区別は必らずしも確定的なものではありません)
1,昼の長波 D層は夜には消滅するため、夜間はE居で屈折し地上に戻るが、長波の空間波はとでも弱い 2,中波 E層で屈折する 3,短波 F層で屈折する 4,超短波 F層もつきぬけ、はるか字宙へと飛んで行く
D層 60~90km(夜間は消滅する E層 約100km F層 200 ~ 400km(昼間はFlとF2の2層に分かれ厚くなる) 昼間は厚くなり活動が激しくとでも乱れている。夜は薄くなり静かで安定している。 G層 600~ 1000km とても上層で稀薄 ES層 スポラディックE層 ときどき発生する突発的 (スポラディック)なもので、E層の距離と密度を持つ

このK・H層は電離層(ionized layer)のことで、太陽からの紫外線やX線が、地球上空にある大気の稀薄なところに当たって、気体原子が電子を放出してイオンとなり、そのイオンの電子は自由電子として空間に飛び回り、やがでまたイオンにとらえられ、中和して消えますが、このようなことを次々と繰り返している場所と考えられます。ここに短波・中波などの電波が当たると、その内部で連続的に屈折することでまるで反射をするように地上に戻り、ふたたび地上で反射され、これを繰り返して地球の裏側までも達することが確認されると、短波通信は飛躍的に発展していきました。

この電離層は太陽から来るX線や紫外線の影響によって起こるものですから、昼間と夜間では状態が同じではありません。またその屈折や反射のぐあいは春夏秋冬によっても異なってきます。そして電離層の発生のさかんな昼間はちょうど沸騰したお湯の表面のように乱れていて、屈折や反射が安定しないので、短波の放送が聞こえにくくなることもよく起こります。ですから、夜になると遠方からの放送に耳を傾ける受信者たちも多かったのです。

そんなわけで、せっかく地球の裏側まで届くというすぐれた性質が認められてもかえって今度は近距離の聴取がしづらいというようなことも起きてきます。

また、スキップ距離skip distanceといって、地表波の減衰の大きい短波にとって、 上昇した空間波が電離層から戻ってくる間の地域では、空間波もともに弱かったり、もしくはそれらが互いに干渉し合って電波にうねりのように強弱がついて、非常に聴取しづらいフェージングという現象が起こったりします。この干渉は空間波と地表波の強度が等しいとき、最も激しく起こってしまいます。これを近距離フェージングと言います。また、通路の異なる空間波どうしの干渉によるものを遠距離フェージングと言います。これらの現象の度合や発生する地域は、季節、時間、周波などによって変化し、一定ではないので厄介なものです。このフェージング現象のような受信障害から免れる対策として、遠方の船舶などへの通信を短波によって行なうときは、場所によってお互いの送受信する周波数を申し合せてよく聞こえるように変えたりするわけです。

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

*この内容から想起する不思議な小林健二作品を紹介します。

[SPASESCOPE-スペーススコープ]小林健二

スペーススコープを調整するのは、少々骨が折れる。試体となるべき物質の質や量によって、その内部に出現する宇宙の構造が変わってしまうからだ。しかし、その後で巡り会える薔薇色や菫色の昴を思うと、時間を忘れる。ぼくは、その上部の接眼鏡から覗き込む。暗箱の中で、形を変えながらゆっくり回転する宇宙に視準を合わせると、手元のレバーで選んだ星に注意深く細い針を接地する。電位を等しくした後、同調ノブで、「今日のお相手」を探し始める。やがてかすかに雑音に混じりながら星の歌が遠い過去の放送電波に乗って聞こえ始める。絶え間なく何かを発信しているその源に、ぼくのこころは導かれて行く。机の上のこの小さな箱には、もはや相対的な距離など存在していないのだ。

明け方まで研究に耽った後、すでに電源が切られているはずのスペーススコープをふっと見ると、結晶鏡のメーターがホタルのようにまだ光っていた。

スペーススコープの接眼鏡から覗いた景色。(小林健二作品より)

KENJI KOBAYASHI

 

 

鉱石の結晶を通して遠方の出来事が聞こえてくる

幻のような「鉱石ラジオ」、しかし、現代のテクノロジーの「きっかけ」でもあります。

「ほんと、あれって不思議でおもしろい」と、いつのまにか自分が「鉱石ラジオ」の宣伝マンになっているような気がする。ぼくにとって鉱石ラジオとは、そういう存在です。客観的に捉えていても、素直にほめることができる対象です。

鉱石ラジオとは、回路の一部に鉱物の結晶を用いた受信機(crystal set:結晶受信機)のこと。電池などの電源を必要とせずに、空間に満ちている電波というエネルギーを鉱石の力で感じ取って作動します。20世紀初頭(日本では大正時代の終わり頃)に現れ、我々の生活に定着する間も無く、まるで幻のであったかのように忘れ去られていきました。しかし、現代のテクノロジーを支えるICや半導体のきっかけとなったのも、実は鉱石検波器だった。そう言っても過言ではないと、ぼくは思っています。

鉱石ラジオの検波部は、鉱石に針を当てて電波の流れの中から音声の成分をより分けるというものですが、それがやがてダイオードを構想するきっかけとなり、トランジスターの開発へと繋がっていきます。ところが、そんな鉱石ラジオでも、今となってはほとんど現物に出会うことができません。

英国ブラウニーワイヤレスカンパニー社製の鉱石受信機。1920年もので、BBCマークが入っている。
小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ」より

誰もが工作を楽しめるように、ぼくなりの方法で解説してみました。

『ぼくらの鉱石ラジオ』と題した本には、実際に欧米や日本で作られた製品の姿を紹介しつつ、自作のラジオを交えて読者がそれぞれ工作できるように方法を紹介しています。

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」

小林健二「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」工作編

銀成硝子検波器(小林健二の自作検波器)
金属の蒸着メッキにより作られるハーフミラーを用いた検波器。銀色にまたは半透明へと移行する質感が美しい。検波できるものは我々の身近にいろいろある。

また、歴史や回路の原理研究編を設けているというのも、この本の特徴です。

例えば、受信の際に同調回路がないと、放送局を選択することができません。そこでコイルとコンデンサーによって同調回路を作る。しかしなぜ、コイルとコンデンサーにより同調し、局を選択する回路ができルノか、・・・こういうことを調べようと思うと、工学の専門書に当たらなければならなくなります。結局、ぼくは文字よりも数字の方が多いような電子工学の本を読むことになりました。読みながら、少しづつ実験していくと、今度は、もっと平易な言葉に置き換えてみたいと思い始めたのです。

もちろん、今思えば、全く見当がつかない世界ではありませんでしたが、この工作編には予想以上に時間がかかってしまいました。

よく鉱石ラジオだと思われているゲルマラジオ(検波回路に鉱物の代わりにゲルマニュームダイオードを使う)については、このぼくも工作体験者でした。ただし、細かな作業がそれほど得意ではなかったし、デンキ屋(実家)のケンちゃんとしては、「ラジオは鳴って当たり前、鳴らなければ修理に出す」という感じで、学校の授業時間でもあまり真面目に作らなかった。そんなこんなで、中学へ入ってからはサッカーに明け暮れたという次第です。

少し遠回りをしたものの、20代になって意外にも音楽の趣味から鉱石ラジオへの道が再び開けてきました。バンド仲間とエフェクター(音質等に変化を与える電子機器)を作ろうと、秋葉原の電子パーツ売り場へ。やがて失敗しながらも、連日の秋葉原参りが続くうち、ついに電気の虜になっていきました。こうした体験を手掛かりに、今回の本について書くことができたのだと思います。

初心者にもわかりやすいようにと、結構苦労して書いた工作編は、ぼくが本当に伝えたいことへの、何らかのきっかけになっているような、そんな気がしています。

 

鉱石標本式受信機(小林健二の自作鉱石ラジオ)
検波できる鉱石を探しつつ思いついた標本箱タイプの鉱石ラジオ。タンタルの金属針を鉱物に触れさせていくと、検波できるものとできない鉱物があることがわかる。

超小型実験室型鉱石受信機(小林健二の自作鉱石ラジオ)
鉱石ラジオを設計したり実験するために必要な部品や教材が組み込まれた、待ち運び可能な小さな実験室。

超小型実験室型鉱石受信機(小林健二の自作鉱石ラジオ)
フロントパネルをはずして中に入っているものを出した時の様子。

超小型実験室型鉱石受信機(小林健二の自作鉱石ラジオ)
引き出しには実験用の鉱物各種。

この世の不思議を体験するため「趣味の時間」のすすめ。

どんなに忙しい人も、ぜひ「趣味の時間」と言える一時を持って欲しい。そして工作する楽しみを知ってもらいたい。取り組んで見れば、誰にもできるんだということを体験して欲しいです。

写真や図を見ながら、擬似的に工作を体験するだけでもいいのかもしれません。それでも、結構くつろいでもらえるはずです。

聞こえるはずのないと思えるものが、聞こえてくる不思議。放送が始まる当初は、本当に「デンパ」などがこの空中を飛んでいるのか、一般の人にとっては不思議極まりないものでした。通信関係の人でも、説明するのは難しかったのかもしれません。また当時は、ラジオはたいそう高価なもので、おまけに聴取料がバカ高い。今の一般家庭に例えてみると、一軒で数万円も払う計算になります。鉱石ラジオは材料さえ手に入るなら、それぞれ工夫して自作できます。その自作のラジオから実際に放送が聞こえて来れば、得をした気分だろうし、それ以上に、すごい感動があったはずです。聞こえるはずのない遠くの声や音が、鉱物というごくありふれて見えるものによって聞こえてくる!

実際に聞いた人たちは、日常の中に何か目に見えない神秘があるのだと感じたのではないでしょうか。

本来の「通信するこころ」を感じるために、目を向けたいものがあります。

本来、通信事業というのは、そのままでは届くはずもない遠くの人に、できるだけ早く言葉や思いを届けたいという純真な心に始まりました。ところが政治や経済に取り込まれるとともに、巨大化していったのです。そして現代においては、便利とうたわれる通信ネットワークという情報の海の中に「孤独の部屋の住人」を生み出し始めているようです。

鉱石ラジオを作ることは、遠くの声をもう一度手元に取り戻し、確信しようとする手段でもあると思います。それは人によっては、果てしない宇宙とか、限りある人生の意味を考えるための、深く尽きない材料を提供してくれるでしょう。とても他愛なく、世の中の確固たる力に比べれば、希薄で壊れやすくもある一つの受信機ですが、そういうものこそ、現在のぼくたちが目を向けるべき大切なこのの一つではないのかと思います。

スピーカーから聞こえてくるはずの音が、ある時聞こえなくなったら、耳を近づけ、ラジオの具合をうかがうでしょう。正常な状態に戻るには、自分は何をすれば良いのか、どうすれば役立てるのか考える。そういう係りの象徴として、鉱石ラジオのことを考えて見てください。こちらが作用しなければ聞こえない。だけど、こちらが係わっていけば、しっかり応えてくれます。

いつか縁あって、あなたが鉱石ラジオに出会うことがあったら、そしてその手にエナメル線やハンダゴテが握られるようになると、次はきっと、今度なぜ電磁波は存在し、また電気とは一体なんなのかを考えるようになるかもしれません。

宇宙の神秘に邂逅する、そのための何らかのきっかけとなることを願って、ぼくは「鉱石ラジオ」のことを多くの人に知ってもらいたく本を書きました。

小林健二

*1998年のメディア掲載記事より抜粋編集し、画像は新たに付加しています。

*この記事から想起した小林健二作品を二点紹介してみます。

 

「MUSIC IN MIND」小林健二
混合技法 mixed media 135X150X100mm 
(鉛色の箱に耳をあてると、かすかにオルゴールのような不思議な音楽が聞こえてくる)

「WIND OF MIND」小林健二
混合技法 mixed media 440X260X200mm
(上部のラッパ状の部分に耳をあてると、かすかに彼自作のオルゴールのような曲が聞こえてくる)

KENJI KOBAYASHI

鉱石検波器の作動理論

コメットゲルマラヂオ
これはツマミを動かすと中の彗星が動く小さな受信機です。もしあわただしくゲルマラジオの時代が過ぎ去っていかなければ、ブリキのおもちゃの一つとしてこのようなロボット風のラジオも作られたのではないかと思い、作ってみました。

鉱石検波器がどうして作動するのか、当時においていくつか提唱された原理はありましたが、ほとんど解明にいたったものはありませんでした。

ニュートンが万有引力説を提唱する前から、人々は高い方から低い方へとものが落ちることを知っていたように、鉱石検波器の作動理論が不確定であっても、実験的に確かめられた結果から、いろいろな鉱石検波器が作られ、改善されてゆきました。

現在、鉱石検波器の作動のしくみを最も合理的に説明するとなると、やはりゲルマラジオに使われていたダイオードの作動のしくみで説明するのがいちばん近くわかりやすいと思えるので、そのゲルマニウムダイオードについて説明してみたいと思います。

[ゲルマニウムダイオード]

ダイオードdiodeという言葉は真空管時代のなごりで、2極管(整流管)の意味であり、 トライオードtriode(3極管)、テトロードtetrode(4極管)、ペントードpentode(5極管)というように、数列の言葉とオードode(道路)という言葉の合成語です。

画像のうち、下の2本は現行のゲルマニウムダイオード、 下から5本目はその上のものと同じでプラスチックのカラーをはずしたもの。

画像は米国シルヴァニア社製のlN34で、 1940年代のゲルマニウムダイオードの製品としては最も初期のもののひとつです(このlN34は(株)荻原電子製作所の荻原栄助氏より寄贈していただきました)。

天然のゲルマニウムは多くの天然物と同じように不純物を含んでいます。それらを人工的に精製して、イレブンナイン、つまり99.999999999%というようにほとんどゲルマニウムだけと言えるような高純度のものにします。それはダイオードなどに使われる2種類の半導体は、あとから入れる不純物によってその特性を発揮すzるので、元となる元素にすでに色づけがされていると具合いが悪いからです。高度に精製されたほとんど不純物のないゲルマニウムだけの状態を真性ゲルマニウムと呼びます。

ダイオードの記号
ダイオードでは三角の形が示す方向がそのまま順方向となる

ゲルマニウムは図のような原子構造をしていると考えられています。そしてその原子核のまわりには4層の電子がまわっていると考えられ、それぞれの電子は1層目に2個、2層目に8個、3層日に18個、4層目に4個というふうで、このいちばん外の電子の4個は互いに接する原子とかかわって安定な状態をつくっています。

ゲルマニウムの原子構造図

ゲルマニウム原子構造の省略図

真性ゲルマニウムの原子配列

真性ゲルマニウム

この状態では電気を通しても流れません。ですから半導体と言われていても絶縁物と変わらないのです。ところがこのゲルマニウムを熱してゆくと中の電子が少しずつ動きはじめて、電気もそれにつれて流れはじめるようになります。

普通、金属などでは超伝導体を液体ヘリウムで冷やしたりすることからもわかるように、温度が上昇してゆくと抵抗値は高くなってゆくのに、逆にゲルマニウムなどの半導体は抵抗値が下がるのです。

半導体は温度が上がると抵抗値が下がる
半導体があたためられると電子が飛び出し、そこが電子の空席のようになります。するとそこに電子がまた飛び込んで、そこにできた空席にまた次の電子が飛び込みす。そしてBから新たに電子を迎え入れることができます。この場合、電子はB→ Aの方向に動きますが、それとは反対に正孔(ホール)はA→ Bへと移っていきます。そしてそれは電流の方向と等しくなります。このようにして半導体はあたためられると抵抗が下がる性質があるのです。

これも半導体の特徴のひとつです。電気のよく流れる銅や銀などの金属は導体で、ガラスやベークライトなどは絶縁体だから、湿った木やニクロム線のような抵抗値は高いが電気は少し流れるといったものが半導体、というわけではないと言うことです。もっとも、半導体をダイオードとして使うときは、温度を調節しているのではなく、さきほどお話したように、純粋元素に近いゲルマニウムに他の物質を混入することで、電気的性質をもった半導体として生まれ変わるというわけです。

[ゲルマニウムについて]

ゲルマン鉱(germanite)

ゲルマニウムは炭素と硼素の族での最初の金属で、同族の非金属の珪素(シリコン)に似ています。原子番号32、原子量72.59、少し灰色っぽい金属光沢があって脆いものです。南アフリカのナミビアにあるツメブ鉱山などで産出するゲルマン鉱(germanite)に約6.2%ほど含まれます。ゲルマン鉱は等軸晶系の暗赤灰色の鉱物で、

硬度3~ 4、比重4.46~ 4.59、ところどころキラキラした金属色をしています。ゲルマニウムは融点が958℃ ±5℃ で、常温で安定していますが強く熱すると酸化します。

ゲルマニウムは本来第4層の電子は4個ですが、通常は回りからも4個の電子を借りるようにして8個の電子を持つかっこうで安定しています。

ですから普段は自由に動くことができる自由電子がないので、電気を通すことができません。ところが強い光に当たったり、少し暖められたりすると、そのエネルギーによって荷電子のうちいくつかはたたき出されたり、はじかれたりして自由電子と同じ状態へと変化します。そうすることによって、本来流れないはずの電流がわずかでも流れるようになります。

この性質こそが半導体独自の性質といわれています。またゲルマニウムは有機ゲルマニウムとして人体に対する医療として研究されたり、温度によって抵抗値が変化する特性に合わせたグルマニウム抵抗温度計などにも利用されています。

[予告された元素]

炭としての炭素や、鉄や金銀銅などのように日常的に出会う元素もありますし、実験室の中の超常的な状態で一瞬だけ存在する元素もあります。

人間はさまざまな経緯で天然の世界から元素をひとつひとつ発見して名前をつけてきました。しかし中にはちょっと面白い経緯で人間世界に発見された元素もあるのです。ゲルマニウムもそのひとつで、発見される前からすでにその存在が予言されていました。

その存在を予言したのは、元素周期率表の発明で有名なメンデレーフDmitrii lvanovich MENDELEEV(1834-1907)です。彼は自分が作った元素の周期律表から、Si(シリコン)の下段の部分などに、当時まだ発見されていない元素があってそれは隣接する元素の性質と多くの点で類似しているはずだと唱え、その元素をエカケイ素eka-siliconと名づけました。エカとはサンスクリット語で「そのすぐ次にくるnext in order of one」という意味で、周期律表中でシリコンの次に来るということを示していました。確かにこの2つの元素は半導体として現代には欠かすことのできない似た性質のあることは周知のとおりです。

彼は1869年(明治2)3月に「元素の性質と原子量について」という論文で周期律表を発表し、さらに2年後「元素の自然体系と未発見元素の性質を推定するための応用」という論文の中で、 3つの米発見元素を予言したのです。そして彼はその中で、「私があえてこの論文を発表したのは、いつかこの3つの元素のうち1つでも発見されることがあったときに、私が仮定し提起した元素の体系の正しさが証明できると思ってのことである」と語りました。

そしてそれから15年後の1886年、 ドイツのフライベルク鉱山学校の教授ウインクラーClemens A.WINKLERによって発見されたのがゲルマニウムです。

予言された3つの元素は彼の存命中にすべて発見され、彼の考えが確かなものとして世界に認められました。他の2つの元素のエカホウ素eka-boronはスカンジウムSc、エカアルミニウムeka-alminiumはガリウムGaとして発見されました。この3つの元素とも、発見者のルーツと関係の深いゲルマン、スカンジナヴィア、フランスの祖ガリアからその名を取っているのは面白いことです。

[ダイオードの構造と特性]

鉱石検波器ともっと構造が近いダイオードはあるのですが、ここでは通常一般的に説明しやすいように接合型のダイオードを取り上げてみました。

AからBには電気は流しやすいが、BからAには電気を流しにくい。これがダイオードの作用の特性ですが、このようなことはいったいどうして起こるのでしょう。

N型ゲルマニウム

・N型ゲルマニウム

これは真性ゲルマニウムに5価の元素の(つなぎ合う手が5本あるような)物質を少量加えて作ります。たとえば砒素、アンチモン、リンなどがそれで、4価の原子配列の中に入った5価の元素は、どうしても1個だけ価電子が結合しきれず、余るようなかっこうになってしまいます。この余った価電子が自由電子と同じふるまいをし、不安定な電子なので、温めたりしなくても移動しやすく、はじき出されやすくなるのです。

電子は本来(― )の電荷をもっていますから、このN型ゲルマニウムは(― )の電荷が多いので、negativeのNをとってN型ゲルマニウムと呼ばれます。また、この5価の元素たちは、ゲルマニウムに対して電子を与えたわけですから、 ドナーdonor(寄贈者、寄付者)と呼ばれます。

P型ゲルマニウム

・P型ゲルマニウム

これは真性ゲルマニウムに3価の元素(つなぎ合う手が3本ある)の物質をごく少量加えて作ります。たとえば、ガリウム、インジウム、アルミニウムなどで、この3価の元素が4価の元素の中に入ると、どうしても1個分電子の空席ができてしまいます。その部分を正孔(ホール)といいます。正孔は(+)の電荷をもっていて、いつでも自由電子がそこへ入ってくれば受け入れができるような空席を作っているのです。そしてまわりにある共有結合をしているものから電子を奪って、常にホールは埋まりつづけようとしているのです。そして、バトンタッチのように次から次へとホールが移動し、それが電流の方向となります。ですから電子の移動する方向と、電流の向きはちょうど反対になっているのです。この正孔をもつ型のゲルマニウムは(+)の電荷の正孔にゆえんしているのでpositiveのPをとってP型ゲルマニウムと呼ばれます。

また、この3価の元素たちは電子を受け入れるホールをもっているので、アクセプターacceptor(受諾者、受取人)と呼ばれています。

PN接合のはたらき

・P型とN型の接合

さきほどのN型とP型のゲルマニウムを接合させるとダイオードの構造になります。ちょうど図のAのようにダイオードの両端に電圧がかかってぃない状態では、P型の中の正孔も、N型の中の自由電子も、互いにおとなしく平衡状態を保っています。BのようにP側に(+)、N側に(― )の電圧がかかると、P側の正孔は(― )の電圧に引かれてN側へ、N側の電子は(+)の電圧に引かれてP側へ、それぞれの接合部を越えて移動していきます。

この正孔や電子の移動それ自身がまさに電流であったわけですから、電流はたやすく流れることになります。これを「順方向」あるいは「順方向に電圧をかける」と言います。

ところがCのようにP側に(― )、N側に(+)の電圧をかけると、P側の正孔は(― )に引かれ、N側の電子は(+)に引かれ、 ともに反対向きに引かれて、接合部には正孔も電子もなくなってしまいます。その結果、安定した絶縁体としてゲルマニウムの層ができてしまい、電流は流れなくなってしまうのです。これを「逆方向」あるいは「逆方向に電圧をかける」と言います。これがP・N接合の半導体素子であるダイオードのP→ Nは電流が流れるが、N→ Pでは電流は流れないという整流作用のしくみです。理想的なダイオードでは、順方向では抵抗値0(ゼロ)、逆方向では抵抗値∞ (無限大)ですが、実際はそこまでの値にはならず、それぞれいろいろな特性をもったものとなります。

初期のゲルマニウムダィォード
高級なものはセラミックによって守られていたが、ものによっては蝋紙などで包まれていた。そのため外側の湿気などから完全に半導体をすることができず、少々安定性に欠けていたが、 とでも高価だった。

最近のゲルマニウムダイオード
ガラスによって湿気や外気の酸化性のガスなどから内部の半導体のペレットを完全に守っている。十側をアノード(anode 陽極)、一側をカソード(cathode 陰極)と呼ぶ。

ゲルマニウムダイオード(IN34A)の静特性

ゲルマニウムダイオードとシリコンダイオードの順方向特性

理想的ダイオードの特性

[点接触型ゲルマニウムダイオード]

実際、鉱石ラジオに近いゲルマラジオの工作によく使われるのは、点接触型のゲルマニウムダイオードです。この形状はまさに鉱石検波器のキャットウィスカーそのもので、ダイオードでもトランジスターでも今日の半導体製品の源は、まさに鉱石検波器にあり、といった感じです。

小林健二自作の探り式(キャットウイスカー)鉱石検波器

この点接触型のダイオードがなぜ、説明に使った接合型のダイオードよリラジオの検波に適しているかというと、その接点の面積がとても小さいことがあげられます。接する面が大きいと、前にお話ししたように、対向する接合面がコンデンサーとしてはたらき、高周波電流がまわりからどんどん流れ込んでしまって、整流作用がうまくはかどらなくなってしまうことが考えられます。接合型のダイオードのほうが機械的にも安定して接合面も大きいので大きな電流でも流せるのですが、そんなわけで点接触型のダイオードが使われます。

また半導体といえばシリコン製品が有名ですが、ゲルマニウム製品のほうが中波の受信機に適しています。なぜかというと、シリコン製品は逆方向の耐圧や抵抗が高く特性もいいのですが、同時に順方向でもある程度抵抗が大きいので、ゲルマニウムダイオードのほうが感度がよくなるのです。

この点接触型ダイオードが最近の生産現場でどのように生産されているのかは正確にはわかりませんが、初期においてはN型ゲルマニウムの単結晶のペレット(小片)にタングステンなどの細い線の先端を当てて、極めて短時間に大電流を流して製作したようです。

この一連の作業をフォーミング(化成)といって、N型の結晶に一部小さなP型の領城をつくった対向面積の小さいP・N接合のダイオードということになります。

ですから、鉱石に針を立てたキャットウィスカータイプの鉱石検波器とは少々その作動のしくみが違っているのかもしれません。実際、高純度に精製されドナーやアクセプターによって調製された高精度なN型やP型の半導体と比べれば、方鉛鉱や黄鉄鉱にしても、結晶構造をもっていてとでも純粋な鉱物であるようでも、まわりの環境や成分によっても複雑に影響される天然鉱石ですから、まったく同じようなわけではないはずです。

ぼく自身は、 ドイツのショットキーWalter SCHOTTKY(1886-1976)が1938年に発表した「バリア(障壁)理論」の概念と、翌年に提唱した拡散整流理論に興味があります。後者は1947年にアメリカ合衆国のバーディーンJohn BARDEEN(1908-1991)によって矛盾点を指摘され、以後適用されることはありません。しかしその後の純粋半導体はともかく鉱石検波器は、このあたりの理論によって証明できるかもしれないと考えているのです。

前者のバリア概念を簡単に説明すると、これは半導体の表面にタングステンや金などの特定の金属(導体)を接触させると、この接触を取り囲む極めて小さな範囲で、キャリア(正孔や電子など)が少なくなる領城が電位のバリア(空乏層)として現れるというもので、さらにそこに電圧を印加すると、このバリアの部分の電位が下がって電流が流れ、電圧の方向が急に反転しても、すぐには反対方向に流れることができないというものです。

原理をうまく表現することは専門的な問題をクリアしないとできそうにもありませんが、いまや電気を実際に扱う現場において、鉱石検波器がどのような理論で作動していたのかということはもはやそれほど重要ではないと思えます。

でも見ているだけでも美しい結晶が、目に見えない世界でも作用していることを考えるととても興味深く、かならずしも工学的な側面ばかりではない、むしろ詩に通じる世界を与えてくれるかもしれません。そして、それこそが科学の精神ではないかとぼくは考えます。そこから好奇心の視野が広がってゆくことは楽しく、それがまたこの結晶検波器の魅力のひとつであるのは確かなことでしょう。

事実、鉱石検波器の構造が、ダイオードやトランジスターの発想や構造に強く影響を与えたのは周知のことです。そしてそれらはやがでICやVLSIにつながっていったわけです。現代の半導体を中心としたエレクトロニクス産業も、実は急速な発展や変貌の中でいつしか忘れられてしまった鉱物の神秘から始まったといって過言ではないでしょう。

全体的に透明感のある素材で仕上げた自作ラジオ(検波器はフォックストン型のゲルマニュームダイオード使用)

ゲルマニュームダイオードを使用した固定検波器

 

 

*関連した記事を参考までに下記します。

[鉱石式送信機]と[1930年当時の鉱石検波理論]

固定式検波器

 

*この記事は、小林健二著「ぼくらの鉱石ラジオ(筑摩書房)」より抜粋編集しております。

KENJI KOBAYASHI